Algoage、カスタマーサポートAI「SureSide」提供開始——ナレッジを先に育てて自動化へ移行する新発想

「AIを導入したのに、なぜか現場の仕事が増えた」——カスタマーサポートにAIを入れた企業から聞こえてくる、この逆説的な声は、決して珍しくありません。問題の根は多くの場合、AIそのものの性能ではなく、AIが参照するナレッジの未整備にあります。マニュアル、FAQ、対応履歴が各部署に散らばったまま「とりあえずAIを入れる」と、オペレーターはAIの世話係になり、本来の顧客対応の質は上がりません。DMMのコンタクトセンターで2年以上かけてこの構造問題と向き合ってきたAlgoageが、その知見をプロダクト化しました。


DMMグループのAIスタートアップ、Algoage(本社:東京都文京区、代表取締役:横山勇輝)は2026年5月21日、カスタマーサポート向けAIサービス「SureSide」の提供を開始した。

「SureSide」は、現場のマニュアル・FAQ・対応履歴などを共通のナレッジ基盤に一元集約し、オペレーター支援・テキスト応対・音声応対のすべてのAIが同じ情報を参照して動く設計になっている。まずオペレーター支援からスタートし、ナレッジが蓄積されるにつれて自動応対へと対応範囲を段階的に広げていく仕組みだ。

本サービスは、Algoageが数千万会員規模のDMMカスタマーサポート部に2年以上携わるなかで実証してきたAI活用モデルが土台になっている。DMMの現場では、平均対応時間(AHT)が約3割削減し、過半数のオペレーターがベテランとほぼ同等の対応速度に到達するという成果が確認されている。

From: 文献リンクAlgoage、カスタマーサポートAI「SureSide」提供開始(PR TIMES)

【編集部解説】

カスタマーサポートの現場(業界では一般に「コンタクトセンター」とも呼ばれます)では、2025年が「AIを導入する年」から「AIを基点に業務を再設計する年」へと転換した年だと振り返られています。ただ、この移行は順調ではありません。多くの企業がPoC(概念実証)でつまずく理由は意外なほど単純で、AIに渡すデータが整っていない、というところにあります。

導入が進まない現場には共通した光景があります。マニュアルはある場所に、FAQは別システムに、対応履歴はCRMに——バラバラの知識を整える前にとりあえずAIを稼働させ、的外れな回答が出て、オペレーターはその修正に追われる。これは「AIの精度が低い」のではなく、参照先のナレッジが散乱していれば回答も散乱する、という構造の問題です。

SureSideは、この順序を逆にします。まずオペレーター支援からAIを稼働させ、対応ログをナレッジとして蓄積・整備し、土台が育ってから自動応対へと範囲を広げる。ナレッジは静的なデータベースではなく、AIが「どの情報が有効だったか」を自動検知して改善提案を行う、現場とともに育つ仕組みです。これはRAG(検索拡張生成)の本来の活かし方とも合致します。RAGは自社固有の業務知識をリアルタイムで参照させ、ハルシネーション(誤回答)を抑えながら精度を高める技術ですが、参照先のナレッジが整っていて初めて機能します。「ナレッジ整備が先」という設計は、RAGの前提条件そのものをプロダクトの中核に据えたものと言えます。

Algoageは2018年創業、2020年にDMM.comと資本提携したスタートアップで、SureSideは数千万会員規模のDMMのCS現場で2年以上運用されてきたモデルが土台です。そこで達成された「AHT約3割削減」「過半数のオペレーターがベテランとほぼ同等の対応速度に到達」という数値は、経験年数という属人的な変数を、ナレッジという組織的な資産に置き換えられたことを意味します。新人教育コストの増大というCS現場の慢性的な痛みに、直接効く部分です。

「AIを動かすために人間が働く」という本末転倒は、運用設計が欠けたときに起きます。SureSideは記録作成やCRM入力もAIが担う方向性を描いており、人間の仕事を「顧客対応とAIの結果の判断」に絞ることが目指されています。ただし、DMM一社で証明されたモデルが業種や規模の異なる他現場でも機能するかはまだ問われておらず、ナレッジ整備自体に相応の初期コストがかかる点も見落とせません。それでも、「PoC止まり」が常態化した市場に「整備から始める」という回答を持ち込む意義は小さくないでしょう。

【用語解説】

PoC(概念実証)
Proof of Conceptの略。新しい技術やアイデアが実現可能かどうかを小規模に検証する取り組み。成果が確認できても、本番運用・全社展開に至らない「PoC止まり」がAI導入の課題として広く認識されている。

AHT(平均対応時間)
Average Handle Timeの略。コンタクトセンターの主要KPIのひとつ。顧客との通話時間と、対応後の記録作業(後処理:ACW)を含む一件あたりの平均処理時間。

ACW(後処理時間)
After Call Workの略。通話終了後にオペレーターが行う記録入力・CRM更新などの業務時間。AHTを構成する要素のひとつで、削減対象として注目される。

RAG(検索拡張生成)
Retrieval-Augmented Generationの略。LLM(大規模言語モデル)が回答を生成する際に、事前に自社データベース等から関連情報を検索・参照させる技術。モデルの学習データに含まれない最新情報や社内固有の業務知識を扱えるようになり、ハルシネーション(誤回答)の抑制に有効。

ナレッジマネジメント
組織が持つ知識(マニュアル・FAQ・個人の経験・対応履歴など)を体系的に収集・整理・共有・活用する取り組み。コンタクトセンターでは属人化防止と対応品質の均質化に直結する。

【参考リンク】

SureSide 公式サイト(外部)
Algoageが提供するカスタマーサポートAI「SureSide」の公式サービスサイト。機能詳細や導入に関する問い合わせ窓口を確認できる。

株式会社Algoage コーポレートサイト(外部)
DMMグループのAIスタートアップAlgoageの企業情報。カスタマーサポートAI事業・生成AI事業など手がける事業の詳細を参照できる。

ナレッジマネジメントがもたらす生成AI活用の道筋 — コンタクトセンターの森(外部)
コンタクトセンターにおけるRAGとナレッジ整備の関係性を詳しく解説したレポート。SureSideの設計思想を理解する背景知識として参照できる。

【参考記事】

「PoCで止まる」「現場が使わない」— AI活用が成果につながらない理由|CBA(外部)
コンタクトセンター業界でのAI導入が定着しない構造的な課題を解説したウェビナーレポート。AI時代のKPI変化(応答率→AI解決率)についても言及しており、SureSideが解こうとする問題の背景を理解できる。

2025年のコンタクトセンタートレンド:導入から再設計へ|CBA(外部)
2025年のコンタクトセンター業界を「AI導入の年からAI基点で再設計する年への転換」と総括したトレンド分析。PoCでつまずく要因がデータ未整備にあるという指摘は、SureSideの問題意識と直結する。

ナレッジマネジメントを制するものがAIを制す!RAGが変える生成AI活用の未来|コンタクトセンターの森(外部)
コンタクトセンター業務におけるRAGの必要性と、ナレッジ整備なしにRAGを導入しても効果が出ない理由を業界専門家が解説。

AIナレッジマネジメントとは?RAG・生成AIで暗黙知を形式知に変える方法|renue(外部)
暗黙知(ベテランの経験・対応ノウハウ)を形式知として蓄積・活用するAIナレッジマネジメントの方法論を解説。SureSideの「ナレッジを育てながらAIを展開する」アプローチの技術的背景として参照できる。

【関連記事】

「AIを入れたら、誰がAIの世話をするのか」——これは技術の問題ではなく、組織設計の問題です。ナレッジを最初に整えることで、AIに使われる側ではなく、AIを使う側に回れる。SureSideのアプローチを読んでいると、そんな当たり前のことが、いかに多くの現場で後回しにされてきたかを改めて考えさせられます。カスタマーサポートという、人と人のやりとりが最も凝縮した現場で、AIはどんな役割を果たすべきか。私たちにとっても、まだ答えが出ていない問いです。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。