MisePay×JPYC|円ステーブルコインが「街の店」で使える日へ 渋谷・名古屋で店頭決済トライアル

[更新]2026年7月11日

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「これ、キャンセルで」——お客さんのその一言に、レジの向こうで店員さんがどう動くか。じつは今回のニュースのいちばん面白いところは、支払いそのものより、この返金のさばき方に隠れています。渋谷のパーティー会場や名古屋の海鮮丼屋さんで始まったのは、日本円建てのステーブルコインJPYCで払える、店の手数料ゼロ・専用端末なしのQR決済。仮想通貨と身構える必要はありません。値動きしないデジタルな円が、投資家の画面から、いつものお店のカウンターへ。その最初の一歩を、現場の目線でのぞいていきます。


株式会社Sowaka Japanが、日本円建てステーブルコイン「JPYC」のQR決済に対応した店舗向け決済受付アプリ「MisePay(ミセペイ)」の店頭トライアルを、2026年7月8日より開始しました。対象は東京都渋谷区の2店舗(VILLAS渋谷センター街店、CROSS POINT TODOME)と、愛知県名古屋市の1店舗(サカナファクトリー柳橋中央市場店)の計3店舗。

加盟店がMisePayに支払う決済手数料は0%、導入費用は0円で、専用端末も不要です。今回のトライアルでは、支払い受付に加え、キャンセル・返金時の店舗側操作、履歴管理、スマートアカウント技術を用いた返金権限の分離管理などを検証します。あわせて、トライアルに参加する加盟店の追加募集も開始されました。代表取締役は松田 航氏、同社の設立は2026年6月1日、本社は東京都港区です。

From: 文献リンクJPYC対応の店舗向けQR決済「MisePay (ミセペイ)」、店頭決済のトライアルを開始

【編集部解説】

まず押さえておきたいのは、この発表が単なる新機能のお披露目ではなく、実店舗での実証フェーズへ踏み出す節目だという点です。MisePayを提供するのは日本法人・株式会社Sowaka Japanです。同社と同じく松田 航氏が代表を務めるシンガポールのSOWAKA Pte. Ltd.は、2025年12月に店舗向け決済「Avacus Pay」と加盟店支援サービス「AIM」を発表していました。複数の二次報道は、MisePayをこのAvacus Pay/AIMの機能を統合・再構成したものと伝えています。

なぜ今、innovaTopiaがこのニュースを取り上げるのか。それは、日本のステーブルコインが「買う・持つ・送る」段階から、「店で払う」段階へと踏み込む、その最前線がここにあるからです。私たちは昨年12月にAvacus Payの登場をお伝えしましたが、あのとき示されたJPYC店頭決済の構想と機能的に連続する取り組みが、渋谷と名古屋の実在する3店舗で動き始めた。読者の皆さんの「未来に触れたい」という欲求に、最も近い距離で応える題材だと考えました。

そもそもの土台として、JPYCという円建てステーブルコインの法的な位置づけの変化があります。JPYC株式会社は2025年8月18日付で資金移動業者として登録され、同年10月27日に資金移動業型のJPYCが正式発行されました。これにより、現行のJPYCは、従来の前払式支払手段とは異なり、改正資金決済法上の「電子決済手段」として発行・償還できる円建て決済資産になりました。店舗が制度上の位置づけを確認しやすくなった、この地ならしが、MisePayのような店頭決済アプリの事業化を後押ししています。ただし、法的位置づけの明確化と、各店舗の税務・会計処理が実際に簡便になるかどうかは別問題で、そこは専門家の確認が必要な領域です。

MisePayの訴求点は明快で、加盟店がMisePayに支払う決済手数料が0%、導入費用も0円、専用端末も不要、という3点です。ここは冷静に補助線を引く必要があります。先行して発表された関連サービス「Avacus Pay」の資料では、従来のQR・カード決済の手数料を約2.5〜3.25%と示し、月商1,000万円の店舗なら年間約300万円のコスト削減に相当すると説明していました。ただしこれは、売上の全額が対象決済に置き換わり、比較手数料を2.5%と置いた場合の単純試算です(3.25%なら約390万円)。実際の手数料はプランや業種、売上規模で変わりますが、それでも中小の飲食・小売にとって決済手数料が決済額に応じて発生し、粗利を直接圧迫する変動コストである以上、ここがゼロに近づくインパクトは決して小さくありません。

そして、「手数料0%」という言葉は正確に理解する必要があります。これは、あくまでMisePayに支払う手数料が発生しないという意味であり、利用するブロックチェーンやウォレット、外部サービスによっては、ネットワーク手数料(ガス代)などの費用が生じる可能性があると明記されています。Avacus Payはガス代をシステム側で処理する「ガスレス」設計を掲げていましたが、MisePayの対応ウォレットやネットワークの詳細は現時点では公表されておらず、正式提供時に改めて案内される予定です。ここを曖昧にしたまま「完全無料」と受け取るのは早計でしょう。

今回の発表で技術的に最も注目したいのは、決済そのものよりも「返金権限の管理」の設計です。スマートアカウント技術を使い、現場スタッフには返金に必要な権限だけを渡し、店舗資金を自由に動かせる管理者権限は渡さない。返金は店舗ごと・担当者ごと・金額上限つきで設定でき、誰がいついくら返金したかも履歴に残る。これは地味に聞こえて、実は本質を突いています。従来型の単一秘密鍵ウォレットでは「鍵を持つ者が全額動かせる」のが基本で、この一点が現場運用の壁になりがちでした(マルチシグや利用上限といった例外的な仕組みは以前から存在します)。日々キャンセルや返金が発生する飲食店で、店長の鍵をアルバイトに預けるわけにはいきません。ここを権限の細分化で解こうとした点に、机上ではなく現場を見た設計思想がうかがえます。なお、履歴の保存期間や改ざん耐性、第三者監査の有無までは現時点で公表されていません。

この技術が普及すると何が起きるか。ポジティブに見れば、ブロックチェーン上のデジタル資産が、投機中心のイメージから日常の決済手段へと認識を広げる、その入口が街の店になります(JPYC自体は法的には暗号資産ではなく電子決済手段です)。ユーザーはウォレットやガス代といったWeb3特有の概念を意識せず、いつものQR決済と同じ感覚で支払える——これはMisePayが目指すUXであり、実際にそう感じられるかはトライアルの結果を待つ段階です。店舗は手数料負担を抑えられる。この両立が現場で成り立つなら、キャッシュレスの選択肢そのものが一段広がるはずです。

一方で、潜在的なリスクや課題も直視すべきです。第一に、規模の問題があります。JPYC株式会社は、現行の資金移動業型JPYCについて、2026年4月15日時点の累計発行額が21億円を突破したと発表しています。ただし、累計発行額と現在の発行残高、旧JPYC Prepaidの過去発行額は異なる指標であり、比較の際は対象範囲を区別する必要があります。いずれにせよ、既存の大手QR決済が築いた利用基盤と比べれば、現時点の流通規模は限定的です。第二に、消費者にとっての決済保護の問題です。カード会社主導のチャージバックに相当する仕組みがステーブルコイン決済にどこまで備わるのか——MisePayには返金機能がありますが、これはチャージバックとは別物です。トラブル時の救済フローは、日常決済に載せるうえで避けて通れない論点となります。第三に、鍵管理や不正利用、スマートコントラクトの脆弱性といったWeb3固有のリスクを、ユーザーに意識させすぎずにどう吸収するか。使いやすさとリスクの見えにくさは、しばしば裏表の関係にあります。

規制の観点では、決済インフラとしての信頼性、AML/CFT(マネロン・テロ資金供与対策)、障害時のリスク管理といった論点が、これまで取引所や投資商品の文脈で語られてきた場所から、日常の支払いレイヤーへと広がっていくことを意味します。もっとも、Sowaka Japan自身は資産を預からず、発行・償還・交換も行わない立場のため、規制上の責任は機能ごとに主体が分かれます。加えて、資金移動業型のJPYCは第二種資金移動業に基づくため、発行・償還等の為替取引は原則として1件当たり100万円以下に制限され、企業間の大口決済にはハードルが残ります。だからこそ、2026年6月24日には、SBIグループとStartale Groupが信託型JPYSCをSBI VCトレードの口座内限定で先行提供し始めました(パブリックチェーン上での流通は、関係法令や税務実務等の整理後に移行する予定です)。この上限を持たない選択肢の登場により、円建てステーブルコインは複数方式が併存する段階に入りました。小口の店頭決済と大口決済とで担い手が分かれていく——そんな構図が見え始めていますが、これは市場として確定した分業ではなく、今まさに形づくられつつある見立てです。

長期的な視点で言えば、MisePayが見据える先は決済単体にとどまらないと読めます。松田 航氏が代表を務めるSOWAKA Pte. Ltd.のAvacus事業は「AI × Blockchain × Wallet」を掲げ、ウォレット・SNS・コミュニティを一つに束ねるWeb3スーパーアプリ(同社が用いる呼称です)を志向しています。決済はその入口にすぎず、将来的には店舗と利用者が継続的につながる仕組みへの拡張を視野に入れているとみられます。今回の渋谷・名古屋3店舗での取り組みは、MisePayの決済・返金・店舗管理の仕組みが現場のオペレーションに耐えられるかを確かめる、最初の実店舗トライアルです。

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【編集部後記】

「返金」は、地味な機能です。でも、お店で働いたことがある人なら、ここが意外と厄介なのを知っているはずです。お客さんが「やっぱりこれ、キャンセルで」と言ったとき、その場でサッと処理できるかどうか。裏でいちいち店長を呼びに行くのか、それともバイトのその人が自分で片づけられるのか。この差は、忙しい時間帯には天と地ほど大きい。

ブロックチェーンのお金は、原則として「鍵を持っている人が、全部動かせる」世界です。便利な反面、これが現場ではやっかいでした。店の口座を丸ごと動かせる鍵を、シフトに入ったばかりのアルバイトさんに預けるわけにはいきません。かといって、返金のたびに責任者を呼んでいたら、レジは詰まる。MisePayが「返金だけできる権限」を切り出して渡せるようにしたのは、この、誰も正面から解こうとしてこなかった現場のジレンマに手を突っ込んだ、ということなのだと思います。

華やかな未来の話ではありません。むしろ、金額の上限を決めたり、誰がいつ返金したかを記録に残したり、ひたすら地に足のついた作業です。でも、新しい技術が本当に暮らしの中に居場所を見つけるのは、たいていこういう地味な工夫の積み重ねが効いてきたときなんだろう、と感じています。空を飛ぶ夢よりも、レジ裏の段取りのほうが、社会実装の本丸に近い。

もちろん、うまくいくと決まったわけではありません。流通している額はまだ小さく、トラブルが起きたときの守られ方も、使い慣れたカード決済とは勝手が違います。「壁のない円」が動き出すことに、便利さと同じくらい、うっすらとした落ち着かなさを覚える人もいるでしょう。その感覚を、無理に打ち消す必要はないと思います。

たった3店舗の、ずいぶん静かな幕開けです。ここから広がっていくのか、途中で姿を変えるのか、あるいは別の誰かが本命になるのか、今の時点では誰にもわかりません。それでも、まだ答えの出ていない問いのそばに居られるのは、少し面白い場所に立っている気もします。あなたがよく行くお店のレジに、いつかこの選択肢が並んだとき、何を感じるでしょうか。そのときにまた、感想を持ち寄れたら嬉しいです。


【用語解説】

ステーブルコイン
法定通貨などの資産に価値を連動させ、価格の安定を図るように設計されたブロックチェーン上の決済手段。ビットコインのような価格変動リスクを抑えつつ、利用するネットワークによっては迅速で低コストな送金を実現し得る。ドル建てのUSDTやUSDCが主要銘柄として知られる。

電子決済手段
2023年6月施行の改正資金決済法で新設された法的カテゴリ。法定通貨に価値が連動するステーブルコインを暗号資産とは別区分として定義したもの。発行スキームを担えるのは銀行・信託会社・登録を受けた資金移動業者に限られる。JPYCはこの枠組みで整理されている。

資金移動業(型)
銀行以外の事業者が送金・為替取引を行うための制度。JPYCを発行するJPYC株式会社はこの登録事業者にあたる。第二種資金移動業のため、発行・償還等の為替取引が1件当たり100万円以下に制限される点が、大口決済における制約として指摘されている。

QR決済
QRコードを読み取って支払いを行うキャッシュレス決済の方式。MisePayは店舗が提示・掲示したQRコードを利用者がウォレットで読み取り、JPYCを店舗の指定ウォレットへ送る仕組みを採る。専用端末が不要で導入しやすいのが特徴。

スマートアカウント技術
ブロックチェーン上のアカウントに、プログラムで制御できる高度な権限管理を持たせる技術。MisePayではこれを用い、店舗資金を自由に動かせる管理者権限を渡さずに、返金に必要な権限だけを現場スタッフへ委任する仕組みを実現しているとされる。

ガス代(ネットワーク手数料)
ブロックチェーン上で取引を実行する際に必要となる手数料。Web3を使いこなすうえでの障壁とされてきた。MisePayに先行して発表された関連サービス「Avacus Pay」は、これをシステム側で処理する「ガスレス」設計を掲げていた。

Web3スーパーアプリ
ウォレット、決済、SNS、コミュニティなど複数の機能を一つに束ね、利用者がブロックチェーンを意識せず使えることを目指すアプリ形態(事業者Avacusが用いる呼称)。運営元SOWAKAが手がける「Avacus」がこれにあたり、MisePayはその決済領域の展開とみられる。

JPYSC
SBIホールディングスとStartale Group(スターテイル)が手がける信託型の日本円建てステーブルコイン。SBI新生信託銀行が第三号電子決済手段として発行し、2026年6月24日にSBI VCトレードの口座内限定で先行提供が始まった。資金移動業型のJPYCと異なり、発行・償還等に資金移動業型の100万円制限がなく、企業間の大口決済を含む幅広い用途を想定している。

【参考リンク】

MisePay(ミセペイ)公式サイト(外部)
JPYC対応の店舗向けQR決済アプリの公式サイト。手数料0%・導入費用0円などの特徴や加盟店申込を掲載。

Avacus Pay 発表リリース(SOWAKA Pte. Ltd.)(外部)
MisePayに先行して発表された関連サービス「Avacus Pay」のリリース。ガスレス設計や手数料比較の数値を掲載。

JPYC株式会社 コーポレートサイト(外部)
MisePayが決済に用いる日本円建てステーブルコイン「JPYC」の発行元。法的スキームや最新動向を掲載。

JPYC EX(発行・償還プラットフォーム)(外部)
日本円とJPYCを交換するための公式プラットフォーム。資産を預からないノンカストディ型の設計を説明。

JPYCが使えるサービス一覧(JPYC info)(外部)
JPYCのオンチェーン指標や、利用できるサービス・事例を一覧化。周辺エコシステムの広がりを把握できる。

【参考動画】

【参考記事】

JPYC決済アプリ「ミセペイ」7月実証へ、手数料0%でSOWAKAが日本法人設立(BigGo)(外部)
MisePayがAvacus PayとAIMを統合・再構成したと伝える二次記事。「手数料0%」の範囲も整理。

Avacus、次世代決済ソリューション「Avacus Pay」を発表(PR TIMES)(外部)
従来決済の手数料約2.5〜3.25%や月商1,000万円で年間約300万円削減の試算を示した関連発表資料。

【2026年最新】JPYSCとは|信託型ステーブルコインの仕組み・JPYCとの違い(SBI VCトレード)(外部)
JPYCの発行額の水準や、資金移動業型と信託型の上限の違い、JPYSC先行提供を解説した記事。

日本では初の円建てステーブルコインが発行へ(野村総合研究所)(外部)
改正資金決済法の利用者保護の枠組みや、100万円上限が企業間決済の制約になる点を解説。

JPYC、店舗決済の主役になるか=手数料・端末不要の決済サービスが登場(BeInCrypto Japan)(外部)
JPYCの資金移動業者登録と店頭決済登場のタイミングの関係、店舗の粗利改善の論点を整理。

加盟店手数料0%のJPYC店舗決済「MisePay」始動──返金権限も安全に管理(JinaCoin)(外部)
「手数料0%」の注意点や、スマートアカウントによる返金権限の分離管理の意義を指摘した記事。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。