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AIが声から疾患を検出|Canary Speech、PST等が音声バイオマーカー技術で医療革命

AIが声から疾患を検出|Canary Speech、PST等が音声バイオマーカー技術で医療革命 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-24 06:58 by admin

AIによる音声解析で心疾患やアルツハイマー病を検出する技術が急速に進歩している。南フロリダ大学(USF)ヘルスのボイスセンター長であるヤエル・ベンスッサン博士らの研究チームが、人工知能(AI)を活用した音声バイオマーカー技術の開発を進めており、この技術は心疾患やアルツハイマー病など様々な疾患を音声から検出することを目指している。

ルクセンブルク健康研究所の研究では、約600人の音声記録をAIで分析し、2型糖尿病の検出に成功した。2024年12月に発表された研究によると、男性の糖尿病症例の71%、女性の66%を音声分析のみで正しく識別できた。

ボストン大学のイオアニス・パスカリディス博士は、軽度認知障害患者の音声記録にAIを適用し、6年以内にアルツハイマー病を発症する人を約80%の精度で予測することに成功した。この研究では、フラミンガム心臓研究の166人のインタビュー録音を使用し、そのうち90人が6年間で認知機能が悪化することが判明していた。

メイヨークリニックのアミール・レルマン博士らは、冠動脈疾患、肺高血圧症、心不全の音声バイオマーカーを発見している。

2022年に開始された「Voice as a Biomarker of Health」プロジェクトは、米国国立衛生研究所(NIH)から1400万ドルの資金提供を受けた4年間の研究である。ベンスッサン博士とワイル・コーネル医学のオリヴィエ・エレメント博士が主導し、50の機関の研究者が参加している。

2024年12月の中間地点で、プロジェクトは最初のデータリリースを発行し、米国とカナダの306人による12,500の録音を公開した。参加者は、特定のテキストの読み上げ、質問への自由回答、呼吸、咳、長い「e」音の発声など20の音声関連タスクを実行する。

ユタ州プロボのスタートアップ企業Canary Speechは、認知問題の兆候について医師に警告する臨床意思決定支援システムをすでに販売している。ただし、現在のところ米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けた音声診断ツールは存在しない。

2024年に研究者らは、音声録音にAIを適用して喫煙者と非喫煙者を区別できることを示し、女性で71%、男性で65%の精度を達成した。また、MITの研究者がスペクトログラムから音声を復元するアルゴリズムを開発したため、プロジェクトはプライバシー保護策を強化している。

ベンスッサン博士は、音声バイオマーカー技術が今後2〜3年でクリニックに導入され始め、3〜5年後にはより広く普及すると予測している。

References:
文献リンクAI listens for health conditions

【編集部解説】

音声バイオマーカー技術は、医療診断における革命的な転換点を迎えています。今回のNature誌の記事で紹介された研究は、単なる実験段階を超えて実用化に向けた具体的な道筋を示しており、医療業界に大きなインパクトを与える可能性があります。

この技術の核心は、人間の声に含まれる微細な変化をAIが検出することにあります。肺と喉頭が音を生成し、顎・唇・舌が言葉を形成し、脳が言語と内容をコントロールする複雑なプロセスの中で、疾患が特有の「音響的指紋」を残すことを利用しています。

特に注目すべきは検出精度の高さです。ルクセンブルク健康研究所の糖尿病検出研究では71%(男性)という精度を達成し、ボストン大学のアルツハイマー病予測研究では80%近い精度を実現しました。これは従来のスクリーニング手法と比較しても遜色ない水準といえるでしょう。

この技術が持つ最大の意義は、医療アクセスの格差解消にあります。従来、専門医による診断が必要だった疾患の早期発見が、スマートフォンの録音機能だけで可能になる可能性があります。

特に地方や医療資源の限られた地域では、この技術により専門医不足の問題を大幅に軽減できるかもしれません。また、高齢者や身体的制約のある患者にとって、自宅での簡単な音声録音による健康チェックは画期的な利便性をもたらします。

ノースイースタン大学のルパル・パテル博士が指摘するように、「息の多い声が心疾患」という単純な関係ではなく、複数の手がかりの組み合わせが重要です。パーキンソン病と更年期が重複する患者のように、複数の疾患からの信号を解きほぐす技術的課題が残されています。

Voice as a Biomarker of Healthプロジェクトが直面したスペクトログラムからの音声復元問題は、技術的な対策だけでは完全なプライバシー保護が困難であることを浮き彫りにしました。医療データの機密性と技術革新のバランスをどう取るかが、今後の重要な課題となります。

現在、FDA承認を受けた音声診断ツールは存在せず、Canary Speechなどの企業は「臨床意思決定支援システム」として位置づけています。これは診断ツールとしての規制承認を避けつつ、医療現場での活用を進める戦略的アプローチといえます。

この技術が広く普及すれば、医療システム全体の構造的変化が予想されます。予防医学の重要性が高まり、疾患の早期発見による医療費削減効果も期待できるでしょう。

ベンスッサン博士の「もしそれが機能すればですが」という慎重な発言は、この技術の可能性と同時に、まだ解決すべき課題が多いことを示唆しています。技術革新への期待と現実的な課題認識のバランスが、この分野の健全な発展には不可欠といえるでしょう。

【用語解説】

音声バイオマーカー:
生体内の生物学的変化を示す指標(バイオマーカー)を音声から検出する技術。血液検査で血糖値を測るように、声の特徴から健康状態を推定する。

スペクトログラム:
音声を視覚化したもの。音楽の楽譜のように、時間軸と周波数軸で音の特徴を表示する。人間には音として聞こえるが、コンピューターはこの視覚データで分析する。

声帯振動のジッター:
声の高さの微細な揺れ。楽器の弦が微妙に震えるように、病気になると声帯の振動が不安定になり、うつ病などの指標となる。

肺水腫:
肺に水が溜まる病態。心疾患により心臓のポンプ機能が低下し、肺血管から水分が漏れ出すことで発生する。

南フロリダ大学(USF):
フロリダ州タンパにある州立大学。1956年設立で、特に医学部が著名。

ルクセンブルク健康研究所:
ルクセンブルク政府が設立した公的研究機関。人口健康学や精密医療の研究を行う。

フラミンガム心臓研究:
1948年から続く世界最長の疫学研究。心血管疾患のリスク要因を解明した歴史的研究。

ワイル・コーネル医学:
ニューヨーク市にあるコーネル大学の医学部。1898年設立の名門医学校。

【参考リンク】

Canary Speech(外部)
音声AIによる認知・行動状態のスクリーニング技術を開発するユタ州のスタートアップ企業

南フロリダ大学ヘルス(外部)
Voice as a Biomarker of Healthプロジェクトの進捗を報告するUSFヘルスのニュースページ

Bridge2AI-Voice データセット(外部)
倫理的に収集された多様な音声データセットと健康情報を提供するPhysioNetページ

メイヨークリニック研究発表(外部)
AIが音声バイオマーカーを使用して冠動脈疾患を予測する研究について詳細解説

【参考動画】

【編集部後記】

あなたの声から健康状態がわかる時代が、もうすぐそこまで来ています。スマートフォンで録音するだけで心疾患やアルツハイマー病の兆候を検出できるとしたら、どんな可能性を感じますか?一方で、声から喫煙習慣まで判明してしまうプライバシーの課題についてはいかがでしょうか。この技術が普及した未来の医療現場を想像してみてください。皆さんは音声バイオマーカー技術に期待しますか、それとも不安を感じますか?ぜひSNSで教えてください。

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TaTsu
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