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マイクロソフト、AIで核融合研究を加速 – 膨大な電力消費問題の解決策となるか

マイクロソフト、AIで核融合研究を加速 - 膨大な電力消費問題の解決策となるか - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-10 23:28 by admin

マイクロソフトは2025年5月7日、AIを活用して核融合エネルギー研究を加速させる取り組みについて発表した。同社のマイクロソフトリサーチは2025年3月に初の「核融合サミット」を開催し、科学者や専門家を集めてAIと核融合技術の融合について議論した。

このサミットでは、マイクロソフトリサーチアクセラレーター組織のコーポレートVPおよびマネージングディレクターであるアシュリー・ロレンスが開会の挨拶を行い、米国エネルギー省プリンストンプラズマ物理研究所(PPPL)所長のスティーブン・カウリー卿が基調講演を務めた。カウリー卿は、AIが「消費者が支払いたいと思う価格で電力を供給する核融合発電の最適な構成を見つける上での重要な要素であるかどうか」を理解するためにさらなる研究が必要だと述べた。

マイクロソフトリサーチの3人の研究者、ケンジ・タケダ、シュルティ・ラジュルカー、アデ・ファモティは、核融合エネルギーの実現にはまだ数年かかるが、AIが研究を加速し、より早く電力網に導入できる可能性があると指摘している。

また、プリンストンプラズマ物理研究所はマイクロソフトと協力するための覚書を締結しており、AIを活用した核融合研究の加速を目指している。

米国科学・工学・医学アカデミーによると、核融合発電の実用化は2035年から2040年の間に実現すると予測されている。これはフランスで建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)の運用開始予定時期と重なっており、ITERは2035年に初期段階の運用を開始する予定である。

一方で、AIの持続可能性に関する懸念も指摘されている。国連環境計画の報告によれば、AIサーバーを収容するデータセンターは電子廃棄物の生成、水の大量消費、重要鉱物や希少元素への依存、そして大量の電力使用による温室効果ガスの排出など、環境への負荷が大きい。ArmのCEOは、AIの電力需要が2030年までに米国の電力の25%を消費する可能性があると警告している。

マイクロソフトは現在、カーボンオフセットの購入、クリーンエネルギーの取得、ハードウェアとソフトウェアの最適化によってAIの環境影響に対応しているが、核融合エネルギーの実現がこの問題の解決策となる可能性に期待を寄せている。

References:
文献リンクMicrosoft wants us to believe AI will crack practical fusion power, driving future AI

【編集部解説】

マイクロソフトが核融合研究にAIを活用する取り組みを進めていますが、この動きは単なる技術的な挑戦以上の意味を持っています。核融合発電は、理論上は無限に近いクリーンエネルギーを生み出す夢の技術として長年研究されてきましたが、実用化への道のりは遠く、「あと30年で実現する」という言葉が何十年も繰り返されてきました。

今回のマイクロソフトの取り組みの背景には、急速に拡大するAI技術の膨大なエネルギー消費という課題があります。ArmのCEOが警告するように、AIの電力需要は2030年までに米国の電力の25%を消費する可能性があり、この問題は今後さらに深刻化すると予測されています。

マイクロソフトリサーチが開催した核融合サミットでは、プリンストンプラズマ物理研究所のスティーブン・カウリー所長が基調講演を行い、AIが核融合研究を加速する可能性について語りました。特に注目すべきは、カウリー氏が「試行錯誤で核融合を実現するのは愚か」と述べ、AIによる計算と予測が数十億ドル規模の実験を効率化できるという見解を示した点です。

実際、AIはすでに核融合研究の様々な側面で活用されています。プリンストン大学とPPPLの研究者たちは、AIを使ってプラズマの不安定性を最大300ミリ秒前に予測することに成功しています。これは核融合炉の安定運転において重要な進歩です。

The Registerの記事が皮肉を込めて指摘するように、「AIが核融合を実現し、その核融合がAIを動かす」という循環論法的な展望には懐疑的な見方もあります。現実には、核融合発電の商業化は2035年から2040年、あるいは専門家によっては2050年頃と予測されており、短期的なエネルギー問題の解決策にはなりません。

また、マイクロソフトの取り組みには、自社のAIビジネスによる環境負荷を相殺したいという意図も透けて見えます。現在同社は、カーボンオフセットの購入やクリーンエネルギーの取得などで対応していますが、根本的な解決には至っていません。

一方で、AIと核融合の組み合わせが持つ可能性は無視できません。AIは材料科学、プラズマ制御、リアクター設計の最適化など、核融合研究の多くの側面で革新をもたらす可能性があります。特に、複雑なシミュレーションや膨大なデータ分析を必要とする核融合研究は、AIの得意分野と合致しています。

北米最大の核融合施設であるDIII-Dを運営するリチャード・バタリー氏も、デジタルツインプラットフォームとAIの組み合わせが核融合研究を加速させると期待を寄せています。

核融合が実現すれば、理論上は燃料(水素同位体)が豊富で、二酸化炭素を排出せず、原子力発電のような長期的な放射性廃棄物の問題も少ないエネルギー源となります。しかし、技術的ハードルは依然として高く、商業化までには多くの課題が残されています。

マイクロソフトのこの取り組みは、テクノロジー企業が直面するエネルギー課題と環境問題の解決を模索する一例であり、今後他の企業も同様の取り組みを進める可能性があります。また、AIと他の先端科学分野の融合が、イノベーションを加速させる新たなモデルとなることも期待されています。

【用語解説】

核融合とは
核融合とは、水素のような軽い原子核同士が融合してヘリウムなどの重い原子核に変わる反応である。太陽のエネルギー源でもあり、燃料1gで石油8トン分のエネルギーを生み出す潜在力を持つ。

核融合と核分裂の違い
核分裂(原子力発電で使用)は重い原子核が分裂する反応であるのに対し、核融合は軽い原子核が結合する反応である。核融合は暴走のリスクがなく、放射性廃棄物の管理期間も100年程度と短い。

DT核融合反応重水素
(D)と三重水素(T)の原子核が融合する反応で、現在最も研究が進んでいる核融合方式である。この反応ではヘリウムと中性子が生成される。

ITER(イーター)
国際熱核融合実験炉の略称で、日本、米国、EU、ロシア、中国、韓国、インドの7カ国・地域が参加する国際プロジェクト。フランスのサン・ポール・レ・デュランスに建設中で、2035年頃の運転開始を目指している。

プリンストンプラズマ物理研究所(PPPL)
1951年に設立された米国エネルギー省所轄、プリンストン大学運営の国立研究所。核融合とプラズマ物理学の研究で世界トップレベルの機関である。所長のスティーブン・カウリー卿は元英国原子力機関の最高経営責任者でもある。

DIII-D
北米最大の核融合施設で、米国エネルギー省所有、ゼネラル・アトミックス社運営のトカマク型核融合実験装置。AIアプリケーションのテスト環境としても活用されている。

マイクロソフトリサーチ
1991年に設立されたマイクロソフトの研究機関。計算機科学を中心に11の分野で研究を行い、チューリング賞やフィールズ賞受賞者など著名な研究者が多数所属している。2024年11月には東京にも研究拠点「マイクロソフトリサーチアジア東京」を設立した。

AIのエネルギー消費問題
ArmのCEOレネ・ハースによると、AIの電力需要は2030年までに米国の電力の25%を消費する可能性がある。現在の4%から大幅に増加する見込みで、持続可能性に関する懸念が高まっている。ChatGPTの1リクエストは通常のGoogle検索の約10倍の電力(2.9ワット)を消費するという。

【参考リンク】

量子科学技術研究開発機構(QST)(外部)
日本の核融合研究を主導する国立研究機関。JT-60SAなど大型実験装置を運用

ITER機構(外部)
国際熱核融合実験炉プロジェクトの公式サイト。最新の建設状況や研究成果を公開

マイクロソフトリサーチ(外部)
AIと科学の融合を含む先端研究を行う機関。核融合サミットの詳細情報も掲載

プリンストンプラズマ物理研究所(外部)
米国の核融合研究をリードする国立研究所。AIを活用した核融合研究の最前線

京都フュージョニアリング(外部)
日本の核融合スタートアップ企業。実用化に向けた革新的な技術開発に取り組む

【参考動画】

【編集部後記】

核融合とAIという二つの未来技術の融合は、私たちの生活をどう変えるでしょうか? 夢の発電技術と言われる核融合が実現すれば、エネルギー問題は解決するかもしれません。一方で、AIの電力消費は増加の一途をたどっています。皆さんは、テクノロジーの進化と持続可能性のバランスについてどうお考えですか? 未来のエネルギー源について、ご意見やアイデアをSNSでぜひ共有してください。

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TaTsu
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