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DARPAが挑むAI数学証明の最前線――人類と機械の知性はどこへ向かうのか

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-28 18:27 by admin

2025年4月27日、米国防高等研究計画局(DARPA)は「Exponentiating Mathematics(expMath)」プロジェクトを発表した。目標は、AIが数学的証明の生成や検証を支援し、人間の研究者と協働できる「AI共同研究者(AI co-author)」の開発。
中核技術は、自然言語で書かれた数学的命題を自動で細分化する「自動分解(auto decomposition)」と、自然言語と厳密な形式的記述を相互に変換する「自動(非)形式化(auto(in)formalization)」。
カーネギーメロン大学やプリンストン高等研究所、Fountain Abodeなどが参加。2025年4月時点では提案募集段階で、今後3年程度でプロトタイプ開発を目指す。
また、米国防イノベーション・ユニット(DIU)はScale AIと協力し、軍事作戦計画支援AI「Thunderforge」を2025年3月から初期配備している。expMathは基礎科学だけでなく、量子耐性暗号や作戦計画など軍事分野への応用も視野に入れている。

from:DARPA calls for AI proposals to accelerate math research • The Register

【編集部解説】

expMathプロジェクトは、AIによる数学的推論の自動化を通じて、科学研究の根本的な進化を目指しています。従来のAIは既存パターンの認識や計算の自動化が中心でしたが、expMathは「未知の問題に対する新しいアプローチの創出」を目指している点が画期的です。

数学の証明は、単なる計算や手順の積み重ねではなく、「抽象化」や「概念の飛躍」が不可欠です。expMathが実現すれば、AIが人間と協働しながら、これまで人類が数十年かけて到達した発見や証明を、短期間で生み出す可能性があります。これは、基礎科学の進展だけでなく、暗号技術、創薬、宇宙開発など多様な分野での応用が期待されます。

一方で、DARPAやDIUといった軍事機関が主導していることから、AIによる自動証明技術が軍事作戦や暗号解読など安全保障分野に転用されるリスクもあります。AIが生成した証明や戦略の「理解可能性」や「説明責任」、知的財産権、倫理的なガイドラインの整備が今後の課題です。

また、AIが証明を自動生成できるようになれば、「人間の創造性や直観の役割はどうなるのか?」という知性観の再定義も求められます。AIと人間がどのように協働し、知識を拡張し合うかは、今後の科学・社会にとって重要なテーマです。

【編集部追記】

科学者に発見の感動は残るのか

科学の世界では、未知の真理を探し当てたときに生まれる「発見の感動」が、研究者たちの大きな原動力となっています。たとえば、アンドリュー・ワイルズ氏がフェルマーの最終定理を証明した際、長年の探求の末に目標を達成した喜びと同時に、「どこか喪失感もあった」と語ったことは有名です。これは、長い時間をかけて問題に向き合い、試行錯誤を重ねた末にしか味わえない、特別な体験だったのでしょう。

また、アニメ『チ。-地球の運動について-』でも、登場人物たちが「感動」という言葉を何度も口にします。未知への好奇心や、困難を乗り越えて新しい知識にたどり着く過程そのものが、科学者にとってかけがえのない喜びであることが描かれています。

こうした背景を踏まえると、AIが数学の証明や科学的発見を自動で成し遂げる時代に、私たちは「発見の感動」をどのように受け止めるべきか、改めて考えさせられます。AIが難問を解決したとき、人間はその過程をどこまで追体験できるのか、それとも結果だけを享受する“観客”になってしまうのか――。

今後も、科学者自身が「なぜ」「どうやって」という問いを持ち続け、探求のプロセスに主体的に関わることができるかどうかが、科学における“感動”のあり方を左右するのかもしれません。AI時代の今だからこそ、「発見の感動」の本質について、私たち一人ひとりが考えてみる価値がありそうです。

【用語解説】

自動分解(auto decomposition)
数学の問題を小さなパーツ(補題)に分けて解決しやすくする技術。大きなパズルを細かく分けて組み立てるイメージ。

自動(非)形式化(auto(in)formalization)
自然言語の説明と厳密な数学的記述をAIが自動で変換する技術。口語文を法律文書に書き換えたり、逆に分かりやすく説明し直す作業に例えられる。

神経記号AI
直観的なパターン認識(ニューラルネットワーク)と論理的な推論(記号処理)を組み合わせたAI技術。将棋AIが「直観で一手を予測」しつつ「ルールに従って合法手だけを選ぶ」イメージ。

【参考リンク】

DARPA(ダーパ/国防高等研究計画局):アメリカ国防総省の研究開発機関。インターネットやGPSの原型など、画期的な技術を生み出してきた。

Scale AI(スケールエーアイ):AI開発用の高品質データを提供する米企業。自動運転や生成AI、軍事など幅広い分野で活用されている。

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野村貴之
理学と哲学が好きです。昔は研究とかしてました。
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