Last Updated on 2025-06-03 09:52 by admin
MIT(マサチューセッツ工科大学)のオリベッティグループとMITコンクリート持続可能性ハブ(CSHub)の研究チームが、AIを活用してコンクリート中のセメント代替材料を特定する新しいフレームワークを開発した。
研究はポスドクのソロウシュ・マフジュビが主導し、2025年5月17日にNature Communications Materialsに論文を発表した。
チームは大規模言語モデルを使用した機械学習フレームワークを構築し、科学文献と100万以上の岩石サンプルを分析して候補材料を19のタイプに分類した。
分類にはバイオマス、採掘副産物、解体建設材料が含まれる。特にセラミック(古いタイル、レンガ、陶器)が有望な代替材料として特定された。
この技術により、追加処理をほとんど必要とせず、粉砕のみで多くの材料をコンクリート配合に組み込むことが可能となる。
研究の上級著者はMIT材料科学工学部のエルサ・オリベッティ教授、共著者にはCSHubディレクターのランドルフ・カーチェインが含まれる。
From: AI stirs up the recipe for concrete in MIT study
【編集部解説】
今回のMITの研究は、建設業界における根本的なパラダイムシフトを示唆する重要な成果です。コンクリートは世界で年間約300億トンが消費される最も使用量の多い建設材料であり、その製造過程で発生するCO2排出量は全世界の約8-9%を占めています。
従来のセメント代替材料探索は、フライアッシュやスラグといった限られた選択肢に依存していました。しかし、これらの副産物の需要が供給を上回る状況が続いており、新たな代替材料の発見が急務となっていたのです。
この研究の革新性は、AIが膨大な科学文献データベースから有望な材料を自動的に特定・分類できる点にあります。100万以上の岩石サンプルデータと数十万ページの文献を人間が処理するには何世代もの時間が必要でしたが、大規模言語モデルを活用することで短期間での分析が可能になりました。
特に注目すべきは、古いタイルや陶器といった身近な廃棄物が有効な代替材料として特定されたことです。これは循環経済の観点から極めて重要な発見といえるでしょう。古代ローマ時代から使われていたセラミック混合技術の科学的根拠が、現代のAI技術によって証明された形になります。
一方で、この技術の実用化には課題も存在します。材料の品質管理や供給の安定性、既存の建設規格との整合性など、解決すべき問題は少なくありません。また、AI予測の精度向上には継続的な実験検証が不可欠です。
長期的な視点では、この技術は建設業界の脱炭素化を大幅に加速させる可能性を秘めています。地域で入手可能な廃棄物を活用することで、材料輸送コストの削減と地域経済の活性化も期待できるでしょう。
【用語解説】
フライアッシュ
石炭火力発電所で石炭を燃焼させる際に発生する副産物で、微細な球状の粒子からなる。セメントの一部を置き換える混和材として長年使用されており、コンクリートの強度向上と環境負荷軽減に貢献する。
スラグ
製鉄過程で鉄鉱石から鉄を取り出す際に生成される副産物。高炉スラグとして知られ、粉砕してセメント代替材料として利用される。ポゾラン反応により長期的な強度発現に寄与する。
ポゾラン性(Pozzolanicity)
セメントが水和反応する際に生成される水酸化カルシウムと反応して、追加的な結合材を形成する性質。この反応により、コンクリートの長期強度と耐久性が向上する。
水硬性(Hydraulic Reactivity)
材料が水と反応して硬化する性質。セメントの基本的な特性であり、代替材料にもこの性質が求められる。
大規模言語モデル(LLM)
膨大なテキストデータで訓練された人工知能モデルで、自然言語の理解と生成が可能。今回の研究では科学文献の解析に活用された。
アドミール・マシッチ教授
MITで古代コンクリート研究を率いる教授。古代ローマのコンクリート技術の科学的解析で知られ、今回の研究でセラミック材料の有効性について助言を提供した。
【参考リンク】
MIT Concrete Sustainability Hub(外部)
MITが2009年に設立したコンクリートとインフラの持続可能性を研究する学際的な研究ハブ
MIT Department of Materials Science and Engineering(外部)
エルサ・オリベッティ教授が所属し、材料の環境・経済的持続可能性に関する研究を行っている部門
Nature Communications Materials(外部)
ネイチャー・パブリッシング・グループが発行する材料科学分野のオープンアクセス学術誌
MIT-IBM Watson AI Lab(外部)
MITとIBMが共同で運営するAI研究拠点。持続可能なコンクリート開発プロジェクトを実施
【編集部後記】
AIがコンクリートの未来を変える今回の研究、いかがでしたでしょうか。身近な廃棄物が建設材料に生まれ変わる可能性に、私たちも驚きを隠せません。皆さんの周りにも、実は価値ある「廃棄物」が眠っているかもしれませんね。建設業界の脱炭素化が加速する中、このような技術革新が日本の街づくりにどのような変化をもたらすと思われますか?ぜひSNSでみなさんの視点をお聞かせください。