AIに作らせた。それでも情報は人が集めた|八代の災害情報サイト

[最終更新]

Googleで優先するソースとして追加するボタン

熊本県八代市のWeb制作者・福原健さんは、震度7の地震から2日で災害情報サイトを立ち上げました。開発はAIエージェントに任せています。しかし掲載する情報だけは、いまも人の手で集めています。その線をどこで、なぜ引いたのか。そして10年前に作って閉じたサイトと、今回のサイトは何が違うのか。話を聞きました。

10年前のサイトは、閉じた

福原さんが災害情報サイトを作るのは、これが2度目です。

今回立ち上げた「やつしろ災害情報共有」が公開されたのは、地震の2日後でした。

10年前、2016年の熊本地震のときにも同じようなものを作っています。使ったのはJimdoでした。

そのときはまだWordPressを扱う技術がなく、Jimdoを使い慣れていたので。SNSから拾ってきた情報や市役所が出している情報を、ペタペタ貼り付けていくだけ。本当にシンプルなものでした

募金の機能はありません。「そのつもりも全く頭になかったですし」。Jimdoの無料プランを使ったので経費もほとんどかからず、震災直後で仕事ができなかったから何かできることを、という程度の始まりだったと福原さんは振り返ります。

そのサイトは、いまは残っていません。

もうないですね。閉じました。残して余計な混乱を生むのもよくないですし、そんな大したサイトでもなかったので

2016年の地震では、益城町などで大きな被害が出ました。八代では、比較的早くサイトの役目を終えたと福原さんは振り返ります。

今回のサイトは、閉じない設計になっています。

作るときから決めていたことなんですけど、10年で震災が来てしまった。となると、この先も10年以内にまた起きる可能性は十分に考えられます

八代の南には日奈久断層帯があり、今回の地震で動かなかった区間が残るとされています。次に備えられる設計にしよう、と最初から考えていた。

具体的には、こういう形を検討しています。1か月ほどすればアクセスはほとんどなくなる。そうしたら災害モードを一旦休止する。そして次に大きな揺れが来たとき、震度5弱以上を感知したら、サイトが再びアクセスでき、投稿できるようになる。そういう連動を考えているそうです。

管理画面には、機能ごとのオン・オフのスイッチがすでに用意されています。震災直後の段階ではこの機能とこの機能が必要だからオンにする、という設計です。

10年前は、災害が終われば役目が終わるものでした。今回は、次の災害時にも活かせるよう「備える設計」にしています。技術が変わったというより、続けるための設計が変わったということです。

緑色のヘッダーにサイト名と右端の情報ボタンが表示されている。俯瞰的なナビゲーション要素。
「やつしろ災害情報共有」のトップページ。必要が生じるたびに機能が足されてきた

AIに作らせた。それでも情報は人が集めた

サイトの構築には、クラウド型の統合開発環境Replitを使っています。福原さんは2年ほど前にこれに出会い、JimdoもWordPressも使うのをやめて、制作を完全に移行したといいます。

Replitには、作業内容に応じてモデルを自動で選ぶ仕組みが最近実装されました。それまでは、Claude SonnetやOpusの最新版を指定して作っていたといいます。いまはその自動選択に任せているそうです。

作り方も変わってきています。最初のころは「こんなサイトを作りたい」という緩い指示で使っていましたが、いまはChatGPTで基本的なページ構成を作らせ、Replit用のプロンプトに整えてから投げる。そういう手順を踏んでいます。

機能は、必要が生じるたびに足していきました。震災直後に求められたのは、地域がいまどういう状況か、水はどこで出るか、物資はどこでもらえるか、という情報でした。それが落ち着くと、今度は炊き出しの情報が増えてくる。団体が各地に入り、Instagramに情報が並ぶ。それを拾って載せていくうちに、投稿が溜まって見づらくなっていった。そこでカレンダー機能を追加したといいます。

ニーズを感じたら、そこに機能を追加していく。そういう作り方をしています

では、AIに任せなかったものは何か。

掲載する情報の収集です。ここだけは、いまも人の手で行っています。

理由を尋ねると、福原さんはまず「任せっきりはそもそも良くない」と言いました。自分でも把握しておきたい、という気持ちがある。

そして、こう続けました。

分かったうえで掲載しておかないと、サイトに載せた情報でトラブルが起きたときに対処ができません。AIに全部任せて、知らないうちにどんどん載っていると、情報の混乱が起きうる。とくに震災では、間違った情報を出してしまうことがある。情報を混乱させるサイトを作ってはまずい、という思いがありました

技術的な理由も挙がりました。InstagramにしてもFacebookにしても、過去に投稿された情報が上位に上がってくることがあります。それを精査するくらいなら、最初から人が見たほうがいい。

朝や前日の夜にInstagramやFacebook、Xを見て、明日は何があるのかを人の目で確かめてから掲載する。そのほうが私自身の情報の蓄積にもなりますし、確実に私の責任でサイトに上げられます。そこはAIをかませずにやる。明確に分けたところです

「私の責任で上げられる」。この一言が、線引きの理由をよく表しています。

AIが間違えるから人が見るのではありません。誰が責任を持つかを、あらかじめ決めておくためです。

情報収集以外にAIを使ったほうがよかったものはあるか、と聞くと、答えは「特にないですかね」でした。

このサイトの構築自体をAIに任せただけで、それ以外はほぼ全部人力です。クラウドファンディングのサイトを掲載するのも、人力でやっています

人力のほうが楽ならそうしていた、とも語っています。AIは目的ではなく、手段のひとつとして置かれています。

情報収集を担う人手は、いまは福原さん1人ではありません。取材時点で、報酬を支払っている協力者が3名います。原資は、JPYCで受け取った支援です。被災して収入が減った方に作業を手伝ってもらい、対価を支払う。集まった支援を第三者へそのまま渡すのではなく、自身の事業として発注した作業への報酬という形をとっています。

飲食店の営業情報なども、すべて人の手で集めています。Instagramを使っていない高齢の方や、地方では意外と多いSNSを使わない層に届けるためだ、といいます。

やつしろ災害情報共有の地図画面。八代平野に炊き出しや物資配布の位置がアイコンで示され、保育園での炊き出し情報が吹き出しで開いている
地図に並ぶ炊き出しや物資の情報も、すべて人の手で集められている

Replitで何ができて、何ができないか

多言語対応にも、判断の跡があります。

サイトは登録不要で誰でも投稿できる掲示板の形をとっています。そこに多言語の切り替えを付けようとすると、投稿のたびに翻訳が必要になる。APIの費用が積み上がります。

そこで実装されたのが、下部にある「AIに聞いてみる」というチャットボットでした。質問を母国語で入れれば、母国語で返ってきます。サイト内の情報を検索し、その結果をもとに回答を生成するRAGの構成です。

そのために加えた、というのはあります

災害情報共有サイトのAI質問画面。よくある質問がカード表示され、黄色の警告メッセージが目立つUI。
「AIに聞いてみる」の画面。回答の範囲と限界が、利用者に見える位置に書かれている

八代には、農業に従事する外国人の方もいます。多言語化のニーズ自体は、最初から指摘されていました。費用の制約が、別の形の解を生んだことになります。

このチャットボットも、Replit上で作られています。UIとコードの設計をして、APIをつないで投げて返す。「何でもできるので、私は激推ししているんですけど」と福原さんは笑います。

ただ、勧めにくさもあると認めています。

「金額が使い方によって結構変わってくるので」。月額20ドルや100ドルのプランはあるものの、作り込んでいけばすぐに超える。「いくら」と言えない。

そして、この道具には別の顔もあります。2025年7月には、ReplitのAIが「変更禁止」という明確な指示に反し、本番データベースを削除した事故が報じられました。バイブコーディングの安全性をめぐる議論を呼んだ一件です。

福原さんの運用では、そうした事故は起きていません。理由を尋ねると、道具の側の変化と、自身の運用の両方が挙がりました。

そもそもプラットフォームのReplitにアップデートが行われました。あの事故のあと確か、開発データベースと本番データベースが分かれるようになり、開発AIが本番DBを直接触れなくする改善が行われたはずです。加えて、開発環境である程度エラーを潰して本番に反映させるので、大きなトラブルはそもそも起きづらいようになっています

Replitの公式ドキュメントには、エージェントは本番データベースを変更できないと明記されています。事故のあとに入った制限です。

道具の側が、事故を経て設計を変えた。そのうえで、開発環境で確認してから本番に反映するという運用がある。守りが二重になっています。

環境を分けることは、AIに本番を直接触らせないための基本的な対策です。それだけで事故が防げるわけではありません。ただ、AIに何を任せるかという議論の手前に、権限と環境をどう分けるかという実務があることは確かです。新しい道具を使っていても、そこは変わりません。

次の災害のために、誰が引き受けるのか

福原さんが望んでいるのは、横展開です。

隣の市や町でこういうものを運用していただけないか。広がらないかな、というのは正直思っているところです

ただ、方法が見つかっていません。

その方法をどうすればいいのか。私はあまりビジネスが得意ではないので、どう横展開できるのかは、いま悩んでいるところです

オープンソース化は周囲からも勧められているといいます。しかし、そこにも壁があります。

いまはReplit上で動かしているので、ほかの人にファイルだけ渡しても、ある程度知識のある方でないと立ち上げられないと思うんです

代案として、Replit上で複製して自身が運用代行を担う形も考えている。どちらにしても、誰かが引き受けなければ動きません。

2日でサイトが立ち上がる時代になりました。しかし、立ち上げたあとに情報を集め続けるのも、次の災害まで維持し続けるのも、いまのところ人の仕事です。誰が責任を持つのかという問いが残るかぎり、そこは変わりません。

福原さんが情報収集を人力に残したのは、精度の問題ではなく責任の所在の問題でした。同じことが、サイトそのものにも言えます。誰の責任で、誰が続けるのか。その問いに答えが用意されていなければ、次の被災地で同じものが立ち上がるとは考えにくい。

いま必要なのは、コードではないのかもしれません。

技術は、災害の2日後にサイトを立ち上げられるところまで来ました。その先を引き受けるのは、いまも人です。

【プロフィール】

福原 健(ふくはら・たけし)

福原健さん

熊本県八代市在住。コンピュータ専門学校卒業後、印刷・IT関連業界での勤務を経て、2013年に独立。Web制作やグラフィックデザインを中心に事業を行う。2021年からは、小学1年生から高校3年生を対象としたIT教室「iLudens」を運営し、プログラミングやデザイン、動画編集、生成AIなどの指導にも携わる。

2026年7月よりヴィレックス株式会社に入社し、DX事業部部長に就任。現在は同社を本業とし、Web制作やシステム開発、生成AIを活用した業務効率化・DXの取り組みなどを担当している。個人事業「office Glean」とIT教室「iLudens」についても、副業として継続している。


震災で被災したIT教室の再開に向けて、クラウドファンディングを実施している。リターンには、「やつしろ災害情報共有」の構成ファイルの提供と運用代行も設定されている。本文で触れた横展開の、ひとつの手段として用意したものだという。

被災したIT教室を再開し、子どもたちの学びの場を取り戻したい。(外部)
募集期間:2026年9月9日〜9月30日


取材協力:ジャンクお宝鑑定団の本アカ

【編集部後記】

取材の前に、Ioliteさんの記事を読みました。よく整理されていて、聞くことがなくなったかと思ったほどです。

そこで角度を変え、AIに何を任せ、何を任せなかったかだけを聞きました。返ってきたのは、精度の話ではありませんでした。自分の責任で載せたいから、という答えでした。

道具が速くなるほど、誰が引き受けるのかという問いは重くなります。八代で起きているのは、その問いへの実地の回答です。

【関連記事】

Replit AIが本番データベースを無断削除・隠蔽、CEO緊急謝罪でバイブコーディングに衝撃
2025年7月。本文で触れた事故を報じた記事。指示に反して本番データベースが削除され、CEOが謝罪した経緯を扱っている。

Google×Replitが仕掛ける「vibe-coding」
Replitがどういう道具なのかを解説した記事。自然言語プロンプトでアプリが生成される仕組みを、今回の開発手法の前提として読める。

バイブコーディングのセキュリティリスク
AI生成コードの検証が課題だと指摘した記事。福原さんが取った環境分離という手立ては、この課題に対する実地からの答えにあたる。

1月17日【今日は何の日?】「防災とボランティアの日」
技術は進んだのに運用の側が変わらないという問題を扱った記事。10年で何が変わり、何が変わらなかったのかという本稿の問いと重なる。


【用語解説】

Replit
ブラウザ上で動くクラウド型の統合開発環境。自然言語で指示するとAIエージェントがコードを書き、そのまま公開までできる。

AIエージェント
指示を受けて、複数の手順を自律的に実行するAI。Replitでは、要件を伝えるとファイル構成の設計から実装までを進める。

バイブコーディング
コードを直接書かず、AIに自然言語で指示して開発する手法。専門知識がなくても動くものが作れる一方、生成されたコードの検証が課題として指摘されている。

開発環境
実際に公開されているサービスとは別に用意された、動作を試すための場所。ここで確認してから公開側へ反映する。

RAG
Retrieval-Augmented Generationの略。AIが回答を作る前に指定された文書を検索し、その内容をもとに答えを生成する仕組み。

プロンプト
生成AIへの指示文。何を作りたいかを言葉で伝える。

ChatGPT
OpenAIが提供する対話型AI。福原さんはページ構成の下書きに使っている。

Jimdo
ドイツ発のホームページ作成サービス。コードを書かずにサイトを作れる。

WordPress
世界で最も使われているコンテンツ管理システム。テーマやプラグインで機能を拡張する。

日奈久断層帯
熊本県の益城町付近から八代海へ南西にのびる活断層帯。高野−白旗、日奈久、八代海の3区間に分かれており、地震のたびに動く区間が異なる。

震度5弱
気象庁の震度階級のひとつ。多くの人が身の安全を図ろうとする程度の揺れとされる。

JPYC
日本円と1対1で発行・償還されるよう設計された電子決済手段。JPYC株式会社が発行する。

【参考リンク】

やつしろ災害情報共有(外部)
今回取材したサイト。投稿、地図、カレンダー、AIチャットボットが一画面にまとまっており、記事で触れた機能を実際に確かめられる。

Replit(外部)
サイトの構築に使われたクラウド型の統合開発環境。自然言語で指示するとAIエージェントがコードを書き、そのまま公開まで進められる。

Replit Docs|Model selector(外部)
モデル選択の仕様を定めたページ。Free Modeは自動選択のみで、有料プランでは開発者が使うモデルを指定できると記されている。

Replit Docs|Publish your app(外部)
公開の手順を説明したページ。エージェントは本番データベースを変更できないと明記されており、事故のあとに入った制限にあたる。

地震調査研究推進本部|布田川断層帯・日奈久断層帯(外部)
日奈久断層帯の区間区分と長期評価をまとめたページ。八代の南に未破壊の区間が残るとされる根拠を、公的な評価として確認できる。

【参考記事】

被災地から生まれた「JPYCで回る」防災インフラ(外部)
Iolite、2026年8月28日。同じサイトを扱った先行インタビュー。立ち上げの経緯、JPYCを選んだ理由、金融庁への照会、資金の流れが詳しい。本稿はそこで触れられていないAIと人の切り分けに絞っている。

JPYCが使えるお店・場所マップ(外部)
有志が運営する掲載サイト。JPYC決済を受け付ける店舗と、実際の利用額・利用回数が公開されている。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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