ロンドンの金融街シティ。ここでひっそりと進行している革命は、コンピューターの端末の中ではなく、企業の意思決定の最前線で起きている。
40億ドル——。これは、Salesforceが今後5年間で英国のAIエコシステムに投じると約束した投資額だ。しかし、より重要なのは、この投資が示唆する未来の姿かもしれない。2025年以降、AIは単なる処理能力の向上を超え、ビジネスそのものを理解し、自律的に意思決定を行う存在へと進化すると予測されている。
そして、その未来図を最初に実現しようとしているのが、他ならぬイギリスなのだ。
主要な事実
- Salesforceが英国のAI対応指数調査結果を発表
- 英国はG7諸国の中でAI導入が最も進んでいる
- 2025年以降、エージェント型AIの主流化が予測される
調査結果の詳細
- 英国のAI対応スコアは65.5(G7平均61.2)
- ビジネス準備状況スコアは52(G7平均47.8)
- 公共・民間セクター共にAIの積極的な導入を推進
具体的な取り組み
- Salesforceは今後5年間で40億ドルを英国AIエコシステムに投資
- ロンドンのAIセンターで3,000以上のステークホルダーにトレーニングを提供
- Capita、Secret Escapes等の企業がAgentforceを導入
課題と対策
- 中小企業へのAI導入支援の強化が必要
- EU・米国間の規制アプローチの調整
- デジタルスキル教育の拡充
from Salesforce: UK set to lead agentic AI revolution
【編集部解説】
イギリスが目指すエージェント型AI革命の実現
なぜイギリスなのか
英国は、強力なイノベーション文化と実用的な規制アプローチを組み合わせることで、AIの新時代における主導的立場を確立しつつあります。政府主導のAIセーフティサミットの開催や、リスク重視の法整備など、バランスの取れたアプローチが評価されています。
エージェント型AIの実践例
1. Capitaの事例
- 採用プロセスの完全自動化を目指す
- 従来数週間かかっていた採用プロセスを数日に短縮
- 24時間365日の候補者対応を実現
2. Secret Escapesの事例
- 6,000万人の欧州会員向けサービスを自動化
- 予約変更やキャンセル処理の自動化
- 一般的な旅行関連の問い合わせに即答対応
今後の展望
Salesforceのデータによれば、2025年までにエージェント型AIは「ビジネスを理解する」レベルに到達し、業界特有の課題に対して適切な判断と対応が可能になると予測されています。この変革を成功させるためには、以下の要素が重要となります:
1. 人材育成
- デジタルスキルトレーニングの強化
- AIリテラシーの向上
- 産学連携の促進
2. 規制整備
- EUと米国の規制の架け橋となる新たな枠組みの構築
- 中小企業にも配慮した柔軟な規制アプローチ
- プライバシーと革新のバランス確保
英国の取り組みは、AI革新における新たなモデルケースとなる可能性を秘めています。政府、企業、学術界の協力体制が、この野心的な取り組みの成否を左右するでしょう。
【用語解説】
- Agentforce
- SalesForceが提供する自律型AI エージェントサービスです。顧客サービスの自動化と個別対応を実現し、サービス担当者の生産性を向上させます。
- Einstein 1 Platform
- SalesForceのAIプラットフォームで、データを統合し、業務の効率化と顧客満足度の向上を実現するシステムです。Standard Bankの事例では、案件処理時間を86%短縮し、顧客満足度を28%向上させました。
【参考リンク】
SalesForce(外部リンク)-CRM(顧客関係管理)プラットフォームとして始まり、現在は人工知能やIoTまで幅広いサービスを提供するクラウドベースのビジネスソフトウェアです。営業支援、マーケティング、カスタマーサービスなどの機能を統合し、顧客データの一元管理や業務プロセスの自動化を実現する統合プラットフォームとして、世界中の企業で活用されています
Capita (外部リンク)-Capitaは、1984年に設立されたイギリス最大のビジネスプロセスアウトソーシング企業です。ロンドンに本社を置き、政府機関や民間企業向けに、テクノロジーを活用したビジネスプロセスサービス、カスタマーマネジメント、コンサルティング、人材サービスなどを提供しています。
Secret Escapes(外部リンク)-2011年に設立されたイギリスの会員制旅行会社で、高級ホテルや旅行パッケージを大幅な割引価格で提供しています。現在では14カ国で事業を展開し、6,200万人以上の会員を持つ世界最大級のオンライン旅行ディールプラットフォームとなっています。