日本規格協会、AI影響評価と認証機関のJIS 2本を発行

[最終更新]

Googleで優先するソースとして追加するボタン

AIの影響評価を定めたJISと、それを審査する機関の基準を定めたJISが、8月20日に発行されました。ただ、日本のAIマネジメントシステム認証制度そのものは、1年以上前から動いています。今回そろったのは何だったのかを、制度文書にさかのぼって整理します。


一般財団法人日本規格協会は2026年8月20日、JIS Q 42005:2026とJIS Q 42006:2026を発行した。それぞれISO/IEC 42005:2025、ISO/IEC 42006:2025に一致する。

42005はAIシステム単体のインパクトアセスメントの指針で、実施のタイミング、範囲、責任の割当て、記録及び報告、承認、モニタリングなどを扱い、附属書Eに文書化のテンプレート例を収録する。

42006はAIマネジメントシステムの審査及び認証を提供する機関への要求事項で、JIS Q 17021-1と併用し、審査チームに求めるAI技術、データ品質、倫理的影響評価などの知識とスキルを明文化した。

立ち上げ期には、対応国際規格の発行年である2025年の翌年から最長2年間の特例期間を置く。

From: 文献リンク安心・安全なAI社会の実現へ ─ AIシステムの影響評価に関するJISと、AIマネジメントシステム認証機関に関するJISを制定

【編集部解説】

規格が2本増えた、という話に見えます。けれど日付を並べると、別の輪郭が浮かびます。

AIマネジメントシステム(AIMS)の要求事項を定めたJIS Q 42001が発行されたのは、2025年8月20日でした。ちょうど1年前の、同じ日です。今回の2本は、そのJIS Q 42001だけではカバーしきれない二つの領域を補います。

なお、JISを制定するのは主務大臣です。今回の2規格は、認定産業標準作成機関である日本規格協会が案を作成・審議し、経済産業大臣に申し出るルートで制定されました。日本規格協会は、規格票の発行と販売も担います。

JIS Q 42005が埋めるのは、「で、どう評価するのか」という空白です

JIS Q 42001も、AIシステムのインパクトアセスメントをマネジメントシステムの中に位置づけてはいます。ただ、個別のAIシステムについて、範囲や責任、しきい値、実施と文書化をどう設計するかという具体的な方法論までは示していません。

JIS Q 42005が、そこを引き受けます。実施のタイミング、範囲、責任の割当て、しきい値の設定、実行、結果、記録及び報告、承認プロセス、モニタリング及びレビュー。この9つに分けて手順を説明します。文書化についても、インパクトアセスメントの範囲、AIシステム情報、データ情報及び品質、アルゴリズム及びモデルの情報、展開環境、関連する利害関係者、実際に合理的に予見可能なインパクト、危害と便益への対策という8項目を示しています。

実務でいちばん効くのは、附属書Eに置かれた文書化テンプレートの例だと思います。影響評価は「やろう」と決めた瞬間から、様式づくりで止まりがちです。カスタマイズできる雛形が国家規格の中にあることは、そこで手が止まる場面の助けになり得ます。

JIS Q 42006が埋めるのは、「審査する側を、誰が測るのか」という空白です

第三者認証には、認証を出す機関そのものが信用に足るのかという問いが、つねに付いてきます。JIS Q 42006は、マネジメントシステム認証機関の共通ルールであるJIS Q 17021-1に、AI固有の追加要求を重ねる形でそれに答えます。審査チームに必要なAI技術、アルゴリズム特性、データ品質、倫理的影響評価の知識とスキルが、明文で書き出されました。

ここからが、今回いちばん読み違えられやすいところです。

日本のAIMS認証制度は、この2本で始まるわけではありません。すでに走っています。

情報マネジメントシステム認定センター(ISMS-AC)は2025年7月8日にAIMS認証を対象とした認定を開始し、2026年1月14日、SGSジャパン株式会社とテュフ ラインランド ジャパン株式会社の2社を初めて認定しました。このときISMS-ACが用いた認定基準JIP-AIAC100-1.0は、特段の定めがない限りISO/IEC 42006:2025をそのまま適用する構成でした。ISO/IEC 42005は2025年5月28日、42006は同年7月に発行されています。

注目したいのは、この認定基準に置かれた備考です。ISO/IEC 42006:2025と内容が一致するJIS Q 42006が制定された場合は、その時点でそちらに読み替える、とあらかじめ書かれていました。制度が動き出した2025年7月8日の時点で、国内の一致規格ができたらそこへ接続するという段取りまで決めてあったことになります。今回のJIS Q 42006の制定は、その読み替えが働く場面にあたります。

つまり今回のJIS化で、先行して国際規格を使ってきた認証機関側の基準に、日本語の国家規格が合流しました。並行してJIS Q 42005が、個別のAIシステムの影響評価を日本語で進めるための手引を用意します。ここは補足しておくと、JIS Q 42005はAIMS認証の認証基準そのものではなく、あくまで影響評価の手引です。日本規格協会が「一貫して支える国内標準基盤が確立される」と書いているのは、この二方向のことだと読めます。

制度の開始がJIS制定を待たされた、という話ではありません。待たずに始めて、後から合流する設計でした。JIS化の作業と並行して、ISMS-ACは国際規格を使って認定制度を先に動かしていたわけです。同センターは2026年6月21日付でAPAC AIMS MRAの署名認定機関として承認され、24日にそれを公表しています。この枠組みの署名機関は、インドのNABCB、シンガポールのSACに続いて3機関目です。

では、その制度でいま何件の認証登録が公表されているのか。

ISMS-ACの公表ベースで、2026年8月5日時点の登録は11件です。公表は手続きの都合で1か月ほど遅れることがあるため、実際の数はもう少し多いかもしれません。

認定受付の開始から約13か月、認証機関の初認定からは約7か月で、公表登録は11件。この数字だけで普及の速い遅いを判断するのは、まだ難しい段階です。

むしろ目を向けたいのは、供給側です。

AIMSの審査員登録に関して、ISMS-ACが認定した要員認証機関は現時点ではありません。審査員の教育と力量評価は、各認証機関が担っています。JIS Q 42006は審査員の力量要求を明文化すると同時に、制度立ち上げ期の審査員確保を支える特例も置きました。対応国際規格の発行年である2025年の翌年から最長2年間、審査チームリーダーに求める最低3回のAIMS審査への参加を、最低3回のISMS審査への参加に置き換えられます。

少なくとも制度の立ち上げ期には、AIの専門性とマネジメントシステム審査の力量を併せ持つ審査員をどう確保するかが課題になります。ここは、これから開く仕事として見る価値があります。

最後に、実務の入口を1つ。

JIS Q 42005は税込9,460円でA4判46頁、JIS Q 42006は税込9,020円でA4判36頁です。価格は変更される場合があります。合わせて2万円弱、100頁足らず。

自社が認証を取るかどうかに関係なく、42005の文書化8項目は「何を残しておけば、あとで説明できるのか」の目録になります。EU AI Actが一定の高リスクAIの導入者に基本権影響評価を求めるなど、AIの影響を事前に評価する制度の整備が進むなかで、評価の共通言語を1つ持っておく意味は小さくないはずです。

JISは、原則として任意の規格です。それでも、採用する組織にとっても、適合性評価の現場にとっても、共通の言葉と参照枠になります。AIが人に何をするのかを、社内だけの言葉ではなく、国際的に通じる形で書き出せること。そのための紙が、この8月から日本語で手に入るようになりました。

【関連記事】

AIを”安心して使える”社会へ ― ISO/IEC 42001(AIMS)の普及に挑む 株式会社UPF・仲手川啓氏
AIMSの普及に取り組む企業への取材記事。ISO/IEC 42001が現場で何を変えるのかを、支援する側の視点から聞いている。

FDUA金融生成AIガイドライン1.2版が示す「AIレジリエンス」 加わったのは行動の統制
金融分野の生成AIガイドライン改訂を扱った記事。AIをどう統制の枠に収めるかという論点で、本記事と重なる部分が多くある。

AIエージェントが起こした事故に罰則はあるか|日本のAISIだけが持たない「抑止力」の設計
AIが起こした事故への抑止力をどう設計するかを論じた記事。適合性評価の枠の外側に残る課題を考えたい読者への導線になるはずだ。

【編集部後記】

認定基準JIP-AIAC100-1.0の備考に、内容が一致するJIS Q 42006ができたらそこへ読み替える、と書いてあるのを見つけたときは、少し感心しました。制度を始めるその日に、まだ存在しない規格への接続口を用意しておく。地味な一文ですが、これは設計だと思います。

規格の世界には、こうした静かな段取りがあちこちに埋まっているのでしょう。今回の2本にも、まだ気づかれていない仕掛けが入っているのかもしれません。


【用語解説】

AIマネジメントシステム(AIMS)
組織がAIを開発・提供・利用するにあたって備える、社内の管理の仕組み。要求事項はISO/IEC 42001およびJIS Q 42001が定める。第三者認証の対象になるのはこの規格である。

インパクトアセスメント(影響評価)
AIシステムとその予見可能な使われ方が、個人や集団、社会に何をもたらすかを体系的に評価すること。リスク管理が組織の被る損失を扱うのに対し、こちらは外部に及ぶ影響を扱う点に違いがある。

認定機関と認証機関
組織を審査して認証を出すのが認証機関。その認証機関を審査して能力と公平性を認めるのが認定機関である。本記事ではISMS-ACが認定機関、SGSジャパンとテュフ ラインランド ジャパンが認証機関にあたる。

要員認証機関
審査員個人の力量を評価し、登録する機関。AIMSに関しては、現時点でISMS-ACが認定した機関は存在せず、審査員の教育と力量評価は各認証機関が担っている。

認定産業標準作成機関
産業標準化法に基づき、JIS案の作成と審議を行う機関として国から認定された団体。この機関が作成した案は、日本産業標準調査会の審議を経ずに主務大臣が制定できる。

MRA(相互承認取決め)
各国の認定機関が、互いの認定活動を同等に信頼できるものとして認め合う枠組み。ISMS-ACは2026年6月、AIMSを対象とするAPAC AIMS MRAの署名認定機関として承認された。

JIP-AIAC100-1.0
ISMS-ACが2025年7月8日に制定した「AIMS認証機関認定基準及び指針」。ISO/IEC 42006:2025をそのまま適用すると規定し、一致するJIS Q 42006が制定された場合はそちらに読み替えると備考に定めていた。

【参考リンク】

一般財団法人日本規格協会(外部)
JIS案の作成と審議を担う認定産業標準作成機関であり、規格票の発行と販売も手がける。今回の2規格の案を作成した団体にあたる。

JSA GROUP Webdesk(外部)
JIS規格票と国際規格の購入窓口。JIS Q 42005:2026とJIS Q 42006:2026もここで入手でき、発行日を確認できる。

AIMS適合性評価制度の概要|ISMS-AC(外部)
AIMS適合性評価制度を運営する認定機関。認証機関の一覧、認証取得組織の検索、制度文書の公開まで、この制度の実態はここで確かめられる。

AIMS認証機関認定基準及び指針 JIP-AIAC100-1.0(外部)
ISMS-ACが2025年7月8日に制定した認定基準。本記事の柱にあたる読み替え規定は、この文書のまえがきと備考に置かれている。

AIMS認証取得組織検索|ISMS-AC(外部)
国内の認証登録状況が随時更新されるページ。記事中の11件はこのページが2026年8月5日時点として表示していた数字である。

日本産業規格(JIS)を制定・改正しました(2026年8月分)|経済産業省(外部)
2026年8月20日に公示された分の一覧。JISを制定するのは主務大臣であるという、制度の骨格にあたる説明も置かれている。

【参考記事】

ISMS-ACは、APAC AIMS MRAの署名機関となりました(外部)
2026年6月21日付の承認を報じた発表。インドのNABCB、シンガポールのSACに次ぐ3機関目という位置づけがここに記されている。

AIマネジメントシステム(AIMS)認証機関の初認定について(外部)
2026年1月14日に2つの認証機関を初めて認定した告知。日本の制度が国際規格のもとで先行して動いていたことを示す証跡になる。

JIS Q 42001:2025発行のお知らせ(外部)
ちょうど1年前、2025年8月20日に出された告知。今回の2本と発行日が同じ日付でそろっていることは、ここで確認できる。

ISO/IEC 42005:2025(外部)
対応国際規格のステージ履歴を掲載したページ。2025年5月28日発行、全39ページ。二次媒体で割れている発行月を原典で確かめられる。

Googleで優先するソースとして追加するボタン
投稿者アバター
山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

おすすめ記事