C&TがAI通訳電話「tel-trans」をホスピタルショウ2026で初公開|Googleマップから母国語で病院に電話、149言語対応

海外旅行先で急に体調を崩したとき、あなたならどうするでしょうか。ホテルのフロントに助けを求める、翻訳アプリで症状を打ち込む——いろいろ思い浮かびますが、意外と見落とされがちなのが「病院に電話をかける」という最初の一手です。予約も、受診の相談も、たいていはそこから始まります。けれど、慣れない言語で電話をかけるのは、対面で話す以上に勇気がいるもの。この、地味だけれど切実な壁に、群馬発の小さな会社がAIで挑もうとしています。しかも入口は、私たちが普段何気なく使っているGoogleマップ。重たい医療というテーマと、日常のアプリ操作が交わる場所に、いま何が生まれつつあるのか。少し立ち止まって、のぞいてみたいと思います。


株式会社C&T(本社・群馬県前橋市、代表取締役・瀧澤清美)は、2026年7月8日から10日に東京ビッグサイトで開催される国際モダンホスピタルショウ2026へ出展し、AI通訳電話システム「tel-trans」と医療機関向けの「tel-trans QR」を展示・実演する。ブース番号は165である。

tel-transはGoogleマップから病院を検索し「共有」で選択すると、電話番号を自動取得して利用者の母国語でAI通訳電話を開始でき、149言語に対応する。tel-trans QRは受付に掲示されたQRコードをスマートフォンで読み取る方式で、アプリと会員登録が不要、149言語対応、24時間受付に対応する。プレスリリースは2026年7月6日に配信された。

From: 文献リンクGoogleマップから母国語で病院へ電話できるAI通訳電話「tel-trans」を初公開

【編集部解説】

まず押さえておきたいのは、この発表が「展示会への出展」という体裁をとりながら、実は医療現場の言語対応で最も手つかずだった領域に踏み込んでいる点です。

これまで医療通訳の議論は、診察室での「対面のやりとり」をどう支えるかに集中してきました。厚生労働省も医療通訳者の配置や院内表示の多言語化を軸に体制整備を進めてきた経緯があります。ところがtel-transが照準を合わせているのは、その一歩手前――患者が病院に「電話をかける」段階です。

診療予約や受診相談は、多くの場合まず電話から始まります。しかし外国人にとって、日本語で電話をかける行為そのものが高いハードルになっていました。対面通訳がどれだけ充実しても、そもそも「電話がつながらなければ受診にたどり着けない」という空白地帯が残っていたわけです。今回のニュースは、この見過ごされてきた入口を埋めにきた、と読み解けます。

技術的にユニークなのは、翻訳精度よりもむしろ「導線」の設計思想でしょう。C&Tの発表によれば、Googleマップで病院を探し、「共有」から呼び出すだけでAI通訳電話を始められるとされています。専用アプリのインストールを求めず、利用者が今いる場所からそのまま起動させる。これは翻訳技術の新規性というより、流通(ディストリビューション)の工夫として注目に値します。(なお、Google公式サービスとしての連携かどうかは同社発表からは確認できないため、あくまで同社の説明にもとづく特徴です。)

なぜ今このニュースを取り上げるのか。背景には、無視できない数字の変化があります。2025年の訪日外国人旅行者数は4268万3600人となり、初めて4000万人を突破しました。前年比15.8%増で過去最高を更新しています。政府は2030年に6000万人という目標を掲げており、来訪者が増えれば、当然ながら医療機関にかかる外国人も増えていきます。

一方で、受け入れ側の体制は追いついていません。とりわけ利用者の少ない希少言語については、費用対効果の面から医療機関が通訳事業者と常時契約するのは難しく、通訳者の確保にも課題があると指摘されています。149言語対応をうたうAI通訳が、この「人的リソースでは埋めきれない隙間」の補完策となりうるかどうか――その実効性は、今後の導入と検証を待つ必要があります。

規制の側から見ると、追い風といえる整理もあります。2015年には、外国人患者向けの電話通訳サービスが医師法・医療法に抵触しないと国(経済産業省・厚生労働省)がグレーゾーン解消制度で整理しました。ただしこの整理の対象は照会された具体的な電話通訳サービスであり、AIが介在する場合の責任や品質保証、医療安全上の扱いまでを保証するものではありません。電話通訳という枠組み自体には法的な土台があるものの、AI特有の論点は別に残されている、と見るのが正確でしょう。

ただし、手放しで歓迎するには慎重さも必要です。医療の現場では、一つの誤訳が診断や処置を左右しかねません。「予約」レベルの会話であればリスクは限定的ですが、症状の説明や救急相談にAI通訳が踏み込むほど、正確性の担保が重くのしかかります。149言語という数字は魅力的ですが、言語ごとに精度は一様ではないはずで、どの言語でどこまで信頼できるのかは、今後検証されるべき論点です。

責任の所在も曖昧なままです。人間の医療通訳者であれば誤訳の責任を追える一方、AIが介在した場合に誰がどこまで負うのか。この問いは、AI通訳が医療の入口を超えて診療そのものに入り込むほど、避けて通れなくなるでしょう。

もう一点、見落とせないのは発信元です。C&Tは群馬県前橋市の未上場企業で、資本金525万円という小規模な会社です。同社の翻訳技術は、もともと外国人患者が言語の問題なく医療を受けられるよう群馬大学医学部附属病院で研究開発され、それをインバウンド向けに転用したものだとされています。政府事業や大手が並ぶこの領域で、地方の研究発の小さな企業が独自の切り口を提示している構図は、それ自体が示唆に富みます。

長期的に見れば、tel-transのようなサービスは「言葉が通じないから助けを呼べない」という状況を、技術で解消しようとする試みの一つです。代表の瀧澤氏が語る「助けを呼べない人をなくしたい」という原点は、インバウンド対応という商機を超えて、災害時の情報保障や聴覚・言語に障害のある人の支援ともつながっていく可能性を秘めています。医療の入口をどう開くか――この小さな一歩が、その後の大きな設計思想を映しているように思えてなりません。

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アプリ不要で既存ツールに差し込む設計思想が、tel-transの導線と重なり合う一本だ。

【編集部後記】

このニュースを追いかけながら、ずっと頭を離れなかったのは「助けを呼べる」という、言葉にすると当たり前すぎることの重さでした。

健康なときは、電話一本かけることの難しさなんて、まず意識しません。でも、体調が悪くて心細くて、しかも言葉が通じない土地にいたら——その一本が、途方もなく遠く感じられるはずです。私自身、旅先で軽い不調を経験したことがありますが、たかが問い合わせ一つに、妙に身構えてしまった記憶があります。あの心細さを思うと、tel-transが埋めようとしている隙間は、決して小さくないと感じます。

同時に、手放しで「便利になった」と喜ぶには早い、という気持ちもあります。予約の電話なら誤訳のリスクは限られますが、症状を伝える場面まで踏み込めば、話は変わってきます。一つの取り違えが、診断や処置を左右しかねない。149の言語すべてで同じ精度が出るのか、うまくいかなかったとき誰が責任を持つのか——このあたりは、これから丁寧に確かめられていくべきところでしょう。期待とためらいは、たぶん両立させたまま持っておくのがちょうどいいのだと思います。

それでも、と最後に思うのです。「言葉が通じないから助けを呼べない」という状況を、少しでも減らそうとする発想そのものに、私は素直に励まされました。この技術がやがて、旅行者だけでなく、災害のときに情報が届きにくい人や、声を出しにくい人のところにも届くようになったら——そんな想像をすると、電話一本の話が、ずいぶん先まで地続きに見えてきます。

未来の技術は、派手な発表の陰で、こういう「当たり前を取り戻す」ような静かな一歩から動き出すのかもしれません。その歩幅を、これからもみなさんと一緒に確かめていけたらと思います。


【用語解説】

医療通訳(対面通訳)
医療現場で患者と医療者の会話を橋渡しする通訳のことである。従来は診察室での対面対応が中心で、症状や説明の機微を正確に伝える高い専門性が求められる。tel-transはこの手前の「電話」段階を補う位置づけだ。

希少言語
訪日・在留外国人のうち、話者数が少ない言語を指す。需要が読みにくく通訳者の確保や事業者との常時契約が難しいため、公的な遠隔通訳サービスで補われている領域である。

インバウンド
訪日外国人旅行や、それにともなう需要・市場を指す語である。近年は過去最高水準で推移しており、医療を含む幅広い受け入れ体制の整備が課題となっている。

医師法・医療法
医療行為や医療機関の運営を定める基本的な法律である。2015年、外国人患者向けの電話通訳サービスが医師法・医療法に抵触しないと国(経済産業省・厚生労働省)がグレーゾーン解消制度で整理した。ただし整理の対象は照会された具体的なサービスであり、AIが介在する場合の責任や品質保証まで及ぶものではない。

群馬大学医学部附属病院
群馬県前橋市にある大学病院である。C&Tの翻訳技術は、外国人患者が言語の問題なく医療を受けられるよう、同院での研究として生まれた経緯を持つ。

【参考リンク】

株式会社C&T 公式サイト(外部) 「多言語対応自動音声翻訳システム」を開発する群馬県前橋市の企業の公式サイト。tel-transやself transを手がける。

国際モダンホスピタルショウ2026 公式サイト(外部) 日本病院会と日本経営協会が主催する国内最大規模の医療・福祉総合展示会の公式サイト。2026年7月に開催される。

Googleマップ(外部) Googleが提供する地図・ローカル検索サービス。「共有」機能がtel-transの電話発信の起点として使われている。

【参考記事】

2025年の訪日客数4268万人、前年比15.8%増で過去最高を更新(やまとごころ.jp)(外部) 2025年の訪日客数が4268万3600人と初の4000万人超え、前年比15.8%増と報じた記事。

訪日4000万人、新たな時代到来 2025年推計値は過去最高の4268万人(観光経済新聞)(外部) 訪日客4268万人と消費額9兆4559億円、政府の2030年6000万人目標に触れた記事。

訪日外客数(2025年12月推計値)(JNTO)(外部) 2025年の訪日外客数を42,683,600人とする政府の一次統計。年間過去最高を更新した。

希少言語に対応した遠隔通訳サービスのご案内(厚生労働省)(外部) 希少言語は通訳者確保が難しく、国が遠隔通訳サービスを実施していると示す公的資料。

外国人患者受け入れ医療機関の2割弱で未収金発生(GemMed)(外部) 電話通訳が医師法・医療法に抵触しないとの整理や、通訳費請求2.2%の実態を扱う記事。

外国人医療の現場で起きていること(nippon.com)(外部) 外国人患者の増加に医療現場が苦慮する実態を、現場の医師が解説する記事。

C&Tのself transがG7群馬高崎デジタル・技術大臣会合の応援事業に採用(共同通信PRワイヤー)(外部) C&Tの技術が群馬大学病院発で、self transがG7応援事業に採用されたと伝える発表。

グレーゾーン解消制度の照会に対する回答(経済産業省・厚生労働省/2015年)(外部) 外国人患者向け電話通訳が医師法・医療法に抵触しないと国が回答した一次資料。

観光立国推進基本計画(観光庁)(外部)
政府が2030年に訪日外国人6000万人という目標を掲げていることを示す一次資料。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。