GPT-Transcribe登場、OpenAIが文字起こしをライブと収録で分ける設計へ

誤り率が40.37%から19.27%へ。半減という数字の比較相手は、2023年からAPIに載っているwhisper-1です。実際に推奨の座を降りたgpt-4o-transcribeとの比較値は、今回どこにも出ていません。どちらと比べるかの選び方に、発表の重心が表れています。


OpenAIは2026年7月28日、APIに文字起こしモデル2種を追加した。告知は29日。GPT-Live-Transcribeは低遅延のライブ用、GPT-Transcribeは主に収録済み音声とバッチ処理向けで、Realtimeの確定発話にも使える。自由記述の文脈やキーワード、想定言語を渡せる。

Context Aware ASRでの意味的精度は前者が38.5%から44.6%、後者が41.6%から45.2%に向上した。Common Voiceの22言語での誤り率は前者19.70%、後者19.27%で、GPT-Realtime-Whisper-1は20.33%、whisper-1は40.37%。Real-World Audio Recordingの9言語では前者9.60%、後者8.98%だった。

From: 文献リンクTranscription | OpenAI APIChangelog | OpenAI API

【参考動画】

【編集部解説】

見出しの数字は、何と比べた値か

今回の発表でもっとも目を引くのは、Common Voice の22言語で誤り率が40.37%から19.27%へ下がったという数字でしょう。ただ、この比較対象である whisper-1 は、2022年9月に公開されたWhisperをAPI向けに載せたもので、提供が始まったのは2023年3月です

現行のガイドでは、収録音声の新しい推奨開始モデルが GPT-Transcribe になり、gpt-4o-transcribe は継続して使える既存モデルという位置づけに変わりました。ただし公式の移行資料は whisper-1 からの移行も主な対象としており、単一の「置き換え対象」を指定した形ではありません。

そのうえで、gpt-4o-transcribe との直接の比較値は、今回の公開資料では確認できません。誤り率が半減したという数字は、3年以上前から据え置かれてきた基準に対して立てられたものだと押さえておくと、重みが変わってきます。

一方、ライブ用の GPT-Live-Transcribe は直前世代の GPT-Realtime-Whisper-1 と正面から比べられています。Common Voice では20.33%から19.70%へ、実世界音声のベンチマークでは11.65%から9.60%へ。どちらも改善していますが、読み上げ音声を集めた前者の差は0.63ポイント、実環境で録音された後者の差は2.05ポイントと、改善幅に開きがあります。

この非対称さのほうが、今回の中身をよく表しているように思います。伸び幅が大きかったのは「現場の音声」の側です。

44.6%という数字の読み方

もう一つ、読み違えやすい数字があります。Context Aware ASR における意味的精度、GPT-Live-Transcribe の38.5%から44.6%、GPT-Transcribe の41.6%から45.2%という値です。これは通常の転写誤り率とは別の指標で、「文字起こしの4割強しか合っていない」という意味ではありません。

コンテキストによって意味的精度は改善したものの、公開されたスコアは45.2%にとどまります。ただし採点単位やベンチマークの構成は公表されておらず、「半分以上の語や発話を誤った」と読むことはできません。効くけれど万能ではない。その程度に受け取るのが妥当でしょう。ベンチマークの内容がどのようなものかについては、公表資料からは判断できません。

渡せるようになった、3つの前提

では、何が変わったのか。私の見方では、モデルが2つに分かれたことよりも、文字起こしが「前提を持たない処理」から「前提を渡せる処理」へ移った点が大きいと考えています。

prompt に録音の話題や状況を文章で書き、keywords に製品名や薬剤名、略語を並べ、languages に想定される言語を列挙する。従来のように単数形の language で1言語を指定するのではなく、複数形で渡せるようになったことは、日英が混ざる会議やコードスイッチングの多い現場を抱えるチームには実利が期待できます。公式ガイドも、コードスイッチングを含む音声での検証を勧めています。

音声認識の精度が、モデルの性能だけでなく「渡す語彙の設計」で動くようになったわけです。ただし効果の大きさは、音声の条件や言語、語彙によって変わります。

新しい推奨モデルが担当しない領域

ここで注意したい点があります。GPT-Live-Transcribe は、単語単位のタイムスタンプ、話者ラベル、信頼度スコア、そして検出言語の予測。そのいずれも返しません。

動画字幕の srt / vtt やタイムスタンプが必要なら whisper-1、話者の切り分けが必要なら gpt-4o-transcribe-diarize を使う設計が公式に案内されています。つまり、日本の会議記録や字幕制作で需要の大きい話者分けとタイムスタンプ付き字幕は、新しい推奨モデルの担当範囲から外れています。

エンドポイント自体は共通の場合がありますが、リクエスト項目、出力形式、使える機能が異なります。名前が新しくなったからと既存の処理を丸ごと差し替えると、静かに壊れる箇所が出ます。

言語カバレッジについても、正直に書いておきます。今回示された数値は22言語と9言語をまとめた値であり、言語ごとの内訳も対象言語の一覧も公開されていません。日本語の精度がどれだけ上がったかを、この発表から読み取ることはできません。判断材料は、自分たちの音声で試した結果だけです。

単価が映す、用途の分岐

GPT-Transcribe は文字起こし音声1分あたり0.0045ドル(約0.73円)です。whisper-1 と gpt-4o-transcribe に設定されている0.006ドルと比べると25%安い水準で、1時間の音声なら約0.27ドル(約44円)。ただし gpt-4o-mini-transcribe は以前から0.003ドルであり、従来のすべてのモデルより安いわけではありません。

対して GPT-Live-Transcribe は1分あたり0.017ドル(約2.8円)、1時間で約1.02ドル(約166円)です。この0.017ドルは、直前世代の gpt-realtime-whisper と同額で据え置かれています(1ドル=163円換算、2026年7月30日時点)。

収録側は gpt-4o-transcribe 比で下がり、ライブ側は前世代と横並び。ここにも非対称があります。

ドキュメントは「出力をストリーミングすること」と「音声がライブで届くこと」は別の判断だと明記しています。収録の終わったファイルにライブ用の接続を張っても、低遅延という利点は活きません。リアルタイムのガイドは、モデルに音声の文脈を長く待たせるほど誤り率が改善する傾向にあると説明しています。単価だけがおよそ3.8倍に膨らむ選択になります。

精度の手前にある判断

そして、私が窓口として最初に確かめてほしいと思うのはここです。音声を外部のAPIへ送る設計を選ぶ以上、会議の録音や顧客との通話、診療の会話をどこまで預けるかという判断が、精度の議論とは別に必要になります。

OpenAIはAPIの入力を既定では学習に使わないと説明しており、不正利用の監視ログは通常最大30日保持され得るとされています。医療情報や個人情報を含む場合は、契約形態、地域の法令、社内規程をあわせて確認することになります。

keywords に社名や未発表の製品名を並べる行為は、精度を買うと同時に自社の語彙を送り出す行為でもあります。学習に使われるかどうかとは別に、送信そのものが起きている。便利さの手前に、一度立ち止まる場所があります。

製品から、配管へ

最後に、長い視点で。今回のリリースに、独立した企業ブログ記事はありません。X、公式動画、APIドキュメント、Release Notes、開発者フォーラムを中心とした告知でした。

音声認識が、旗を立てて発表する「製品」から、静かに差し替えられる「配管」へ移りつつある兆しだと、私は読んでいます。ライブとバッチを分け、分単位で課金し、文脈の扱いで差をつける。Deepgram や AssemblyAI は以前から事前録音とリアルタイムを分けて提供し、料金体系も区別してきました。そこに最大手が同じ構図で並んだ、というのが私の見立てです。

配管になるということは、意識されなくなるということでもあります。聴覚に障害のある人のリアルタイム字幕、母語の異なる相手との会話、記録の残らなかった現場の言葉。話した言葉が文字になるまでの距離が縮むほど、その恩恵は静かに広がっていくはずです。派手さのない更新こそ、後から振り返って効いてくるのかもしれません。

明日から確かめられること

Transcriptionガイドの対応表を開くと、タイムスタンプはwhisper-1、話者ラベルはgpt-4o-transcribe-diarizeと、推奨モデルの担当外に置かれた機能が並びます。どの行に当たるかで、GPT-Transcribeへ移せる範囲が決まります。会議音声に prompt で議題を、keywords で社名や型番を渡したとき、Context Aware ASRで示された45.2%という水準は、日本語でどう現れるのか。

【編集部後記】

会議の録音をアップロードして待つ、という手つきに、私たちはもう慣れてしまいました。今回のように「ライブ用」と「収録済み用」が別のモデルとして並べられると、自分がどちらの前提で仕事をしていたのか、あらためて意識させられます。

もし手元に試せる音声があるなら、いちばん厄介なものから渡してみるのが早いかもしれません。訛りのある発言、社内でしか通じない略語、途中で英語に切り替わる会話。keywords にどんな語を並べると変化が出るのか、その語の選び方には、たぶんチームごとの癖が出ます。

そしてもう一つ。文字起こしが安く速く正確になるほど、記録が残る場面は増えていきます。残すと決めることと、残さないと決めること。その線引きは技術ではなく、私たちの側の設計です。みなさんの現場では、どこに線を引いていますか。


【用語解説】

文字起こし誤り率(transcription error rate)
音声認識の出力が正解の書き起こしからどれだけ外れているかを示す指標である。値が小さいほど正確だ。一般的には置換・削除・挿入をもとに算出する単語誤り率(WER)が用いられ、外部の技術メディアも今回の数値をWERとして扱っている。ただし今回の発表自体は、単語に限定しない transcription error rate という語にとどめている。

意味的精度(semantic accuracy)
一字一句の一致ではなく、意味が正しく伝わる形で書き起こされているかを測る指標である。今回OpenAIが示した数値については、採点単位や算出方法が公表されていない。

Context Aware ASR(Context Aware Automatic Speech Recognition)
OpenAIが今回あわせて示したベンチマークである。コンテキストを与えた場合と与えない場合の差として結果が公表されたが、データセットの構成や採点方法の説明は確認できない。第三者による独立検証も存在しない。

Real-World Audio Recording ベンチマーク
今回9言語での結果が示されたベンチマークである。名称と言語数は公表されているが、収録条件や対象言語の一覧は明らかにされていない。

ASR(自動音声認識)
Automatic Speech Recognitionの略で、音声を文字に変換する技術の総称である。

低遅延(low latency)
話し始めてから文字が出るまでの待ち時間が短いことを指す。ライブ字幕や通話の文字起こしでは、精度と並ぶ設計上の要件となる。

バッチ処理
届いたデータを即時に処理するのではなく、一定量をまとめて後から処理する方式である。応答の速さを求めない代わりに費用を抑えやすいが、安くなるかどうかは料金設計による。なお gpt-transcribe は通常の音声API利用も含み、OpenAIのBatch APIそのものと同義ではない。

whisper-1
OpenAIが2022年9月に公開したWhisperを、API向けに提供したモデルである。提供開始は2023年3月で、large-v2系の重みを用いる。長く標準的な選択肢だったが、現在は新規開発の推奨開始モデルではない。単語単位のタイムスタンプや字幕形式の出力、英語への音声翻訳といった用途では引き続き案内されている。

gpt-4o-transcribe
GPT-4oを基盤とした音声認識モデルである。Whisperより高精度な新しい推奨選択肢として案内されてきたが、現行ガイドでは新規開始モデルの位置から外れた。既存の実装は継続して利用できる。1分あたりの単価は0.006ドルである。

gpt-4o-transcribe-diarize
発言を話者ごとに切り分けた書き起こしを返すモデルである。話者、開始時刻、終了時刻などを含む形式で出力できる。話者ラベルが必要な用途では現在もこのモデルが案内されるが、Realtime APIでは利用できない。

GPT-Realtime-Whisper-1
2026年5月7日に公開されたストリーミング文字起こし向けモデルである。GPT-Live-Transcribeの直前世代にあたり、今回のベンチマークでは比較対象として用いられた。APIでの識別子は gpt-realtime-whisper で、発表時の表示名とは末尾の数字の有無が異なる。

prompt / keywords / languages
新しい2モデルが受け取る3種のコンテキスト入力である。prompt には録音の話題や状況を文章で渡し、keywords には認識してほしい固有の語彙を並べ、languages には想定される入力言語を列挙する。従来モデルが1言語のみを指定する language を用いていたのに対し、複数形で複数の言語を渡せる点が異なる。

話者分離(ダイアライゼーション)
音声の中で「誰がどこを話したか」を判別し、発言を話者ごとに分ける処理である。議事録作成では欠かせない工程となる。

コードスイッチング
一つの会話や文の中で話者が言語を切り替える現象である。日本語と英語が混ざる会議などが典型で、単一言語を前提とした認識では精度が落ちやすい。

タイムスタンプ/話者ラベル/信頼度スコア/検出言語
それぞれ、各語が音声のどの時点で発せられたかを示す時刻情報、発言者の識別情報、認識結果の確からしさを示す数値、モデルが判定した入力言語である。GPT-Live-Transcribeはこれらを返さない。検出言語については gpt-transcribe が返すことができる。

srt / vtt
動画字幕で広く使われるファイル形式である。表示時刻と字幕文が対になった構造を持つため、生成にはタイムスタンプが必要になる。

【参考リンク】

Transcription | OpenAI API(外部)
収録済み音声とライブ音声で推奨モデルを分ける公式ガイド。3種のコンテキスト入力と、用途別の代替モデルの一覧を確認できる。

GPT Transcribe Model | OpenAI API(外部)
GPT-Transcribeのモデルページ。対応エンドポイントや入出力の種別と、文字起こし音声1分あたり0.0045ドルの単価が載る。

GPT Live Transcribe Model | OpenAI API(外部)
GPT-Live-Transcribeのモデルページ。調整可能な遅延やキーワードヒントへの対応と、1分あたり0.017ドルの単価を記載。

File transcription | OpenAI API(外部)
ファイル文字起こしの実装ガイド。25MBというファイル上限、対応する音声形式、検出言語を返すレスポンス構造を説明している。

Realtime transcription | OpenAI API(外部)
リアルタイム文字起こしのガイド。タイムスタンプや話者ラベルを返さない制約と、遅延設定と誤り率の関係が説明されている。

Changelog | OpenAI API(外部)
OpenAI APIの更新履歴。7月28日の項に今回の2モデル、5月7日の項に前世代のモデルのリリースが記録されている。

Release Notes | OpenAI(外部)
製品全体のリリースノート。今回の2モデルの追加日を、API変更履歴とあわせて確認するための一次資料になる。

Pricing | OpenAI API(外部)
API全体の料金表。文字起こしの単価がモデル別にまとめられており、0.0045ドルと0.017ドル、0.006ドルの差を確認できる。

Data controls in the OpenAI platform(外部)
API経由で送信したデータの扱いを説明する公式ガイド。学習利用の既定設定や、監視ログの保持期間が記載されている。

Migrate from Whisper to GPT-Transcribe and GPT-Live-Transcribe(外部)
Whisperからの移行手順をまとめた公式のサンプル集。エンドポイントは変わらず、リクエスト項目と出力形式が変わる点を整理。

OpenAI Developer Community(外部)
公式アナウンスのフォーラム版。ベンチマーク数値の一覧に加え、開発者から寄せられた質問や反応もあわせて追える。

Introducing Whisper | OpenAI(外部)
2022年9月のWhisper公開時の発表。今回の比較対象となったモデルが、どの時点の技術かを確認するための一次資料。

Introducing ChatGPT and Whisper APIs | OpenAI(外部)
2023年3月のWhisper API提供開始の発表。large-v2をAPIで提供する旨と、1分0.006ドルという単価が記されている。

Advancing voice intelligence with new models in the API | OpenAI(外部)
2026年5月7日の発表。GPT-Live-Transcribeの直前世代となるストリーミング文字起こしモデルが公開された回である。

OpenAI(外部)
GPT-TranscribeとGPT-Live-Transcribeを開発した米国のAI企業の公式サイト。製品と研究の発表がまとまる。

Common Voice(外部)
Mozillaが運営する多言語音声データセットの公開プロジェクト。参加者が提示文を読み上げる形で収集され、評価に用いられる。

Deepgram Speech-to-Text Docs(外部)
事前録音音声とリアルタイムストリーミングを分けて提供する構成が確認できる、Deepgramの公式ドキュメント。

AssemblyAI Docs(外部)
AssemblyAIの公式ドキュメント。事前録音とストリーミングの区分に加え、話者分離や要約などの後処理機能も扱う。

【参考記事】

GPT-Transcribe: OpenAI’s New Speech-to-Text Model(外部)
0.0045ドルが従来の0.006ドルより25%安い点を示し、1時間あたりの費用や25MB上限まで試算している記事。

OpenAI Replaces Whisper With gpt-transcribe, Slashing Errors by 52%(外部)
whisper-1比で誤り率が相対約52%減と算出し、文脈を受け取る設計への転換こそが本質だと指摘している記事。

OpenAI Whisper API Pricing 2026(外部)
リリース前に書かれた料金の整理。0.003ドルから0.017ドルまで、従来モデルの単価の幅を確認できる記事。

OpenAI and Alibaba launch new voice models for transcription and real-time conversations(外部)
2モデルの主要数値を伝えつつ、ほぼ同時期に発表された他社の音声モデルと並べて報じている記事。

OpenAI releases transcription AI ‘GPT Transcribe’ and ‘GPT Live Transcribe’(外部)
両モデルの単価を日本円に換算し、楽器の演奏音がある環境での実演例にも触れている記事。

GPT-Live-Transcribe & GPT-Transcribe API Guide(外部)
出力のストリーミングとライブ音声の受信は別の判断だという、実装上の要点を明確に述べている記事。

AssemblyAI vs Deepgram: Best Speech-to-Text API [2026](外部)
音声認識APIの主要事業者を、価格や話者分離、多言語対応やコードスイッチングの軸で比較している記事。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。