Googleは、AIチャットボットGeminiに検索履歴を活用したパーソナライゼーション機能を導入することを発表した。この発表は2025年3月7日(木曜日)のGoogleの公式ブログで行われた。この機能は「ウェブとアプリのアクティビティ」をオンにしているユーザーが利用でき、ユーザーの検索履歴に基づいてより関連性の高い回答を提供する。例えば、特定の趣味について検索していた場合、関連する質問をしたときにその文脈を考慮した回答が得られるようになる。
この機能は最初に米国の英語で提供され、徐々に他の言語や地域にも拡大される予定だ。また、将来的には位置情報や他のGoogle製品からの情報も活用できるようになる見込み。パーソナライゼーションはオプション機能であり、ユーザーはいつでもGoogleアカウント設定から無効にすることができる。さらに、Gemini内でも簡単に切り替えられるトグルスイッチが追加される予定だ。
この発表は、OpenAIのChatGPTがウェブ閲覧やサードパーティプラグインの利用など新機能を追加している中で行われた。Googleも対抗してGeminiの機能拡充を進めており、最近ではGoogle Messagesへの統合も発表している。Geminiは2023年12月に発表されたGoogleの最新AIモデルで、現在約1億人のユーザーがさまざまな形で利用している。
from Gemini can now personalize its answers based on your search history
【編集部解説】
GoogleのAIチャットボットGeminiに導入されるパーソナライゼーション機能は、AIアシスタントの進化における重要なステップと言えるでしょう。2025年3月7日に正式に発表されたこの機能は、Gemini 2.0 Flash Thinking Experimentalモデルを活用して、ユーザーの検索履歴を参照し、個々のユーザーの関心や文脈に合わせた回答を提供します。
この機能の仕組みは比較的シンプルです。ユーザーがGeminiアプリでモデルドロップダウンから「Personalization (experimental)」を選択すると、Geminiは質問内容を分析し、検索履歴が回答の質を向上させるかどうかを判断します。例えば、レストランの推薦を求めた場合、最近の食べ物関連の検索を参照したり、旅行のアドバイスを求めた場合は以前検索した目的地に基づいて回答を提供したりします。
この動きは、AIアシスタントがより「個人的」で「文脈を理解する」存在へと進化していることを示しています。従来のAIチャットボットは一般的な質問に対して汎用的な回答を提供するものでしたが、パーソナライズされたAIは、ユーザーの過去の行動や興味に基づいて情報をフィルタリングし、より関連性の高い回答を提供します。
注目すべきは、Googleがこの機能を完全にオプトイン(選択して有効にする)方式にしていることです。ユーザーは明示的に許可を与えない限り、Geminiが検索履歴にアクセスすることはありません。また、いつでも「ウェブとアプリのアクティビティ」をオフにすることで無効にできます。さらに、Gemini内に直接パーソナライゼーションのオン/オフを切り替えるトグルスイッチも追加される予定です。
将来的には、GoogleフォトやYouTubeなど他のGoogleサービスとの連携も計画されており、例えば最近の旅行の写真からその場所に基づいた旅程を作成したり、運転免許証の有効期限などの情報を思い出させたりする機能も追加される予定です。
しかし、このようなパーソナライゼーションには、プライバシーとの兼ね合いという課題も存在します。個人データの収集・分析に伴うプライバシー侵害のリスクや、アルゴリズムの透明性の欠如などが懸念されます。また、「フィルターバブル」と呼ばれる現象—既存の興味や信念に合致する情報ばかりが提示され、視野が狭くなる可能性—も指摘されています。
地域によっては規制の影響も見られます。興味深いことに、この機能は欧州経済領域(EEA)、スイス、イギリスでは提供されません。これは欧州のより厳格なデータプライバシー規制(GDPR)の影響と考えられます。また、18歳未満のユーザーも利用できないという制限があります。
この発表はまた、GoogleとOpenAIの間で激化するAI競争の一環とも捉えられます。OpenAIのChatGPTがウェブ閲覧機能やプラグイン対応などの新機能を次々と追加する中、Googleも自社の強みである検索データを活用したパーソナライゼーションで差別化を図ろうとしています。また、Appleが個人AIアシスタントの開発を進めているという噂もある中、Googleが先行して個人化機能を導入したことは戦略的な動きと言えるでしょう。
Geminiのパーソナライゼーション機能は、現在はウェブ版のGeminiおよびGemini Advancedユーザー向けに提供されており、モバイル版には徐々に展開される予定です。40以上の言語で利用可能とされていますが、日本語での提供時期については明確な発表はありません。
テクノロジーの恩恵を最大限に受けつつ、自分のデータをどこまで共有するかをコントロールすることが、デジタル時代を賢く生きるための鍵となるでしょう。
【用語解説】
Gemini: Googleが開発した会話型AI。2023年12月に発表され、当初はBardと呼ばれていましたが、2024年2月からGeminiに改名されました。テキスト、画像、音声など複数の形式の情報を同時に処理できる「マルチモーダルAI」です。
パーソナライゼーション: AIが個人の行動履歴や好みに基づいて情報やサービスをカスタマイズすること。例えば、Netflixの視聴推奨やAmazonの商品推奨などがこれにあたります。
フィルターバブル: 検索サイトやSNSで、自分の好みや興味に合った情報ばかりが表示され、異なる意見や新しい情報に触れる機会が減少する現象。情報の「泡(バブル)」の中に閉じ込められるようなイメージです。
GDPR(一般データ保護規則): 欧州連合(EU)が施行している個人データ保護に関する規則。個人データの収集・処理に関して厳格な基準を設けており、企業はユーザーの明示的な同意なしに個人データを使用できません。
【参考リンク】
Google Gemini(外部)Googleの最新AIアシスタント。無料版と有料の高性能版(Gemini Advanced)があり、テキスト生成や画像認識などの機能を提供
Google AI Blog(外部)Googleの公式AIブログ。最新のAI技術や機能についての詳細な情報を提供しています。