Last Updated on 2025-05-01 18:14 by admin
OpenAIのCEOサム・アルトマン氏が共同創業した独立企業Tools for Humanityは、2025年4月30日にサンフランシスコで開催したイベントで、ブロックチェーンと生体認証を組み合わせたデジタルIDプロジェクト「World(旧Worldcoin)」の米国展開を発表した。
このプロジェクトでは、球体型デバイス「Orb(オーブ)」でユーザーの虹彩をスキャンし、唯一無二のデジタルID「World ID」を発行する。登録者には暗号資産「WLDトークン」が付与され、Webやモバイル、分散型アプリへの認証、将来的にはVisaと提携したデビットカードによる決済も可能となる予定だ。
米国での初期展開は、アトランタ、オースティン、ロサンゼルス、マイアミ、ナッシュビル、サンフランシスコの6都市で開始される。2025年末までに全米で7,500台のOrbを設置し、1億8,000万人以上の米国人がアクセス可能となる計画であり、米国内での登録者には16WLDが配布される。
これまでにWorldは160カ国以上で展開され、全世界で2,600万人が登録、1,200万人が認証を完了している。米国での本格展開は、暗号資産規制の緩和を受けて実現した。
今後は、ガソリンスタンドやコンビニなど日常的な場所へのOrb設置や、Tinder(日本)での年齢認証パイロット導入、暗号資産ローンや予測市場との連携も予定されている。
一方で、プライバシーや生体情報の取り扱いについては、欧州の一部(スペイン、ポルトガルなど)で規制当局による調査やサービス停止措置が取られている。
from Wanna scan your iris for crypto? Sam Altman’s orb comes to U.S.
【編集部解説】
今回のWorld(旧Worldcoin)の米国本格展開は、AI時代における「人間証明」の新しいスタンダードを提示するものです。虹彩認証という高度な生体認証技術を使い、個人が唯一無二のデジタルIDを持つことで、ボットやAIによるなりすましを防ぎ、Webサービスや分散型アプリでの本人確認をより安全かつシームレスに実現できます。
この技術のポジティブな側面は、グローバルなデジタル経済圏の基盤となる可能性がある点です。分散型IDと暗号資産を組み合わせることで、国や企業に依存しない個人認証や決済が実現し、金融包摂や新しいサービスの創出が期待できます。また、Visaとの提携やTinderでの年齢認証パイロットなど、実生活での応用も進みつつあります。
一方で、虹彩データという極めてセンシティブな生体情報を扱うため、プライバシーや監視社会化への懸念も根強く残ります。World側は「生データは保存せず、暗号化・分散管理を徹底」と説明していますが、欧州では規制当局による調査や一部サービス停止措置が取られており、今後も慎重な対応が求められます。
長期的には、こうした分散型デジタルIDが社会インフラとなることで、本人確認や経済活動のあり方が根本から変わる可能性があります。技術と規制、社会的受容のバランスが今後の成否を左右するでしょう。
【用語解説】
World(ワールド)/ Worldcoin(ワールドコイン):
OpenAIのサム・アルトマンが共同設立したデジタルID・暗号資産プロジェクト。虹彩認証で唯一無二のIDを発行し、WLDトークンを配布する。
World ID(ワールドID):
虹彩スキャンを通じて発行される一意のデジタルID。オンラインサービスやアプリで「人間であること」を匿名かつ安全に証明できる。
Orb(オーブ):球体型の生体認証デバイス。ユーザーの虹彩をスキャンし、World IDを生成する。
WLD(ワールドコイン):Worldプロジェクトが発行する暗号資産。イーサリアムの技術を活用し、発行上限は約100億枚。
Tools for Humanity(ツールズ・フォー・ヒューマニティ):Worldプロジェクトを開発・運営する米独のテック企業。
ゼロ知識証明:自分が「人間であること」だけを証明し、他の個人情報は一切明かさない暗号技術。
【参考リンク】
World公式サイト(外部)AI時代に「人間であること」を証明するWorld IDやOrb、WLDの公式情報を提供。
Tools for Humanity公式サイト(外部)Worldプロジェクトを開発・運営する企業の公式ページ。プロジェクトの背景も紹介。