生成AIの学習・推論を支えるため、テック企業は競うようにデータセンターを増設しています。その裏側でどれだけの環境負荷が積み上がっているのか、具体的な数字で語られる機会はそう多くありませんでした。今週、GoogleとAmazonがそれぞれ最新のサステナビリティレポートを公表し、その一端が見えてきました。両社とも「AI」を名指しした説明はしていませんが、二酸化炭素排出量(温室効果ガスのCO2換算)の増加という形で、その重さがにじみ出ています。
Googleは6月30日、Amazonは7月1日、それぞれ2025年度のサステナビリティレポートを公開した。TechCrunchの報道は、両社の二酸化炭素排出量がそれぞれ前年比25%、16%増加したと伝えている。
両社とも排出量増加の主因はScope 3(自社が直接制御しない間接排出)で、Googleはデータセンター関連とみられる「資本財」等のカテゴリが前年比210万トン増加し、基準年である2019年比で2倍の水準に達した。Amazonも資本財・燃料エネルギーのカテゴリが押し上げ要因となっており、2025年に「業界最大」規模のデータセンター容量を追加、第4四半期だけで1.2ギガワット以上を積み増したとしている。両社ともレポート内でAIを名指しで排出増の原因とは記していないが、データセンター建設に伴う鉄鋼・セメント生産や、先端半導体の製造工程が排出源として指摘されている。半導体工場の多くはアジアに立地しており、地域の電力網が化石燃料に依存している場合が多いことも要因として挙げられている。
From:
A warning sign about AI’s real cost, courtesy of Google and Amazon
【編集部解説】
GoogleもAmazonも、レポートの中で「AI」を二酸化炭素排出量急増の主犯として名指ししているわけではありません。しかし両社が用いる会計上の区分をたどると、AIとの結びつきはかなり明瞭に見えてきます。
Googleは自社の操業排出(Scope 1・2)を前年比2%削減した一方、サプライチェーン排出(Scope 3)は25%増加したと報告しています。Googleはこの増加について、新たなAIインフラの規模拡大に加え、アジア太平洋地域のサプライチェーンが脱炭素電力の乏しいグリッド上で稼働していることも一因だと説明しています。
なお、TechCrunchの元記事は両社の「二酸化炭素排出量」がそれぞれ25%・16%増加したと伝えていますが、Google自身の記述を確認する限り、25%はサプライチェーン排出(Scope 3)に関する数字です。ESG Today等の報道では、Scope 3を含む総排出量(ambition-based)の伸び率は18%とされています。この違いは些末ではありません。Scope 1・2(自社が直接コントロールできる領域)は削減が進んでいる一方、Scope 3(サプライチェーン、つまりデータセンター建設やチップ調達)だけが突出して伸びている、という構造そのものが、AIインフラ拡大の環境コストのありかを示しているからです。
Amazonも同様の構造です。購入電力由来の間接排出は前年比34%増加し、レポート内で「データセンターでの電力使用、配送網の電動化、建物の電化が要因」と説明されています。Amazonの二酸化炭素総排出量は2024年の6,950万トンから2025年には8,080万トンへ増加し、さらに注目すべきは「炭素原単位」(売上1ドルあたりの排出量)が、Amazonが計測を始めた2019年以来初めて悪化した点です(109gから113gへ)。これまでAmazonは「事業成長に伴う排出増ではあるが、原単位は改善し続けている」と説明できていましたが、その論法が今回は使えなくなっています。
各社の対応・対策
両社とも、打ち手そのものは決して手薄ではありません。
Googleはデータセンターの電力効率(PUE)で業界平均1.54に対し自社は1.09としており、2025年単年で12GWのクリーン電力契約を新規に締結、これは過去2年間の合計を上回る規模だとしています。Googleは同時に、電力網の脱炭素化速度がAIインフラの拡大に追いついていないこと、送電網への接続待ちや規制上のボトルネックが解消の障害になっていることも認めています。
Amazonは電動配送車両で世界最大級のフリートを運用し、データセンターは業界平均比9%、オンプレミス比30%のエネルギー効率を実現しているとしています。AmazonのCSOであるKara Hurst氏は、小型モジュール原子炉のような「触媒的な」エネルギー技術のブレークスルーに期待を寄せており、2040年のネットゼロ目標達成について「代替案は見当たらない」と発言しています。
一方で、両社の説明が全面的に信頼されているわけではありません。Amazon従業員でつくる「Amazon Employees for Climate Justice」は、Hurst氏がAIを持続可能性の機会としても位置づけている点を批判し、「実際には排出量を増加させている」と指摘。Climate Pledge発表以来、Amazonの排出量は58%増加したとも主張しています。
今後の懸念
第一に、両社とも今後の電力調達で天然ガスへの依存が増す可能性があります。TechCrunchは2026年4月の別記事で、Google含むAI関連企業がデータセンター向けに大規模な天然ガス発電所建設に投資している動きを報じています。現時点でGoogle・Amazonの排出量が比較的抑えられているのは再生可能エネルギー調達の成果ですが、この均衡が今後も維持される保証はありません。
次に、「カーボンインテンシティ(売上あたり排出量)」という指標の位置づけです。両社ともこの指標に言及していますが、TechCrunchのDe Chant氏は、この考え方を中国が国際的な気候交渉の場で自国の排出量正当化のために用いてきた論法と同種のものだと指摘しています。企業の成長そのものを免罪符にする指標として使われる危うさがあり、この指標が今後どう扱われるかは注視が必要です。
他にも、半導体製造という上流工程の排出の問題もあります。先端半導体の製造拠点の多くはアジアに立地し、電力網が化石燃料に依存している地域が少なくありません。加えて製造工程で使用される一部のガスは、同じ量の二酸化炭素そのものと比べて数千倍の温室効果を持つとされています。GoogleがAIチップの調達先に対して「Clean Energy Addendum」という形でクリーン電力の使用を求める取り組みを進めていることは一つの打ち手ですが、サプライヤー側のインフラ整備が追いつくかは別問題です。
今後の争点は、この均衡がいつまで持つかということです。両社とも「原単位」や「効率化」という言葉で成長と排出削減の両立を語ってきましたが、Amazonの炭素原単位が2019年以来初めて悪化したという事実は、その語り口自体が今後も通用するかを問い直すきっかけになるかもしれません。
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機器の製造段階で生じる排出(エンボディードカーボン)については、こちらの記事で詳しく取り上げています。
【編集部後記】
レポートを読み比べていて気づいたのは、両社とも「AI」という言葉を排出量増加の主語にしていないことです。サプライチェーンや原単位という会計上の言葉の向こうに、AIの重さがどう配分されているのか、私もまだ十分には見えていません。この数字が来年どちらに動くのか、そしてそれを誰が検証するのか、引き続き注意深く追いかけていきたいと思います。
【用語解説】
Scope 1・2・3排出(Scope 1, 2, 3 Emissions)
GHGプロトコルが定める温室効果ガス排出の分類。Scope 1は自社が直接排出するもの(燃料燃焼等)、Scope 2は購入電力に伴う間接排出、Scope 3はサプライチェーン全体(原材料調達、製品の製造・輸送・使用等)にわたる間接排出を指す。データセンター建設や半導体調達はScope 3に含まれる。
カーボンインテンシティ(Carbon Intensity)
売上高や生産量など、事業規模の単位あたりの排出量。「排出量÷事業規模」で示されるため、事業が成長しても原単位が改善していれば「効率化が進んでいる」と説明できる指標。ただし総排出量そのものの増減とは別の話である点に注意が必要。
PUE(Power Usage Effectiveness)
データセンターの電力効率を示す指標。「データセンター全体の消費電力÷IT機器の消費電力」で算出され、1.0に近いほど無駄なく電力がコンピューティングに使われていることを意味する。
Climate Pledge(クライメート・プレッジ)
Amazonが2019年に共同創設した、2040年までのネットゼロ排出達成を目指す企業連合の枠組み。2026年時点で656社が署名。
【参考リンク】
Google Sustainability(外部)
Googleの環境報告書・サステナビリティ戦略の公式ハブ。2026 Environmental Reportの全文を公開。
Amazon Sustainability(外部)
Amazonのサステナビリティ公式情報源。2025 Sustainability Reportや各種フレームワーク対応状況を公開。
The Climate Pledge(外部)
Amazonが2019年に共同創設した企業連合。2040年ネットゼロを目指す署名企業一覧を公開。
GHG Protocol(外部)
企業の温室効果ガス排出量算定における国際標準を策定する機関。Scope 1・2・3の定義の一次情報源。
Science Based Targets initiative(外部)
企業の排出削減目標が科学的根拠に基づいているかを認定する国際機関。
Amazon Employees for Climate Justice(外部)
Amazon従業員による気候正義を求める活動グループの発信媒体。企業公式発表とは異なる視点を発信。
【参考記事】
Google’s emissions continue to climb due to AI buildout — ESG Dive(外部)
Googleの総排出量が前年比18%増加したことを報じる。Scope1・2とScope3の対比が明確。
Google Says Moonshot Climate Goals “Getting Harder” to Achieve — ESG Today(外部)
Scope3の内訳や12GWのクリーン電力契約など、Googleの対策面の数字を多く含む。
Amazon’s rising carbon footprint ‘not a one-year story,’ CSO says — Semafor(外部)
AmazonのCSO単独インタビュー。炭素原単位の悪化という重要な変化点に触れている。
Amazon’s carbon emissions jumped 16% in 2025 — KUOW(外部)
購入電力由来の排出増加の内訳と、Amazon従業員団体の批判的コメントを詳報。
The cost of the AI boom — GeekWire(外部)
Amazonの2000億ドル設備投資計画やClimate Pledge署名企業数など、事業規模の文脈を補う。
AI companies are building huge natural gas plants — TechCrunch(外部)
「今後の懸念」で扱った天然ガス発電所建設の動きを報じる関連記事。












