Last Updated on 2025-06-02 17:41 by admin
Appleの研究部門であるApple Researchは2025年5月下旬、AI技術を用いてAirPodsで心拍数を高精度にモニタリングする研究成果を発表した。
この研究は「Foundation Model Hidden Representations for Heart Rate Estimation from Auscultation」という論文で公開され、AirPodsに内蔵されたマイクで心音(フォノカーディオグラム)を録音し、音声やスピーチ処理用に開発されたHuBERT、wav2vec2、Apple社内開発のCLAPなど6つの既存AI基盤モデルで解析することで心拍数を推定する手法を検証した。公開されている病院で録音された20時間以上の心音データセットを用いた実験の結果、公開されている病院で録音された20時間以上の心音データセットを用いた実験の結果、テストされたAIモデルの中でHuBERTモデルが平均絶対誤差1.96拍/分という最も高い精度を達成し、これは専用のセンサーなしで心拍数を測定できる可能性を示している。Appleは2024年にもAirPodsで体温などを測定する特許を申請しており、今回の研究はウェアラブルデバイスによる健康管理機能のさらなる拡張を示唆するものとなる。
From: AirPods Could Transform into AI-Powered Heart Monitors, Apple Study Suggests
【編集部解説】
AppleがAIを活用してAirPodsで心拍数を測定するというニュース、私たちの日常に溶け込んでいるテクノロジーが、さらに進化を遂げようとしています。単に音楽を聴くためのイヤホンが、個人の健康状態を把握するツールへと変わるかもしれないのですから、ワクワクしますね。
今回のAppleの研究で注目すべきは、AirPodsに既に搭載されているマイクを使い、心臓の音、つまり心音(フォノカーディオグラム)をAIが解析することで心拍数を推定するというアプローチです。これは、医師が聴診器で行うのと同じ原理を、高度なAIが担うイメージと言えるでしょう。驚くべきことに、この研究でテストされたAIモデルの多くは、元々音声認識やスピーチ処理のために開発されたものでありながら、心拍数推定という異なるタスクでも高い精度を示しました。特にAppleが社内で開発したCLAP(Contrastive Language-Audio Pretraining)というAIモデルも平均絶対誤差2.73拍/分という低い誤差率を達成したと報告されています。この精度は、専用の医療機器に迫る可能性を秘めていると言えるかもしれません。
この技術が実用化されれば、Apple Watchなどの専用デバイスを持っていなくても、多くの人が日常的に使用しているAirPodsで、より手軽に心拍数を把握できるようになるでしょう。運動中はもちろん、通勤中や作業中、リラックスしている時など、特別な意識をせずとも継続的に健康データを収集できるのは大きなメリットです。Appleは以前からウェアラブルデバイスによる健康機能の拡充に力を入れており、2024年にはAirPodsで体温やその他の生理学的データを測定する技術に関する特許も申請しています。今回の研究は、こうした流れを加速させるものと言えます。
将来的にこの技術は、心拍数モニタリングに留まらず、呼吸数の把握や、その他のバイタルサインの分析へと応用範囲を広げていく可能性があります。そうなれば、AirPodsはまさに「耳につけるパーソナルヘルスケアデバイス」として、私たちの健康管理において、よりパーソナルでシームレスな役割を果たすことになるでしょう。
もちろん、実用化に向けてはいくつかの重要な課題があります。
まず、データの精度と信頼性の確保です。日常生活における様々なノイズ環境やユーザーの動きの中で、常に安定して高精度な測定を維持できるかどうかが鍵となります。
次に、プライバシーとセキュリティへの配慮は不可欠です。心拍数などの生体データは極めて機微な個人情報であり、その収集、利用、管理においては透明性とユーザーの信頼が絶対条件となります。
そして、医療機器としての規制も考慮すべき点です。もしAirPodsが心房細動の兆候検知など、医療診断に関わるレベルの機能を提供するのであれば、各国の規制当局による承認プロセスが必要となるでしょう。
また、ユーザーがAIによる健康情報に過度に依存してしまうリスクも念頭に置く必要があります。AIが提供するデータはあくまで健康管理をサポートするものであり、最終的な医学的判断は専門医に委ねられるべきです。
Appleは、WWDCのような主要イベントでAI戦略を積極的に打ち出しており、今回の研究もその大きな文脈の中に位置づけられるでしょう。競合他社もウェアラブルAI技術の開発に注力する中、Appleがどのようにこの技術を製品に落とし込み、ユーザー体験を向上させていくのか、目が離せません。
【用語解説】
AI基盤モデル (Foundation Model): 特定のタスクに特化せず、広範なデータで事前学習された大規模AIモデル。多様な応用が可能だ。
フォノカーディオグラム (Phonocardiogram, PCG): 心臓の活動によって生じる心音を記録したもの。心臓診断に用いる。
CLAP (Contrastive Language-Audio Pretraining): 音声とテキストの関係性を学習するAIモデルの一種。Appleは社内開発版をテストに使用した。
平均絶対誤差 (Mean Absolute Error, MAE): 予測値と実測値の差の絶対値の平均。モデルの予測精度を示す指標の一つで、値が小さいほど精度が高い。
聴診 (Auscultation): 身体が発する音(心音、呼吸音など)を聴いて診断する医療行為。今回の研究はこれをAIで実現しようとするものだ。
【参考リンク】
Apple Inc.(外部)iPhone、AirPods、Apple Watchなどを開発・販売する米国のテクノロジー企業。
Apple Machine Learning Research(外部)Appleの機械学習に関する研究成果を公開しているサイト。今回の論文もここで発表された。
arXiv.org(外部)物理学、数学、コンピュータサイエンスなどの分野のプレプリントサーバー(査読前論文の公開サイト)。今回のAppleの論文も公開されている。
【参考記事】
AI models analyzing audio from AirPods could detect heart rate – AppleInsider(外部)音声認識用に作られたAIモデルが、心音図を処理することで心拍数を特定できるというAppleの最新研究について詳述。
Apple Explores AI-Powered AirPods for Heart Rate Monitoring, Study Reveals – AppleMagazine(外部)Appleの研究でAirPodsがAIを用いて高精度で心拍数をモニターできる可能性が示されたことを伝えている。
【編集部後記】
今回のAirPodsとAIによる心拍数測定の研究、いかがでしたでしょうか。日常的に音楽を聴いたり通話したりする際に使うイヤホンが、気づかないうちに私たちの健康状態を見守ってくれるようになるかもしれません。
もしAirPodsが、運動中だけでなく、仕事中やリラックスしている時など、様々なシーンで心拍数やその他の健康データを気軽に、そして高精度に測定できるようになったら、皆さんの生活や健康管理はどのように変わると思いますか?