GoogleはGeminiを検索やChromeに組み込み、AIエージェントと共に働く体験づくりを進めています。その渦中で、プロダクト責任者の顔ぶれにも動きがありました。かつてGmailやGoogleカレンダーの開発を率い、2021年に会社を離れて自らスタートアップを興した人物が、今度はChromeのプロダクトを率いる立場でGoogleに戻ります。彼がGoogleを離れて始めた会社は、いま静かにその役目を終えようとしています。
8月17日に明らかになったところによると、2021年設立のAI業務自動化スタートアップRelayは、有料顧客向けサービスを9月14日に停止する。無料ユーザーは既に8月15日にアクセスを失っている。閉鎖自体は7月の時点で発表済みだった。
創業者兼CEOのJacob Bankは、GoogleのVP of Product(Chrome担当)として同社に復帰すると明らかにした。ChromeのプロダクトチームとデベロッパーリレーションズチームをBankがリードする。Bankは2015年、スケジューリングアプリTimefulのGoogle買収を機に入社し、Gmail・Googleカレンダー・Google Chatのプロダクトリードを務めた後、2021年にGoogleを離れてRelayを創業した。Relayの一部スタッフもBankとともにChromeチームに合流する。
From:
AI automation startup Relay shuts down, staff joins Google’s Chrome team
【編集部解説】
Bank氏がGoogleへ入るのは、今回が初めてではありません。2015年にも、当時率いていたスケジューリングアプリ「Timeful」をGoogleに売却したことをきっかけに、Googleへ加わっています。当時のGoogle公式発表では、Timefulの技術を「Inbox(Gmailの姉妹アプリ)やCalendarなどに応用する」とだけ述べられており、具体的な機能名への言及はありませんでした。その後Gmailはスマートリプライやスマートコンポーズ、通知機能(Nudging)を獲得していますが、これらがTimeful由来かどうかは公式には明言されておらず、Bank氏の在任期間中に加わった機能として9to5Googleが報じています。
今回はその構図がそのまま繰り返されているわけではありません。Relayは買収されたのではなく、単に事業を終了します。GoogleからRelayへの対価や、技術のライセンス供与があったという記載は元記事にはなく、TechCrunchも「GoogleとRelay双方にコメントを依頼した」とだけ記しています。つまり今回Googleが得ているのは、Relayという会社そのものではなく、Bank氏個人のプロダクト経験と、彼についていく一部のチームだと考えるのが妥当です。ここは元記事が明示していない部分であり、私たちの解釈にとどまることは明記しておきます。また、肩書きもGmail等の「プロダクトリード」からChrome全体の「VP of Product」へと変わっており、単純な「元の場所に戻る」以上の意味を持つ人事だと見ることもできます。
なぜ、いまChromeなのか
GoogleはGeminiを検索に統合し、2025年9月には「Gemini in Chrome」を全米デスクトップユーザー向けに展開、エージェント型のブラウジング機能は「今後数ヶ月で追加予定」と発表しました(実際の展開開始は2026年以降)。Geminiの利用者数は直近で10億人を超えたとも報じられています。Bank氏自身、「Chromeはエージェントと協働するのに最適な場所」だと述べており、Chromeが単なるウェブブラウザから、AIエージェントの実行環境そのものへと役割を広げていく局面で、そのプロダクト戦略の舵取り役に指名された形です。
Bank氏がGmail・Googleカレンダー・Google Chatという、個人の生産性に直結するプロダクト群を率いてきた経歴を踏まえると、Chromeが次に狙う領域も、個人の作業をAIに肩代わりさせる方向にあると読むのは、無理のない見立てだと思います。
Relayに残されたもの
今回の一連の報道でわかっていないことも、いくつかあります。Relayという会社自体がこの先どうなるのか、Google行きとならなかった残りの従業員がどうなるのか、出資した投資家がどのような形で決着をつけるのか——これらについて、元記事は触れていません。Relayは2022年、Khosla Ventures主導の500万ドルのシードラウンド(2023年にはa16z主導で追加調達)を受けていた記録がありますが、今回の閉鎖でその出資がどう扱われるのかは、少なくとも今回の報道からは読み取れません。
5年かけて育てた製品を閉じるという決断そのものについても、その理由が資金繰りなのか、競合環境の変化なのか、あるいはGoogleからの誘いが先にあったのかは明らかにされていません。創業者個人のキャリアの着地点は見えても、会社としての顛末は、今回の報道だけでは見えてこないというのが実情です。プロダクトを率いる個人の物語と、それを支えていた会社・チーム・投資家の物語は、必ずしも同じ結末を迎えるとは限らない——今回の一件は、その落差を静かに映しているように思えます。
【関連記事】
Chrome Gemini:ブラウザ内AIエージェントを守る「多層防御」設計とは
Chromeのエージェント機能を支えるセキュリティ設計を解説した記事。
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Gemini in Chromeの機能拡張を報じた記事。
【編集部後記】
この5年間、Relayが試行錯誤してきたのは、AIエージェントにどこまで作業を任せ、どこで人の判断を残すかという線引きだったはずです。その経験が、何億人もが使うChromeにどう落とし込まれていくのか——私が今回いちばん気になっているのはそこです。Bank氏はまだ具体的な計画を語っていませんが、Relayで磨かれた「人とAIの分担」の設計が、ブラウザにどう反映されるのか、引き続き注視していこうと思います。
【用語解説】
VP of Product(プロダクト担当VP)
企業内で特定プロダクト領域の戦略・開発・成果に責任を持つ上級役職。事業部長に近い立場で、開発チームだけでなくロードマップや優先順位づけの意思決定を担う。
Gemini in Chrome
Google製ブラウザ「Chrome」に組み込まれたAIアシスタント機能。開いているタブの内容を踏まえた質問応答や要約、2026年以降は複数タスクを代行する「Auto Browse」機能なども展開中。
ワークフロー自動化(Workflow Automation)
複数のアプリやツールにまたがる定型業務を、トリガーと処理ステップの組み合わせで自動実行する仕組み。Zapierやn8n、Relay等が代表的なツール。
【参考リンク】
Relay.app公式サイト(サービス終了のお知らせ)(外部)
無料・有料ユーザーそれぞれの終了スケジュール、データエクスポート方法、返金対応などを掲載。
Google Chrome「AI Innovations」(公式)(外部)
Gemini in ChromeやAuto Browseなど、Chromeに実装済み・展開中のAI機能一覧。
Jacob Bank氏 LinkedIn(外部)
Timeful、Google、Relayを経た経歴の詳細。
Jacob Bank氏 Xポスト(Google復帰の発表)(外部)
本人によるGoogle復帰の第一報。
【参考記事】
After selling his last startup to Google, this founder now wants to automate mundane tasks with Relay — TechCrunch(外部)
Relay創業時の記事。Timeful売却の経緯とKhosla Venturesからの出資について報じる。
Google hires former Gmail lead to be Chrome’s new VP of Product — 9to5Google(外部)
Bank氏の起用を報じる別媒体の記事。TimefulのGmail統合機能の詳細に言及。


















