【解説】中教審が次期学習指導要領の素案|生成AIが読める形でデータ提供へ

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小中学校で情報が教科になる。8月31日に公表された次期学習指導要領の素案を、各紙はそう報じました。ただ、約400ページの素案を開くと、もう一つ別の設計変更が書かれています。学習指導要領そのものを、生成AIが読める形のデータで提供するという一文です。


中央教育審議会の教育課程企画特別部会は8月31日、次期学習指導要領等に向けた審議まとめの素案を示した。小学校の総合的な探究の時間に「情報の領域」を付加し、中学校では技術・家庭科を分割して技術分野を「情報・技術科」とする。想定する授業時数は小学3・4年で各学年最大30コマ程度、5・6年と中学3年で最大35コマ程度、中学1・2年で最大70コマ程度。

標準総授業時数は現行を維持し、35コマ以下の教科等を除く各教科等から一定の割合で減じて確保する。学習指導要領は生成AIが読み取りやすい形式でデータを提供する方針が示され、生成AIの利活用ガイドラインは改訂を待たず令和8年度中に改定する。全面実施は小学校が令和12年度、中学校が令和13年度。高校は令和14年度の入学者から順次実施する。

新しい教科が1つ増える、という話ではありません

素案のうち最も広く報じられたのは情報教育の拡充でした。小学校では、現在の「総合的な学習の時間」を「総合的な探究の時間」へ改称し、「探究の領域」と「情報の領域」の2領域構成とする方向が示されました。改称は中学校もあわせて行い、小学校から高校まで名称を一貫させます。中学校では技術・家庭科が分割され、家庭科が独立教科に、技術分野が「情報・技術科」となります。免許も担当教員も別なのに評定は1教科で記載している現状を、素案は分割の理由の一つに挙げました。

想定される授業時数は、学校段階と学年で幅があります。

新教科・領域 学年 各学年の最大コマ数
小学校 総合的な探究の時間「情報の領域」 3・4年 30コマ程度
小学校 総合的な探究の時間「情報の領域」 5・6年 35コマ程度
中学校「情報・技術科」 1・2年 70コマ程度
中学校「情報・技術科」 3年 35コマ程度
中学校の数値には、現行の技術・家庭科の技術領域に含まれる内容も入っています。小学校では「探究の領域」と「情報の領域」にそれぞれ標準授業時数を設定します。

その時間は、どこから持ってくるのか

年間の標準総授業時数を増やさないことが大臣諮問の前提であるため、どこかを削る必要があります。素案は、特定の教科から集中的に削るのは適当ではないとしたうえで、年間35コマ以下のものを除いた小学校3年から中学校3年までのすべての教科等から、既存の授業時数に応じて同じ考え方で一定の割合を減じる方針を示しました。週1コマ程度は学習の継続性のために残す、という線引きです。

情報教育の拡充は、情報を教える教科だけの話ではありません。小学校3年から中学校3年までの、ほぼ全教科の時間割に薄く広く触れる変更です。

基準そのものが、AIに読まれる前提で設計され直します

ここからが、一般紙の見出しには載らなかった部分です。

素案は第3章で「デジタル学習指導要領」の実現を掲げ、備えるべき機能を列挙しています。教科書の指導書から該当箇所へリンクで飛べること、レイアウトを自由に変えて教科間・校種間の系統性を追えること、そして生成AIが読みやすい形式で学習指導要領データが提供され、AIを使って指導案・評価計画案・教材を練ることが容易にできること

現在の学習指導要領は紙の冊子とそのPDFで提供されています。素案は、PDFでは改行位置で切れた単語が検索できないこと、AIに読み込ませるのに適したデータ形式になっていないことを、教師が日常的に参照しにくい理由として整理しました。指導要領を人間が読む文書としてだけでなく、機械可読なデータとして設計するという宣言だと受け取れます。

資料編には、この改善で授業づくりがどう変わるかのイメージ図が添えられています。そこに描かれているのは、指導書も参考にしながら、学習指導要領を読ませた生成AIも使って単元計画などを練る教師の姿です。

授業準備でAIを使う教師は、すでに珍しくありません。参照先として公式の構造化データを使えるかどうかは、AIで指導案を作るときの正確さを支える条件の一つになります。今回の記述は、その土台を国が用意すると読める点で重い意味を持ちます。もっとも、素案に添えられた画面イメージには、このとおりに開発するものではない、という断りが付いています。設計はこれから詰められます。

約10年周期の基準に、年次で動く層が加わる

学習指導要領は約10年に1度改訂されます。情報技術の変化の速さとは、周期が明らかに合いません。素案はこの矛盾に正面から手を入れました。

第7章が示した方針は、学習指導要領本体では大枠と俯瞰的な規定にとどめ、変化の速い部分は下の層で吸収する、というものです。具体的には、AIの利活用ガイドラインを機動的に改定すること、学習指導要領解説をタイムリーかつ機動的に一部改訂すること、教科書発行のサイクルでも追いつかない最新のトピックについては国が少なくとも1年に1度、指導の手引きやデジタル教材、授業動画を更新して現場に届けることです。

そして最も日付が近いのが、生成AIの利活用ガイドラインです。素案は、学習指導要領の改訂を待たず、令和8年度中、つまり今年度中に改定すると明記しました。周知・研修・環境整備もあわせて実施するとしています。

約10年の間隔で改訂されてきた本体は大枠の規定にとどめ、その下に、より短い周期で見直せる資料の層を置く。教育課程の基準としては、かなり思い切った設計です。

AIが答えを出す時代に、知識を持つ意味をどう説明するか

素案は第2章で、AI時代に人間が知識を持つ意義を4点に整理しました。AIを動かす指示や問いを出すには当該分野の知識が要ること。AIが処理した情報の正誤や妥当性を見極めるには知識の基盤が要ること。メディアがアルゴリズムの影響を受けるなかで社会の創り手として責任を果たすにはAIの仕組みや認知への影響の理解が要ること。そして知識なしには人間がAIを制御・管理・発展させられなくなること。

そのうえで素案は、AIの発展で知識そのものの価値が下がったと考えるのは適当ではないと述べます。価値が一層下がったのは、意味理解を伴わない丸暗記や、定型的な知識の当てはめ、知識の量だけを競う評価の在り方のほうだという整理です。

AI要約のコピー&ペーストにどう向き合うか

対応も具体的です。検索結果の最上部に表示されるAIの要約をそのままコピー&ペーストする児童生徒に適切な指導がなされていない実態を挙げ、最終的な評価の段階で自らの思考を経ていない成果物が通用しないような工夫を求めました。例として挙がっているのは、口頭試問の要素を取り入れること、端末でのテスト時にブラウザ閲覧を制限するソフトウェアを活用することです。

素案はこれを「学習過程の省略」と呼び、認知的オフロードが過度になり意図的な認知的努力がなされなくなる状態と定義しています。書く・話すといった外化を重視し、読む・聞くという内化との往還の質を高めることを、その対策に据えました。

労働市場の予測が、教育課程の設計に直接入っています

素案は、2040年に約1,100万人の働き手が不足するという予測を挙げています。リクルートワークス研究所が2023年に公表した『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』の、労働需給ギャップの数字です。あわせて、生成AI・ロボットによる自動化などの影響で、事務職に約437万人の余剰が生じる一方、専門的・技術的職業のうちAI・ロボット等の活用を担う人材が約339万人不足するというミスマッチの可能性を記載しました。こちらは経済産業省が2026年3月に産業構造審議会へ示した「2040年の就業構造推計(改訂版)」を文部科学省が加工したもので、国内投資の拡大と賃上げの好循環を前提に高付加価値型産業への転換が進む「新機軸ケース」、つまり経済がうまく回った場合でもなお残るずれとして示されています。

そのうえで素案が置いたのが「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」という位置づけです。デジタル技術等も活用して、現在より高い賃金を得るエッセンシャルワーカーを指します。現場人材が就業人口の約6割を占める日本で、ホワイトカラーの余剰と現場労働の不足というミスマッチが広がるなか、現場力・品質力の維持と付加価値労働生産性の向上の切り札になりうる、という整理です。高校情報科について、高等教育機関に進学しない者も含めた卒業生全員に、数理・データサイエンス・AIを日常の生活や仕事の場で使いこなせる水準まで育てるとした背景がこれです。

高校数学にも波及しました。数学Ⅰに「数学ガイダンス」と「社会を読み解く数学」が新設され、後者では数列・行列・統計・確率のエッセンスと数理モデルの基本的な考え方を、実社会の場面をもとに学びます。AIやデータサイエンスの基礎となる数学的素養を、必履修科目の側に置いたという点で、情報科だけの改訂ではないことがここでも見て取れます。

これから決まること

決まっている日程

指導要領そのものの改訂は、小中学校が令和8年度末、高等学校が令和9年度末です。その後の日程は、7月に示された改訂スケジュールと重ねると次のようになります。

校種 新教科・領域の先行実施 全面実施
小学校 令和10年度から段階的に 令和12年度
中学校 令和11年度から段階的に 令和13年度
高等学校 令和14年度の入学者から順次実施し、令和16年度に全学年へ
高等学校は入学年度ごとに順次切り替わるため、全学年がそろうのは令和16年度になります。調整授業時数制度は、小中学校ともに令和10年度から先行実施される予定です。

まだ決まっていないこと

素案は文字どおり素案であり、確定していない部分が相当あります。読む側が押さえておきたい点を挙げます。

各教科等の標準授業時数の実数は、まだ決まっていません。教育課程全体の議論の進捗を踏まえて精査したうえで、企画特別部会で検討し、適切なタイミングで示すとされています。調整授業時数制度で標準を下回ってよい上限も、年間35コマ以下の教科等を除く対象教科等について最大15%程度という水準を置きつつ、先行研究開発学校やサキドリ研究校の実践の蓄積を踏まえて数字を確定させる段取りです。

指導体制については、素案自身が宿題として挙げています。中学校技術科と高校情報科では相当免許状の所有者が足りておらず、その解消が前提条件として不可欠だと明記されました。国が全国規模の免許法認定講習を充実させること、中学校では国が全担当教師を対象に研修を実施すること、3Dプリンター等の教材・備品やPC教室の環境を整えることが、必要な取組として並んでいます。素案は、学校現場に対応を委ねるのではなく国が責任を持って進めるべきだ、という書き方を選びました。

年1回以上の教材更新という約束も、続くかどうかは条件整備次第です。国は令和7年度補正予算で学習動画・教材の整備に着手していますが、更新を毎年回し続ける体制が組めるかは、これから見えてくる部分になります。

この素案が開こうとしているもの

今回の素案でいちばん興味深いのは、AIをどう教えるかよりも、AIの速度に耐えられる制度の形をどう作るかに踏み込んだことです。約10年の間隔で改訂されてきた本体を大枠にとどめ、その下に機械可読なデータと、より短い周期で更新される資料群を置く。教科を1つ作るより、こちらのほうが射程は長いと思います。

小学校で新教科・領域の先行実施が始まるのは令和10年度、指導要領全体の全面実施は令和12年度です。今年生まれた子が小学校に上がる頃には、この設計が当たり前になっています。中央教育審議会の答申は冬頃が予定されており、実数と条件整備の中身は、そこで一段はっきりします。

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【編集部後記】

約400ページの素案で最初に目が留まったのは、教科の名前ではなく、資料編に紛れていた一枚の図でした。教師が生成AIに学習指導要領を読ませ、単元計画を練っている。国が定める基準の資料に、その光景が当たり前のものとして描かれています。

ここ数年、学校での生成AIは「どこまで認めるか」の話でした。この図はもう、使う前提で描かれています。線を引く議論から、道具として組み込む段階へ、静かに移りつつあるのだと思います。


【用語解説】

学習指導要領
小中高校の教育の目標や内容について国が定める基準。約10年に1度改訂され、授業や教科書の基になる。

標準授業時数
各教科等について、学校教育法施行規則が定める年間の授業回数。

コマ
授業1回分。小学校は45分、中学校と高校は50分を1コマとする。

情報の領域
小学校の総合的な探究の時間に付加される新しい領域。「探究の領域」と並び、それぞれに標準授業時数を設定する。

情報・技術科
中学校に新設される教科。現在の技術・家庭科を分割し、技術分野を独立させたもの。家庭科も独立した教科となる。

調整授業時数制度
各教科等の標準授業時数を一定の範囲で下回ることを各学校の判断で可能にし、生み出した時間を他教科への上乗せや裁量的な時間に充てる仕組み。令和10年度からの先行実施が予定されている。

デジタル学習指導要領
学習指導要領をウェブ上で提供し、検索やレイアウト変更、他教科との相互参照を可能にする構想。素案が挙げる機能の一つに、生成AIが読みやすい形式でのデータ提供がある。

認知的オフロード
記憶や思考の一部を外部の道具に預けること。素案は、これが過度になり意図的な認知的努力がなされなくなる状態を「学習過程の省略」と呼んでいる。

労働需給ギャップ
労働の需要量と供給量の差。

アドバンスト・エッセンシャルワーカー
デジタル技術等も活用して、現在より高い賃金を得るエッセンシャルワーカー。素案の資料編が用いる語である。

新機軸ケース
経済産業省の就業構造推計における前提の一つ。国内投資拡大と賃上げの好循環を前提に、高付加価値型産業への構造転換を通じて成長を目指す経済シナリオを指す。

【参考リンク】

教育課程部会 教育課程企画特別部会(第17回) 配付資料|文部科学省(外部)
令和8年8月31日に開かれた回の配付資料一覧。審議まとめの素案本体に加え、令和9年度概算要求の主要事項もあわせて掲載されている。

【資料1】次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)(1/4)(外部)
素案の本体。基本的な方向性から、学習指導要領の構造化、調整授業時数制度、学習評価、情報活用能力の抜本的向上までを収録している。

【資料1】次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)(2/4)(外部)
資料編の1冊目。デジタル学習指導要領で授業づくりがどう変わるかを示したイメージ図と、実際の画面イメージが収められている。

【資料1】次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)(3/4)(外部)
資料編の2冊目。情報・技術に関する資料群を収める。労働需給の推計とその出典は「情技⑭」と付番されたスライドに置かれている。

【資料1】次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)(4/4)(外部)
資料編の3冊目。各教科等ワーキンググループでの検討を踏まえた資料が、教科ごとにまとめて収録されている最後の一冊である。素案の巻末にあたる。

学習指導要領等の改訂に関するスケジュール(イメージ)|文部科学省(外部)
令和8年7月8日の総則・評価特別部会 参考資料3。答申の時期と、校種ごとの改訂・先行実施・全面実施の年度が一枚にまとまっている。

2040年の就業構造推計(改訂版)について|経済産業省(外部)
2026年3月に産業構造審議会経済産業政策新機軸部会へ提出された資料。職種別・学歴別の需給ミスマッチが数値で示されている。

報告書一覧|リクルートワークス研究所(外部)
素案が引用する「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」を収めた、リクルートワークス研究所の年次報告書の一覧ページ。

初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議|文部科学省(外部)
今年度中の改定が予定されている生成AIの利活用ガイドラインを所管する、文部科学省の調査研究協力者会議の公式ページである。

【参考記事】

小学校から「AI学習」、情報教育を大幅拡充 次期学習指導要領案|日本経済新聞(外部)
素案の公表を受けた報道である。経済産業省の推計を引きながら、情報教育の拡充の中身と、校種ごとの実施年度を簡潔に整理している。

小中学校で「情報」を教科に、英語ではAI活用初明記 次期学習指導要領、中教審まとめ案|産経新聞(外部)
標準授業時数の維持と、情報教育の時間を各教科から少しずつ抽出する方針に触れている。教育史の研究者による慎重論も併載する。

情報教育の次期学習指導要領改訂議論から、2025年を振り返る|特定非営利活動法人みんなのコード(外部)
大臣諮問から特別部会での議論までを、情報活用能力の論点に絞って追いかけた記録である。今回の素案に至るまでの経緯がよく分かる。

指導要領の改訂年度に強い味方◇教育誌4月|時事通信 内外教育(外部)
改訂のスケジュールと、学習指導要領が学校現場へ浸透していく実情を、教育ジャーナリストの視点から解説したコラムである。連載の一本。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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