Googleが示した単語誤り率は4.0%と2.6%。かなり低い数字ですが、これは日本語で話したときの精度ではありません。Gemini 3.5 Transcribeは日本語に正式対応しています。それでも数字が別の物差しで測られているのは、なぜでしょうか。
Googleは2026年8月26日、音声認識モデル「Gemini 3.5 Transcribe」を発表した。リアルタイム向けと録音音声向けの2系統をGemini APIで提供する。Artificial Analysisの測定では、ストリーミングで平均単語誤り率4.0%、非ストリーミングで2.6%を記録した。85を超える言語を自動検出し、フィラー除去や言い直しの解決、自動整形に対応する。
前世代のChirp 3と比べ、最終的な文字起こしが出るまでの時間は70%改善した。Google AI Studioのほか、Pixel 11シリーズ向けGboardの音声入力機能「Rambler」にも搭載され、日本語に対応する。macOS版Geminiアプリは英語で利用でき、Chromeにも近く提供される。
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Intelligent transcription with Gemini 3.5 Transcribe
【編集部解説】
今回の発表で真っ先に目に入るのは、単語誤り率4.0%と2.6%という数字です。かなり低い水準ですが、この数字が何を測ったものかを押さえておくと、日本語で使う人にとっての読み方が変わります。
値の出どころは、独立系のベンチマーク企業であるArtificial Analysisです。同社のAA-WERは、日付を区切った単発の調査報告ではなく、モデルや評価方法の追加・更新が続くオンラインのリーダーボードとして公開されています。指標を構成するのは約8時間分の音声で、AA-AgentTalkが50%、VoxPopuliとEarnings22が各25%を占めます。Earnings22は企業の決算説明会、VoxPopuliは欧州議会の議事から取られたものです。半分を占めるAA-AgentTalkは、音声エージェントに向けられた発話を集めた非公開のデータセットで、469サンプル・約250分という規模までは公開されています。ただし収録言語の内訳までは示されていません。評価前の正規化処理にWhisperの英語用ノーマライザーを土台にしたものを使っている点は、公開資料から読み取れます。
もう一組の数値であるFLEURSの5.50%と5.04%は、Googleが「主要な言語とロケールのセット」と説明する複数ロケールでの結果です。DeepMindのモデルページでも、グラフの見出しは「FLEURS(top locales)」となっています。どのロケールが含まれるかは、公開されている本文からは特定できません。
整理すると、4.0%/2.6%はAA-WER、5.50%/5.04%はFLEURSという、測定対象の異なる2つの指標です。いずれも、日本語だけで話したときにどれだけ正確に文字起こしできるかを示す値ではありません。
一方で、日本語が対象外というわけではありません。Gemini APIのドキュメントには85言語のBCP-47コードが並んでおり、そこにはja-JPが含まれています。Gboardの新しい音声入力機能「Rambler」についても、Googleのヘルプページはチューニング済みの言語として日本語を挙げています。つまり日本語は正式に対応しており、公表されている数字が別の物差しで測られている、という関係です。
この差は、Googleの都合というより日本語という言語の側の事情でもあります。WERは認識結果と正解を単語単位で比べる指標です。英語のように空白で単語の切れ目が示される言語では扱いやすい一方、日本語では分かち書きなどで境界を決める必要があり、その分け方自体が評価に影響します。そのため日本語の音声認識では、文字単位で比べるCER(文字誤り率)も広く用いられます。innovaTopiaでも約3週間前に、日本語音声認識エンジンの精度をCERで報じたばかりです。同じ「誤り率」という名前でも、数字をそのまま横に並べることはできません。
では日本語で使いたい人は何を見ればよいのか。ここで効いてくるのが料金の情報です。Gemini APIの料金ページによれば、録音向けのgemini-3.5-transcribeは音声入力が1分あたり約0.003ドル、テキスト出力が約0.002ドルで、合計およそ1分0.005ドル。リアルタイム向けのgemini-3.5-transcribe-liveでも1分0.009ドル程度です。いずれもGoogleが「推定価格」として、音声を毎秒25トークン、テキストを毎分175トークンと仮定して示した試算にあたります。無料枠もありますが、料金表では無料枠のデータは製品改善に利用される区分とされているため、業務のデータを試す場合は利用条件の確認が必要です。
それでも、自分の手元にある会議録音を通して、自分の耳で確かめる。その実測コストが、判断を人に委ねなくてよい水準まで下がったという見方ができます。専門用語や固有名詞への対応も、最大1000語句のカスタム語彙で調整できます。日本語話者にとっては、公表された数字を待つより速い道かもしれません。
そしてもう一つ、日本の現場に直接効きそうな機能があります。Googleは、言語を手動で指定しなくても、文中および文と文のあいだで起きる言語の切り替えを処理できると説明しています。日本語と英語が混ざる会議は、外資系企業や研究開発の現場では珍しくありません。単一言語での精度以上に、こちらのほうが体感を左右する場面はあるはずです。
使い方の面で選択が必要になるのが、2つの書き起こしモードです。verbatimは話された通りを残し、smartはフィラーや言い直しを整理して読める文章に仕上げます。ただしsmartは、単語レベルのタイムスタンプや話者分離とは組み合わせられません。議事録のように誰が何をいつ言ったかを残す用途ならverbatim、口述筆記の下書きならsmartというように、目的から先に決める設計になっています。
話者分離の上限については、公開情報が一致していません。公式ブログとDeepMindのモデルページは最大3人としており、APIのドキュメントは最大8人と記しています。いずれも、3人以上の話者への割り当ては実験的な扱いです。提供状態についても、公式ブログはパブリックプレビュー、Gemini APIのリリースノートは一般提供、DeepMindのモデルページはPreviewと表記が分かれています。導入を検討する段階では、実際に使うAPIのドキュメントを基準にするのが確実でしょう。
今回の数字を読むときに大切なのは、ベンチマークごとに測っている条件が違うことです。AA-WERは音声エージェント向けの発話や決算説明会を集めた約8時間の音声で測られ、FLEURSはそれとは別に構成された多言語の音声を対象にしています。同じGemini 3.5 Transcribeでも4.0%/2.6%と5.50%/5.04%という別々の数字が並ぶのは、そのためです。前世代からの改善幅としては、最終的な文字起こしが出るまでの時間がChirp 3比で70%改善したことも示されています。精度の値は、数字だけでなく「何を使って測ったか」とセットで読むものだと考えます。
音声認識は長く「聞き取れるかどうか」を競ってきました。今回のモデルは、聞き取った後の整形までを引き受けています。次に知りたくなるのは、その整形が日本語でどれだけ自然に働くかです。その答えを最初に持ち寄るのは、Googleではなく、日本語で試した私たちのほうかもしれません。
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【編集部後記】
精度を測るための音声は、参加者が台本を読み上げて録音したものでした。約1,300件から469件に絞り込み、7割は静かな屋内。丁寧に作られたデータセットですが、私たちが実際に交わす会議の話し方とは、やはり少し違います。
だから数字が当てにならない、という話ではありません。どんな音声で測ったかがここまで公開されているからこそ、自分の環境との距離を測れます。みなさんが書き起こしたい音声は、静かな部屋で読み上げた声にどれくらい近いでしょうか。
【用語解説】
単語誤り率(WER)
Word Error Rateの略。音声認識の結果と正解を単語単位で比べ、何%の単語を誤ったかを示す。値が小さいほど正確である。単語の切れ目が空白で示される言語で扱いやすい。
文字誤り率(CER)
Character Error Rateの略。正解との差を文字単位で数える指標。単語境界の判定を必要としないため、日本語や中国語などの評価で広く用いられる。
AA-WER
Artificial Analysisが公開する音声認識の精度指標。約8時間の音声を、AA-AgentTalk 50%、VoxPopuli 25%、Earnings22 25%の重みで加重平均して算出する。
AA-AgentTalk
AA-WERの半分を占める非公開のデータセット。音声エージェントに向けられた発話を集めたもので、469サンプル・約250分からなる。公開のテストセットへの過剰適合を避ける目的で設計されている。
VoxPopuli/Earnings22
AA-WERを構成する公開データセット。前者は欧州議会の議事、後者は企業の決算説明会から取られている。Artificial Analysisが正解の書き起こしを修正した版が使われる。
FLEURS
多言語の音声認識を評価するベンチマーク。今回Googleが示した5.50%と5.04%は、同社が「主要な言語とロケールのセット」と説明する範囲での結果である。
BCP-47
言語と地域の組み合わせを表す国際的なコード体系。日本語はja-JP、米国英語はen-USのように表記する。
話者分離
音声に含まれる複数の話者を区別し、どの区間を誰が話したかを割り当てる処理。会議録や通話の記録で用いられる。
verbatim/smart
Gemini 3.5 Transcribeが備える2つの書き起こしモード。verbatimは話された通りをそのまま残す既定の動作、smartはフィラーや言い直しを整理し、段落や箇条書きに整形する。
カスタム語彙
認識してほしい専門用語、略語、固有名詞をあらかじめ渡し、認識結果をその方向へ寄せる仕組み。
Chirp 3
Gemini 3.5 Transcribeの前世代にあたるGoogleの音声認識モデル。
【参考リンク】
Gemini Audio – AI transcription|Google DeepMind(外部)
Gemini 3.5 Transcribeの公式モデルページ。対応機能や提供先に加え、モデルの状態表記や入出力トークン数まで確認できる。
Audio transcription|Gemini API(外部)
音声書き起こしAPIの公式ドキュメント。対応85言語のBCP-47コード一覧、2つのモードの仕様と併用制約を掲載している。
Gemini Developer API pricing(外部)
Gemini APIの公式料金ページ。録音向けとリアルタイム向けの推定分単価、および無料枠の利用条件が記載されている。
Rambler voice input on Gboard|Gboard ヘルプ(外部)
Gboardの音声入力機能Ramblerの公式ヘルプ。対応言語、必要な端末、オフライン時の挙動、音声データの扱いまで記載される。
Speech to Text Providers Leaderboard|Artificial Analysis(外部)
音声認識モデルの単語誤り率と価格を比較する独立系のベンチマーク。ストリーミング版では遅延の指標もあわせて扱っている。
【参考記事】
AA-WER v2.0: Speech to Text Accuracy Benchmark(外部)
AA-WER v2.0の設計を説明した記事。3つのデータセットの構成比、収録条件、正規化処理の変更点までを公開している。
Speech to Text Benchmarking Methodology(外部)
Artificial Analysisの音声認識ベンチマーク方法論。評価手順、データセットの内訳、価格の算出方法を記載する。
Release notes|Gemini API(外部)
Gemini APIの更新履歴。2026年8月26日付で、2つの音声認識モデルの追加が一般提供として記載されている点を確認できる。
Gemini 3.5 Transcribe|Gemini Enterprise Agent Platform(外部)
企業向け基盤でのGemini 3.5 Transcribeの仕様ページ。言語指定とカスタム語彙を併用する際の注意にも触れている。


















