Last Updated on 2024-08-15 08:24 by admin
イングランド・プレミアリーグは、2024年8月14日、2024/25シーズンからAIを活用した新しいオフサイド判定システムを導入すると発表した。
このシステムは、スポーツデータ・テクノロジー企業のGenius Sports Limitedが開発した「Semi-Automated Offside Technology (SAOT)」と呼ばれるもので、GeniusIQプラットフォームの一部である。
SAOTシステムは、24〜28台のiPhone 15 Proを使用して選手の動きを捉え、1秒間に100フレームの速度で撮影する。これにより、各選手の3Dモデルを作成し、7,000〜10,000のデータポイントを生成する。
収集されたデータは現場のサーバーに送信され、GeniusIQシステムによって処理される。このシステムは、コンピュータービジョンと予測アルゴリズムを使用して、個々の体の部位を識別し、視界から隠れた場合でもその位置を予測する。
プレミアリーグの20クラブすべてのスタジアムにこのシステムが導置され、オフサイドの判定をリアルタイムで行い、試合の中断を最小限に抑えることが期待されている。
この新システムは、2022年FIFAワールドカップカタール大会で使用されたものと類似しているが、より高度な技術を採用している。
from:iPhones will help decide offside violations in English soccer this season
【編集部解説】
イングランド・プレミアリーグが導入を決定した半自動オフサイドテクノロジー(SAOT)は、サッカー界に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。この技術は、単なるオフサイド判定の効率化だけでなく、ゲーム全体の流れや観戦体験にも影響を与えるでしょう。
まず、SAOTの精度と速度について触れておきましょう。従来のVARシステムでは、オフサイド判定に平均60秒以上かかっていましたが、SAOTはこれを大幅に短縮できると期待されています。また、1秒間に50回もの頻度で選手の動きを追跡し、29のデータポイントを記録するという高精度な技術は、「爪先1ミリ」といった微妙な判定も可能にします。
しかし、この高精度さゆえの課題も存在します。「爪先オフサイド」のような極めて僅かな差での判定が増える可能性があり、これがサッカーの魅力を損なうのではないかという懸念もあります。技術の進歩と競技の本質のバランスをどう取るか、これは今後の重要な議論点となるでしょう。
また、SAOTはAI技術を活用していますが、完全な自動化ではありません。最終的な判断はVAR審判が行い、主審に伝達します。この「人間の目」による最終確認は、技術への過度の依存を避け、公平性を保つ上で重要な役割を果たすと考えられます。
さらに、SAOTの導入は、スタジアムでの観戦体験にも変化をもたらします。3Dアニメーションによるオフサイド判定の可視化は、観客の理解を助け、判定の透明性を高めることが期待されます。
一方で、このような高度な技術の導入には、サイバーセキュリティの問題も考慮する必要があります。システムへの不正アクセスや操作といったリスクに対する対策も、今後重要になってくるでしょう。
長期的な視点で見ると、SAOTの導入は、サッカーのルール自体にも影響を与える可能性があります。より精密な判定が可能になることで、オフサイドルールの解釈や適用方法が変化する可能性も考えられます。
最後に、この技術がサッカー以外のスポーツにも応用される可能性について触れておきましょう。SAOTの成功は、他の競技でも同様の技術導入を促す可能性があり、スポーツ全体のデジタル化・ハイテク化の流れを加速させるかもしれません。
テクノロジーの進化とスポーツの伝統のバランスを取りながら、より公平で魅力的な競技環境を作り出すこと。これが、SAOTが私たちに投げかける大きな課題なのです。