GoogleはChatGPT以前に対話AIを持っていた?|検索事業と安全性が阻んだ公開判断

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生成AI競争で先行するには、優れたモデルを開発するだけでは足りません。Googleは技術を持ちながら、検索事業への影響と安全性への懸念から公開をためらったのでしょうか。その判断が何を生み、何を失わせたのかを考えます。


元Google社員で、2024年にOpenAIへ入社したティボー・ソティオ氏は、GoogleがChatGPT公開の約1年前に「LMChat」と呼ばれる類似の社内チャットボットを開発していたと主張した。

同氏によれば、Googleは検索事業への影響を懸念して公開を見送ったという。ただし、この証言はGoogleから公式確認されていない。Googleは2017年にTransformerアーキテクチャを提案した論文を発表し、Meena、LaMDA、PaLMを開発したが、OpenAIが2022年11月にChatGPTを公開するまで、同種の消費者向けサービスを広く提供しなかった。

From: 文献リンクOpenAI employee reveals Google had ‘ChatGPT’ before OpenAI — and why it stayed on the shelf

【編集部解説】

今回の報道で最初に区別しておく必要があるのは、確認されている事実と、元社員による証言です。Moneycontrolによると、元Google社員で現在OpenAIに所属するティボー・ソティオ氏は、Google社内にChatGPT以前から「LMChat」と呼ばれる対話型AIがあり、検索事業への影響を懸念して公開されなかったと主張しました。しかし、LMChatの能力や公開されなかった理由について、Googleは公式に確認していません。したがって、「Googleが完成済みのChatGPTを保有していた」と断定することはできません。

一方、GoogleがChatGPT以前から高度な対話型AIを開発していたこと自体は、公式資料から確認できます。Googleが2022年に公表したLaMDAの研究では、最大1370億パラメータの対話特化型言語モデルが開発されていました。ただし、同研究は、モデルを大規模化するだけでは回答の安全性や事実への裏付けが十分には改善されないとも説明しています。外部情報源の参照や、人間が付与したデータによる調整が必要だとされており、この研究結果からは、一般公開に慎重になる技術的理由があったことも読み取れます。

そのため、Googleが生成AIを公開しなかった理由を、検索広告を守るためだけだったと捉えるのは適切ではありません。誤った情報を自然な文章で回答する問題や、有害な回答を生成する問題は、Google自身がLaMDAの研究段階から認識していました。世界規模の検索サービスを運営するGoogleには、一般公開前のAI企業とは異なる責任が伴います。

ただし、ソティオ氏の証言が事実であれば、Googleにはもう一つの問題があったことになります。従来型検索がウェブページや抜粋への導線を中心としていたのに対し、生成AIは一つの回答文を組み立てます。これは単なる検索機能の追加ではなく、利用者が情報へ到達する経路そのものを変える可能性があります。

自社の主要サービスと競合する可能性のある製品を、自社で先に公開できるかという判断は、既存事業を持つ企業ほど難しくなります。新しい製品が成功しても、従来の製品の利用方法や収益構造を壊す可能性があるためです。Googleが検索事業への影響を理由に公開をためらったという部分は未確認ですが、既存事業を持つ企業が新技術の導入で直面しやすい構造的な問題としては理解できます。ここは報道内容を踏まえた編集部の分析です。

では、Googleの慎重姿勢は失敗だったのでしょうか。市場投入の時期という観点では、Googleが先行者として認識される機会を逃したと編集部は考えます。OpenAIがChatGPTを一般公開したことで、利用者が対話型AIを実際に使い、その用途や問題点を発見する過程が始まりました。技術を社内で保有しているだけでは得られない大量の利用例とフィードバックが蓄積され、「生成AIチャット」という製品分野そのものがChatGPTを中心に認識されるようになりました。

GoogleがBardを発表したのは2023年2月です。Googleは当初、Bardを信頼できるテスターに限定して提供し、計算量を抑えたLaMDAモデルを使って外部からのフィードバックを集める方針を示しました。品質、安全性、事実への裏付けを確認しながら段階的に公開する方法であり、Googleが技術を持っていなかったのではなく、公開方法に慎重だったことが分かります。

Googleは同年5月、生成AIと大規模言語モデルには既知の制限があるとし、検索の品質基準を維持しながら慎重に導入すると説明しました。生成AIによる検索体験を直ちに全面展開せず、まず実験環境のSearch Labsで提供したことも、その方針を反映しています。

この点を考えると、Googleの慎重姿勢をすべて失策と断定することはできません。Googleが懸念していた安全性や事実性の問題は、生成AIが普及した現在も完全には解決されていないからです。一方で、問題がなくなるまで公開を待つという判断では、利用者からのフィードバックを得られず、市場の使い方や評価基準を競合企業に決められてしまいます。

Googleの事例から読み取れるのは、研究開発で先行することと、市場を主導することは同じではないという点です。既存事業を守ることと、安全性を確保することは重要ですが、その両方を理由に公開を遅らせ続ければ、新しい市場での主導権を失います。

段階的な試験提供、明確な注意表示、回答の確認機能、既存サービスから独立した実験環境など、危険を抑えながら実社会で検証する方法も選択肢になります。Googleが後にBardやSearch Labsで採用した段階的な公開方法を、ChatGPT以前に実行できていたかどうかが、この問題の核心といえます。

【関連記事】

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【編集部後記】

GoogleがChatGPT以前から高度な対話型AIを研究していた可能性を知ると、やはり技術力の高さに驚かされます。表に出る製品だけを見ていると後発に見えても、研究開発では常に一歩先を進んでいたのでしょう。
安全性や既存事業との関係を慎重に考えていた点も、Googleらしい判断だと感じます。
結果的に公開のタイミングではOpenAIに先を越されましたが、技術の蓄積そのものは圧倒的です。
現在のGeminiや検索へのAI統合を見ると、その研究が着実につながっていることも分かります。
改めて、Googleという企業の研究力と先を読む力はすごいと感じました。


【用語解説】

Transformer
文章内の単語同士の関係を「Attention」と呼ばれる仕組みで処理するニューラルネットワークの構造。Googleの研究者らが2017年に発表し、その後の大規模言語モデルの基盤となった。

大規模言語モデル(LLM)
大量のデータから言葉の関係やパターンを学習し、文脈に応じて次の語を予測しながら文章を生成するAIモデル。

LaMDA
Googleが開発した対話向け言語モデル群。最大1370億パラメータのモデルが研究されていたが、規模を拡大するだけでは安全性や事実への裏付けが十分に改善されないことも報告されていた。

ハルシネーション
生成AIが、事実ではない内容をもっともらしい文章として出力する現象。Googleも生成AIによる検索には既知の制限があり、常に正しい回答を生成するとは限らないと説明している。

カニバリゼーション
新しい製品やサービスが、自社の既存製品の利用者や売上を奪うこと。今回の報道では、AIチャットボットがGoogle検索の利用方法や収益構造に影響する可能性が論点となっている。

Search Labs
Googleが検索に関する実験的な機能を限定的に提供し、利用者からフィードバックを集めるための仕組み。生成AIを使った検索体験も、最初はSearch Labsを通じて試験提供された。

【参考リンク】

Google Gemini(外部)
Googleが提供する生成AIアシスタント。文章作成、計画、情報整理、アイデア出しなどに利用できる。

Google DeepMind(外部)
GoogleのAI研究開発組織。GeminiをはじめとするAIモデル、科学研究、安全性に関する成果を公開している。

OpenAI(外部)
ChatGPTを開発するAI企業。生成AIモデル、開発者向けAPI、安全性研究などの情報を掲載している。

【参考動画】

【参考記事】

LaMDA: Language Models for Dialog Applications|Google Research(外部)
Googleの対話型言語モデルLaMDAの構造、規模、安全性、事実への裏付けに関する研究内容を掲載。

LaMDA: Towards Safe, Grounded, and High-Quality Dialog Models|Google Research(外部)
LaMDAの安全性や回答の根拠を改善するために、Googleが採用した評価・調整方法を解説。

An important next step on our AI journey|Google(外部)
Bardを信頼できるテスターへ先行提供し、外部からのフィードバックを集める方針を発表した公式記事。

Supercharging Search with generative AI|Google(外部)
Google検索へ生成AIを導入する目的と、Search Labsから段階的に試験する方針を説明した公式記事。

Introducing ChatGPT|OpenAI(外部)
ChatGPTを研究プレビューとして一般公開し、利用者から能力と弱点に関するフィードバックを集める方針を示した発表。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。

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