Meta Platforms(メタ・プラットフォームズ)は、2026年末までに、人工知能(AI)を活用した広告の完全自動化を目指している。
これは『ウォール・ストリート・ジャーナル』が2025年6月2日(現地時間、日本時間同日)に関係者の話として報じたものだ。
Metaは、FacebookやInstagramなどのSNSを運営し、2024年第1四半期の決算報告によると、広告事業が総収益の98.3%を占めている。
現在もAIを活用した広告ツールを提供しており、既存広告のバリエーション生成や画像背景の自動生成、動画広告の微調整などが可能となっている。今後は、ブランドが製品画像と予算を入力するだけで、AIが画像・動画・テキストを含む広告全体をゼロから作成し、最適なターゲティングや予算配分の提案まで自動で行う仕組みを導入する予定である。
さらに、AIによる広告のパーソナライズ機能も拡充され、ユーザーの位置情報などに応じて同じ広告でもリアルタイムで異なるバージョンが表示されるようになる。例えば、雪国のユーザーには山道を走るための車の広告が、都市部のユーザーには市街地を走るための車の広告が表示される。
このAI広告自動化の取り組みは、中小企業にとって広告制作コストの大幅削減や運用効率化につながる一方、大手ブランドの一部からは「人間が作る広告の質感やブランドイメージが損なわれるのではないか」という懸念も示されている。また、現状のAI生成技術では、時に歪んだ画像や使いにくいビジュアルが出力される課題も指摘されている。なお、こうした懸念を抱くブランドは少なくない。
from:Meta Aims to Fully Automate Ad Creation Using AI | The Wall Street Journal
【編集部解説】
Metaが目指す「AIによる広告の完全自動化」は、デジタル広告業界にとって大きな転換点となる可能性があります。今回の発表は、広告制作・運用の現場にどのような変化をもたらすのか、またその利点とリスクについて、編集部の視点から解説します。
まず、AIが広告制作の全工程を担うことで、特に中小企業にとっては大きな恩恵が期待できます。これまで広告制作には専門的な知識や多額のコスト、時間が必要でしたが、AIの導入によって画像や動画、テキストの自動生成からターゲティング、予算配分までワンストップで完結できるようになります。これにより、広告運用のハードルが下がり、より多くの企業がデジタル広告に参入しやすくなるでしょう。
一方で、AIによる自動生成には現時点でいくつかの課題も残されています。たとえば、生成AIが時に不自然な画像や誤った内容(いわゆる「ハルシネーション」)を生み出すリスクが指摘されています。特にブランドイメージが重要な大手企業にとっては、AIが生み出す広告が自社の世界観や価値観と合致しない場合、ブランド毀損につながる可能性も否定できません。
また、広告のパーソナライズを実現するためには、ユーザーの位置情報や行動履歴など膨大なデータの収集・解析が不可欠です。これがユーザーのプライバシー意識の高まりとどのように折り合いをつけていくのか、今後の運用や規制動向にも注視が必要です。Metaは欧州など規制の厳しい地域では手動審査を維持する方針を示していますが、グローバルでの運用にはさらなる透明性と説明責任が求められるでしょう。
さらに、「儲かる広告」の定義も変わりつつあります。従来はクリック率やインプレッション数が重視されてきましたが、今後はAIによるパーソナライズやクリエイティブの多様化によって、ユーザーとのエンゲージメントやブランド体験の質がより重要視される時代になるかもしれません。特に若年層を中心に、過度なパーソナライズやターゲティングが「不愉快」と感じられるケースもあり、広告の質と量のバランスが今まで以上に問われるでしょう。
総じて、MetaのAI広告自動化は、広告業界の生産性向上や中小企業の活躍を後押しする一方で、品質管理・プライバシー・ブランド戦略といった新たな課題も浮き彫りにしています。AIと人間のクリエイティビティの最適なバランスを模索しつつ、今後の技術進化と社会的受容の動向を注視していく必要があります。
【用語解説】
ハルシネーション:
AIが事実に基づかない、誤った情報や不自然な画像・文章を生成してしまう現象。生成AIの課題の一つとされる。
【参考リンク】
Meta公式サイト(外部)
Meta Platforms(旧Facebook)の企業情報や最新プロダクト、AI技術への取り組みを紹介している公式サイト。
【編集部後記】
商品やサービスを扱う企業からすれば、認知や売上に直結する広告は最重要です。そこに莫大なコストがかかり、中小企業の負担となってしまうというのも現実の問題です。それを解決しうるAI技術には魅力を感じますが、粗悪なものだけでなく、よくできていてもAI特有の雰囲気を感じさせると、それだけで不愉快になる人もいるでしょう。
加えて、中途半端なパーソナライズも不愉快な要因となりうるでしょう。例えば、SNSでちょっと「今月厳しい」と発言すれば、これでもかと言わんばかりにキャッシングローンやギャンブル必勝法などといった広告が表示され、検索などの行動の傾向から中年男性だと認識されれば薄毛、ダイエット、脱毛などが押し付けるかのように表示されます。
さらには広告を非表示にするためのサブスクや、それに誘導するかのようにわざと不快な広告を押し付ける構造にも問題があります。
皆さんの中には、昔からテレビ番組でもいいところで入るCMに不快な思いをした覚えがあるかと思います。
将来のAIによって、生成される広告の質やパーソナライズの精度、表示方法、頻度など、企業にも顧客にも利益を生む最適解が見つかることに期待したいですね。