株式会社Pacific Meta(東京都港区、代表取締役:岩崎翔太)は2026年3月17日、アニメ・音楽・映画・ゲームなどのIP(知的財産)のライセンス権利をブロックチェーン上でトークン化し、「1口」単位で購入・保有・売買できるプラットフォームのプロトタイプ「IP Market Place by Pacific Meta(仮称)」を開発したと発表した。
購入はUSDC建てで、IPの権利はERC-20のファンジブルトークンとしてオンチェーンで表現される。Pacific Metaのプレスリリースでは、米国音楽業界について「年間消費支出約430億ドルのうち、アーティストへの収益は約12%にとどまる」との推計を引用しており、同プラットフォームはロイヤリティ収益の透明化とプログラマブルなライセンス管理の実現を目的とする。
現時点で実際のIPは取り扱わず、技術的・UX的な可能性を検証するための実装実験である。共同開発パートナーおよびIPホルダーを募集している。
From:
ブロックチェーン上でIPの権利を売買できるプラットフォームのプロトタイプを開発

株式会社Pacific Meta PRTIMESより引用
【編集部解説】
今回のプレスリリースが示しているのは、単なる新サービスの発表ではありません。IP(知的財産)という、これまで「持てる者」だけがアクセスできた資産クラスを、ブロックチェーン技術によって広げようとする試みです。では、なぜ「今」なのかという文脈を整理しておきましょう。
エンタメ産業の収益構造に深刻な歪みがあることは、業界では長らく指摘されてきました。Pacific Metaのプレスリリースで引用されている「アーティストへの収益は約12%」という数字は、音楽業界の慣行を批判する文脈でよく登場する推計値です。ただし、この数値はアーティストの契約形態やレーベルとの条件によって大きく異なるため、業界全体を均一に表すものではなく、あくまで構造的な問題を示す目安として理解するのが適切でしょう。
その構造的課題を加速させているのが、生成AIの台頭です。AIによってコンテンツの複製・派生・リミックスが爆発的に容易になった結果、「誰がオリジナルを創ったのか」「誰にロイヤリティを払うべきか」を従来のインフラで追跡することが、急速に困難になっています。Pacific Metaはこの問題意識を明確に打ち出しており、ここにブロックチェーン活用の必然性があります。
技術的なポイントをひとつ補足しておきます。今回のプロトタイプが採用しているのは、ERC-20規格のファンジブルトークン(代替可能トークン)です。かつて話題になったNFT(非代替性トークン)とは異なり、1口100円のトークンを1000口購入した場合、それぞれのトークンは完全に同一の価値を持ちます。これにより「株式の小口化」に近い形でIPの権利を流通させることが可能になります。
グローバルな文脈でみると、このような現実資産のトークン化(RWA:Real World Asset tokenization)の市場は拡大傾向にあり、民間クレジットや米国債関連資産が主要分野とされています。IPのトークン化はその中でも新興領域であり、Lexologyが紹介する市場予測では、2025年約12億ドルから2030年約37億ドルへ拡大する見通しが示されています(年平均成長率25.14%)。Pacific Metaの取り組みは、この潮流における日本発の実装実験として位置づけられます。
一方で、リスクと課題にも目を向ける必要があります。最大の障壁は規制です。ロイヤリティ収益や収益分配を付与するトークンは、米国ではSECのHoweyテストにより証券として分類される可能性があり、EUでもMiFID IIの下で同様の問題が生じます。
日本においても、金融庁(FSA)はセキュリティトークン(ST)に関する明確な規制枠組みを整備しつつありますが、IPの権利を対象とした具体的なガイドラインはまだ発展途上です。Pacific Meta自身もプレスリリースで「法的な実現性については別途検討を進めている」と明記しており、この点は現段階での最大の未解決事項といえるでしょう。
また、流動性の問題も見逃せません。「売買できる」という仕組みが整っても、実際に買い手が集まらなければ市場は機能しません。既存の音楽権利市場やアニメIPが持つ収益の不確実性をどう評価するか、一般投資家にとって判断が難しい部分も多く残ります。それでも、長期的な視点でこのプロトタイプが示すビジョンには大きな意義があります。
アジアでは、2025年を通じてRWAトークン化やステーブルコインをめぐる制度整備が実装段階へ進みつつあり、これを背景に今後の機関投資家参加拡大が期待されています。日本発のプレイヤーがその波に乗るためには、技術的なプロトタイプの蓄積と並行して、法的フレームワークの構築・IPホルダーとの信頼関係醸成を早期に進めることが鍵になります。Pacific Metaが今回、共同開発パートナーとして金融機関・法律事務所・規制コンサルタントを明示的に募集している背景には、こうした戦略的な判断が読み取れます。
【用語解説】
RWA(Real World Asset tokenization)
現実世界に存在する資産(不動産、債券、知的財産など)をブロックチェーン上のデジタルトークンで表現する手法。資産に流動性と透明性を付与し、小口化による幅広い投資参加を可能にする。
スマートコントラクト
あらかじめ定めた条件が満たされた際に、人間の介在なく自動的に実行されるブロックチェーン上のプログラム。IPのロイヤリティ分配や、二次利用時の許諾・課金処理を自動化するために用いられる。
USDC
米ドルと1対1で価値が連動するよう設計されたステーブルコイン(安定型暗号資産)。Circle社が発行しており、ブロックチェーン上での決済・送金に広く利用される。今回のプロトタイプではIPライセンスの購入通貨として採用されている。
Howeyテスト
米国SECが「ある資産が証券に該当するか否か」を判断するための法的基準。「資金を共同事業に投資し、他者の努力によって利益を期待する」という要件を満たすトークンは証券として規制される可能性がある。IPロイヤリティを付与するトークンは、この基準に抵触するリスクがある。
パーミッションレス
中央管理者の許可を必要とせず、誰でも自由に参加・取引できること。ブロックチェーンの基本的な特性のひとつであり、従来の金融インフラでは実現できなかった24時間365日の取引を可能にする。
【参考リンク】
株式会社Pacific Meta 公式サイト(外部)
2022年8月設立のブロックチェーン特化アクセラレーター。今回のIPトークン化プロトタイプの開発元であり、国内外のWeb3プロジェクト支援を行う。
【参考記事】
Monetizing Innovation: How IP Tokenization Is Reshaping IP Rights and Value(外部)
IP tokenization市場規模(2025年:約12億ドル→2030年:約37億ドル)とHoweyテスト・MiFID IIによる規制リスクを整理した法律専門誌Lexologyの解説。
RWA Tokenization: Definition, Process, Regulation and Risks (2026)(外部)
2025年Q3時点のRWA市場規模(300億ドル超)とBlackRock・Franklin Templetonなど機関投資家の参入状況を網羅した法律専門ガイド。
Stablecoins and RWA tokenization shape Asia’s crypto rulebook in 2025(外部)
香港・シンガポール・日本など各国の規制整備動向と、2026年の機関投資家参加拡大の見通しを報じる業界専門メディアの記事。
RWA Tokenization: Complete Legal Guide 2026(外部)
EUのMiCAや米国SECの実務動向を踏まえた、2026年時点のRWAトークン化に関する法的フレームワークを各国別に整理した専門解説記事。
6 trends for 2026: Stablecoins, payments, and real-world assets(外部)
著名VCのa16z cryptoによる2026年主要トレンド予測。RWAトークン化の拡大とAI活用による資産運用の民主化を展望する。
【編集部後記】
あなたが好きなアーティストの楽曲や、思い入れのあるアニメ作品の「権利」を、少額から保有できる日が来るとしたら、どう感じますか。応援という気持ちが、経済的なつながりへと変わるかもしれません。
この仕組みが当たり前になった世界で、クリエイターとファンの関係はどう変わっていくのか、私たちも一緒に考えていきたいと思っています。







































