2026年2月22日、スポーツ特化型ブロックチェーン企業Chilizは、ファントークンの次の段階として、スマートコントラクトを通じて試合結果に連動するトークン設計を構想している。CEOのアレクサンドル・ドレフュスはCoinDeskのインタビューで、勝利時にトークン供給量をバーン(焼却)し敗北時に拡大する「ゲーミファイド・トークノミクス」の仕組みを説明し、これをギャンブルではなく「センチメント・マーケットプレイス」と位置付けた。
さらに、トークンを担保や仕組み商品に活用するDeFi領域への拡張や、Polymarketなどの予測市場との補完関係にも言及した。ChilizベースのプロトコルDecentralは、放映権などの将来の受取債権をトークン化し、チームがステーブルコインによる流動性を得る仕組みを提供している。ただし、トークンがギャンブルに類似する場合の規制リスクは残る。
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SportFi’s next act: onchain markets built around match-day results
【編集部解説】
今回の記事の背景にあるのは、2026年2月にChilizが発表した「Chiliz 2030 Manifesto」です。ファントークンの進化を3段階で定義するこのロードマップにおいて、第1段階の「ユーティリティ(投票、報酬、アクセス)」から、第2段階の「パフォーマンス連動型トークノミクス」へ移行する構想が、今回の記事の核心にあたります。
「ゲーミファイド・トークノミクス」とは、試合の勝敗というオフチェーンの現実世界のイベントを、スマートコントラクトによってオンチェーンのトークン供給量変動に直結させる仕組みです。チームが勝てばトークンがバーンされて希少性が増し、負ければ新たにミントされて供給が拡大します。従来のファントークンが「ウォームアップキットの色を投票で決める」といった限定的なファンエンゲージメントに留まっていたのに対し、この設計はトークンの経済構造そのものにスポーツの競争原理を組み込もうとするものです。
この動きを理解するうえで重要なのが、予測市場の急成長という文脈です。米国の規制された予測市場プラットフォームKalshiは、2025年の取引量の約87%がスポーツ関連のイベントコントラクトで占められました。Crypto.comやDraftKingsなど新規参入者もスポーツを起点に予測市場へ進出しており、スポーツとオンチェーン金融の結びつきは業界全体のトレンドとなっています。
Chilizの戦略がファントークンの「ゲーミフィケーション」だけに留まらない点にも注目すべきでしょう。2025年12月には、Chiliz Chain上に構築されたDecentralプロトコルが、サッカーのメディア権(放映権)を担保にしたRWA(実世界資産)プールをローンチしました。初期流動性プールの規模は100万ドル(USDC建て)、ロック期間90日、想定APY12%という条件で提供されています。クラブが保有する放映権やスポンサー契約から発生する将来の受取債権をトークン化し、DeFi市場から直接流動性を調達できるモデルは、従来の銀行や仲介業者への依存度を下げる可能性を秘めています。
規制面では、Chilizはすでに具体的な成果を上げています。2025年9月、同社傘下のSocios Europe Servicesがマルタ金融サービス局(MFSA)からMiCA(暗号資産市場規制)に基づく認可を取得し、EU全27カ国でサービスを提供できる初のSportFiプラットフォームとなりました。CHZトークンのMiCA準拠ホワイトペーパーも公開済みで、個別のファントークンについてもESMA(欧州証券市場監督局)への登録手続きが進行中です。
一方で、リスクも見落とせません。Kalshiは2026年1月にマサチューセッツ州で暫定的差止命令を受け、州内でのスポーツ関連マーケットの提供を事実上禁止されました。また、同月にはニューヨーク州で無認可のスポーツ賭博運営を主張する集団訴訟も提起されています。ファントークンの「ゲーミファイド・トークノミクス」が、規制当局の目にギャンブルと映るリスクは現実的な課題として残ります。
もう一つの視点として、2026年6月に開幕するFIFAワールドカップの存在があります。Chilizは2026年のロードマップにおいて、米国市場への再参入(Q1にファーストパートナーシップ発表予定)、ナショナルチーム・ファントークンの夏季ローンチ、そしてLayerZeroとの連携によるオムニチェーン展開を計画しています。2022年大会が約50億人の視聴者を集めたことを踏まえれば、ワールドカップはSportFiにとって最大の試金石となるでしょう。
SportFiは「ブロックチェーン上にバッジを載せるだけ」の時代から、スポーツの試合結果やキャッシュフローをプログラマブルな金融商品へ変換する段階へと確実に歩を進めています。ただし、その実現可能性は、各国の規制当局がこれらの新しい金融商品をどう分類するかに大きく左右されることになります。
【用語解説】
SportFi(スポートファイ)
Sport(スポーツ)とFinance(金融)を組み合わせた造語。ブロックチェーン技術を用いてスポーツ資産を金融商品として取り扱う領域を指す。ファントークンの発行から、DeFi連携、RWA(実世界資産)のトークン化まで、スポーツと分散型金融の交差点に位置する概念である。
ファントークン(Fan Token)
スポーツチームが発行するブロックチェーンベースのデジタル資産。保有者にチームに関する限定的な投票権(ウォームアップキットの色、入場曲の選定など)や特典へのアクセスを提供する。2019年にChilizのSocios.comプラットフォームを通じて初めて導入された。
ゲーミファイド・トークノミクス(Gamified Tokenomics)
トークンの供給量調整メカニズムにゲーム的要素を組み込んだ経済設計。Chilizが提唱する「Fan Token Play」では、チームの勝利時にトークンをバーン(焼却)して供給を減らし、敗北時にミント(新規発行)して供給を拡大する仕組みを、スマートコントラクトで自動実行する。
ミント&バーン(Mint and Burn)
トークンを新規発行(ミント)し、また流通から永久に消去(バーン)するメカニズム。供給量を動的に調整することで、トークンの希少性や価値形成に影響を与える。
センチメント・マーケットプレイス
ファンの感情や期待——いわば「市場心理」をトークンの取引によって可視化・数値化する市場。Chiliz CEOのアレクサンドル・ドレフュスが提唱する概念で、ギャンブルとは異なり、スポーツの競争リズムに連動した取引環境を目指す。
DeFiプリミティブ(DeFi Primitives)
分散型金融(DeFi)の基本的な構成要素。レンディング(貸付)、ステーキング(預入)、仕組み商品(ストラクチャードプロダクト)などを指す。これらをスポーツ資産と組み合わせることで、ファントークンを担保や取引対象として活用することが可能になる。
RWA(Real World Assets / 実世界資産)
不動産、債権、メディア権など、現実世界に存在する資産をブロックチェーン上でトークン化したもの。スポーツ分野では、放映権やスポンサー契約から生じる将来の収益をトークン化し、オンチェーンで取引可能にする取り組みが進んでいる。
MiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)
EUが施行した暗号資産市場規制。暗号資産サービスプロバイダーに対し、ライセンス取得や情報開示義務を課す包括的な規制枠組みである。
予測市場(Prediction Markets)
将来の出来事の結果に基づいてイベントコントラクトを売買するプラットフォーム。スポーツの試合結果、政治的選挙、経済指標などが対象となる。
【参考リンク】
Chiliz公式サイト(外部)
スポーツ特化型Layer-1ブロックチェーン。70以上のスポーツ組織と提携しファントークンのインフラを提供する。
Socios.com公式サイト(外部)
Chiliz運営のファントークン消費者向けプラットフォーム。投票権や限定報酬へのアクセスを提供する。
Chiliz 2030 Manifesto(外部)
2026年2月公開の戦略ロードマップ。オムニチェーン展開、ゲーミファイド・トークノミクス、RWA化の3本柱で構成。
Polymarket公式サイト(外部)
ブロックチェーンベースの予測市場プラットフォーム。スポーツ、政治、経済など幅広いイベントコントラクトを取引可能。
Kalshi公式サイト(外部)
米国CFTC認可の予測市場取引所。2025年の取引量の約87%がスポーツ関連イベントコントラクトであった。
CoinDesk(外部)
暗号資産・ブロックチェーン業界の主要メディア。ニュース、分析、データ、イベント情報を幅広く提供する。
【参考記事】
Chiliz Unveils 2030 Manifesto: Charting the Future of SportFi(外部)
Chilizが2026年2月に発表したManifesto。ファントークン進化の3段階定義と1兆ドル規模のRWA市場構想を掲載。
Soccer Clubs Tap Stablecoins for Liquidity Via Chiliz’s DeFi Protocol(外部)
Decentralプロトコルによる放映権トークン化を報道。初期流動性プール100万ドル、90日ロック、APY12%の条件を詳述。
Prediction Markets Have Big US Ambitions(外部)
Kalshiの2025年取引量のうち約87%がスポーツ関連と分析。NFLシーズン期は90%超に上昇。
Chiliz Eyes US Comeback With Fan Tokens for 2026 World Cup(外部)
2026年ロードマップの詳報。米国再参入、ナショナルチームトークン、CHZバイバック(収益の10%)を解説。
The Chiliz Group celebrates dual MiCA milestone(外部)
Socios Europe ServicesのMiCA認可取得を発表。SportFi分野初のEU全27カ国対応暗号資産サービスプロバイダーに。
Prediction markets explode in 2025: Inside the Kalshi-Polymarket duopoly(外部)
KalshiとPolymarketの合計取引量440億ドル超を報告。12月単月で60億ドル以上。新規参入による競争激化も分析。
【編集部後記】
スポーツの試合結果がトークンの供給量を動かす——この仕組みが実現すれば、「応援する」という行為そのものの意味が変わるかもしれません。
皆さんがもし好きなチームのファントークンを持っていたら、試合の見え方はどう変わるでしょうか。2026年のFIFAワールドカップは、この問いに対する最初の大きなテストケースになりそうです。皆さんと一緒に、その行方を追いかけていければと思います。







































