防衛白書の解説動画に国産AI「NoLang」|防衛省初のアバター

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防衛白書の解説動画を再生すると、表紙のイラストから抜け出した若者が2人、画面で話しはじめます。説明欄には、使用した動画生成AIのサービス名が明記されていました。ところが同じ白書は、生成AIで作られる映像を、情報戦における脅威として記述しています。


防衛省は2026年8月4日、令和8年版防衛白書を公表した。テーマは「未来につながる安全保障」で、第1部に「新しい戦い方をめぐる動向」の章、第4部「防衛生産・技術基盤の強化」、第5部第1章「プロフェッショナルな自衛隊員」を新設した。

公表に合わせて3分の解説動画、30秒のショート動画、英語版と中国語版を公開している。小泉防衛大臣は同日の会見で、AIアバターを活用した解説動画の制作は防衛省として初の試みだと説明した。

動画の説明欄には、東京大学発のスタートアップである株式会社Mavericksの動画生成AI「NoLang」を使用したと明記されている。表紙はイラストレーターの刈谷仁美氏による描き下ろしで、動画にはその表紙の登場人物2人が出演する。

From: 文献リンク防衛大臣記者会見|令和8年8月4日(火)13:35〜13:57

【参考動画】

令和8年版防衛白書 3分解説(AIアバター動画)

令和8年版防衛白書 英語版ダイジェスト

令和8年版防衛白書 中国語版ダイジェスト

スマートフォン向けの30秒ショート動画は、こちらから視聴できる。
【防衛省作成 AIアバター初登場?】今年の○○○○はひと味違う!?

【編集部解説】

説明欄の一行から始まった

防衛白書の解説動画を再生すると、表紙のイラストから抜け出してきたような若者が2人、画面に現れて話しはじめます。右側の人物は、その場にいるわけではありません。ホログラムで遠隔地から参加している、という設定です。

面白い演出だな、と思って動画の説明欄までスクロールしたところに、こう書いてありました。

「【AIアバター動画】日本発の動画生成AIサービス『NoLang』を使用しました。」

このツール名の明記が、今年の防衛白書を読み解く鍵になります。

NoLangは、東京大学発のスタートアップ、株式会社Mavericks(東京都文京区、代表取締役社長 奥野将太氏)が提供する動画生成AIです。テキストやPDF、URLを入力すれば数秒で解説動画ができる。同社は2024年7月をリリース時期として案内しており、登録ユーザー数は20万人、法人導入は100社を超えました(2026年7月時点、同社調べ)。

この製品には、既存の画像やキャラクターをアバターとして動かす機能があります。ただし、防衛省の動画で具体的にどの機能がどの工程に使われたのかは、公表資料から確認できません。公式に確認できるのは「NoLangを使用した」という事実までです。

白書が説いたことを、白書の広報が実演している

令和8年版の目玉のひとつは、第4部「防衛生産・技術基盤の強化」の新設です。防衛産業と科学技術に一つの「部」を丸ごと割り当てた。

その中身を追うと、スタートアップへの言及が繰り返し出てきます。高度な新技術を持つ企業と随意契約を可能にする「スタートアップ技術提案評価方式」、その初の契約事例として名前が挙がる株式会社インフォステラ。日本スタートアップ大賞に新設された「防衛スタートアップ賞(防衛大臣賞)」と、受賞した株式会社Synspective。2026年2月に公表された「ファストパス調達」。SBIR制度の活用、アジャイル型調達の制度化、伴走支援グループの新設。

民生技術についても同様です。白書は統合イノベーション戦略2025や第7期科学技術・イノベーション基本計画を引きながら、民生と安全保障の双方に関わる技術の研究開発を取り上げています。2024年10月に創設された防衛イノベーション科学技術研究所では、2025年度にスタートアップなどとの共創イベントも実施されました。

つまり白書は、「民間の先端技術とスタートアップを取り込め」と一つの部を使って主張している。そしてその白書を国民に届ける動画には、民間スタートアップの動画生成AIが使用されていました。

主張と実演が一致しています。これは偶然かもしれませんが、そうだとしても示唆的です。政策文書が語る技術観が、その文書の広報現場にまで下りてきている。

同じ白書が、生成AIを情報戦の脅威として書いている

ここで、記事を書きながら手が止まった箇所があります。

同じ白書の第1部第4章、情報戦に関する記述です。白書は、ディープフェイクや生成AIで作られた動画・画像が、情報戦において一層深刻な脅威になっていると記述しています。

一方、防衛省の解説動画に使われたNoLangは、資料などから短時間で動画を生成できることを特徴とするツールです。脅威にもなりうる生成AIが、自らの広報では情報発信の手段として使われている。

これを矛盾だと切り捨てるのは、たぶん筋が悪い。包丁が凶器になりうることと、料理に使うことは両立します。問題は、どちらなのかを受け手が判別できるかどうかです。

手掛かりとしての、開示

白書が紹介し、日本が支持している国際的な取組を見ると、軍事領域のAIについて、国際法の遵守と人間の責任、説明責任が重視されています。「AIと自律性の責任ある軍事利用に関する政治宣言」(2023年)は、責任の所在を明らかにする必要性を確認しています。

ただしこれらは、政府広報のAI生成映像に表示を義務づけるものではありません。対象はあくまで、軍事領域におけるAIの開発・配備・使用です。

そのうえで書きます。説明欄にNoLangの使用を明示したことを、こうした責任あるAI利用の考え方と親和的な運用だと見るのは、ここから先は私の解釈です。そう断ったうえで、現時点でかなり誠実な運用だと評価します。技術そのものではなく、出所を示すかどうかが、受け手にとっての手掛かりになるからです。

ただし、留保はあります

手放しで褒めて終われる話ではありません。3点、公平のために書いておきます。

第一に、開示の水準がまだ検証しきれていません。説明欄には明記がありますが、本稿で確認できた範囲では、映像内のAI生成表示やウォーターマーク、制作クレジットの有無を確認できていません。動画がSNSで切り取られて拡散したとき、説明欄は一緒についてきません。開示は、コンテンツから剥がれない形になって初めて機能します。

第二に、動画の内容の正確性を、誰がどう担保したのかが見えません。NoLangに限らず、この種のツールは入力資料から構成を組み立てる機能を持ちます。防衛白書という一次資料の要約に、事実の取り違えや強調のズレが混入していないか。人手でどう検証したのか。防衛省とMavericksの公開資料を確認した範囲では、制作体制、費用、契約形態、内容検証の手順は確認できませんでした。

第三に、効果をどう測るのかが定まっていません。大臣は「これまで白書を手に取る機会のなかった方々にも読んでほしい」と述べました。それが目標なら、再生数は代理指標にすぎません。動画を見た人が本編にたどり着いたのか。この設計には興味深い順序があります。動画とビジュアル版が先に公開され、全文を検索できるHTML版と分割PDF、電子書籍版は本稿執筆時点で「準備中」です。一括PDFは64.5MBあり、スマートフォンでは開くこと自体が負担になる。入口は整備されたが、その先の道はまだ工事中、という状態です。

読者にとって、何が起きたのか

この記事を読んでいる方の多くは、生成AIを仕事で使っているはずです。資料を動画にする、多言語に展開する、アバターに喋らせる。どれも、もう特別な作業ではなくなりました。

今年起きたのは、その日常が、国家の年次報告書の広報にまで到達したという一点です。英語版と中国語版が公開されているのも象徴的です。NoLang自体は18言語以上への展開機能を持ちますが、今回の英語版・中国語版で同機能が使われたか、制作工程がどの程度短縮されたかは公表されていません。

そして防衛白書は、記述対象期間が2025年4月から2026年3月まで(一部重要事象は5月まで)の、政府の立場から情勢を整理した文書です。法的な拘束力を持つものではありません。読むときにはこの前提を押さえたうえで、書かれている内容と、それがどう届けられているかの両方を見るのが、今年の白書の開き方だと思います。

無人アセットとAIが戦い方を変えつつあると、白書は各国の事例を挙げて書いています。米国のレプリケーター構想、中国の智能化戦争、韓国の国防AX戦略、英国が構築を進めるデジタル・ターゲティング・ウェブ。その変化を語る文書自身が、語り方を変えた。技術の浸透とは、たぶんこういう形で起きるのでしょう。

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【編集部後記】

表紙について、小泉防衛大臣は会見でこう付け加えています。白書室の陸・海・空の自衛官と事務官が、本当に労力をかけて考えてくれた、と。未来の都市と若者の笑顔という構図は、人が時間をかけて決めたものでした。

その絵を動かして喋らせたのが生成AIです。どこまでを人が決め、どこからを機械に任せたのか。今年の防衛白書は、その境界線を説明欄の一行で公開した資料でもあります。


【用語解説】

LAWS(自律型致死兵器システム)
国際的に確立した定義はない。日本政府は、一度起動すれば操作者のさらなる介入なしに標的を識別・選択し、殺傷力を持って交戦できる兵器システムを主な議論対象としている。CCW(特定通常兵器使用禁止制限条約)の枠組みでは、2014年から2016年にかけて非公式会合が開かれ、2017年以降は政府専門家会合(GGE)で議論が続いている。

REAIM(軍事領域における責任あるAI)
軍事分野でのAI利用について、国際法の遵守や責任ある利用、説明責任などを各国で確認する国際的な枠組み。2023年に宣言が採択され、その後も関連文書が重ねられている。日本はこれを支持し、防衛省から関連会合に職員を派遣している。

「AIと自律性の責任ある軍事利用に関する政治宣言」
2023年の宣言。責任ある人間の指揮命令系統のもとでAIを運用すること、および責任の所在を明らかにする必要性を確認している。日本も支持している。REAIMとは別の文書である。

ディープフェイク
AIによって生成された、実在の人物が話しているように見える動画や音声。令和8年版防衛白書は、生成AIで作られた動画や画像とあわせて、情報戦において一層深刻な脅威になっていると記述している。

デュアルユース
民生と防衛の双方で利用できる技術。第4部では、民生・安全保障の用途の境界が曖昧になり、この領域が拡大しているとの認識が示されている。

スタートアップ技術提案評価方式
高度かつ独自の新技術を持つスタートアップなどとの随意契約を可能にする調達方式。行政課題を先に提示し、企業の提案をもとに仕様書を共同で作る。白書には初の契約事例として株式会社インフォステラが記載されており、この契約は全省庁を通じた第1号案件にあたる。案件名は「衛星周波数解析技術の実証」で、同社は2025年5月23日に発表した。

ファストパス調達
スタートアップ企業の技術を迅速に導入するための調達の仕組み。2026年2月に公表された。SBIR制度の活用やアジャイル型調達の制度化、伴走支援グループの新設とあわせて、第4部に記載されている。

ホロポーテーション
ホログラムとテレポーテーションを組み合わせた表現で、遠隔地の人物を立体映像としてその場に呼び出すイメージを指す。白書本体の用語ではなく、解説動画の演出設定として防衛省が動画の説明欄で用いたものである。

レプリケーター構想
米国が進める自律システムの大量配備構想。白書には、数千の自律システム運用を目指す「レプリケーター1」と、小型無人航空機の脅威への対処を目的とする「レプリケーター2」が記載されている。

デジタル・ターゲティング・ウェブ
英国が「戦略的国防見直し2025」を受けて構築を進める、目標の探知から攻撃までをAIで一元的に連接する仕組み。英国政府は段階的な整備を進めている。

【参考リンク】

令和8年版防衛白書|防衛省・自衛隊(外部)
令和8年版の本編・資料編・防衛年表・ビジュアル版のPDFと、英語版および中国語版のパンフレットをまとめた防衛省の公式ページである。

NoLang|株式会社Mavericks(外部)
テキストやPDF、URLを入力するだけで数秒で解説動画を生成する日本発の動画生成AIサービス。アバターと多言語への対応を備える。

株式会社Mavericks(外部)
NoLangと超解像化技術「カクダイ」を開発する東京大学発の生成AIスタートアップ。本社は東京都文京区、代表は奥野将太氏である。

まるわかり!日本の防衛|防衛省キッズサイト(外部)
小中高生向けの防衛入門冊子を掲載したキッズサイト。2026年版が白書と同日に公表され、中学・高校への配布拡大も発表された。

防衛産業への参入促進について|防衛装備庁(外部)
スタートアップ技術提案評価方式やファストパス調達など、防衛装備庁が講じている新規参入の支援策をまとめた窓口ページである。

株式会社インフォステラ(外部)
周回衛星向けの地上局ネットワークをクラウド上で仮想化するGSaaSを提供する2016年設立の企業。防衛省との実証案件が白書に記載されている。

株式会社Synspective(外部)
日本スタートアップ大賞で新設された防衛スタートアップ賞(防衛大臣賞)を受賞し、白書の第4部に記載された小型SAR衛星の企業。

【参考記事】

防衛省が「令和8年版 防衛白書」を公表 今回初めて紹介動画も制作(8月4日)(外部)
防衛白書の紹介動画の制作が今年初めての試みであることを報じ、閣議での大臣発言要旨と白書の概要をあわせて掲載した記事である。

動画生成AI「NoLang」の「読み方を修正する」ダイアログを強化(外部)
登録ユーザー数20万人、法人導入100社突破という2026年7月時点の実績を記載した最新リリース。本記事の数値の出典である。

動画生成AI「NoLang」、写真1枚・音声1分で「自分」や「自社キャラ」を動画化できる新機能を公開(外部)
リアルアバター機能とボイスクローン機能の発表リリース。イラストやキャラクター画像のアニメーション化に対応する点が示されている。

動画生成AI「NoLang」、全18言語への多言語対応を開始(外部)
アバターの姿を保ったまま多言語の動画を生成できる機能の発表。英語版と中国語版が公開された背景を理解する助けになる資料である。

全省庁で初の事例。インフォステラ、防衛省とSDA技術強化で「スタートアップ技術提案評価方式」に基づく契約を締結(外部)
スタートアップ技術提案評価方式による全省庁初の契約事例として、インフォステラと防衛省の案件を報じた宇宙業界メディアの記事

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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