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マイアミ大学が230種の巨大海洋ウイルスを発見、光合成をハイジャックして生態系を操作

マイアミ大学が230種の巨大海洋ウイルスを発見、光合成をハイジャックして生態系を操作 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-09 10:33 by admin

マイアミ大学ローゼンスティール海洋大気地球科学学校の研究チームが、海洋中から230種類の新しい巨大ウイルスを発見したと2025年6月6日に発表した。

研究は筆頭著者のベンジャミン・ミンチ博士課程学生と共著者のモハマド・モニルザマン助教授が実施し、4月21日にNature npj Virusesジャーナルに論文を発表した。

研究チームは世界9か所の大規模海洋サンプリングプロジェクトのDNA配列データを分析し、BEREN(環境メタゲノムからの真核ウイルス回収のためのバイオインフォマティクスツール)という新開発ツールを使用した。発見された巨大ウイルスのゲノム内で530の新機能タンパク質を特定し、うち9つが光合成に関与するタンパク質であることが判明した。
これらのウイルスは藻類、アメーバ、鞭毛虫などの原生生物に感染し、宿主の光合成プロセスを操作する能力を持つ。

研究にはマイアミ大学のペガサス・スーパーコンピューターが使用され、BERENツールはGitLabでオープンソースとして公開されている。

From: 文献リンクScientists uncover 230 giant ocean viruses that hijack photosynthesis

【編集部解説】

今回の発見で最も注目すべきは、これらの巨大ウイルスが従来の「ウイルス」の概念を大きく覆している点にあります。一般的なウイルスのゲノムサイズが数千から数万塩基対であるのに対し、今回発見されたウイルスは数十万から数百万塩基対という巨大なゲノムを持ちます。これは一部の細菌よりも大きく、ウイルスと生物の境界線を曖昧にする発見といえるでしょう。

特に革新的なのは、これらのウイルスが光合成に関わる9つのタンパク質をコードしている点です。光合成は植物や藻類の専売特許と考えられてきましたが、ウイルスが宿主の光合成システムを乗っ取り、自らの増殖に利用している可能性が示されました。これは海洋生態系における炭素循環の理解を根本から変える可能性があります。

研究チームが開発したBERENツールも技術的な革新として評価されています。従来のバイオインフォマティクス手法では検出困難だった巨大ウイルスを効率的に発見できるこのツールは、オープンソースとして公開されており、世界中の研究者が利用可能です。

この発見のポジティブな側面として、有害藻類ブルームの予測と管理への応用が期待されます。フロリダをはじめ世界各地で深刻化している赤潮などの現象を事前に予測できれば、漁業や観光業への被害を最小限に抑えることが可能になります。

一方で、潜在的なリスクも存在します。これらの巨大ウイルスが海洋生態系の基盤である植物プランクトンの主要な死因となっている事実は、気候変動や海洋汚染によってウイルスの活動パターンが変化した場合、食物連鎖全体に予期せぬ影響を与える可能性を示唆しています。

長期的な視点では、これらのウイルスが持つ新規酵素のバイオテクノロジー応用も注目されます。530種類の新機能タンパク質の中には、産業応用可能な酵素が含まれている可能性があり、新たなバイオ産業の創出につながるかもしれません。

【用語解説】

巨大ウイルス(Giant Virus)
通常のウイルスよりも格段に大きなサイズを持つウイルス群で、ゲノムサイズが数十万から数百万塩基対に達する。一部の細菌よりも大きく、従来のウイルスの概念を覆す存在である。

NCLDV(Nucleocytoplasmic Large DNA Viruses)
核質大型DNAウイルスの略称で、巨大ウイルスの分類群の一つ。細胞核と細胞質の両方で増殖する特徴を持つ。

メタゲノム解析
環境中に存在する全ての微生物のDNAを一括して解析する手法。培養困難な微生物も含めて遺伝子情報を取得できる。

原生生物(Protist)
単細胞の真核生物の総称で、藻類、アメーバ、鞭毛虫などが含まれる。海洋食物網の基盤を形成する重要な生物群である。

有害藻類ブルーム(Harmful Algal Bloom)
藻類が異常増殖して水域の生態系や人間の健康に悪影響を与える現象。赤潮もその一種である。

光合成
植物や藻類が光エネルギーを使って二酸化炭素と水から有機物を合成する生物学的プロセス。

バイオインフォマティクス
生物学的データを情報科学的手法で解析する学問分野。DNA配列解析やタンパク質構造予測などに用いられる。

【参考リンク】

マイアミ大学ローゼンスティール海洋大気地球科学学校(外部)
1943年設立の海洋・大気・地球科学の研究教育機関。亜熱帯地域唯一の総合的海洋研究所

BEREN GitLabリポジトリ(外部)
巨大ウイルスゲノムを環境メタゲノムデータから回収するバイオインフォマティクスツール

Nature npj Viruses(外部)
ネイチャー・パブリッシング・グループが発行するウイルス学専門のオープンアクセス学術誌

【参考記事】

Expansion of the genomic and functional diversity of global ocean giant viruses(外部)
本研究の原著論文。230種類の新規巨大ウイルスゲノムの発見とBERENツールの開発について詳述

Scientists discover 230 new giant viruses that shape ocean life and health(外部)
マイアミ大学による研究発表の公式プレスリリース。研究の背景と意義について詳しく説明

Scientists discover 230 new giant viruses that shape ocean life and health(外部)
Phys.orgによる研究報道記事。研究手法と発見された巨大ウイルスの特徴について解説

【編集部後記】

海洋に潜む巨大ウイルスが光合成を操作するという今回の発見は、私たちが知る「生命の境界線」を根本から見直すきっかけになりそうです。ウイルスが単なる寄生体ではなく、地球規模の炭素循環を左右する存在だとしたら、気候変動対策や海洋保全への取り組みも変わってくるかもしれません。皆さんは、この研究成果が将来どのような技術革新につながると思われますか?また、海洋生態系の新たな理解が、私たちの日常生活にどんな影響をもたらすと考えますか?

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TaTsu
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