「スマートコンタクトレンズの量産化」と聞くと、光学系や装着感の課題を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし今回明らかになったのは、目に見えない部分にこそ焦点が当たっていたという点です。その先に何が残っているのか、一緒に見ていきます。
XPANCEOとJBDは、スマートコンタクトレンズに直接組み込むマイクロディスプレイの共同開発で、提携の第2段階に入ったと発表した。第1段階では集積回路基板と一体化したマイクロディスプレイ、および至近距離でも人間の目がピントを合わせられる独自の光学系を開発し、無線給電のみでの駆動も実証済みという。
今回は低消費電流に最適化したバックプレーン設計を共同開発し、部品の厚さを人の髪の毛程度、ディスプレイの直径を1ミリ未満に抑えることを目指す。提携はスケーラビリティと量産性に焦点を当て、コンタクトレンズ用マイクロディスプレイとして初の量産ラインの確立を目標とする。
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XPANCEO and JBD take AR to the next level with custom micro-display for smart contact lenses
【編集部解説】
今回の発表で興味深いのは、XPANCEOとJBDが「第2段階」として持ち出した課題が、これまでの発表とは質的に異なる点です。第1段階で語られてきたのは、レンズ内蔵の集積回路基板や、目のすぐそばでもピントが合う独自光学系、無線給電による駆動実証といった、いわば見える技術的成果でした。
一方で今回の焦点は、画素を駆動する電子回路であるバックプレーンの設計です。これは目に見えにくく、プレスリリースとしても地味な部類の技術要素ですが、実はここがスマートコンタクトレンズの量産化を左右する核心だと両社は位置づけています。
通常のディスプレイのバックプレーンは、明るいLEDを駆動するための大電流に対応する設計になっており、これがベースラインの消費電力を押し上げています。コンタクトレンズ向けには、この設計思想そのものを転換し、微弱な電流だけで動作する専用アーキテクチャが必要になるといいます。JBDはもともとスマートグラス・ARグラス向けのマイクロLED製品を主力としてきた企業であり、今回の提携は、既存の製品ラインをそのまま転用するのではなく、レンズという全く異なる制約条件のためにゼロから設計をやり直す取り組みだと説明されています。
ただし、電子回路設計が解決すれば量産化が実現するかといえば、そう単純ではありません。XPANCEOを独自に取材した海外メディアの報道では、同社の製品化を左右する要因として、ディスプレイの回路設計だけでなく、製造歩留まり・規制当局の承認・長期的な生体適合性の3点が挙げられています。今回の発表はこのうちディスプレイ回路の話に限定されており、量産化全体の見通しを示すものではない、という点は押さえておく必要があります。
JBDはCES 2020で300万ニトという極めて高輝度のディスプレイを披露した実績を持つ企業で、XPANCEOも2025年7月にシリーズAで2億5,000万ドルを調達し、評価額13億5,000万ドルに達しています。両社とも資金・技術基盤という点では一定の裏付けがあるものの、それが量産できることの証明にはなりません。
現時点でXPANCEO自身が示している計画では、統合型プロトタイプの発表は2026年内、公開デモは2027年初頭とされています。今回のバックプレーン設計の共同開発が、その計画にどう組み込まれるのかは、今回の発表だけでは分かりません。
【関連記事】
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マイクロLEDを使った次世代ディスプレイ設計について、網膜投影方式という別のアプローチから論じた記事。あわせて読むとマイクロLED業界の全体像が見えてくる。
【編集部後記】
今回明らかになったのは、光学系ではなく、目には見えない電子回路の設計という地味な技術要素でした。
この発表だけでは、量産化を阻むとされる製造歩留まりや規制承認、生体適合性といった課題がどうなるのかは分かりません。派手な発表の一枚下には、まだ語られていない課題が積み重なっています。
スマートコンタクトレンズという未来を追いかけるとき、私たちは技術の進捗と、まだ解けていない壁の両方を見ていく必要があるのかもしれません。今回の発表を、その距離を測るための材料として捉えていきたいと思います。
【用語解説】
マイクロディスプレイ(Micro-display):数ミリ角以下の小型ディスプレイの総称。AR/VRグラスやスマートコンタクトレンズなど、目の近くに配置する用途で使用。
マイクロLED(Micro-LED):発光素子を微細化したLED技術。高輝度・低消費電力・小型が特徴で、次世代マイクロディスプレイの主要技術。
バックプレーン(Backplane):ディスプレイの各画素を駆動する電子回路の層。電流量や電力効率を左右し、消費電力特性を決定づける要素。
【参考リンク】
XPANCEO公式サイト(外部)
スマートコンタクトレンズをAI時代のインターフェースとして開発するドバイ拠点のディープテック企業の公式サイト。製品ラインアップや技術解説を掲載している。
JBD公式サイト(外部)
AR・スマートグラス向けマイクロLEDディスプレイを開発する中国企業の公式サイト。製品ラインアップや技術仕様、最新のプレスリリースを掲載している。
【参考記事】
CES 2020: JBD Micro LED Display for AR/VR with 3 Million Nits Brightness|Road to VR(外部)
JBDがCES 2020で披露した300万ニトの高輝度マイクロLEDディスプレイを報じた記事。AR/VR向け光学設計におけるブライトネスの意味を解説している。
XPANCEO and JBD Move Smart Contact Lenses Closer to Commercial Reality With Custom Micro-Display|Unite.AI(外部)
XPANCEOとJBDの提携について、バックプレーン設計の技術的背景とJBDのAR・スマートグラス向け製品ポートフォリオを詳しく解説する記事。
Xpanceo, A Dubai Startup, Is Building An AI XR Contact Lens|Forbes(外部)
XPANCEOを独自取材した記事。量産化を左右する要因として製造歩留まり・規制承認・生体適合性を挙げ、統合型プロトタイプのロードマップを報じている。
XPANCEO Becomes a Unicorn with $250M Raise|XPANCEO公式newsroom(外部)
XPANCEOが2025年7月にシリーズAで2億5,000万ドルを調達し、評価額13億5,000万ドルのユニコーン企業になったことを伝える公式発表。












