Last Updated on 2025-06-18 09:37 by admin
JPモルガン・チェースは2025年6月17日、デポジット・トークン「JPMD」の発表をCNBCに対して行った。
JPMDはイーサリアムネットワーク上に構築されたCoinbaseの公開ブロックチェーンBase上で運用される。このトークンは商業銀行預金のデジタル表現として機能し、24時間体制の決済と利息支払い機能を提供する。JPMDは許可制トークンであり、JPモルガンの機関投資家顧客のみが利用可能である。
JPモルガンのブロックチェーン部門Kinexysのグローバル共同責任者ナヴィーン・マレラ氏は、機関投資家がオンチェーンデジタル資産決済ソリューションと国境を越えたB2B取引にJPMDを使用すると述べた。数日以内にJPモルガンがデジタルウォレットから固定額のJPMDをCoinbaseに移転する予定で、パイロットプログラムは数ヶ月間実施される。その後Coinbaseの機関投資家顧客がJPMDを取引に使用できるようになる。
JPモルガンは2025年6月15日にJPMDの商標出願を米国特許商標庁に提出した。現在のステーブルコイン市場規模は約2,620億ドルである。米国上院は2025年6月17日にステーブルコイン規制法案GENIUS法について投票を予定している。
From: JPMorgan moves further into crypto with stablecoin-like token JPMD
【編集部解説】
JPモルガンのJPMD発表は、従来の金融機関がブロックチェーン技術をどのように活用するかという点で、業界に重要な示唆を与えています。今回の動きを理解するためには、まず「デポジット・トークン」と「ステーブルコイン」の技術的な違いを把握することが重要です。
デポジット・トークンは、銀行の預金口座に実際に保管されている資金のデジタル表現であり、従来の銀行システムと直接的に連携しています。一方、一般的なステーブルコインは現金や現金同等物によって担保されているものの、銀行システムとの連携は間接的です。この違いにより、JPMDは利息の支払いが可能になり、既存の預金商品との互換性が高まります。
JPモルガンが既存のJPMコインではなく、新たにJPMDを開発した背景には戦略的な意図があります。JPMコインは同行の内部ネットワークでのみ利用可能でしたが、JPMDはCoinbaseのBaseネットワーク上で動作し、より広範なイーサリアムエコシステムへのアクセスを可能にします。これは、JPモルガンにとって内部分散台帳テスト以外の暗号エコシステムへの初の本格的な参入となります。
この技術により、機関投資家は24時間体制でのデジタル資産決済や、国境を越えたB2B取引を効率的に実行できるようになります。特に注目すべきは、従来の国際送金で数日を要していた処理が、ほぼリアルタイムで完了する点です。JPモルガンは日々約10兆ドルの取引を管理しており、そのうち20億ドルが独自チェーンを通過していることを考えると、この規模での効率化は業界全体に大きな影響を与える可能性があります。
ポジティブな側面として、JPMDは金融機関の信頼性とブロックチェーンの効率性を組み合わせた革新的なソリューションを提供します。機関投資家にとって、規制の明確性と運用の透明性が確保された環境での取引が可能になります。また、従来のステーブルコインが銀行サービスの確保や預金証明の提示に苦労している中、JPモルガンにとってはこれらの課題が些細なものとなります。
一方、潜在的なリスクも存在します。許可制トークンという性質上、JPモルガンが中央集権的な管理権限を持つため、従来の暗号資産が目指す分散化の理念とは相反する面があります。また、大手金融機関による市場支配が進む可能性も懸念されています。
規制面では、米国上院で審議中のGENIUS法案との関連性が注目されています。JPMDの発表タイミングは、ステーブルコイン規制の法制化と重なっており、規制環境の変化を見越した戦略的な動きと解釈できます。さらに、JPモルガンは他の大手米銀(シティグループ、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカ)と共同で銀行支援ステーブルコインの発行について非公開で協議していることも報告されており、業界全体での動きが加速している状況です。
長期的な視点では、JPMDの成功は他の大手金融機関による類似サービスの展開を促進する可能性があります。これにより、従来の金融システムとブロックチェーン技術の融合が加速し、デジタル経済の基盤インフラが大きく変化することが予想されます。
【用語解説】
デポジット・トークン(Deposit Token)
商業銀行の預金口座に実際に保管されている資金のデジタル表現である。ステーブルコインとは異なり、従来の銀行システムと直接連携し、利息の支払いが可能な点が特徴だ。預金に対する請求権を表すため、法定通貨によって完全に担保されている。
許可制トークン(Permissioned Token)
特定の機関投資家のみがアクセス可能なデジタルトークンである。一般に公開されているステーブルコインとは対照的に、限定された利用者のみが取引できる仕組みとなっている。
レイヤー2(Layer 2)
イーサリアムメインネットの上に構築されたセカンダリーブロックチェーンネットワークである。取引速度の向上とガス手数料の削減を目的として開発されており、Baseもその一つだ。
GENIUS法(GENIUS Act)
「Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act」の略称で、米国におけるステーブルコイン規制法案である。ステーブルコイン発行者に対して米ドルまたは短期国債による完全な担保を義務付け、定期的な準備金監査を要求し、無許可発行者を禁止する内容となっている。
MiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)
欧州連合が制定した暗号資産市場規制である。ステーブルコインを含む暗号資産の発行と取引に関する包括的な規制フレームワークを提供している。
【参考リンク】
JPMorgan Chase & Co.(外部)
米国最大の銀行で、世界最大の時価総額を持つ金融機関。投資銀行業務、プライベートバンキング、資産管理など幅広い金融サービスを提供している。
Kinexys by J.P.Morgan(外部)
JPモルガンのブロックチェーンベース金融インフラで、トークン化投資、リアルタイム国際送金、金融データ交換を可能にする。
Coinbase(外部)
米国で唯一の上場暗号通貨取引所で、世界で最も信頼される暗号資産プラットフォームの一つ。Base ブロックチェーンの開発・運営も行っている。
Base(外部)
Coinbaseが開発したイーサリアムレイヤー2ブロックチェーンで、安全で低コスト、開発者フレンドリーな環境を提供する。
Ethereum(外部)
スマートコントラクト機能を持つ分散型ブロックチェーンプラットフォームで、多くのDeFiアプリケーションの基盤となっている。
【参考動画】
JPモルガン・チェースのCEOジェイミー・ダイモン氏が、同社の上級幹部400名に向けて行ったマネジメント講義の編集版。リーダーシップと企業経営に関する実践的な知見を提供している。
Baseブロックチェーンの初心者向け完全ガイド動画で、ウォレット作成から資金移動、トークン売買まで包括的に解説している。Baseが1年で第5位のブロックチェーンに成長した背景も説明している。
【参考記事】
JPMorgan to Pilot Deposit Token JPMD on Coinbase-Linked Public Blockchain(外部)
JPモルガンがCoinbaseと連携してJPMDのパイロットプログラムを開始することを報じた記事。デポジット・トークンの技術的詳細と実装計画について詳述している。
JPMorgan files trademark, sparks stablecoin speculation(外部)
JPモルガンの商標出願とGENIUS法案との関連性について詳細に分析した記事。規制環境とタイミングの重要性について説明している。
JPMorgan Chase files for blockchain-related trademark(外部)
Fortune誌による商標出願の発見と業界への影響について報じた記事。ウォール街の暗号資産採用動向についても言及している。
【編集部後記】
JPモルガンのJPMD発表を見て、私たちは金融の未来がどこに向かっているのか、改めて考えさせられました。皆さんは、普段使っている銀行口座のお金が、将来的にはブロックチェーン上でリアルタイムに動き回る世界を想像できますか?
今回のニュースは、従来の金融機関がWeb3技術をどう取り入れていくかの重要な事例だと感じています。特に気になるのは、この動きが私たち個人の金融体験にどんな変化をもたらすのかという点です。数日以内に実際のパイロットプログラムが始まるということで、その結果も注目されます。
皆さんは、こうした大手金融機関のブロックチェーン参入について、どのような期待や不安をお持ちでしょうか?また、デジタル化が進む金融サービスで、最も重視したい要素は何でしょうか?ぜひコメント欄で、皆さんの率直なご意見をお聞かせください。一緒に金融の未来について考えていければと思います。