Last Updated on 2025-04-14 16:58 by admin
カリフォルニア工科大学(Caltech)で研究を行っていた高校生マテオ(マシュー)・パズが、AIアルゴリズムを開発し、宇宙で150万の未知の天体を発見した。この成果は『天文学ジャーナル(The Astronomical Journal)』に単著論文として発表された。
※Published in Journal(雑誌掲載済み)
DOI: 10.3847/1538-3881/ad7fe6
A Submillisecond Fourier and Wavelet-based Model to Extract Variable Candidates from the NEOWISE Single-exposure Database
パズが開発したAIアルゴリズムは、NASAの近地球天体広視野赤外線探査機(NEOWISE)が10年以上にわたって収集した膨大なデータを分析するために使用された。NEOWISEは地球近傍の小惑星を探索するために全天をスキャンしていた赤外線望遠鏡である。
このプロジェクトは2022年夏、パズがCaltech Planet Finder Academyに参加したことから始まった。IPACのシニアサイエンティストであるデイビー・カークパトリックがメンターを務め、約2000億行に及ぶNEOWISEのデータから変光天体を見つける課題を提案した。
パズはコーディング、理論的コンピュータサイエンス、形式数学の知識を活かし、機械学習技術を開発。望遠鏡の赤外線測定値の微小な違いを検出するアルゴリズムを訓練し、クエーサーや爆発する恒星、連星などの変光天体を特定した。
2024年には、パズとカークパトリックは再び協力し、今度はパズが他の高校生の指導も行った。現在、パズはAIモデルを洗練させ、すべての生データを処理・分析した結果、150万の潜在的な新天体を特定・分類することに成功した。
2025年には、パズとカークパトリックはNEOWISEデータで明るさが大幅に変化した天体の完全なカタログを発表する予定である。パズの開発したモデルは天文学における時間領域研究だけでなく、株式市場分析や大気汚染研究など他分野への応用も期待されている。
現在、高校卒業を控えたパズはCaltechの従業員として、IPACでカークパトリックのもとで働いている。IPACはNEOWISEを含む複数のNASAおよびNSF支援の宇宙ミッションからのデータを管理・処理・分析する機関である。
from:High school student uses AI to reveal 1.5 million previously unknown objects in space
【編集部解説】
高校生の科学的才能が宇宙の謎解きに新たな一石を投じました。マテオ・パズさんの研究は、単なる「高校生の研究」の枠を超え、天文学界に大きなインパクトを与えています。
パズさんが開発したAIアルゴリズムは、NASA NEOWISEの膨大なデータから新たな発見を導き出しましたが、その背景には興味深いストーリーがあります。当初、彼はCaltechでの夏季インターンシップで「典型的なインターン作業」として膨大なデータを手作業で分析する任務を与えられました。しかし、彼はその単調な作業を自動化するためにAIアルゴリズムを開発したのです。この「面倒な作業を避けたい」という動機から生まれたソリューションが、結果的に天文学における大発見につながったことは、イノベーションの本質を表しています。
パズさんの発見した150万の天体は単なる星や惑星ではなく、「変光天体」と呼ばれる特殊な天体です。これらは明るさが劇的に、時には予測不可能に変化する天体で、超新星、超大質量ブラックホール、連星系などが含まれます。特にブラックホールは、物質を取り込む量や回転速度によって放出するジェットの明るさが変化するため、宇宙の謎を解く重要な手がかりとなります。
技術的な観点から見ると、パズさんのアルゴリズムは、約2000億行という膨大なデータを効率的に処理するために開発されました。赤外線放射の微小な変化を検出し、天体を異なるクラスに分類するこの手法は、天文学における「ビッグデータ」活用の新たな可能性を示しています。
この研究が特に注目に値するのは、NEOWISEが本来、地球近傍の小惑星や彗星を探索するために設計されたミッションであったという点です。パズさんは、この望遠鏡が収集した赤外線データが、星間塵に覆われた深宇宙の天体も観測できることに着目し、データの二次利用という形で新たな価値を創出しました。これは既存のデータから新たな知見を得るデータサイエンスの可能性を示す好例といえるでしょう。
パズさんの発見した天体の多くは現時点では「候補」であり、今後さらなる研究によって確認が必要です。しかし、既に天文学者たちが彼のカタログを詳しく調査し始めており、これらの発見が宇宙の膨張速度の測定など、物理学を書き換える可能性のある宇宙の謎の解明に貢献することが期待されています。
また、パズさんの開発したアルゴリズムは天文学だけでなく、時系列データを扱う他の分野にも応用できる可能性があります。彼自身が言及しているように、株式市場の分析や大気汚染の研究など、周期的な要素が重要な役割を果たす様々な分野での活用が考えられます。
この事例は、若い世代の科学的才能を育成するメンタリングの重要性も示しています。パズさんのメンターを務めたデイビー・カークパトリック氏自身も、高校時代の教師の支援によって天文学者になる夢を実現した経験から、次世代の科学者を育てることに情熱を注いでいます。
テクノロジーとAIの進化により、これまで人間の手では到底処理できなかった規模のデータから新たな発見を導き出すことが可能になっています。パズさんの研究は、AIと天文学の融合がもたらす可能性の一端を示すものであり、今後もこの分野での革新的な発見が期待されます。
【用語解説】
AIアルゴリズム:
人工知能が問題を解決するための手順や規則のこと。人間の脳が行う判断や予測を模倣するために使用される。
変光天体:
時間とともに明るさが変化する天体のこと。例えば、連星系や脈動する恒星などが含まれる。
NEOWISE:
NASAの地球近傍天体探査ミッション。小惑星や彗星を観測する赤外線望遠鏡を使用している。
機械学習:
コンピュータがデータから学習し、パターンを見つけ出す技術。人間が明示的にプログラミングしなくても、コンピュータが自動的に改善していく。
データサイエンス:
大量のデータから有用な情報や知見を抽出する学問。統計学、数学、コンピュータサイエンスなどを組み合わせて活用する。
【参考リンク】
カリフォルニア工科大学(Caltech)(外部)
世界トップクラスの理工系大学。今回の研究を行った高校生が所属していた機関。
NASA(アメリカ航空宇宙局)(外部)
アメリカの宇宙開発機関。NEOWISEミッションを運営している。
NEOWISE(外部)
NASAの地球近傍天体探査ミッション。今回の研究で使用されたデータの出典。
【編集部後記】
皆さん、宇宙の謎に興味はありますか?今回の高校生の発見は、私たち一般人にも身近なAI技術が宇宙探査に革命をもたらす可能性を示しています。もし皆さんが膨大なデータの中から価値を見出す方法を考えたことがあれば、それは天文学でも同じ課題なのです。皆さんの周りにある「使われていないデータ」から、どんな発見が生まれるでしょうか?ぜひSNSで、AIと宇宙についての皆さんの考えをシェアしてください。