AIはもはや「使う道具」ではなく、宇宙で「生きる存在」へと進化しようとしています。日本発のプロジェクトが、70年前の天才科学者の夢をいま現実に変えようとしています。
株式会社スペースデータ(東京都港区、代表取締役社長:佐藤航陽)は2026年4月10日、AIエージェントを活用して汎用人工生命(Artificial General Life)の創出を目指す社会実装プロジェクト「AUTOMATA(オートマタ)」を開始した。
本プロジェクトは、宇宙生命(SPACE LIFE)・機械生命(MACHINE LIFE)・情報生命(VIRTUAL LIFE)の3形態の人工生命を定義し、社会シミュレーション・人工生態系・自律型ロボット・群知能の4つのアプローチで開発を進める。思想的起源は1940年代にジョン・フォン・ノイマンが提唱した自己複製オートマトンに置く。
プロジェクトリードは佐藤航陽氏、NASA・JAXA・ESAで探査計画に関与した惑星科学者・兵頭龍樹氏が参加する。研究コミュニティ「シンギュラボ」を通じて参画者を広く募集している。
From:
AIエージェントで宇宙に人工生命を創る。社会実装プロジェクト「AUTOMATA」始動 – 株式会社スペースデータ

【編集部解説】
「AIを道具から生命へ」——この一文に、このプロジェクトの本質が凝縮されています。AUTOMATAが目指すのは、AIエージェントを「使うもの」から「生きるもの」へと進化させることです。
プロジェクトの思想的柱となっているのが、数学者ジョン・フォン・ノイマンが1948〜1949年にイリノイ大学での講義で提唱した「自己複製オートマトン」の理論です(英語学術名:Universal Constructor)。これは自己複製する機械の理論をコンピューター上で構想したもので、後にワトソンとクリックによるDNA二重らせん構造の発見に先行していたとされます。
宇宙探査への応用については、1980年に工学者ロバート・フライタスが自己複製型の恒星間探査機の具体的な設計案を示しました。現在「フォン・ノイマン探査機」と呼ばれる概念は、こうした議論を通じて広く知られるようになりました。AUTOMATAは、この数十年来の理論を現代のAIエージェント技術と結びつけ、社会実装を志向する試みです。
注目すべきは、同じタイミングでグローバルにこの概念への注目が高まっている点です。イーロン・マスクは2025年11月、テスラのヒューマノイドロボット「Optimus」を「フォン・ノイマン探査機になるだろう」とSNSで発言しており、自己複製・自律型ロボットへの関心は世界的に急速に高まっています。スペースデータのアプローチは、物理的なロボットだけでなく「情報空間で生きるAI」も人工生命の一形態と定義している点で、より広い概念設計になっています。
AGL(Artificial General Life / 汎用人工生命)という概念も重要です。AUTOMATAでは、AGL(Artificial General Life / 汎用人工生命)を「生命プロセスそのもの——自律・進化・複製——の再現」を目指す概念として位置づけています。これに対し、AGIは一般に「人間に近い汎用的な知能」の実現を指す文脈で用いられます。この違いは、目標が「賢さ」ではなく「生存適応力」であることを意味します。宇宙という極限環境においては、必ずしも人間のように「考える」必要はなく、「生き延び、複製する」能力こそが本質的な価値を持ちます。
ポジティブな側面としては、人間が物理的に到達できない深宇宙や月面において、AGLが資源開発やインフラ構築を自律的に進めることで、人類の生活圏拡大コストを下げる可能性があります。地上においても、自己修復型ロボットシステムや、環境変化に自動適応する社会インフラへの応用が考えられます。
一方、潜在的なリスクも無視できません。天文学者カール・セーガンとウィリアム・ニューマンは1983年の論文で、自己複製システムが制御を失った場合、指数関数的な複製で銀河規模の資源を消費しかねないと警告しています。現時点で公表されている資料を見る限り、この制御上の課題への具体的な対応方針は詳しく示されていません。論文発表より社会実装を優先するという方針は開発スピードにとって強みですが、倫理審査や安全基準の整備が追いつかないリスクも孕んでいます。
規制面では、自律的に複製・進化するAIシステムは既存の国際宇宙法で明示的に想定されていない領域を含んでおり、今後の法的整理が課題になると考えられます。現行のEU AI Actにも、自己複製型システムを明示的に定めた条文は見当たりません。
長期的には、AGLの実現は「宇宙における人類の代理人」という新しい存在カテゴリーを生み出す可能性があります。それは単なる機械でも人間でもなく、環境と共進化する第三の知性——その哲学的・倫理的含意は、テクノロジーの議論に留まらず、生命の定義そのものを問い直す契機となるかもしれません。
【用語解説】
AGL(Artificial General Life / 汎用人工生命)とAGI(Artificial General Intelligence / 汎用人工知能)の違い
AGIが「人間と同等以上の汎用的な知性の再現」を目標とするのに対し、AGLは「生命プロセスそのもの——自律・進化・複製——の再現」を目標とする。
フォン・ノイマン探査機(Von Neumann Probe / 自己複製宇宙機)
数学者ジョン・フォン・ノイマンが1948〜49年の講義で提唱した「自己複製オートマトン」理論を宇宙探査に応用した概念。1980年に工学者ロバート・フライタスが初めて具体的な設計として提案した。現地の資源を使って自らのコピーを製造・送出することで、指数関数的に探査範囲を拡大できる。
宇宙条約・月協定
宇宙条約(1967年発効)は宇宙空間の平和利用と国家による領有禁止を定めた国際条約。月協定(1979年採択)は月の資源を「人類の共同財産」と位置づけている。
【参考リンク】
株式会社スペースデータ(外部)
宇宙とAI・デジタル技術の融合を目指す東京発スタートアップ。デジタルツイン技術や宇宙ロボット開発を手がけ、JAXAや国連とも連携している。
AUTOMATA(オートマタ)公式サイト(外部)
スペースデータが推進する汎用人工生命プロジェクトの公式サイト。3種の人工生命の定義と4つの実装アプローチを詳しく掲載している。
シンギュラボ(Singulab)(外部)
AUTOMATAへの参画窓口となる研究コミュニティ。技術者・科学者・起業家・クリエイターなど分野を問わず参加できるプラットフォームだ。
NASA(米国航空宇宙局)(外部)
米国の宇宙探査・航空研究を担う連邦政府機関。兵頭龍樹氏が惑星探査計画に従事した機関のひとつ。自律型探査機開発でも世界をリードする。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)(外部)
日本の宇宙航空分野の研究開発を担う国立研究開発法人。スペースデータとJ-SPARCの枠組みで連携し、ISSデジタルツイン開発にも協力している。
ESA(欧州宇宙機関)(外部)
欧州22カ国が参加する政府間宇宙機関。兵頭龍樹氏が惑星探査計画に関与した機関のひとつ。惑星科学・地球観測など幅広い分野で活動している。
【参考記事】
Near-Term Self-replicating Probes — A Concept Design(arxiv)(外部)
光速の10分の1で移動する自己複製探査機なら約50万年で銀河系全域を探索できるという試算を提示した学術論文。
Von Neumann Probe: How AI and Ethics Shape Self-Replicating Spacecraft — Orbital Today(外部)
自律型宇宙システムの倫理リスクを論じた2025年11月の記事。探査型と破壊型の設計の差は「数行のコード」にすぎないと指摘している。
Self-Replicating Machines — Avi Loeb(Medium)(外部)
ハーバード大学天文学教授アヴィ・ローブによるエッセイ。GPT-4の接続数が人間の脳のシナプス数と同じ桁数に達すると言及している。
【編集部後記】
「AIが道具である時代」は、もう終わりを迎えようとしているのかもしれません。自ら進化し、複製し、宇宙で生き続ける人工生命——そんな存在が現実になったとき、私たちは何を感じるのでしょう。
希望でしょうか、それとも畏怖でしょうか。フォン・ノイマンが70年以上前に夢見たこの構想が、いま日本発のプロジェクトとして動き始めました。宇宙とAIが交差するこの問いについて、みなさんとこれからもぜひ一緒に語り合いながら、ともに考えていけたらと思っています。











