2025年6月30日、MetaのCEOマーク・ザッカーバーグは社内メモで、同社のAI業務を統括する新組織「Meta Superintelligence Labs」の設立を発表した。
この組織は2025年6月12日に発表されたMetaの143億ドル投資により、6月13日にMetaへの移籍が正式発表された元Scale AI CEOのアレクサンドル・ワン（28歳）が最高AI責任者として率い、元GitHub CEOのナット・フリードマンがパートナーとして共同運営にあたる。Metaは今回、Anthropic、Google DeepMind、OpenAIの元従業員を含む11名のAI専門人材を新規採用した。
ザッカーバーグは他のAI大手企業に遅れをとっているAI事業強化のため、採用候補者に8桁後半の報酬を提示している。同社はミラ・ムラティのThinking Machines Lab、Perplexity、イリヤ・サツケバーのSafe Superintelligenceなどの企業買収も検討したが、正式オファー段階には至らなかった。Metaは今後1年程度で最前線技術に到達する次世代モデルの研究開始を計画している。
From:
Mark Zuckerberg announces Meta’s new ‘superintelligence labs’ group
【編集部解説】
今回のMeta Superintelligence Labs設立は、単なる組織再編を超えた戦略的な意味を持っています。この動きを理解するために、まず現在のAI業界の競争構造を把握する必要があります。
現在、OpenAI、Google DeepMind、Anthropicといった企業がAI開発の最前線を走っており、Metaはこれらの競合に対して明らかに後れを取っている状況にあります。特に大規模言語モデルや汎用人工知能（AGI）の開発において、Metaの立ち位置は決して優位とは言えません。
今回の人材獲得戦略の激しさは業界でも前例がありません。8桁後半、つまり年収数千万円から1億円以上という報酬レベルは、AI研究者の市場価値が天井知らずに上昇していることを示しています。実際に、OpenAIのサム・アルトマンCEOは「Metaが自社の研究者に1億ドルのボーナスを提示している」と公に苦言を呈するほどです。
アレクサンドル・ワンという人物の起用も興味深い選択です。28歳という若さでScale AIを290億ドル企業に育て上げた彼は、AI学習に不可欠なデータラベリング事業のパイオニアです。これは、Metaが単に研究開発だけでなく、AI学習の基盤となるデータインフラまで内製化しようとしていることを意味します。
しかし、この戦略にはリスクも伴います。Metaの基礎AI研究チーム「FAIR」は2022年にReality Labsに統合された際、研究の自由度が制限されたとして内部から批判の声が上がっていました。今回の再編が同様の問題を引き起こさないかは注視が必要です。
「超知能」という言葉選びも重要な意味を持ちます。これは単なるマーケティング用語ではなく、人間を上回る認知能力を持つAGIの実現を明確に宣言したものです。専門家の間では、AGIの実現時期について2025年から2030年という予測が主流になりつつありますが、Metaはこの競争において明確に勝利を目指す姿勢を示しています。
この動きが成功すれば、Metaは単なるソーシャルメディア企業から、人類の未来を左右するAI企業へと変貌を遂げることになります。それは同時に、私たちの日常生活、働き方、そして社会の在り方そのものを根本的に変える可能性を秘めているのです。
【用語解説】
AGI（Artificial General Intelligence） – 汎用人工知能。人間と同等またはそれ以上の認知能力を持つAIシステム。特定の分野に特化した現在のAIとは異なり、あらゆる知的タスクを人間レベルで実行できる能力を指す。
データラベリング – AIモデルの学習に使用するデータに正解となるタグや分類を付ける作業。例えば、画像にある物体の名前を付けたり、文章の感情を分類したりする。AIの精度向上に不可欠なプロセス。
FAIR（Facebook AI Research） – 2013年に設立されたMetaの基礎AI研究部門。2022年にReality Labsに統合された。現在はMeta Superintelligence Labsの一部として再編成されている。
Reality Labs – Metaの仮想現実（VR）・拡張現実（AR）・複合現実（MR）技術の研究開発部門。メタバース構築の中核を担う。過去3年間で475億ドルの損失を計上している。
超知能（Superintelligence） – 人間の知能を大幅に上回る人工知能。AGIをさらに発展させた概念で、人類の認知能力を全ての分野で凌駕する可能性がある。
【参考リンク】
Meta公式サイト（外部）
FacebookやInstagram、WhatsAppを運営するMeta公式サイト
Scale AI公式サイト（外部）
AIアプリケーション開発に必要な高品質学習データを提供する企業
OpenAI公式サイト（外部）
ChatGPTの開発元。汎用人工知能の実現を目指すAI研究企業
Anthropic公式サイト（外部）
AI安全性・研究企業。AIアシスタント「Claude」を開発している
Google DeepMind公式サイト（外部）
Googleの子会社であるAI研究所。汎用人工知能の研究を行っている
【参考動画】
CNBC Television（認証済み）による最新ニュース解説。MetaのAI人材獲得戦略について専門家が分析している。
Bloomberg Technology（認証済み）による詳細分析。ザッカーバーグの新AI戦略について専門記者が解説している。
【参考記事】
Mark Zuckerberg creating Meta Superintelligence Labs（外部）
ザッカーバーグの社内メモ全文を掲載。公式発表と詳細な背景情報
Zuckerberg Announces Meta ‘Superintelligence’ Effort（外部）
Bloombergによる独占報道。11名の新規採用について詳細に解説
Meta deepens AI push with ‘Superintelligence’ lab（外部）
ロイターによる報道。AGI開発競争激化とMetaの戦略的意図を解説
【編集部後記】
MetaのSuperintelligence Labs設立は、私たちの日常にどのような変化をもたらすでしょうか。AGIが実現すれば、働き方やクリエイティブのあり方が根本的に変わる可能性があります。
一方で、AI安全性への懸念も高まっています。皆さんは、この技術革新の波をどう捉えていますか？期待と不安、どちらが大きいでしょうか。「超知能」という言葉に胸が高鳴ります。
AI(人工知能)ニュースをinnovaTopiaでもっと読む
