全精度なら55GBを超えるモデルを、4ビットに畳んで20GB未満に収める。Metaが8月10日に公開したMuse Glimmerは、その工夫を重みごとApache 2.0で配りました。ただし同じモデルカードには、間接プロンプトインジェクションの攻撃成功率28.4%という数字も並んでいます。
Metaは2026年8月10日、Meta Superintelligence Labsによる300億パラメータのモデル「Muse Glimmer」を公開し、重みをApache 2.0ライセンスでHugging Faceに掲載した。常時稼働するローカルエージェント向けに最適化され、コンシューマGPU1基のMacやPCで動作する。
上位モデルMuse Sparkの出力を用いたロジット蒸留で訓練し、事後学習では教師ありファインチューニング、オンポリシー蒸留、強化学習を組み合わせた。約4ビット精度への量子化で言語モデル部を20GB未満に収め、DFlashを基にしたドラフタによる投機的デコーディングで、RTX 5090では3.1倍、M5 Maxでは1.8倍、M4 Maxでは1.5倍に生成速度が向上した。
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Introducing Muse Glimmer: An Open Agentic Model That Runs on Your Device
【編集部解説】
「エージェントに強い」の中身を分ける
発表文はベンチマークについて「このサイズ帯として強い性能を示す」とだけ述べています。Metaは同時に、24のベンチマークの実数値を載せたモデルカードと、7ページの評価手法レポートを公開しました。
安全性を除く22のベンチマークで首位に立った回数は、Muse Glimmerが12、Qwen3.6-27Bが8、Gemma4-31Bが2です。しかし内訳を見ると、エージェント系12項目では7、非エージェント系10項目では5。首位数だけから「エージェント専用型」と呼べる分布ではありません。首位率がいちばん高いのは、AIME 2026やAA-LCRを含む汎用能力・推論の6項目中4項目です。
さらに重要なのは、同じ「エージェント」の中でも課題によって結果が大きく違うことです。20以上のMCPツールサーバーを呼び分けるMCP-Atlasでは、Muse Glimmerが75.5対62.5でQwen3.6-27Bを上回ります。環境のアプリAPIへツール呼び出しを発行していくGaia2でも、43.3対40.0で先行します。
一方、スクリーンショットを見ながらGUIだけを操作するOSWorld-Verifiedでは65.9対75.6、実際の端末環境で作業するTerminal-Bench 2.1では51.7対60.7と、Qwen3.6-27Bが上回ります。OSWorld-Verifiedについては、両モデルが同じClaude computer-useアクション空間で測定されています。
ただし、この4項目から「構造化されたツールには強く、GUIや端末には弱い」と一般化することはできません。browser、shell、ファイルシステム、メール、カレンダーを併用するWildClawBenchではMuse Glimmerが上回り、bashやbrowserを使うSkillsBenchでは下回ります。bashとファイル操作を使うSWE-Bench Proでは上回る。インターフェースの形態だけでは、勝敗が分かれていません。
むしろこの表が示しているのは、「エージェント性能」という一つの数字では導入の判断ができない、ということです。MCPやAPI経由でツールを呼ばせるのか、画面を見せて操作させるのか、端末で作業させるのか。実際に使わせる形に近い評価を、個別に見るしかありません。
表の作られ方
評価手法レポートによれば、第三者モデルについては自己申告値とMetaによる再現値のうち、そのモデルに有利な値が採用されています。また3モデルすべてについてArtificial Analysisの値がある場合は同社の値を使う方針で、24のうち8件がこれに該当します。
一方、Muse GlimmerはHigh Reasoning、比較2機種はThinking Modeで測定されており、これらが同等の推論条件であるという説明はありません。サンプリング設定もモデルごとに異なりますが、GemmaとQwenについてはMetaが各モデルの推奨設定に従ったと説明しています。さらに第三者モデルのエージェント評価について、ツールやシステムプロンプトが各モデル向けに最適化されておらず最高性能を反映しない可能性がある、とMeta自身が留保を置いています。評価器にMeta製モデルは並んでおらず、LLM判定を用いる評価ではGemini 2.5 Pro、gpt-oss-120b、GPT-5.4、Claude 4.6 Sonnetが採点役を務め、Siren AgentDojoではClaude Opus 4.6が攻撃役を担っています。
速さを稼いだのは、モデルではなく周辺の設計
このリリースで技術的に面白いのは、モデル本体よりもそれを端末で動かすための仕掛けが一式そろって出てきたことです。
Metaはローカルハードウェアのメモリ制約を前提に、言語モデル部を20GB未満へ量子化し、KVキャッシュ、画像理解のための知覚エンコーダ、投機的デコーディングのドラフタを24GBまたは32GBの枠内に収めています。全精度であれば55GBを超えるモデルです。
そのドラフタが「DFlash」です。通常のモデルは1トークンずつ生成しますが、DFlashは16トークンのブロックをまとめて予測し、本体がそれを並列に検証して採否を決めます。RTX 5090で3.1倍、M5 Maxで1.8倍、M4 Maxで1.5倍。ただしM4/M5はExecuTorch、RTX 5090はllama.cppで測定されているため、3機種の向上率の差をハードウェアだけに帰することはできません。Metaはその差の原因を分析していません。いずれもバッチサイズ1・貪欲デコードという条件です。
圧縮による劣化についても、発表文は「最小もしくは無い」と書きますが、モデルカードは数値化しています。32GB向けで0.2%、24GB向けで1.0%。15種のベンチマークにおける精度指標の平均値です。「無い」ではなく「1%」と書いてある方を採るべきでしょう。
Muse系列で初めて重みが公開された
時系列を並べると、この発表の位置づけが見えてきます。
2026年4月、MSLは最初のモデルとしてMuse Sparkを発表しました。Llamaシリーズの後継にあたる新系列でしたが、重みの公開は行われませんでした。7月のMuse Imageも同様です。8月5日にはMuse CodeとMuse Spark 1.2が公開されましたが、Spark 1.2はMuse CodeとMeta Model API経由での提供であり、重み公開ではありませんでした。
そして8月10日、Muse GlimmerがApache 2.0で公開されます。Llama系列が独自ライセンスで公開されてきたのとは異なる選択です。ただしApache 2.0でのモデル公開自体がMetaにとって初めてというわけではなく、2024年のSAM 2ではコードと重みがApache 2.0で公開されています。Muse系列においては初、というのが正確な位置づけです。
公開されているのは重み、ドラフタ、知覚エンコーダで、Meta自身もMuse Glimmerを「open weights」と表現しています。OSIのOpen Source AI Definitionは生の訓練データそのものの公開までは求めませんが、学習・実行コードと十分に詳細なデータ情報を要求します。重みのライセンスだけでは、Open Source AIかどうかは決まりません。再現できるのか、改変できるのか、どこで使えるのか。「オープン」という語だけでは答えが出ないという事情は、MiniMax H3が地域限定で公開されたケースと並べて考えると分かりやすくなります。
同日に公開された書簡との距離
同じ8月10日、マーク・ザッカーバーグ氏は「The Future is for Everyone」と題した書簡を公開しました。個人のエンパワーメント、自動化ではなく発明、力の均衡という3本柱を掲げ、オープンソースを中央集権への防波堤として位置づける内容です。
ただしこの書簡にMuse Glimmerという固有名詞は一度も登場しません。「MSLが本格稼働したので、近くオープンソースモデルの公開を再開する」と述べるにとどまります。両者を結びつけているのは、日付の一致と報道の解釈です。
とはいえ、書簡の一節はこのモデルの評価軸に直接触れています。ザッカーバーグ氏は、多くのラボがアライメントを「中央集権的な価値観を強制するための防御措置」と捉えていると批判し、Metaの立場を「エージェントを合わせるべき相手は自社の価値観ではなく、その人の目標と価値観だ」と定義します。そのうえで、「人々はエージェントを信頼できなければ、機微な情報や作業を任せない」と書いています。
リスクと留保①:個人の目標に忠実であることと、外部からの指示に抵抗できることは別の能力です
発表文は冒頭近くで、予定を管理しメッセージを下書きしファイルを整理するエージェントには「個人的な文脈への深いアクセスが要る」と述べています。ローカル実行の利点は、まさにその文脈を端末の外に出さずに済むことです。
一方でモデルカードは、間接プロンプトインジェクションを測るSiren AgentDojoで攻撃成功率28.4%、プライバシーの文脈整合性を測るCI Memoriesで違反率26.4%という数字を載せています(表では%記号が付されていませんが、評価手法レポートはいずれも「率」と説明しています)。前者はGemma4-31Bの25.6%より高く、後者はGemma4-31Bの12.1%の倍以上です。同じ表でMuse Glimmerは有用性94.2と3機種で最高を記録しており、役に立つ度合いが高いことと、外から紛れ込んだ指示を弾ける度合いが高いことは、この表では一致していません。
これはMetaの落ち度ではありません。比較表の中に並べて公表しています。むしろ、ローカルで個人データを扱うエージェントを導入する側が、最初に見るべき数字がここにあります。
Metaはモデルカードで、このモデルを単体の終端として使わず、システム全体のガードレールと組み合わせて配備することを強く推奨しています。取り消しのきかない操作については、人間による確認を挟む仕組みを入れるようにとも書いています。メールの送信、ファイルの削除、決済。「エージェントに任せる」の中身を切り分けておく必要があります。
リスクと留保②:日本語での性能は、個別には示されていません
「100言語超のデータで訓練」という記述は発表文にもモデルカードにもあります。しかしモデルカードの制約事項には、事前学習データに含まれる全言語で評価したわけではなく、強くサポートされている言語の集合から外れると性能が劣化しうると明記されています。その集合に日本語が含まれるかどうかは公表されていません。
Metaが公開した比較表にも、日本語での性能を個別に示したスコアはありません。日本語でのエージェント運用を検討するなら、手元のタスクで自分で測るしかないというのが現時点の答えになります。無償で重みが手に入ることの実務的な価値は、まさにそこにあります。
リスクと留保③:公表されていないこと
重みは無償ですが、量子化版でも24GBまたは32GBをターゲットとするため、導入の可否は手元のGPUや統合メモリの構成に左右されます。
音声の入出力は非対応です。動画も専用の最適化はなく、フレームごとに処理されます。18歳未満による利用は想定されていないとモデルカードに明記されており、未成年が触れうるシステムに組み込む場合の責任は、配備する側にあると書かれています。
Muse Spark 1.2のオープンウェイト版については、書簡本文には時期も名称も書かれていません。「近く」という報道が先行している状態です。
何が変わったのか
これまで、多くの基盤モデルの導入はクラウド基盤とネットワーク接続に依存してきました。Muse Glimmerは、その前提に対して「30Bを4ビットに畳んで、投機的デコーディングで速度を稼げば、手元で回る」という具体的な回答を出しました。しかも重みごとApache 2.0で置いていきました。
エージェントが常時動く場所が、データセンターから机の上へ移りうる。技術的な選択肢としては、それが今回の中身です。
同時に、その選択肢を取ることの意味も明らかになりました。文脈を端末内に置けば、個人データをクラウドへ送る必要を減らし、その経路に伴うリスクを抑えられます。ただし外部ツールやネットワークを使う構成では、別途の管理が要ります。そしてエージェントが外部から注入された指示にどう反応するかという問題は、手元に移ったからといって消えません。むしろ、守ってくれる事業者がいなくなる分だけ、設計する側の責任として立ち上がってきます。
書簡が「力の均衡」を掲げるなら、力を受け取る側にも準備が要ります。今回のリリースは、その準備をするための材料を、留保も含めて一式そろえて出してきた点で評価できます。
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【編集部後記】
モデルカードの仕様表を下までたどると、知識カットオフは2026年1月4日と書かれています。常時稼働をうたうモデルの中身が、半年以上前で止まっている。
ネットワークなしで動くことが売りである以上、これは欠陥ではなく設計上の前提です。ただ、机の上で24時間動き続けるものが去年の暮れの世界像のまま今日の予定を組むとき、その差を埋めるのはモデルの賢さではなく、何をツールで補わせるかという設計の側になります。
【用語解説】
オープンウェイト
訓練済みモデルの重み(パラメータ)が公開されている状態。訓練データや学習コードは含まれないことが多く、その点で「オープンソース」とは区別される。
Apache 2.0
広く使われるオープンソースライセンスの一つ。商用利用、改変、再配布が認められ、特許条項も含む。業界標準として通用する条件である。
ロジット蒸留
大きな「教師モデル」が次の語を選ぶ際の確率分布そのものを、小さな「生徒モデル」に学ばせる手法。正解だけを教えるより多くの情報が伝わる。Muse GlimmerはMuse Sparkを教師として、この方式で事前学習された。
量子化
モデルの重みを表す数値の精度を落として容量を圧縮する処理。Muse Glimmerでは約4ビットまで落とし、言語モデル部を20GB未満に収めている。写真をJPEGに変換する操作に近い。
KVキャッシュ
モデルが会話や作業の途中経過を保持しておく作業用メモリ。文脈が長くなるほど膨らむため、端末で動かす際には重み本体とは別に容量を見込む必要がある。
知覚エンコーダ
画像を言語モデルが扱える形に変換する部品。Muse Glimmerには約18億パラメータのViT-G/14が搭載され、スクリーンショットや図表、文書を会話と並べて解釈できる。
投機的デコーディング
小さな補助モデルが複数のトークンをまとめて先回りで提案し、本体モデルがそれを並列に検証して採否を決める高速化手法。提案が当たれば一度に複数トークンが確定するため、生成が速くなる。
DFlash
Muse Glimmerに同梱される投機的デコーディング用の補助モデル。16トークンのブロックを1回の計算でまとめて予測する方式を採る。arXivに論文が公開されている。
貪欲デコード
生成のたびに最も確率の高い語を機械的に選ぶ方式。乱数が入らないため測定条件として再現性が高く、速度計測はこの設定で行われている。
間接プロンプトインジェクション
AIが読み込んだ外部の文書やWebページの中に指示文を仕込み、本来の使い手の意図とは異なる動作を引き起こす攻撃手法。ツールを使うエージェントほど攻撃面が広がる。
Siren AgentDojo
エージェントが間接プロンプトインジェクションにどれだけ耐えるかを測るベンチマーク。攻撃成功率は低いほど良く、有用性スコアは高いほど良い。両者は必ずしも連動しない。
CI Memories
文脈的整合性(Contextual Integrity)の考え方に基づき、AIが第三者とやり取りする際に個人情報を適切な文脈の外へ流出させないかを測る評価。違反率は低いほど良い。
MCP-Atlas
Model Context Protocolを介した多段のツール呼び出しを、エージェントがどこまで組み立てて完遂できるかを測るベンチマーク。20以上のツールサーバーを使う。
OSWorld-Verified/Terminal-Bench
前者はデスクトップ環境のGUI操作、後者は端末上での連続的な作業遂行を測るベンチマーク。いずれもMuse GlimmerはQwen3.6-27Bに後れを取っている。
SWE-Bench Pro/SWE-Bench Verified
実在のソフトウェア開発課題を、モデルが自力で解決できるかを測るベンチマーク。Proはより難度が高い設定である。
Artificial Analysis
モデルを横断して評価する第三者機関。Metaの比較表でも、24のベンチマークのうち8件はこの機関の測定値が使われている。
llama.cpp/MLX/ExecuTorch
モデルを個人の端末上で動かすための実行基盤。llama.cppはPC全般、MLXとExecuTorchはApple Siliconでの実行に用いられる。速度計測は前者と後者で別々に行われている。
【参考リンク】
Muse Glimmer 30B モデルカード(外部)
重みの配布ページ。仕様表、24のベンチマークの実数値、安全性評価の4軸、そして制約事項までが、この一箇所にまとまっている。
Muse Glimmer Evaluation Methodology(外部)
Metaが公開した7ページの評価手法資料。各ベンチマークの採点方法、判定に使ったモデル、サンプリング設定までが記載されている。
Meta AI Research(外部)
Meta Superintelligence Labsの研究発表を載せる公式ブログ。Museシリーズ各モデルの発表記事が並ぶ。
Meta AI Developer Center(外部)
開発者向けの導入資料。カスタムスキャフォールドの設定手順や、責任を持ってモデルを構築するための指針などが公開されている。
The Future is for Everyone(外部)
2026年8月10日に公開されたマーク・ザッカーバーグ氏の書簡。個人の力、発明、力の均衡という3本柱からなる哲学を論じる。
Advanced AI Scaling Framework(外部)
Metaがモデルのリスクを審査する際の枠組み。Muse Glimmerを公開してよいかどうかも、この基準に沿って判断された。
Apache License, Version 2.0(外部)
今回の公開に適用されたライセンスの原文。商用での利用、改変、再配布を認めており、特許に関する条項も含む条件が並んでいる。
【参考記事】
Meta returns to open source with Muse Glimmer, an Apache 2.0 licensed 30B parameter AI model optimized for agents — available now(外部)
ベンチマークの勝敗を項目別に整理した記事。Qwenが上回る項目を具体的に列挙し、安全性を測る2項目の数値にも触れている。
Meta Muse Glimmer brings local AI agents to consumer GPUs(外部)
汎用エージェント8項目中5項目で先行、という数え方を提示した記事。コーディング系の数値についても3機種すべてを併記する。
Meta’s new Glimmer AI model offers a hint at Zuckerberg’s personal intelligence vision(外部)
Muse Sparkがクローズドのまま残る点を指摘し、Metaが公開と非公開の線をどこに引きつつあるのかを論じている記事。
Meta launches Muse Glimmer open-weight AI model(外部)
株価と設備投資の文脈を押さえた記事。プレマーケットで2.1%高、2026年の設備投資見通しは最大1450億ドルと伝える。
Mark Zuckerberg Outlines AI Vision In New Manifesto—Here’s What He Says(外部)
書簡の要点を整理した記事。10億ドルの地域基金や、取締役会による審査体制など、報道側が補って伝えている情報の出所にあたる。


















