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NVIDIA Vera Rubin搭載「Doudna」スーパーコンピューター、2026年稼働で科学研究を10倍加速

 - innovaTopia - (イノベトピア)

米国エネルギー省が2025年5月29日(現地時間、日本時間5月30日)、ローレンス・バークレー国立研究所において次世代スーパーコンピューター「Doudna」の建設契約をDell Technologiesと締結したことを発表した。

このシステムは2026年後半に稼働開始予定で、NVIDIAのVera Rubinアーキテクチャを搭載し、科学研究の大幅な加速を目指している。

Doudnaは正式名称をNERSC-10といい、2020年にCRISPR遺伝子編集技術でノーベル化学賞を受賞したジェニファー・ダウドナ博士にちなんで命名された。同博士は1964年2月19日生まれのアメリカの生化学者で、カリフォルニア大学バークレー校の化学部および分子細胞生物学部のLi Ka Shing Chancellor’s Chair教授を務めている。

新システムは現在稼働中のPerlmutterスーパーコンピューターの10倍以上の科学的成果を実現する一方、消費電力は2〜3倍に抑制される。これにより、ワット当たりの性能が3〜5倍向上することになる。Doudnaは約40エクサフロップスの混合精度計算能力を持つエクサスケールスーパーコンピューターとして設計されている。

システムの主要構成要素には、Dell統合ラックスケーラブルシステムとPowerEdgeサーバー、Dell ORv3直接液冷サーバー技術、NVIDIA Vera-Rubin CPU-GPUプラットフォーム、高速Quantum-X800 InfiniBandネットワーキングプラットフォームが含まれる。NVIDIA Vera Rubinプラットフォームは、高性能CPUとコヒーレントGPUを統合し、全プロセッサが直接データにアクセスして共有できる設計となっている。

Doudnaは11,000人を超える研究者にサービスを提供し、核融合エネルギー、材料科学、創薬加速、天文学の各分野で革新的な研究を支援する。具体的には、クリーンな核融合エネルギーのシミュレーション、新しい超伝導材料の設計、パンデミックを上回る速度でのタンパク質折り畳み、キットピーク天文台のダークエネルギー分光装置からのリアルタイムデータ処理による宇宙マッピングなどが期待されている。

システムは従来のサイロ型運用とは異なり、シミュレーション、データ、AIを単一のシームレスなプラットフォームに統合する。DOEのESnetを通じて望遠鏡、検出器、ゲノムシーケンサーからのデータが低遅延、高スループットで直接ストリーミングされ、リアルタイム科学研究を可能にする。

既に20を超える研究チームがNERSC Science Acceleration Programを通じて完全なワークフローをDoudnaに移植している。これらのチームは気候モデルから素粒子物理学まで幅広い分野で研究を行っており、PyTorch、NVIDIA Holoscanソフトウェア開発キット、NVIDIA TensorFlow、NVIDIA cuDNN、NVIDIA CUDA-Qなどのフレームワークを使用している。

クリス・ライト米エネルギー長官は声明で「Doudnaシステムは科学、AI、ハイパフォーマンス・コンピューティングにおけるアメリカのリーダーシップを前進させるDOEのコミットメントを表している」と述べた。NVIDIAの創設者兼CEOジェンセン・ファン氏は「Doudnaは科学のタイムマシンであり、数年の発見を数日に圧縮する」とコメントしている。

このプロジェクトは、現在世界最速のスーパーコンピューターであるローレンス・リバモア国立研究所のEl Capitanや、テネシー州オークリッジ国立研究所のFrontierに続く、AIを念頭に置いた米国エネルギー省の最新の取り組みである。

from:
 - innovaTopia - (イノベトピア)The Supercomputer Designed to Accelerate Nobel-Worthy Science | NVIDIA Blog

【編集部解説】

米国エネルギー省が発表したDoudnaスーパーコンピューターは、単なる計算能力の向上を超えた、科学研究のパラダイムシフトを象徴するプロジェクトです。このシステムが注目される理由は、従来のスーパーコンピューターが「計算の高速化」に主眼を置いていたのに対し、Doudnaは「発見の加速」という新たなコンセプトを掲げている点にあります。

従来のスーパーコンピューターは、研究者が計算タスクを投入し、結果を待つという受動的な関係でした。しかしDoudnaは、実験装置、観測機器、データ解析、AIモデルを統合したリアルタイム科学研究プラットフォームとして設計されています。これにより、例えば核融合実験の最中にプラズマの状態をリアルタイムで解析し、実験パラメータを即座に調整するといった、これまで不可能だった研究手法が実現可能になります。

技術的な革新性は、NVIDIAのVera Rubinアーキテクチャにあります。このプラットフォームは、CPUとGPUが直接データを共有できるコヒーレント設計を採用しており、従来のシステムで発生していたデータ転送のボトルネックを解消します。さらに、Dell の ORv3 直接液冷技術により、高密度パッケージングと電力効率の大幅な改善を実現しています。

このシステムが科学界に与える影響は多岐にわたります。創薬分野では、タンパク質の折り畳み予測がパンデミックの拡散速度を上回るレベルまで高速化される可能性があります。材料科学では、室温超伝導体の発見に向けたAI駆動の材料設計が加速されるでしょう。天文学分野では、ダークエネルギー分光装置からのリアルタイムデータ処理により、宇宙の構造解明が飛躍的に進展することが期待されます。

エネルギー効率の観点では、Doudnaは前世代比で3〜5倍の電力効率改善を実現していますが、絶対的な消費電力は依然として膨大です。持続可能な科学研究インフラの構築という観点から、このようなエネルギー集約型システムの社会的受容性についても議論が必要でしょう。

量子コンピューティングとの統合機能も注目すべき点です。NVIDIA CUDA-Qプラットフォームを通じて、量子アルゴリズムの開発と検証が可能になり、将来的な量子-古典ハイブリッドシステムの基盤となります。これは、暗号技術や最適化問題の解決において、従来の計算限界を突破する可能性を秘めています。

国際競争の文脈では、中国やEUも同様の大規模科学計算インフラの構築を進めており、科学技術覇権をめぐる競争が激化しています。Doudnaプロジェクトは、米国が「AI時代のマンハッタン計画」と位置づける戦略的投資の一環であり、科学研究が国家安全保障の重要な要素として認識されていることを示しています。

長期的な視点では、Doudnaのような統合型科学プラットフォームが標準となることで、研究者の働き方自体が変革される可能性があります。仮説の立案から実験、解析、論文執筆まで、AIが支援する統合ワークフローが一般化し、科学的発見のサイクルが劇的に短縮されることが予想されます。

【用語解説】

NERSC-10
National Energy Research Scientific Computing Centerの第10世代システムの略称。米国エネルギー省科学局の主要なハイパフォーマンス・コンピューティング施設で、約3〜4年ごとに新世代システムを導入している。

InfiniBand:
高性能コンピューティング環境で使用される高速ネットワーク技術。Quantum-X800は800Gb/秒の接続速度を実現する最新規格。

直接液冷(DLC):
Direct Liquid Coolingの略。CPUやGPUに直接冷却プレートを接触させ、液体で熱を除去する冷却方式。従来の空冷より効率的で高密度実装が可能。

QoS(Quality of Service):
ネットワークやシステムにおいて、重要なデータやアプリケーションに優先順位を付けて品質を保証する仕組み。

コヒーレントGPU:
CPUとGPUが直接メモリを共有できる設計。データ転送のボトルネックを解消し、より効率的な並列処理を実現する。

ESnet(Energy Sciences Network):
米国エネルギー省が運営する高速研究ネットワーク。全国の研究施設を接続し、大容量データの高速転送を可能にする。

【参考リンク】

NVIDIA公式サイト(外部)AI・GPU技術のリーディングカンパニー。Vera RubinアーキテクチャやCUDA-Qプラットフォームなど最新技術情報を提供。

Dell Technologies公式サイト(外部)エンタープライズ向けコンピューティングソリューションの大手企業。PowerEdgeサーバーや液冷技術の詳細情報を掲載。

NERSC公式サイト(外部)米国エネルギー省の国立エネルギー研究科学計算センター。スーパーコンピューターの運用状況や研究成果を公開。

ローレンス・バークレー国立研究所(外部)1931年設立の米国有数の研究機関。ノーベル賞受賞者を多数輩出し、先端科学研究の拠点として機能。

米国エネルギー省(DOE)(外部)米国の核インフラ管理とエネルギー政策を担当する連邦政府機関。国立研究所群を統括し科学研究を推進。

【参考動画】

【参考記事】

Nvidia, Dell to supply next US Department of Energy supercomputer | Reuters
ロイター通信による公式発表の詳細報道。契約内容や技術仕様について客観的な視点で報じている。

Nvidia, Dell to build powerful AI supercomputer | Fox Business
ビジネス視点からの分析記事。性能向上の具体的数値や経済的影響について詳細に解説している。

Energy Department announces another supercomputer: Doudna | FedScoop
米国政府のIT政策専門メディアによる分析記事。他の政府スーパーコンピュータープロジェクトとの比較や政策的意義を論じている。

【編集部後記】

科学の世界が大きく変わろうとしています。Doudnaスーパーコンピューターが実現する「数年の発見を数日に圧縮する」という未来は、まさに私たちが夢見てきたSFの世界そのものです。核融合エネルギーの実用化、パンデミックを上回る速度での創薬、宇宙の謎の解明——これらすべてが現実のものとなるかもしれません。ジェンセン・ファン氏が「科学のタイムマシン」と表現したこのシステムが、どんな驚きの発見をもたらしてくれるのか、今から胸が躍ります。科学の新時代の扉が、いよいよ開かれようとしています。

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乗杉 海
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