現場の作業員がスマートフォンの画面に文字を打ち込み続ける余裕はない。両手は作業に、目は手元に、声だけが周囲へと飛んでいく。建設現場や倉庫、介護の現場では、そんな瞬間が一日に何度も繰り返されています。ビジネスチャットがどれだけ普及しても、「画面を触れない人」が取り残される構造は変わりませんでした。LINE WORKSが2025年2月18日に提供を開始する「LINE WORKSラジャー」は、その問いに真正面から向き合った製品です。
LINE WORKS株式会社(東京都渋谷区、代表取締役社長:島岡岳史)は、音声AIを活用したスマートフォン用トランシーバーアプリ「LINE WORKSラジャー」を2025年2月18日より提供開始する。
開発の背景には二つの課題がある。ひとつは「現場でスマートフォンを操作しながらの通信が難しい」こと、もうひとつは「従来のトランシーバーでは聞き逃しや聞き間違いが生じる」ことだ。
本製品では、チャットから送られる文字を音声AIが自然な声に変換して現場へ届ける一方、現場からの音声はフィラーや言い淀みを除去し、句読点を補ったうえでテキストとしてLINE WORKSのチャットへ自動反映される。「声で送って、文字で残る」という構造により、現場とオフィスの情報非対称を解消することを目指す。
料金プランはフリー・スタンダード・アドバンストの3段階で、スタンダードおよびアドバンストプランは1ヶ月間の無料トライアルが用意される。同日、NTTソノリティ株式会社および株式会社BONXとの協業によるデバイス連携の実装開始も発表された。
From:
新製品「LINE WORKSラジャー」を2025年2月18日より提供開始(LINE WORKS)
アイキャッチ画像:LINE WORKS Corp.公式プレスリリースより引用
【編集部解説】
「声と文字の非対称」という、ずっと解かれていなかった問題
ビジネスチャットの普及は、「文字を入力できる人」の業務環境を大きく変えました。しかしテキスト入力が前提のツールは、建設現場・倉庫・介護の現場で働く人々にとってむしろ壁になってきました。両手が塞がっている、騒音が激しい、安全確認で目を離せないといった環境では、チャットアプリは「持っているが使えないもの」になります。
LINE WORKSラジャーが向き合っているのは、「現場にいる人はなぜデジタルコミュニケーションから取り残されるのか」という問いです。その答えとして出てきたのが、「音声とテキストを双方向に変換し、入力手段を問わず同じチャットループに乗せる」という設計です。
この技術がなぜ今できるのか——2023年の統合が伏線だった
LINE WORKS株式会社は、ビジネスチャットのノウハウに加え、2023年4月に統合した旧LINE社の音声AI技術を本製品の開発に活用しています。
LINEが長年開発してきた音声認識・合成技術は、もともとLINEアプリの音声メッセージや翻訳機能を支えてきた実用的な基盤です。フィラー(「えー」「あのー」など)の除去や、話し言葉への句読点補完といった機能は、単純な音声認識にとどまらず、「聞き取りやすさ」よりも「読み返せるテキストへの変換」を重視した設計であり、業務記録としての精度を意識したものと見ることができます。
従来トランシーバーとの本質的な違い
ハードウェアのトランシーバーには、デジタルチャットでは代替しにくい強みがあります。電波さえあればネットワーク不要で動作し、バッテリーも長持ちし、専用ボタンの操作感は確実です。
LINE WORKSラジャーが提示するのは「トランシーバーの代替」ではなく、「チャット環境とトランシーバー的操作の統合」です。既存のLINE WORKSユーザーであれば、追加のシステム構築なしに音声通信を追加できる点は、IT部門の負担軽減という観点からも導入障壁を下げる効果があります。
一方、スマートフォンとモバイル通信網への依存は、電波の届かない地下や山間部での利用では従来型に劣る面があります。また、音声データがサーバーを経由することによるプライバシーや情報管理の取り扱いについては、今後の利用規約・データポリシーの確認が導入判断の重要な要素になるでしょう。
デバイス連携が示すもの——スマホだけでは足りない現場がある
同日発表された協業内容も、この製品の射程を読み解く上で見落とせません。
NTTソノリティ株式会社および株式会社BONXとのデバイス連携実装が開始されています。
これが意味するのは、LINE WORKSラジャーが「スマートフォン単体で完結するサービス」に留まらないということです。騒音環境への対応、防塵・防水性、専用ボタンによる確実な操作という「現場の物理的な厳しさ」に向き合うには、スマホ以外のデバイスとの連携が不可欠であることを、LINE WORKS自身が認識していることになります。アプリという入口から、現場のハードウェア環境全体を変えていく構想と読めます。
料金設計と普及戦略
フリープランの提供は、小規模な現場や試験導入のハードルを下げる重要な戦略です。すでにLINE WORKSを導入している企業であれば、追加コストなしに音声通信を体験できるため、既存ユーザーベースからの自然な拡大が期待されます。
一方で、フリープランと有償プランの機能差(同時接続数、通話品質、管理機能など)が実務上どの程度影響するかは、提供開始後に実際の運用を通じて明らかになっていくでしょう。
【用語解説】
Push-to-Talk(PTT)
ボタンを押している間だけ音声を送信する通信方式。従来のトランシーバー(無線機)の基本操作形式。「ラジャー(Roger)」は無線通信で「了解した」を意味する用語で、製品名の由来でもある。
PoC(Push-to-Talk over Cellular)
携帯電話網(4G/5G等)を使ってトランシーバーのような即時音声通信を行う技術カテゴリ。スマートフォンとアプリだけで実現できるため、専用機器の調達・管理が不要になる。LINE WORKSラジャーはこのカテゴリに属する。
フィラー
会話中の「えー」「あのー」「そのー」など、間を埋める無意味な音声。音声認識で文字起こしする際に含まれると読みにくさの原因となる。LINE WORKSラジャーでは音声AI処理でこれを除去し、自然なテキストとして出力する。
NTTソノリティ
ソニーから分社化した音響・通信技術の開発会社を源流に持ち、NTTグループ傘下となった企業。耳をふさがない骨伝導技術を含む通信デバイスの開発などを手がける。LINE WORKSラジャーとのデバイス連携を進める協業パートナーのひとつ。
BONX
アウトドア・スポーツ・建設現場などの過酷な環境向けに、スマートフォンと連携するPTTデバイスを提供するスタートアップ。ハンズフリーでの音声通信を得意とし、LINE WORKSラジャーとのデバイス連携を進める協業パートナーのひとつ。
【参考リンク】
LINE WORKSラジャー 特設サイト(外部)
料金プランの詳細、利用シーン別の機能紹介、トライアルの申し込みはこちらから。
LINE WORKS 公式サイト(外部)
LINE WORKSシリーズの製品ラインナップ、業種別の活用事例。ラジャーのほかAiNote・PaperOn・AiCallなどのAI製品群も確認できる。
BONX 公式サイト(外部)
現場・アウトドア向けPTTデバイスの先駆企業。LINE WORKSラジャーとのデバイス連携パートナー。ハードウェアと音声通信の組み合わせに関心のある方向け。
【参考記事】
新製品「LINE WORKSラジャー」、現場DXを加速するためにNTTソノリティ株式会社、株式会社BONXと協業し、デバイス連携に向けた実装を開始 — LINE WORKS(外部)
メインPRと同日発表の協業リリース。スマートフォン単体にとどまらないデバイス戦略の全体像が記載されている。
新製品「LINE WORKSラジャー」、デバイスメーカーと協業し、対応デバイスを拡充する取り組みを開始 — LINE WORKS(外部)
2月発表に先立つ1月の協業開始告知。デバイス連携の構想がこの時点から動いていたことが分かる。
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