OLEDモニターの競争は、解像度やリフレッシュレートだけでなく、製造方法にも広がり始めました。TCL CSOTとMSIの新製品は、インクジェット印刷方式OLEDが本格的なPCモニターへ進む現在地を示しています。
TCL CSOTとMSIはChinaJoy 2026で、27インチ、4K、120Hzのインクジェット印刷方式OLEDモニター「PRO MAX OLED 271UPJW12」を共同公開した。164PPI、DCI-P3 99%、Delta E 2以下、最大1,000ニト、VESA DisplayHDR True Black 500に対応する。
MSI OLED Auto Care Technology、KVM、PIP・PBP、USB-C給電15Wも備える。価格、発売時期、販売地域は元記事で示されていない。
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TCL CSOT and MSI introduce world’s first 27″ 4K 120Hz inkjet-printed OLED monitor
【編集部解説】
今回の発表で注目したいのは、「世界初」という肩書きだけではありません。研究・展示されてきたIJP OLEDが、MSIブランドの具体的な27インチPCモニターとして発表されたことです。
TCL CSOTは2013年からIJP OLEDの開発を進め、2024年には小規模量産へ移行する方針を示しました。2025年には、21.6インチ・4Kのプロフェッショナル向けIJP OLEDディスプレイを最初の量産製品として紹介しています。今回の「PRO MAX OLED 271UPJW12」は、その技術を27インチ・4K・120Hzのデスクトップモニター構成へ広げた製品と位置づけられます。
一般的なOLEDの製造では、FMMと呼ばれる微細な金属製マスクを使って発光材料を配置する方式があります。一方、IJP OLEDは高精度な印刷技術で材料を配置し、FMMの設計、製造、交換を不要にすることを目指した方式です。TCL CSOTは、製造工程で必要となる真空装置を減らせるほか、異なるサイズや解像度のパネルを同じ基板上で作りやすくなると説明しています。
同社の発表によれば、IJP OLEDの材料利用効率は90%を超え、FMM方式と比較した単位コストを約30%削減できるとされています。ただし、これらはTCL CSOTが2024年に公表した自社評価であり、今回のMSI製モニターの実売価格が従来のOLEDモニターより安くなることを直接示すものではありません。製造コストの低下が販売価格に反映されるかは、生産量、歩留まり、製品保証、流通コストなどにも左右されます。
PCモニターへの採用では、製造コストだけでなく文字表示も重要です。PRO MAX OLED 271UPJW12は、一般的な液晶ディスプレイに近い規則的なRGBストライプ配列を採用し、文字周辺の色にじみを抑える設計です。27インチ・4Kの164PPI、DCI-P3色域99%、Delta E 2以下という仕様も、映像鑑賞だけでなく文書作業やコンテンツ制作を意識した構成といえます。
さらにMSIは、OLEDの焼き付きや劣化を抑える補正処理をバックグラウンドで実行する「MSI OLED Auto Care Technology」を搭載しています。従来の保護機能のように、利用中の作業を中断して定期メンテナンスを行う方式ではなく、Data Counting Compensationによる補正をリアルタイムで行うと説明しています。長時間固定表示が生じやすい業務用途でも利点があると考えられます。
一方で、現時点では価格、発売日、販売地域、日本での展開が公表されていません。USB-C給電も15Wにとどまるため、USB-C経由で一般的なノートPCを充電しながら使う用途には制約があります。
今回の製品は、IJP OLEDがPCモニター市場をすぐに置き換えることを意味するものではありません。しかし、パネルメーカーの技術展示にとどまっていた新しい製造方式が、MSIの周辺機能や保護機能を備えた具体的な製品として示された点には意味があります。今後の評価を左右するのは「世界初」という名称ではなく、発売価格、量産規模、焼き付き保証、実際の表示品質です。
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【編集部後記】
インクジェットのように材料を印刷して、OLEDディスプレイを製造できることに驚きました。ディスプレイは精密な部品を組み立てて作るもの、という印象が強かっただけに新鮮です。
印刷技術が進化することで、製造コストやパネルサイズの自由度も変わっていくのかもしれません。
今回の製品が実際にどのような画質を見せるのか、非常に気になります。
将来的に印刷OLEDが身近な選択肢になるのか、今後の展開にも注目したいです。
【用語解説】
IJP OLED(インクジェット印刷方式OLED)
発光材料をインクのように基板上へ塗布して形成するOLEDの製造方式。TCL CSOTは、材料利用効率の向上や、異なるサイズのパネルを柔軟に生産できる点を特徴として挙げている。
FMM(Fine Metal Mask)
OLEDの発光材料を配置するために使われる微細な金属製マスク。一般的なOLED製造方式の一つで、画素ごとに材料を蒸着する際に使用される。
RGBストライプ配列
赤・緑・青のサブピクセルを規則的に並べる画素構造。PRO MAX OLED 271UPJW12では、文字や細い線の周辺に発生する色のにじみを抑える目的で採用されている。
PPI(Pixels Per Inch)
1インチあたりに並ぶ画素数を示す単位。数値が高いほど、同じ表示サイズでも文字や画像を細かく表示できる。PRO MAX OLED 271UPJW12は164PPI。
DCI-P3
映画制作などで使用される色域規格。対応率が高いほど、規格内の広い範囲の色を表示できる。PRO MAX OLED 271UPJW12はDCI-P3を99%カバーするとされている。
Delta E
基準となる色と、ディスプレイに表示された色との差を数値化した指標。一般に数値が小さいほど色の差が少ない。PRO MAX OLED 271UPJW12はDelta E 2以下とされている。
VESA DisplayHDR True Black 500
VESAがOLEDなどの自発光ディスプレイ向けに策定したHDR性能認証。黒の表示、色域、ビット深度、輝度などに関する基準が設けられている。
KVMスイッチ
1組のキーボード、ディスプレイ、マウスを複数のPCで切り替えて使用するための機能。
PIP/PBP
PIPはメイン画面内に別の入力映像を小さく表示する機能。PBPは複数の入力映像を画面内に並べて表示する機能。
【参考リンク】
MSI公式サイト(外部)
PC、モニター、ゲーミング機器などを展開するMSIの公式サイト。製品情報、サポート情報、ニュースリリースを掲載。
TCL CSOT公式サイト(外部)
TCLグループでディスプレイパネル事業を担うTCL CSOTの公式サイト。IJP OLEDを含むパネル技術や展示会発表を掲載。
VESA公式サイト(外部)
映像・ディスプレイ関連規格を策定する業界団体の公式サイト。DisplayHDRやDisplayHDR True Blackなどの規格情報を確認できる。
【参考記事】
MSI Unveils the PRO MAX OLED 271UPJW12: The World’s First 27-Inch 4K 120Hz IJP OLED Monitor|MSI(外部)
PRO MAX OLED 271UPJW12の公式発表。解像度、リフレッシュレート、RGBストライプ、色再現、焼き付き対策、接続機能などを掲載。
TCL CSOT Celebrate its 15th Anniversary and Unveils the Future of Display Technology|TCL CSOT(外部)
IJP OLEDの製造方法と特徴を説明した公式発表。材料利用効率90%超やFMM方式比での単位コスト削減に関する同社評価を掲載。
TCL CSOT Highlights APEX Display Technology to Redefine Visual Experiences at MWC 2025|TCL CSOT(外部)
TCL CSOTが量産製品として紹介した21.6インチ・4K IJP OLEDプロフェッショナルディスプレイの仕様やRGB画素配列を掲載。
VESA Introduces DisplayHDR True Black High Dynamic Range Standard|VESA(外部)
OLEDなどの自発光ディスプレイを対象とするDisplayHDR True Black規格と、True Black 500の追加について説明した公式発表。


















