米国のスタートアップCanaeryは、動物の嗅覚をデジタル化する革新的な「鼻-コンピューターインターフェース(NCI)」の開発を進めています。2025年2月、米国科学財団(NSF)から65万ドルのPhase 1資金を獲得し、実用化に向けた大きな一歩を踏み出しました。
現行の試作機では128個の電極を搭載し、放火助燃剤や無煙火薬、メタンフェタミン、コカイン、フェンタニルなどの検知が可能です。次世代版では電極数が767個に増強され、より複雑な環境下での検知精度向上が期待されています。
from:A Nose-Computer Interface Could Turn Dogs Into Super Detectors
【編集部解説】
嗅覚のデジタル化は、長年の課題でした。人工的な「電子鼻」の開発は40年以上も続けられてきましたが、生物の持つ優れた嗅覚能力には遠く及びませんでした。
Canaeryの画期的な点は、動物の嗅覚システムをそのまま活用し、そこから得られる神経信号をデジタル化する方法を確立したことにあります。この技術により、特別な訓練を必要とせずに、爆発物から疾病まで、幅広い匂いを検知できるようになります。
技術の仕組み
従来の探知犬は1種類の匂いしか訓練できず、その訓練には数万ドルのコストと数ヶ月の期間を要していました。一方、Canaeryのシステムは、動物の嗅球に設置された極薄の電極アレイを通じて神経信号を直接読み取り、AIで解析することで、わずか2秒以内に複数の匂いを同時に検知することができます。
実用化への道のり
2024年2月、米国科学財団(NSF)から65万ドルの資金を獲得し、フェンタニルと無煙火薬の実環境下での検知実験が開始されました。この成果次第では、さらに500万ドルの追加支援も検討されています。
社会的インパクト
この技術は、以下のような幅広い分野での活用が期待されています
- 空港などでの危険物探知の効率化
- 環境有害物質の早期発見
- 疾病の早期診断(がん、パーキンソン病など)
- 侵略的外来種の検出
- サプライチェーンのモニタリング
倫理的な課題
健康な動物への神経インプラントの使用については、慎重な検討が必要です。Canaeryは、デバイスが組織を傷つけず、強い免疫反応も引き起こさないとしていますが、動物福祉の観点から継続的な評価が求められます。
今後の展望
現在は128個の電極を搭載したプロトタイプを使用していますが、次世代版では767個に増強される予定です。これにより、複雑な背景臭の中でも、より正確な検知が可能になると期待されています。
まとめ
この技術は、人工知能と生物学の融合という点で、非常に興味深い事例といえます。特に注目すべきは、既存の生物システムを「再発明」するのではなく、そのまま活用するというアプローチです。これは今後のバイオテクノロジー開発における一つの方向性を示唆しているかもしれません。