Last Updated on 2025-05-10 23:44 by admin
米国司法省(DoJ)は、Googleに対してChromeブラウザの売却を引き続き要求している。この要求は、2020年に始まったバイデン政権時代の訴訟に端を発し、現在のトランプ政権下でも継続されている。2024年8月、連邦地裁のアミット・メータ判事はGoogleがオンライン検索市場で違法な独占を行っていると判断した。
Chromeブラウザは現在、米国政府のデジタル分析プログラム(DAP)によると、2025年5月7日時点で51.7%の市場シェアを持ち、最も人気のあるウェブブラウザである。デスクトップでの推定シェアは約70%で、Statcounterによれば66.19%となっている。世界全体では約34.5億人のユーザーを抱えている。
この高い市場シェアを持つChromeに対して、すでに複数の買収候補企業が名乗りを上げている
1. OpenAI:ChatGPTの開発企業は、AIの機能をブラウザに直接統合し「AIファースト」のブラウジング体験を作るためにChromeの買収に強い関心を示している。OpenAIのChatGPT責任者ニック・ターリーは4月22日の裁判で、Chromeが売却された場合に買収に興味があると証言した。
2. Yahoo:2021年にアポロ・グローバル・マネジメントに買収されたYahooは、検索市場に再参入するための戦略的資産としてChromeを見ている。Yahooの検索担当ゼネラルマネージャー、ブライアン・プロボストは、親会社の支援を受けてChromeの買収を追求できる可能性があると述べている。
3. Perplexity:AI駆動の検索スタートアップも、Chromeの買収に関心を示している。同社は独自のChromiumベースのブラウザ「Comet」を開発中だが、Chromeの買収はユーザー獲得の近道になるとしている。
4. DuckDuckGo:プライバシー重視の検索エンジンとして知られるDuckDuckGoのCEO、ガブリエル・ワインバーグもChromeへの関心を示したが、高額な買収価格には手が届かない可能性を認めている。
5. Microsoft:明確には確認されていないが、Microsoftも関心を持っているとされる。同社はすでにChromiumベースのEdgeブラウザを所有しているが、Chromeを買収すると反トラスト上の懸念が生じる可能性がある。
一方、Firefoxの開発者であるMozillaは、Googleが検索のデフォルトになるために支払う資金に依存しており、この支払いが禁止されることに懸念を示している。Mozillaの社長マーク・サーマンは、この措置がオープンで独立したウェブの終わりを意味する可能性があると警告している。
2025年1月、GoogleとLinux Foundationは「Supporters of Chromium-Based Browsers」を設立し、Meta、Microsoft、Operaなどの主要テクノロジー企業がこのイニシアチブをすでにサポートしている。これにより、Googleはたとえクロームを売却することを強制されたとしても、オープンソースのブラウザ開発を継続できる可能性がある。
司法省は3月8日の裁判所への提出書類で、Chromeの売却要求を維持する一方、以前提案していたGoogleのAI投資(Anthropicへの数十億ドルを含む)の全面的な売却要求は撤回し、将来の投資に対する「事前通知」で満足するとしている。Chromeの推定価値は約200億ドル(約3兆円)とされているが、様々な見積もりがある。
References:
If Google is forced to give up Chrome, what happens next?
【編集部解説】
皆さん、今回のGoogleのChromeブラウザ売却問題は、テクノロジー業界の構造を根本から変える可能性を秘めた重大な転換点といえるでしょう。この問題の背景には、単なる企業間競争を超えた、デジタル時代における権力の集中と分散という大きなテーマが潜んでいます。
まず、この訴訟の経緯を整理しておきましょう。2020年10月、当時のトランプ政権下で司法省がGoogleに対して独占禁止法違反の訴訟を起こしました。2024年8月、アミット・メータ連邦判事はGoogleがオンライン検索市場で違法な独占を行っていると判断。そして2025年3月、司法省はGoogleにChromeブラウザの売却を含む是正措置を正式に提案しました。
興味深いのは、バイデン政権からトランプ政権(2期目)に移行した後も、司法省の方針が変わらなかった点です。政権交代によって規制の方向性が大きく変わることが多い米国において、これは極めて異例といえるでしょう。
Chromeブラウザの市場支配力は想像以上に強大です。デスクトップでの市場シェアは約66〜70%、全体では51.7%と圧倒的な存在感を示しています。世界全体では約34.5億人が利用する巨大プラットフォームとなっています。この支配的な地位が、Googleの検索エンジン独占を強化する「フィードバックループ」を形成しているというのが司法省の主張です。
では、Chromeが売却された場合、テクノロジー業界にどのような変化が起きるのでしょうか?
まず注目すべきは、AI企業のChromeへの関心です。OpenAIのニック・ターリー製品責任者は、ChatGPTの能力強化のためにChromeの買収に関心があると証言しています。これは、ブラウザがAIの「入口」として新たな戦略的価値を持ち始めていることを示しています。
また、PerplexityのようなAI検索スタートアップにとっても、Chromeの獲得は一気にユーザー基盤を拡大する機会となります。Perplexityは独自のブラウザ「Comet」も開発中ですが、Chromeの買収はその戦略を大きく加速させるでしょう。現在のウェブ検索からAI検索への移行が加速する可能性もあります。
一方で、Mozillaのような非営利組織は、Googleからの資金提供に依存しているため、この規制によって打撃を受ける可能性があります。皮肉なことに、競争を促進するための規制が、むしろ市場の多様性を損なう可能性もあるのです。
技術的な観点からは、GoogleとLinux Foundationが2025年1月に設立した「Supporters of Chromium-Based Browsers」という取り組みに注目すべきでしょう。これは、たとえChromeを売却することになっても、Googleがオープンソースのブラウザ開発を継続できる「バックアッププラン」とも解釈できます。
司法省の方針変更も興味深いポイントです。当初はGoogleのAI投資(Anthropicへの投資を含む)の売却も求めていましたが、現在はこの要求を撤回し、将来の投資に対する「事前通知」で満足するとしています。これは、AIの競争力を維持しながらも、検索とブラウザの結びつきを分断するという、より焦点を絞ったアプローチへの転換を示しています。
消費者への影響としては、ブラウザ選択の自由が拡大する可能性がある一方で、Chromeの開発速度や安定性に影響が出る懸念もあります。Googleは、この規制が「アメリカの消費者、経済、国家安全保障に害を与える」と主張しています。
長期的には、この事例がプラットフォーム企業の規制モデルとして世界的に参照される可能性があります。EUのデジタル市場法(DMA)と並んで、巨大テック企業の市場支配力を抑制するための重要な先例となるでしょう。
また、Chromeの売却価格は約200億ドル(約3兆円)と推定されていますが、実際の取引ではさらに高額になる可能性もあります。これは史上最大級のテクノロジー資産売却の一つとなる可能性があります。
テクノロジー業界の歴史を振り返ると、1998年のMicrosoft反トラスト訴訟以来の大規模な構造改革となる可能性があります。当時のMicrosoft訴訟が、後のウェブブラウザ市場の競争を活性化したように、今回の判断も将来のテクノロジー産業の形を大きく変える転換点となるかもしれません。
私たちinnovaTopiaは、この動きをただの企業間の争いとしてではなく、デジタル時代における権力の再配分という文脈で捉えています。テクノロジーの進化とともに、その恩恵を社会全体で享受するためのバランスをどう取るか-この問いは、今後も私たちが注視し続けるべき重要なテーマです。
【用語解説】
反トラスト法:
企業の独占や不公正な取引を規制するための法律。日本の独占禁止法に相当する。Googleの場合、検索エンジン市場での支配的地位を乱用していると判断された。
Chromium:
GoogleのChromeブラウザの基盤となるオープンソースプロジェクト。MicrosoftのEdgeやOperaなど多くのブラウザがこの技術を利用している。
デフォルト検索エンジン:
ブラウザで最初から設定されている検索エンジン。Googleは他社ブラウザ(Safari、Firefoxなど)にデフォルト検索エンジンとして採用されるために多額の資金を支払っている。
アポロ・グローバル・マネジメント:
2021年にYahooを買収した大手プライベート・エクイティ会社。約5,000億ドル(約75兆円)の資産を運用している。
【参考リンク】
Yahoo Inc.(外部)
30年以上の歴史を持つインターネット企業。検索、メール、ニュースなど多様なサービスを提供している。
Perplexity AI(外部)
AIを活用した検索エンジン。2022年設立、現在の企業価値は約90億ドル。ウェブ検索結果をAIが要約して回答する。
DuckDuckGo(外部)
プライバシーを重視した検索エンジン。ユーザーの追跡を行わないことをアピールポイントとしている。
【編集部後記】
Chromeブラウザの売却問題は、単なる一企業の問題ではなく、インターネットの未来を左右する重要な転換点である。ブラウザは私たちがウェブにアクセスする「入口」であり、その支配権を持つ企業は膨大なデータと影響力を手にする。
また、「Supporters of Chromium-Based Browsers」の設立は、Googleが規制に対する「保険」として、オープンソースコミュニティを通じた影響力維持を図っていると解釈できる。これは、直接的な所有権がなくても技術的な主導権を保持する戦略だ。
Chromeの推定価値200億ドル(約3兆円)は、日本の大手企業の時価総額に匹敵する規模であり、この売却がいかに巨大な取引になるかを示している。
皆さんは普段どのブラウザを使っていますか?世界で34.5億人が利用するChromeユーザーの方も多いのではないでしょうか。今回のGoogleの独占問題は、私たちが何気なく使っているテクノロジーの裏側で起きている権力闘争を映し出しています。もしChromeがOpenAIやYahooなどに売却されたら、あなたのブラウジング体験はどう変わるでしょう?また、AIがブラウザに統合される未来に期待することや懸念していることはありますか?SNSでぜひ皆さんの考えをシェアしてください。