Xiaomiは2026年3月18日、自社開発の大規模AIモデル「MiMo-V2」シリーズ3モデルを発表した。
フラッグシップのMiMo-V2-Proは総パラメーター数1兆超、コンテキストウィンドウ100万トークンを持ち、混合アテンションアーキテクチャを採用する。コードネーム「Hunter Alpha」としてテストされ、Claw-Evalで61.5点(世界3位)、Artificial Analysis Intelligence Indexで49点(世界8位・中国2位)を記録した。
MiMo-V2-Omniは画像・動画・音声・テキストに対応するマルチモーダルモデルで、コードネームは「Healer Alpha」。MiMo-V2-TTSは四川方言、広東語、台湾華語、東北官話などに対応例が示されている音声合成モデルだ。全モデルはXiaomi MiMo StudioおよびAPIを通じて公開されている。
【編集部解説】
今回のリリースを理解するうえで、まずXiaomiという企業の立ち位置を整理しておく必要があります。Xiaomiはスマートフォン・家電・電気自動車を手がけるハードウェア企業として知られますが、MiMo-V2の発表は「AIモデル開発企業」としての存在感を一段と強める動きといえます。OpenAIやAnthropicといったAI専業企業が主導してきた基盤モデルの領域に、ハードウェアの巨人が垂直統合型の戦略を携えて本格的に切り込んできた形です。
技術面で特筆すべきは、MiMo-V2-Proが総パラメーター数1兆超の大規模モデルでありながら、推論時に実際に動くのは420億パラメーターに抑えられている点です。「巨大な図書館のすべての棚を常に読むのではなく、必要な棚だけを開く」ような設計により、規模の割に推論コストを抑えています。加えてハイブリッドアテンション比率を5:1から7:1に引き上げ、100万トークンという広大なコンテキストウィンドウを効率的に処理できるようにしています。
ベンチマーク数値については、Xiaomi公式など一次情報との照合が重要です。 Xiaomi公式ページや複数の報道では、MiMo-V2-ProのClawEvalスコアは61.5で一致しています。そのため、本稿ではClawEvalを61.5点(世界3位)と記載するのが妥当です。なお、PinchBenchのスコアには情報源によって81.0〜84.0の差が見られ、評価条件や集計時点の違いに注意が必要です。Artificial Analysis Intelligence Indexの49点(世界8位・中国2位)については各所で整合しており、信頼性の高い数値といえます。
価格設定は、この発表の最大の「武器」のひとつです。入力トークン100万件あたり1ドル(256Kコンテキストまで)という価格は、Claude Opus 4.6の同5ドルと比較して約5分の1。Artificial Analysisが紹介した評価コスト比較では、MiMo-V2-Proは348ドルで完走したのに対し、Claude Opus 4.6は2,486ドルを要したとされています。これはモデルの性能を評価する際の「コスト効率」という新しい軸を業界に突きつけるものです。
長期的な視点で見ると、今回の発表はXiaomiのスマートフォン・EV・スマートホームという既存エコシステムとAI基盤モデルの融合を示唆しています。デバイスとインテリジェンスの境界を消し去り、「システムレベルのネイティブエージェント」を構築するというXiaomiのビジョンは、GoogleがPixelとGeminiで目指す方向性とも重なります。
一方、リスクとして見落とせないのはベンチマークの独立検証です。ClawEvalやPinchBenchはOpenClaw系のエージェント評価で用いられる指標ですが、第三者による広範な独立検証はまだ十分とはいえません。そのため、「自社に有利な条件で高得点を出しているのではないか」という見方が今後も出てくる可能性があります。また中国企業のモデルとして、米国や欧州での規制上の扱いや、データの取り扱いに関する懸念も今後浮上してくる可能性があります。
「Hunter Alpha」として1週間の隠密テストを経た後に正式発表するという手法も興味深い点です。開発者コミュニティからの生のフィードバックをリリース前に吸収するという戦略は、既存のAIラボとはやや異なるアプローチです。透明性の観点からは賛否があるものの、実用性重視の姿勢が開発者に支持されたことは、1兆トークン超の処理実績にも表れています。
【用語解説】
MoE(Mixture of Experts)
「専門家の混合」を意味するニューラルネットワークの設計手法。モデル全体を複数の「専門家」サブネットワークに分割し、推論時には入力内容に応じて一部の専門家のみを起動する。総パラメーター数は大きくても、実際に動かすパラメーターを絞ることで計算コストを抑えられるのが特徴だ。
コンテキストウィンドウ
AIモデルが一度の処理で「記憶」できる情報の量。トークン数で表される。100万トークンは日本語の文庫本に換算すると数千ページ分に相当し、長大なコードベースや長時間の会話履歴をまとめて読み込んで処理できる規模だ。
ハイブリッドアテンション
通常のトランスフォーマーが全トークン間の関係を均等に計算するのに対し、重要度に応じて「精密に注目する部分」と「大まかに流す部分」を使い分けるアーキテクチャ。MiMo-V2-Proはこの比率を7:1に設定し、長大なコンテキストを効率的に処理する。
AIエージェント(エージェントAI)
ユーザーの一言の指示に対して、計画立案・ツール呼び出し・自己修正を繰り返しながら複数ステップのタスクを自律的に遂行するAIシステムのこと。単に質問に答えるチャットAIよりも、ブラウザ操作やコード実行、ファイル処理などを含む広い作業に対応できる。
ClawEval / PinchBench
OpenClaw系のエージェント評価で用いられるベンチマーク。タスク達成率やツール呼び出しの正確さなどを測定する。ただし、業界全体で確立した唯一の標準指標とまでは言い切れず、評価の独立性については留保が必要だ。
Artificial Analysis Intelligence Index
Artificial Analysisが複数の評価タスクをもとに算出する総合知能スコア。特定企業の自社ベンチマークとは異なる独立系の比較指標として参照されている。
OpenRouter
多数のAIモデルを単一のAPIエンドポイントから呼び出せるAPIアグリゲーションサービス。開発者が異なるモデルを横断的に比較・利用しやすい環境を提供している。
【参考リンク】
Xiaomi MiMo 公式サイト(外部)
XiaomiのAIモデルシリーズ「MiMo」の公式ページ。MiMo-V2-Pro、MiMo-V2-Omni、MiMo-V2-TTSの詳細仕様やAPI料金体系、ベンチマーク結果を掲載している。
Xiaomi MiMo API Platform(外部)
MiMo-V2シリーズへのAPIアクセス窓口。開発者向けドキュメントやAPIキーの取得が可能で、リリース直後は1週間の無料アクセスが提供された。
Anthropic 公式サイト(外部)
AIの安全性研究を軸に設立された米国のAI企業。本記事に登場するClaudeシリーズを開発・提供している。
Artificial Analysis(外部)
AIモデルの性能・速度・コストを独立した立場で評価・比較する分析プラットフォーム。MiMo-V2-Proは同指標で世界8位・中国2位を記録している。
DeepSeek 公式サイト(外部)
中国のAI研究機関。MiMo部門リーダーの羅富利氏が以前在籍していたことで知られる。
OpenClaw(GitHub)(外部)
オープンソースのAIエージェントフレームワーク。ClawEval・PinchBench系の文脈を理解するうえで参考になる。
【参考記事】
Xiaomi stuns with new MiMo-V2-Pro LLM nearing GPT-5.2, Opus 4.6 performance at a fraction of the cost|VentureBeat(外部)
ClawEvalスコア61.5、評価コスト比較(MiMo-V2-Pro:348ドル vs Claude Opus 4.6:2,486ドル)など具体的な数値を多数掲載した詳細レポート。
MiMo-V2-Pro|Xiaomi 公式ページ(外部)
MiMo-V2-Proの仕様・ベンチマーク・Hunter Alphaとの関係を記載したXiaomi公式の一次情報ページ。本解説の根拠となる最重要ソース。
MiMo-V2-Pro – Intelligence, Performance & Price Analysis|Artificial Analysis(外部)
独立系評価サービスによるMiMo-V2-Proの比較ページ。Intelligence Index 49点など、Xiaomi自社ベンチマーク以外の確認材料として有用だ。
Xiaomi releases MiMo-V2-Pro, Omni and TTS models|DataNorth(外部)
3モデルの仕様・ベンチマーク・価格体系を整理した技術メディアの解説記事。
Xiaomi Unleashes MiMo-V2 Family|Quasa.io(外部)
Hunter Alpha期間中の利用状況や周辺情報を整理した記事。
Xiaomi MiMo V2-Pro Benchmarks & Pricing|Toolworthy.ai(外部)
SWE-bench Verified、ClawEval、PinchBenchの数値や価格比較をまとめた参考ページ。
【編集部後記】
「スマホメーカーがAIの最前線へ」——このニュースを読んで、みなさんはどう感じましたか。AIが特定の企業だけのものではなくなっていくスピードには、あらためて驚かされます。
MiMo-V2-Proをきっかけに、あなたが日常や仕事で使うAIの選択肢が広がるとしたら、まず何を試してみたいでしょうか。







































