LGエレクトロニクスは、2026年1月6日から9日にラスベガスで開催されるCES 2026において、ホームロボット「LG CLOiD」を初めて披露する。CLOiDは「ゼロレイバーホーム、メイクス クオリティタイム」というビジョンを体現し、屋内家事を実行するホームアシスタントとして位置づけられる。
2本の関節アームを搭載し、各アームは7自由度を持つモーターで駆動される。各手には5本の個別駆動する指があり、細かい運動制御を必要とするタスクを実行する。頭部にはチップセット、ディスプレイ、スピーカー、カメラ、センサーアレイが統合され、LGのアフェクショネートインテリジェンス技術を搭載する。LGはホームアプライアンスソリューションカンパニー内にHSロボティクスラボを設立し、韓国および世界の主要ロボティクス企業との共同研究と戦略的パートナーシップを追求している。展示はラスベガスコンベンションセンターのブース#15004で行われる。
From:
LG TO UNVEIL HOME ROBOT AT CES 2026, SHARING VISION FOR THE “ZERO LABOR HOME”


【編集部解説】
LGがCES 2026で発表するCLOiDは、単なる家電メーカーの新製品発表ではなく、加速するヒューマノイドロボット市場におけるLGの本格参入を意味する重要な一手です。
2026年は、ヒューマノイドロボット産業にとって決定的な年になると予測されています。テスラは2026年第1四半期にOptimus Gen 3を発表し、同年中に数万台から10万台規模の生産を目指しています。ボストンダイナミクスの電動版Atlasも商業展開を控えており、Figure AIは6.75億ドル(約1,013億円、1ドル=150円換算)の資金調達に成功しました。市場調査会社Mordor Intelligenceによれば、世界のロボット市場は2025年の73.64億ドル(約1兆1,046億円、1ドル=150円換算)から2030年には185.37億ドル(約2兆7,806億円)へと、年平均20.28%の成長が見込まれています。
この激化する競争環境の中で、LGは戦略的な投資と提携を通じて独自のポジションを確立しようとしています。2024年3月にサービスロボットメーカーBear Roboticsに6,000万ドル(約90億円)を投資し、2025年1月にはさらに追加投資を行って51%の支配株式を取得しました。さらに、米国のFigure AIや中国のAGIbot、韓国のRobotisといった世界各地の主要ロボティクス企業への投資を進め、技術の多角化を図っています。
CLOiDの技術仕様には注目すべき点があります。各アームに7自由度、各手に5本の独立駆動する指を搭載することで、繊細な作業が可能になります。これは単純な搬送や清掃だけでなく、食器洗いや洗濯物の折りたたみといった複雑な家事をこなすための基盤技術です。頭部に統合されたチップセットと、LGが「アフェクショネートインテリジェンス」と呼ぶAI技術により、ユーザーの習慣を学習し、時間とともに応答を洗練させていきます。
「ゼロレイバーホーム」というビジョンは、家事労働からの解放という普遍的な願望に訴えかけますが、実現には多くの課題が残されています。現在のヒューマノイドロボット市場では、完全自律動作と遠隔操作の境界が曖昧なケースが多く、モーガンスタンレーのアナリストは「デモが明示的に『自律』とラベル付けされていない場合、投資家は遠隔操作されていると仮定すべきだ」と警告しています。
価格も重要な要素です。テスラは2万〜3万ドル(約300万〜450万円)という攻撃的な価格設定を目指していますが、ボストンダイナミクスのAtlasは推定14万〜15万ドル(約2,100万〜2,250万円)、Agility RoboticsのDigitは10万ドル超(約1,500万円超)と、まだ高価格帯にとどまっています。LGがCLOiDをどのような価格帯で提供するかは、市場での成否を左右する重要なファクターとなるでしょう。
社会的影響も見過ごせません。家事労働の自動化は、家政婦やケアワーカーといった職業に影響を与える可能性があります。一方で、高齢化社会における介護負担の軽減や、人間がより創造的な活動に時間を使えるようになるというポジティブな側面も期待されています。
プライバシーの問題も重要です。家庭内を常時監視するカメラとセンサーを搭載したロボットが、どのようにデータを収集し、処理し、保存するのか。LGがオンデバイス処理を優先することで、クラウドへの依存を減らしリスクを低減できるかどうかが、消費者の信頼を得る鍵となります。
CES 2026での発表は、あくまでスタートラインです。実際の商品化時期、価格、そして何より「本当に家事をこなせるのか」という実用性が、今後数年間で明らかになっていきます。LGが他社に先駆けて「使えるホームロボット」を市場に投入できるか、それとも多くの企業がそうであったように、技術的ハードルに阻まれるのか。2026年のCESは、その答えの一端を示す重要なイベントとなります。
【用語解説】
7自由度
ロボットアームの関節が持つ動作の自由度を示す指標。人間の腕は肩、肘、手首の関節で7つの独立した回転運動が可能であり、これを模倣することで自然で多様な動きを実現できる。自由度が高いほど複雑な動作や姿勢制御が可能になる。
アフェクショネートインテリジェンス
LGが開発したAI技術の総称。ユーザーの感情や状況を感知し、それに応じて適応的に応答する機能を持つ。単なる命令実行ではなく、繰り返しの相互作用を通じて学習し、よりパーソナライズされたサポートを提供することを目指している。
ヒューマノイドロボット
人間の身体構造を模倣した二足歩行ロボット。頭部、胴体、両腕、両脚を持ち、人間が設計した環境や道具をそのまま利用できることが大きな利点。産業用、サービス業、家庭用など幅広い分野での応用が期待されている。
ゼロレイバーホーム
LGが提唱する未来の住宅コンセプト。家事労働(レイバー)をロボットや自動化技術によって限りなくゼロに近づけ、住人が家族や趣味など本当に重要なことに時間を使えるようにする、という思想。
HSロボティクスラボ
LGエレクトロニクスのホームアプライアンスソリューションカンパニー内に設立された専門研究機関。差別化された技術の確保と、ロボティクス分野での製品競争力強化を目的としている。
【参考リンク】
LG Electronics 公式ニュースルーム(外部)
LGの公式プレスリリースサイト。CLOiDをはじめとする最新製品情報や企業の取り組みを掲載。
CES(Consumer Electronics Show)(外部)
全米民生技術協会主催の世界最大級家電見本市。毎年1月にラスベガスで開催される。
Bear Robotics(外部)
LGが2025年1月に51%の支配株式を取得したシリコンバレーのロボティクススタートアップ。
Figure AI(外部)
ヒューマノイドロボット開発に特化した米国企業。マイクロソフト、OpenAI、エヌビディアなどが出資。
Robotis(外部)
韓国のロボット専門企業。アクチュエーターに強みを持ち、LGが約7.36%の株式を保有。
Boston Dynamics(外部)
現代自動車グループ傘下のロボティクス企業。高度な動的制御技術を持つAtlasを開発。
Agility Robotics(外部)
二足歩行ロボット「Digit」を開発する米国企業。物流・倉庫業務での実用化を進める。
【参考記事】
LGE to debut home robot doing house chores at CES 2026 – The Korea Herald(外部)
LGのロボティクス戦略詳細記事。Figure AI、AGIbot、Robotisへの投資状況を報告。
LG Acquires Majority Stake in Bear Robotics to Bolster Robotics Capabilities | LG NEWSROOM(外部)
2025年1月、LGがBear Roboticsの51%支配権獲得を発表。CEOの「ロボットは確実な未来」発言を引用。
Robotis Unveils Humanoid Robot ‘AI Worker’ at Japan Expo – Businesskorea(外部)
世界のロボット市場規模の具体的数字を提供。2025年の73.64億ドルから2030年の185.37億ドルへの成長を報告。
Innovative Humanoid Robots in 2025–2026 – Reality or Hype?(外部)
ヒューマノイドロボット市場の現状分析。テスラの生産目標や1X NEOの価格設定など具体的数字を記載。
The Global Humanoid Robots Market 2026-2036(外部)
市場の包括的分析レポート。テスラ、BYD、Agibot、Unitreeの生産目標を詳細に報告。
What are the highlights of the humanoid robot market in 2026? Morgan Stanley(外部)
モーガンスタンレーによる市場予測。投資動向の具体的数字と自律動作の見極めに関する警告を記載。
Comparing Boston Dynamics’ Atlas and Tesla’s Optimus humanoid robots(外部)
Atlas(ボストンダイナミクス)とOptimus(テスラ)の技術的比較。開発哲学の違いを対比。
Humanoid Robots Guide (2025): Types, History, Best Models, Anatomy and Applications(外部)
ヒューマノイドロボットの包括的ガイド。業界の主要マイルストーンを時系列で整理している。
【編集部後記】
家事から解放される未来は、本当に私たちを幸せにするのでしょうか。LGが描く「ゼロレイバーホーム」は魅力的ですが、その一方で、料理や掃除といった日常の営みには、家族とのコミュニケーションや季節の移ろいを感じる瞬間も含まれています。
みなさんは、どんな家事をロボットに任せたいですか。そして、空いた時間で何をしたいと思いますか。技術が進化する今だからこそ、私たち一人ひとりが「豊かな暮らし」の意味を問い直す時期に来ているのかもしれません。ぜひ、SNSでみなさんの考えを聞かせてください。































