xAI「x-algorithm」5月15日アップデート|Xの推薦システムに「Grox」と広告モジュールが追加

あなたのXのタイムラインに、どの投稿を、どの順番で表示するか。それを決めているのは、ふだん目に見えない一本のアルゴリズムです。xAIは2026年5月15日、その「For You」フィードを動かす推薦システムを大型アップデートし、コンテンツ理解を担う新サービス「Grox」や広告関連のモジュールを追加しました。2026年1月に公開されたこのコードは、いまも更新が続いています。本記事では、5月15日に何が加わったのかを入り口に、Grokベースのアルゴリズムの中身をひもときます。


xAIは2026年5月15日、Xの「For You」フィードを動かすレコメンドシステム「xai-org/x-algorithm」を大型アップデートした。

コンテンツ理解サービス「Grox」、フィードへの広告挿入を扱う広告ブレンディングのモジュール、検索からランキングまでを動かせる推論パイプラインなどが追加されている。同リポジトリは2026年1月にGitHubで公開されたもので、ライセンスはApache License 2.0、構成言語はRust 57.4%とPython 42.6%である。

システムは、フォロー中のアカウントの投稿を扱う「Thunder」と、グローバルコーパスから機械学習で投稿を発見する「Phoenix Retrieval」の2つのソースから候補を取得し、Grokベースのトランスフォーマーモデル「Phoenix」でランク付けする。モデルは、いいね、返信、リポスト、報告など15種類のエンゲージメントについて確率を予測し、重み付けの合計で最終スコアを算出する。

From: 文献リンクGitHub – xai-org/x-algorithm: Algorithm powering the For You feed on X

【編集部解説】

まず、今回の動きの中心をお伝えします。xAIは2026年5月15日、Xの「For You」フィードを動かすレコメンドシステム「x-algorithm」に大型アップデートを加えました。追加されたのは、スパム検出や投稿の分類といったコンテンツ理解を担う新サービス「Grox」、フィードへの広告挿入と配置を扱う広告ブレンディングのモジュール、そして検索からランキングまでを一気通貫で動かせる推論パイプラインです。公開済みのコードが、より「動かして試せる」実用的な形へと一歩進んだといえます。

なぜ、いま改めて取り上げるのか。このリポジトリ自体は2026年1月にGitHubで公開され、当時は公開からわずか6時間で1,600のStarを集めました。重要なのは、その後も更新が止まっていないことです。「公開して終わり」ではなく、生きたコードが継続的に育てられている。5月15日の更新は、その姿勢を裏づける節目でもあります。

技術的に最も画期的なのは、READMEが明言する「手作業で設計された特徴量を一つ残らず排除した」という設計思想です。従来のレコメンドは、「フォロワー数が多い投稿を優遇する」といった、人間が書いたルールを数多く組み込む方式が一般的でした。それをGrokベースのトランスフォーマー1つに置き換え、あなたの行動履歴そのものから関連性を学ばせる。SNSの推薦エンジンが、ルールの束からAIモデルへと世代交代した瞬間と言えるでしょう。

少し難しい「候補分離(Candidate Isolation)」も補足します。これは、ある投稿の点数を計算するとき、同じバッチに入っている他の投稿の影響を受けないようにする仕組みです。リポジトリ内の技術ドキュメントには、ユーザーと履歴には注目できても候補どうしは注目し合えない、というアテンションの設計が図解されています。スコアが安定し、使い回し(キャッシュ)が効くため、膨大な投稿を高速にさばけます。規模感について現行のREADMEに具体的な数値の明示はありませんが、技術解説記事では、1日あたり5億件規模の投稿を約1,500件の候補に絞り込み、200ミリ秒未満でランク付けすると説明されています。

この公開によって何ができるようになるのか。最大の意義は「検証可能性」です。研究者はアルゴリズムの偏りを実コードで確認でき、開発者は自分の用途に合わせて改変できます。5月15日のアップデートでは、訓練済みの小型版Phoenixモデルが約3GBのアーカイブとして同梱され、自分でモデルを訓練しなくても推論を試せるようになりました(モデルの次元数などの細かな仕様は、リポジトリ内の文書間でまだ表記の揺れが残っています)。「動かして確かめる」ことが、誰にでも開かれたわけです。

ここで数字の誤解を一つ訂正させてください。ネット上では「いいね=1点、リポスト=20点」といった重み付けの公式が今も拡散されていますが、これは手書きのルールに依存していた2023年の部分公開版に由来するもので、今回のGrokベースのシステムとは設計が異なります。固定の点数表が記事の本筋であるかのように紹介されている解説は、世代を混同している可能性が高い。引用する際は、出典の年代を確かめることをおすすめします

ポジティブな側面は明快です。本番稼働中のレコメンドアルゴリズムをここまで公開する例は、主要なSNSのなかでは異例といえます。X公式は、広告も含めた推薦コードを4週間ごとに開発者向けの注記とともに更新すると表明しています。表明どおりに続くかは見届ける必要がありますが、検証の継続性まで掲げた点は、業界に対する一つの基準提示といえるでしょう。

一方で、潜在的なリスクや限界も冷静に見ておきたいところです。「オープンソース化」は「完全な透明化」と同義ではありません。同梱されるのはあくまで小型版モデルであり、本番で動く重み(パラメータ)や学習データそのものが丸ごと開示されているわけではありません。コードが読めても、実際にあなたのフィードを動かしている学習済みモデルの中身までは見通せない、という構造的な距離は残ります。

規制への影響も無視できません。EUは2025年12月、アルゴリズムの透明性が不十分だとして、デジタルサービス法(DSA)のもとでXに1億2000万ユーロ(約204億円、1ユーロ=170円換算)の制裁金を科しています。今回の全面公開は、規制当局や広告主からの透明性要求に対し、議論の土俵を「閉ざされた弁明」から「公開されたコードの精査」へと移す一手でもあります。守りであると同時に、攻めの一手という二面性を持っています。

長期的に見れば、問われているのは「これが業界標準になるか」です。生きた本番システムを公開し続けるのは、競合に手の内を晒すリスクと背中合わせの選択でもあります。それでも、推薦アルゴリズムという「現代社会の見えない編集者」を市民が監査できるようにする試みは、技術史のなかで記録に値する一歩だと私は考えます。フィードの向こう側を「ブラックボックス」と諦めるのか、「読めるもの」として向き合うのか。その分岐点に、私たちは立っています。

【用語解説】

For Youフィード
Xの「おすすめ」タブ。ユーザーごとに最適化された投稿が並ぶ表示面で、本記事で公開されたアルゴリズムが動かしている。

レコメンドシステム(推薦アルゴリズム)
大量のコンテンツの中から、ユーザーに表示するものを選び、並べ替える仕組み全般を指す。

トランスフォーマーモデル
文章などの系列データの文脈を捉えるAIの構造。現在の生成AIの基盤技術であり、x-algorithmではランキングに用いられる。

Phoenix(フェニックス)
x-algorithmの機械学習中核。投稿の「検索(リトリーバル)」と「ランキング」の2機能を担うGrokベースのモデル。

Thunder(サンダー)
フォロー中アカウントの最近の投稿を、外部データベースを介さず高速に提供するインメモリの投稿ストア。

Home Mixer(ホームミキサー)
フィード全体を組み立てるオーケストレーション層。候補の取得から最終出力までの各段階を統括する。

Candidate Pipeline(キャンディデート・パイプライン)
推薦パイプラインを構築するための再利用可能なフレームワーク。ソースやフィルターなどの役割を部品として定義する。

Grox(グロックス)
直近の更新で追加されたコンテンツ理解サービス。スパム検出や投稿カテゴリ分類などを担う。

グローバルコーパス
X上の投稿を広く集めた巨大なコンテンツ群。ネットワーク外コンテンツの検索対象となる。

エンゲージメント
いいね、返信、リポスト、クリックなど、投稿に対するユーザーの反応の総称。

重み付けスコア(Weighted Scorer)
複数の行動予測値にそれぞれ重みを掛けて足し合わせ、最終的な関連性スコアを算出する仕組み。

ハンドエンジニアリング特徴量(手作業で設計された特徴量)
人間が経験則で定めた評価指標。x-algorithmはこれを排除し、AIに学習を委ねている。

候補分離(Candidate Isolation)
ランキング時、候補となる投稿どうしが互いに影響し合わないようにする仕組み。スコアが安定し、キャッシュが効く。

埋め込み(エンベディング)
ユーザーや投稿の特徴を、計算機が扱いやすい数値ベクトルに変換したもの。

アテンションヘッド
トランスフォーマーが文脈上の関連性を捉えるための計算単位。

推論
学習済みのモデルを使って予測結果を出力する処理。

広告ブレンディング
フィードに広告を自然に挿入し、その位置を調整する仕組み。直近の更新で関連モジュールが追加された。

デジタルサービス法(DSA)
EUのオンラインプラットフォーム規制。違法コンテンツ対策やアルゴリズムの透明性などを大手事業者に義務付ける。

Star(GitHub)
GitHubで、リポジトリへの注目度や評価を示すブックマーク機能。

【参考リンク】

xai-org/x-algorithm(GitHub)(外部)
XのForYouフィードを動かすレコメンドシステムの中核コードを、Apache License 2.0で公開した本記事の対象リポジトリ。

xAI(外部)
イーロン・マスクが設立したAI企業。Grokを開発し、Xのレコメンドアルゴリズムにも自社の中核技術を提供している。

X(外部)
旧Twitter。本記事で扱う「For You」フィードを擁する、世界的に利用されるリアルタイム型ソーシャルプラットフォーム。

GitHub(外部)
ソースコードのホスティングと開発者間の共同作業を担うプラットフォーム。今回のアルゴリズム公開の舞台となった。

grok-1(GitHub)(外部)
xAIが公開したGrok-1のオープンソース版。Phoenixのトランスフォーマー実装は、このGrok-1から移植されている。

Rust(外部)
x-algorithmの主要言語。GitHub上の言語構成比は現在57.4%で、高速性とメモリ安全性を高い水準で両立した言語。

Python(外部)
x-algorithmの機械学習処理に使われるプログラミング言語。GitHub上の言語構成比は現在42.6%を占めている。

Apache License 2.0(外部)
x-algorithmが採用するオープンソースライセンス。商用利用や改変、再配布を広く認める代表的なライセンス。

【参考記事】

Phoenix: Recommendation System(phoenix/README.md)(外部)
Phoenixの詳細アーキテクチャを記したリポジトリ内の一次情報。候補分離やツータワーモデルを図解とともに解説する。

Open-source X Recommendation Algorithm(コミット e414c17)(外部)
直近の更新に付された開発者向け注記。Grox、広告モジュール、訓練済み小型Phoenixモデルの同梱などを記録する。

X Algorithm Explained: How the Open Source Recommendation System Works(Ajit Singh)(外部)
公開されたコードを技術者向けに解説。5億件規模の投稿を約1,500件に絞り、200ミリ秒未満でランク付けと説明。

Commission fines X €120 million under the Digital Services Act(European Commission)(外部)
欧州委員会による公式発表。2025年12月、DSAの透明性義務違反としてXに1億2000万ユーロの制裁金を科した一次情報。

Elon Musk Shocks with X’s Open-Sourced Recommendation Algorithm(36Kr)(外部)
公開直後の反響を報じた記事。リポジトリが公開からわずか6時間で1,600のStarを集めたことを伝えている。

X Recommendation Algorithm Gets Major Update — And Goes Open Source(Basenor)(外部)
今回の全面公開を、主要SNSが本番アルゴリズムを非公開とするなかでの異例の動きとして位置づける記事。

Engineering(X公式アカウントの投稿)(外部)
X公式エンジニアリングアカウントによる一次発信。新アルゴリズム公開と4週間ごとの更新方針を表明した投稿。

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【編集部後記】

正直に言うと、私はこのリポジトリを開くまで、自分のタイムラインを少し他人事のように眺めていました。けれど、コードが公開されたいま、「なぜこの投稿が表示されたのか」を自分の手で確かめにいける。それは、技術との距離が一歩縮まったということだと思います。

アルゴリズムは、むやみに怖がるものでも、すべてを委ねきる万能の存在でもありません。読めるものになった今こそ、肩の力を抜いて、フィードの向こう側をのぞいてみませんか。あなたが何かに気づいたら、その話をぜひ聞かせてください。一緒に考えていけたら嬉しいです。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。