Last Updated on 2025-04-08 16:52 by admin
IBMは2025年4月7日(月曜日)、AI時代に対応した新メインフレームハードウェア「IBM z17」を発表した。このメインフレームはIBM Telum IIプロセッサを搭載し、AIエージェントや生成AIを含む250以上のAIユースケース向けに設計されている。
現在、フォーチュン500企業の71%がメインフレームを使用しており、2024年のメインフレーム市場は約53億ドル(約7,950億円)の規模である。
z17は1日に4,500億の推論操作を処理可能で、2022年4月にリリースされた前モデル「IBM z16」と比較して50%の性能向上を実現している。また、他のハードウェア、ソフトウェア、オープンソースツールと完全に統合できるよう設計されている。
IBM Zの製品管理・設計担当バイスプレジデントであるティナ・タルキニオ氏によると、z17の開発は2020年頃から5年間かけて行われ、2022年11月のOpenAIのChatGPTリリースで加速したAIブームよりもはるかに前から準備されていた。IBM社は開発過程で100社以上の顧客から2,000時間以上のフィードバックを収集した。
z17は発売時に48個のIBM Spyre AIアクセラレータチップをサポートし、12か月以内にその数を96個まで増やす計画である。エネルギー効率においても、チップ上でのAI加速を7.5倍に向上させながら、業界の他のプラットフォームと比較して5.5倍少ないエネルギー消費で実現している。
IBM z17メインフレームは2025年6月18日に一般提供が開始される予定である。
from IBM releases a new mainframe built for the age of AI
【編集部解説】
「AI時代に向けたメインフレーム」という言葉は、一見矛盾しているように思えるかもしれません。最先端のAIと、多くの方が「レガシー」と考えるメインフレームが組み合わさるとは?しかし、IBMの新しいz17は、まさにその矛盾を解消する野心的な製品なのです。
メインフレームという言葉を聞くと、時代遅れの技術と考える方もいるかもしれません。しかし実は、現代のビジネスインフラの中核として依然として重要な役割を果たしています。フォーチュン500企業の71%がメインフレームを使用し、価値ベースで世界の取引の70%以上がZ systemsユニット上で処理されているという事実は、その重要性を物語っています。
z17の開発は、2020年頃から始まった5年間のプロジェクトであり、OpenAIのChatGPTがリリースされて始まったAIブームよりもはるかに前から計画されていました。これは、IBMが業界の動向を先読みし、メインフレームとAIの融合が必然であると認識していたことを示しています。
特筆すべきは、Telum IIプロセッサとSpyre AIアクセラレータチップの組み合わせです。Telum IIは8つの高性能コアを5.5GHzで動作させ、大容量のキャッシュを備えています。一方、Spyreは32のAIアクセラレータコアを持ち、低精度計算とAI中心のアーキテクチャにより、低レイテンシの推論を可能にします。
なぜこれが重要なのでしょうか?多くの企業がAIの導入を進める中、データセキュリティとコンプライアンスの問題が大きな障壁となっています。特に金融や医療のような規制の厳しい業界では、機密データをクラウドに移行することなく、オンプレミスでAIを運用したいというニーズがあります。z17はそのようなニーズに応えるものです。
エネルギー効率も重要なポイントです。AIの処理には膨大な電力が必要ですが、z17はチップ上でのAI加速を7.5倍に向上させながら、業界の他のプラットフォームと比較して5.5倍少ないエネルギー消費で実現しています。サステナビリティが重視される現代において、これは無視できない利点です。
しかし、z17がもたらす最も重要な価値は、AIの処理能力をトランザクションの発生地点にもたらすことかもしれません。従来のクラウドベースのAIソリューションでは、データをクラウドに送信し、処理結果を待つ必要がありました。z17を使用することで、データが生成される場所で直接AIを適用できるため、レイテンシを大幅に削減し、リアルタイム分析や意思決定を可能にします。
もちろん、課題もあります。メインフレーム技術は高価であり、専門知識を持った人材の確保も難しいかもしれません。また、クラウドネイティブなAIソリューションと比較した場合の柔軟性やスケーラビリティにも疑問が残ります。
それでも、IBMのz17は、AIとメインフレームの融合という新しい可能性を示しています。特に、データセキュリティと処理速度が重視される業界において、z17は大きな価値を提供するでしょう。2025年6月18日の一般提供開始後、どのような導入事例が出てくるのか、注目したいと思います。
【用語解説】
メインフレーム:大規模な企業や組織で使用される高性能コンピュータシステム。一般的なPCやサーバーと比べて処理能力、信頼性、セキュリティが高い。銀行のATMシステムや航空券予約システムなど、ダウンタイムが許されない重要なシステムで使用される。家庭用エアコンと業務用空調システムの違いのようなもの。
推論操作(inference operations):AIモデルが学習後に新しいデータを処理して結果を予測するプロセス。例えば、顔認識システムが写真から人を識別するときの処理。学校の授業で学んだ知識を使って問題を解くようなもの。
Telum IIプロセッサ:IBMが開発したメインフレーム向けの最新プロセッサ。8つのコアを5.5GHzで動作させ、大容量のキャッシュメモリを搭載している。AIの処理を高速化するための専用回路を内蔵している。
Spyre AIアクセラレータチップ:AIの計算を専門に処理するために設計されたチップ。32のAIアクセラレータコアを持ち、低精度計算に最適化されている。将来的には96個まで拡張可能。GPUが映像処理に特化しているように、Spyreチップはマトリックス計算などAI処理に特化している。
PCIe:Peripheral Component Interconnect Express。コンピュータ内部でデバイスを接続するための高速インターフェース規格。グラフィックカードやSSDなどを接続するために使用される。
【参考リンク】
IBM z17公式ページ(外部)
IBM z17メインフレームの公式サイト。製品の詳細仕様、特長、ユースケースなどが掲載されている。
IBM Research(外部)
IBMの研究開発部門。Telum IIプロセッサやSpyre AIアクセラレータチップの開発を担当した。
IBM watsonx(外部)
IBMのAIプラットフォーム。z17と組み合わせることで、企業データを安全に活用したAIアプリケーションを実現する。
IBM Z and LinuxONE コミュニティ(外部)
IBM Zシリーズとその活用事例、技術情報などを共有するコミュニティサイト。