リトアニアのドローン開発企業Granta Autonomyは2026年6月25日(一部報道では24日)、迎撃ドローンBlack Waspを発表した。
Black Waspは、Shahed級を含む敵の攻撃用・ISR・徘徊型ドローンに対抗する無人航空機(UAV)で、VTOL方式で離着陸し、AI/MLによる自動飛行、目標追尾、終末誘導を行う。巡航速度は160km/h、最大速度は320km/h、航続距離は20km(帰還込みで40km)、滞空時間は巡航時で最大15分、運用高度は最大7000m、最大離陸重量は約4kg、弾頭重量は最大500gである。データリンクはS-band/C-bandで動作する。
Black Waspは、Hornet XR偵察ドローンやX-Wing徘徊型兵器などを展開するGranta Autonomyの無人機製品群に加わるもので、同社はセンサーから交戦までをつなぐキルチェーン構築を志向している。Granta Autonomyは2015年、リトアニアの技術者ゲディミナス・グオバとラウリーナス・リトヴィナスにより設立された。グオバは同社のCEO兼創業者を務める。
From: LITHUANIAN DRONE DEVELOPER GRANTA AUTONOMY LAUNCHES SHAHED KILLER
【編集部解説】
今回の発表を正しく読み解くには、まず「なぜ今、迎撃ドローンなのか」という背景を押さえる必要があります。Shahed(シャヘド)級の攻撃ドローンは、1機あたり2万〜5万ドル程度とされる安価な兵器です。一方で、それを撃ち落とすために使われてきた地対空ミサイルは桁が違います。
具体的には、パトリオットの迎撃弾は1発およそ400万ドル、THAADの迎撃弾は1発1200万〜1500万ドルにのぼります。つまり、数万ドルの的を撃つために数百万ドルを消費する構図が生まれており、防御側が一方的に消耗していく「コスト非対称」こそが、近年の防空をめぐる最大の難題でした。
Granta Autonomy(グランタ・オートノミー)のグオバCEOが「従来の防空の経済学に挑戦する」と語っているのは、この文脈を踏まえた発言です。ミサイルではなく、安価なドローンで敵の攻撃ドローンを落とす――いわば「ドローン対ドローン」へ防御の発想を切り替えることで、攻守の費用バランスを取り戻そうという狙いがここにあります。
ただし、ここで編集部として一点指摘しておきたいことがあります。今回の発表資料には、Black Wasp(ブラック・ワスプ)自体の価格が記載されていません。製品の核心的な価値が「コスト効率」であるにもかかわらず、肝心の単価が伏せられている点は、読者として留意しておきたいポイントです。なお同社は2024年に100万ユーロのシード資金を調達し、欧州での量産体制を拡張したと報じられています。
技術的に注目すべきは、AI/MLによる自律航法と終末誘導の組み合わせです。電子戦でGPSやGNSSの信号が妨害されても、機体に搭載した機械学習コアが飛行を継続し、コンピュータービジョンで高速の目標を捕捉・追尾します。前線では電波妨害が常態化しているため、「GPSが効かない環境でも飛び続けられる」という設計思想は、実戦の現実に即したものといえます。
もう一つの特徴はVTOL(垂直離着陸)です。発射レールや専用設備を必要とせず、歩兵が前線から直接打ち上げられる点は、固定インフラを前提とする従来の防空システムとは大きく異なります。インフラに依存しないということは、攻撃を受けても再配置が容易で、的になりにくいという意味でもあります。
ここで視点を変えてお伝えしたいのは、Black Wasp が「世界初」でも「唯一」でもないという事実です。ウクライナでは、ボランティア主導で開発された迎撃ドローン「Sting(スティング)」が、1機およそ2100〜2500ドルという低価格で運用されています。メーカーのWild Hornetsによれば、Stingは2026年5月の1カ月だけでShahed/Gerbera 3000機超を撃墜し、2025年5月以降の累計は数千機規模に達するとされます。同国は迎撃工程の95%を自動化した新世代の迎撃ドローンも実戦投入を進めています。なお、これらの戦果は主にメーカー側の発表に基づく数値であり、独立に検証されたものではない点には留意が必要です。
つまり Black Wasp は、すでに実戦で成果を上げつつある「迎撃ドローン競争」に、NATO規格レーダーとの統合や、同社が進める生産能力拡張を背景に参入する一手と位置づけるのが妥当です。プレスリリースの語り口をそのまま受け取るのではなく、競合がひしめく市場の中での新製品として相対化して見ることが、正確な理解につながります。
潜在的なリスクにも触れておきます。発射後に自律で標的を識別・追尾し交戦する仕組みは、「人間の意味ある関与(meaningful human control)」をどこまで担保するのかという、自律型致死兵器(LAWS)をめぐる国際的な議論と直結します。コスト効率と引き換えに、交戦判断のどこに人間が残るのかは、技術仕様とは別に問われ続けるテーマです。
規制と長期的な影響という観点では、安価な民生部品とAIの普及が、かつて高額な兵器を持つ国だけのものだった精密交戦能力を、より小さな主体にも開いてしまった点が重要です。リトアニアのような国がウクライナでの前線運用経験を「輸出可能な防衛技術」へと転化している現状は、技術拡散の速度そのものが安全保障の前提を書き換えていることを示しています。
最後に、innovaTopia が今この記事を取り上げる理由を述べます。Black Wasp は単なる新兵器の紹介ではなく、「AIと量産技術が戦争の経済合理性をどう変えるのか」という、現代テクノロジーの最前線を映す一例です。技術がもたらす力をどう制御し、どこに人間の判断を残すのか――その問いを読者と共有することこそ、未来を報じるメディアの役割だと考えています。
【用語解説】
Shahed(シャヘド)級ドローン
イラン設計の一方向攻撃型ドローン。ロシアは国産化して「ゲラニ2(Geran-2)」と呼ぶ。安価・低空・群れでの飛来を特徴とし、従来の防空網を飽和させる。1機あたりおよそ2万〜5万ドルとされ、ロシアによる大量生産が進んでいるとみられ、月産数千機規模との推定もある。
徘徊型兵器(loitering munition)
目標上空を旋回・待機しながら好機を待ち、最終的に自ら突入して攻撃する自爆型の無人機。「自爆ドローン」「カミカゼドローン」とも呼ばれる。Granta社のX-Wingがこれに該当する。
ISR
Intelligence(情報)、Surveillance(監視)、Reconnaissance(偵察)の頭文字。敵情を探るための無人機・センサー全般を指す。
VTOL(垂直離着陸)
滑走路や発射レールを使わず、ヘリコプターのように垂直に離着陸する方式。前線で歩兵が直接運用しやすい利点がある。
終末誘導(terminal guidance)
飛行の最終局面で、標的に正確に命中させるための誘導処理。Black Waspではコンピュータービジョンが担う。
コンピュータービジョン
カメラ映像をAIが解析し、物体を識別・追跡する技術。GPSが妨害されても画像から標的を捕捉できる点が、迎撃ドローンの要となる。
電子戦(EW)/GNSS・GPS妨害
電波妨害により敵の通信・測位を無力化する戦い。GNSS(全地球測位衛星システム)やGPSが妨害された環境を「GPS拒否環境」と呼ぶ。
データリンク(S-band/C-band)
機体と地上局を結ぶ無線通信の周波数帯。複数帯域を使い分けることで妨害への耐性を高めている。
キルチェーン(kill chain)
「探知→特定→照準→交戦」という一連の戦闘工程。Granta社はHornet XR(センサー)、X-Wing(攻撃)、Black Wasp(迎撃)でこの連鎖を一括して構成する。
コスト非対称(cost asymmetry)
安価な攻撃手段を、高価な防御手段で迎え撃たざるを得ない状況。防御側が一方的に消耗する構造を指す。
パトリオット/THAAD/NASAMS
いずれも欧米製の防空ミサイルシステム。パトリオットの迎撃弾は1発約400万ドル、THAADは1発1200万〜1500万ドルとされる。NASAMSが用いるAMRAAMは型式や契約により幅があるが、近年の調達・推定では1発およそ100万ドル前後以上とされることが多い。
Sting(スティング)
ウクライナのボランティア集団Wild Hornetsが開発した迎撃ドローン。1機約2100〜2500ドル。メーカー発表では2026年5月だけでShahed/Gerbera 3000機超を撃墜したとされ、累計は数千機規模に上る。ただし多くがメーカー側の発表値で、独立検証済みではない。
自律型致死兵器システム(LAWS)/人間の意味ある関与
人間の判断を介さずに標的を選定・攻撃しうる兵器の総称。国際的には、交戦判断に「人間の意味ある関与(meaningful human control)」をどこまで残すべきかが議論されている。
【参考リンク】
Granta Autonomy 公式サイト(外部)
リトアニアの無人機開発企業の公式サイト。偵察ドローンや徘徊型兵器など、Black Waspを含む製品群と技術の概要を確認できる一次情報源。
【参考記事】
Calculating the Cost-Effectiveness of Russia’s Drone Strikes(CSIS)(外部)
Shahedの単価と各種迎撃ミサイルの費用を比較し、安価なドローンを高価な迎撃弾で撃つ非効率を実データで検証した米シンクタンクの分析。
The new economics of warfare(European Policy Centre)(外部)
Shahedと迎撃ミサイルの価格差を整理し、3万対1を超える費用比の不均衡から現代戦の経済学を論じた欧州政策センターの論考。
Ukrainian-made Sting interceptors shot down over 3,000 in May(Ukrainska Pravda)(外部)
Wild Hornets発表として、Stingが2026年5月だけでShahed/Gerbera 3000機超を撃墜したと報道。Sting戦果の更新に用いた。
Lithuania develops new autonomous interceptor to kill kamikaze drones(Defence Blog)(外部)
Black Waspの諸元を詳しく伝え、Shahedの巡航速度との対比から迎撃側の速度優位を解説。発表日を6月24日と記す技術解説記事。
Lithuanian Firm Granta Autonomy Unveils Black Wasp(The Defense News)(外部)
発表を6月25日とし、AI/ML航法やNATOレーダー統合など特徴を整理。2024年の100万ユーロ調達と量産拡張も伝える。
Ukraine Scales Up Autonomous Drones That Intercept Shaheds(Kyiv Post)(外部)
迎撃工程の95%を自動化したウクライナの新世代迎撃ドローンを報道。ロシアの増産下で撃墜割合が4カ月で倍増した実情を伝える。
【関連記事】
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【編集部後記】
安いものを高いもので迎え撃つ――この「割に合わなさ」が、いま戦争の形を静かに変えつつあります。Black Wasp のような「ドローンでドローンを落とす」発想は、その不均衡をひっくり返そうとする一手です。みなさんは、AIが交戦の判断にどこまで関わってよいと感じるでしょうか。
コストの論理と、人間がどこに踏みとどまるべきかという問い。同じニュースでも、価格の話として読むか、倫理の話として読むかで景色が変わります。よければ、自分なりの視点でこの先のニュースも追いかけてみてください。私たちも一緒に考えていきたいテーマです。












