2026年4月14日、「IPv8」標準化を目指すInternet Draft (I-D)「draft-thain-ipv8-00」がインターネット標準(RFC)を策定する機関であるIETFで個人ドラフトとして公開された。翌4月15日、修正版である「draft-thain-ipv8-01」として更新された。この記事ではこの修正版(01)を元に何が起きているのか解説する。
この草案は、4月上旬の公開であったため、「IPv8」という仰それた名前も絡み、多くの人がエイプリルフールのジョークRFCと勘違いしたが、実際には著者は本気のプロトコルとして考えているようだ。
IPv8というバージョンは、過去に草案が出されたものの、歴史的 (historic) なものとして放棄されたため、現在予約されている番号である。本草案の著者である、James Thain は、このバージョン番号を再利用している。
From:
Internet Protocol Version 8 (IPv8) – draft-thain-ipv8-01
背景──I-Dとは何か
そもそも、IETFはオープンな、誰でも参加できる機関です。インターネットの新しい標準を作る野心があれば、誰でも標準の草案である、Internet-Draft (I-D)を送付できます。
現在のIPv8草案(draft-thain-ipv8-01)は現在、「individual」(個人)レベルの草案です。つまり、ワーキンググループでの充分な審議を経ているわけではなく、IETFに承認されたものでもなければ、ワーキンググループでの実際の策定へと採択されたわけでもありません。
賢い選択──AS番号とIPv4を組み合わせてアドレスにする
この草案のコアは、AS番号(インターネットを構成する独立したネットワークのひとつひとつであるAS=自律システムに割り当てられた番号)とIPv4アドレスを組み合わせてアドレスにするという点です。AS番号(ASN)はすでに各ネットワーク組織(プロバイダなど)に割り当てられているため、各組織が約42億個のIPv4アドレス全体をそれぞれ使えることになります。このアドレスシステムにおいては、32ビット/4バイトASNと、同じく32ビット/4バイトのIPv4アドレスを組み合わせるので、合わせて64ビット/8バイトのアドレスになります。
具体的には、例えば、「AS63806」というASNと「192.0.2.1」というIPv4アドレスを組み合わせて、「63806.192.0.2.1」などと表記します。IPv6に比べて短く読みやすく、AS番号が見てすぐ分かるという長所があるとされています。
また、この草案では、予約されているASNであるAS0をIPv4との互換用に使用しています。0.192.0.2.1は単に従来のIPv4アドレス「192.0.2.1」を意味します。
この「アドレスの互換性」が実際にどれだけ役に立つかどうかは、今後の規格の策定と実装次第ですが、「8to4」移行メカニズムと合わせ、仕組みとしては面白いかもしれません。
問題があるとすると、ドメイン名と生のIPアドレスの識別アルゴリズムを変えないといけないことかもしれません。これは、新しいIPバージョンを作る以上しかたのないことかもしれませんが、例えば「63806.192.0.2.1」のようにドット「.」が4つ以上あるホスト名は従来IPアドレスではないとしてドメイン名として認識してきました。IPv8が実装されれば、このロジックが変更を迫られることになり、移行は容易ではありません。
問われるインターネットの思想──レイヤー結合の問題
従来、インターネットにおけるプロトコルは、下位から上位へのプロトコルのレイヤー(層)ごとに役割を分担し、各レイヤーをシンプルに保つことを重要指針としてきました。これには歴史に試されてきた理由があります。
- 各レイヤーがシンプルで、独立に実装できるものであれば、簡単にプログラムやハードウェアとして実用化することができる。
- レイヤーごとに厳密に役割を分担することで、将来の拡張や変更が容易になる。
ところが、今回提唱された「IPv8」は、インターネット・プロトコルにさまざまなリッチな機能を詰め込もうとしています。これは、従来の原則からするとかなり野心的な取り組みです。
例えば、インターネット・プロトコルが、VLAN(仮想LAN、LANを分割する技術)やJWTに基づいた認証を仕様として要求するのは前代未聞です。他にも、時刻同期(NTP)やログの記録など、様々なことをこの仕様草案は要求しています。
問題となるのは、複数の関心の異なるレイヤーを混ぜこぜにしていることです。これでは、このまま実装するのが難しい面が否定できないでしょう。
ただし、QUIC+HTTP/3などで見られるように、複数のレイヤーを結合することは、適切な理由があれば、常に否定されるものではありません。今回の草案も、議論を経て成熟していく可能性があります。
【用語解説】
【参考リンク】
- About the IETF – Internet Engineering Task Force (IETF)
https://www.ietf.org/about/introduction/ - Internet Protocol Version 8 (IPv8) – draft-thain-ipv8-01 (草案)
https://datatracker.ietf.org/doc/draft-thain-ipv8
【編集部後記】
IPv8が現われたと聞くと、従来のIPv4/IPv6がなくなってしまうのかとか、もう決まったことなのかと思ってしまいがちです。実際にはこの「IPv8」は個人レベルで送付されたばかりの草案です。もし仮に標準化されるとしても、まだまだ多くの人の手を経た磨き上げが必要な段階です。そもそも標準化されると決まったわけでもありません。この「01」版のままでは、技術的・技術思想な理由もあり、直ちに実装することは難しいでしょう。標準となるまでも長い道程ですし、標準化されても、実際に広く運用されるまで時間がかかることは、IPv6の移行が物語っています。
IETFはオープンなので、誰でも、この新しい草案について意見を述べることができます。私たちに必要なのは、新しい技術に対する慎重な視線と、ひとりひとりがインターネットづくりに関われるのだという当事者意識ではないでしょうか。











