AIブラウザの競争は、検索支援に加えて、実際の仕事を引き受ける段階へ広がりつつあります。元PerplexityエンジニアのKevin Jiang氏らが共同創業したPolarは、なぜ一般消費者ではなくナレッジワーカーに対象を絞ったのでしょうか。
元Perplexityエンジニアで、Polarの共同創業者兼CEOを務めるKevin Jiang氏らは、ナレッジワーカーの反復業務を自動化するAIブラウザ「Polar」を公開した。開いているタブを基にAIエージェントへ作業を割り当て、プロンプトの保存、ワークフローの定期実行、営業、採用、マーケティング、調査、事業運営の自動化に対応する。
毎日一定数のAIクレジットを無料提供し、有料プランは月額20ドルから。同社はMadrona主導のシードラウンドで570万ドルを調達した。
From:Former Perplexity engineer launches new Polar AI browser which aims to automate repetitive tasks
【編集部解説】
Polarの特徴は、AIを搭載したブラウザであること以上に、対象をナレッジワーカーの反復業務へ明確に絞った点にあります。
従来のAIブラウザでは、開いているページへの質問、検索結果の要約、航空券やレストランの予約などが代表的な用途でした。しかし、こうした作業は便利であっても、毎日発生するとは限りません。Polarはこの問題に対して、営業先の調査、採用候補者の抽出、メール返信案の作成、表計算シートの更新、競合調査といった、ブラウザ上で繰り返される仕事を主な対象としています。
公式サイトには、営業、採用、マーケティング、データ整理、調査、事業運営などに対応する250件以上のテンプレートが掲載されています。利用者はテンプレートをそのまま実行するだけでなく、ワークフローとして保存し、指定した時刻や曜日に繰り返し実行できます。これは「質問に答えるブラウザ」ではなく、「決められた仕事を継続して引き受けるブラウザ」を目指した設計といえます。
PolarはChromiumを基盤としており、利用者が普段使っているウェブサービスやアカウント上で動作します。現在開いているページを文脈として利用し、利用者に代わってクリック、文字入力、ページ移動などを実行します。
Polarは、スクリプトを作らず自然言語で作業を指示できる設計です。これにより、用途によっては個別の自動化フローを組む負担を抑えられる可能性があります。
ここからは、Polarが「高度な検索ツール」よりも「ウェブ上で働くAIエージェント」を優先していることが読み取れます。AIブラウザ市場全体が完全に業務自動化へ移ったと断定することはできませんが、Polarの設計は、競争の対象が回答の品質から、どこまで実際の作業を完了できるかへ広がっていることを示しています。
元記事では、多くの利用者が日常の閲覧には別のブラウザを使い、自動化が必要なときだけPolarを起動していると説明されています。
Polar公式も、メインブラウザとして使う方が最新の作業文脈を利用しやすいとしつつ、完全に乗り換えなくても利用価値を得られると案内しています。
この点は、Polarの立ち位置を理解する上で重要です。現時点ではChromeやSafariを全面的に置き換える製品というより、ブラウザ上の反復業務を任せる「自動化専用ブラウザ」に近いと考えられます。新しいブラウザへの移行を迫るのではなく、必要な作業から段階的に使わせる設計は、導入時の負担を下げる狙いがあると読み取れます。
PolarはmacOSおよびWindows 10以降に対応しています。Windows版はベータ版です。
無料プランでは初回に3,000クレジットが付与され、その後は1日100クレジットが上限1,000クレジットまで追加されます。有料のProプランは月額20ドルで月間1万クレジット、Maxプランは月額100ドルで月間6万クレジットです。チームプランは1人あたり月額50ドルからとなっています。
クレジットはAIエージェントが作業を実行する際に消費され、長いタスクほど消費量が増えます。1件の調査やワークフローにどれだけのクレジットが必要になるかは、公式料金ページだけでは判断できません。導入を検討する場合は、無料枠で自社の作業を試し、処理時間とクレジット消費量を確認する必要があります。
また、2026年7月30日時点で、日本語UI、日本語による公式サポートの提供状況は公式サイトから確認できませんでした。
Polarは、AIの操作を画面上で確認し、必要に応じて利用者が操作を引き継げると説明しています。高リスクな操作を独立して実行しないためのガードレールも設けていますが、SOC 2への準拠は現在も進行中です。
利用規約では、AIが生成する結果に誤りや不足が含まれる可能性があり、結果の確認と利用に伴う責任は利用者が負うとされています。また、GoogleやSlackなどの外部アカウントを接続した場合、Polarは利用者の指示に従って、そのアカウント上で操作できると記載されています。
タスクによっては、プロンプト、スクリーンショット、ページ文脈、添付ファイルなどがPolarのバックエンドやモデル推論事業者へ送信されます。モデル提供者とはゼロデータ保持契約を結んでいるとされていますが、Polar側ではサービス運用に必要な実行履歴などを保存する場合があります。
そのため、最初からメール送信、顧客情報の変更、採用候補者への連絡などを完全に任せるのではなく、調査結果の作成、下書き、情報整理など、人間が実行前に確認できる作業から始める方が現実的です。
Polarの価値は、AIが検索結果を説明することではなく、検索後に発生する転記、比較、整理、更新までを引き受けようとしている点にあります。ナレッジワーカーが毎日行う小さな作業をどこまで安定して任せられるかが、Polarだけでなく、次世代のAIブラウザが定着するための判断基準になりそうです。
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【編集部後記】
検索の新時代は、すでに到来しつつあるのかもしれません。これまでの検索は、知りたい情報を見つけるための入口でした。しかし今後は、情報を探すだけでなく、その後の作業までAIが引き受ける流れが広がりそうです。
今回のPolarに関するニュースも、そうした変化の一つとして受け取ることができます。
私たちがブラウザに求める役割そのものが、少しずつ変わり始めています。
【用語解説】
AIブラウザ
生成AIやAIエージェントをブラウザへ統合し、ページの要約や質問応答だけでなく、クリック、入力、情報収集などの作業も支援するウェブブラウザ。Polarは自然言語による指示から、ウェブ上の作業を実行する製品として設計されている。
ブラウザエージェント
ユーザーの指示を解釈し、ブラウザ内でページ移動、クリック、文字入力、データ収集などを実行するAI。Polarでは短時間の作業に加え、複数サイトを使う長時間の作業にも対応するとしている。
ナレッジワーカー
情報の収集、分析、判断、企画、文書作成など、知識を使って価値を生み出す仕事に従事する人。Polarは営業、採用、調査、マーケティング、事業運営などの業務を主な用途としている。
ワークフロー
複数の作業を一定の手順で実行する流れ。Polarではプロンプトをワークフローとして保存し、毎時、毎日、毎週などのスケジュールで繰り返し実行できる。
Chromium
Google Chromeの基盤にもなっているオープンソースのブラウザプロジェクト。PolarはChromiumを採用しており、既存のウェブサービスやログイン済みアカウントを利用できるとしている。
フリーミアムモデル
基本機能を無料で提供し、利用量や追加機能に応じて有料プランへ移行する料金体系。Polarは無料枠のほか、月額20ドルのPro、月額100ドルのMax、1ユーザー当たり月額50ドルからのTeamプランを用意している。
【参考リンク】
Polar公式サイト(外部)
自然言語による指示から、調査、営業、採用、データ整理などのウェブ作業を実行するAIブラウザ「Polar」の公式サイト。製品のダウンロードや機能を確認できる。
Polarテンプレート一覧(外部)
営業、採用、マーケティング、調査、データ整理、事業運営など、250件以上の自動化テンプレートを掲載する公式ページ。
Madrona公式サイト(外部)
Polarを開発するRecursive Intelligenceの570万ドルのシードラウンドを主導した、米国のベンチャーキャピタル企業。
Perplexity Comet公式サイト(外部)
Kevin Jiang氏が以前開発に関わったAIブラウザ「Comet」の公式ページ。検索、調査、メールやカレンダーの管理、ウェブ操作の自動化に対応する。
【参考動画】
【参考記事】
Introducing Polar: The AI Browser That Actually Does Work for You|Polar Blog(外部)
Polarの公式発表。製品開発の背景、ナレッジワーカーを対象とした理由、長時間タスクへの対応、570万ドルの資金調達について説明している。
Pricing|Polar(外部)
無料枠とPro、Max、Teamプランの料金、付与されるクレジット数、長時間のタスクほどクレジット消費が増える仕組みを掲載。
Templates|Polar(外部)
営業先リストの作成、採用候補者の調査、受信箱の整理、市場調査、表計算シートの更新など、Polarが想定する具体的な業務例を掲載。
Terms of Service|Polar(外部)
AIの出力に誤りや不足が含まれる可能性、利用者による確認責任、GoogleやSlackなどの接続アカウントを操作する際の条件を規定している。
Privacy Policy|Polar(外部)
タスク実行時に送信されるページ文脈、スクリーンショット、添付ファイルなどのデータと、保存・処理方針を説明している。












