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JPEG誕生30年、WebP・AVIFに対抗する画像圧縮技術の歴史と未来

JPEG誕生30年、WebP・AVIFに対抗する画像圧縮技術の歴史と未来 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-18 09:23 by admin

JPEGが1994年に標準化されてから2025年で31年が経過し、まさに世代交代の時期を迎えている。

30年間ウェブを支配してきたJPEGの歴史を振り返ることで、次世代フォーマットがどのような道筋を辿るかを予測する重要な示唆を得ることができるこ考える。

これらの動向が2025年6月に集中していることは偶然ではない。テクノロジー業界全体が、AI時代に適応した新しい画像処理パラダイムへの移行を加速させている証拠である。JPEGの30年間の成功と挫折から学び、WebP、AVIF、JPEG XLといった次世代フォーマットの未来を読み解くことが、今まさに求められている。

Joint Photographic Experts Groupは1980年代後半にCCITTとISOの合同で創設され、IBM従業員のウィリアム・B・ペネベーカーとジョーン・L・ミッチェルが600ページ以上の技術書「JPEG: Still Image Data Compression Standard」を執筆した。

1988年にミッチェルとペネベーカーがJPEGの基礎特許を出願し、IBM、AT&T、Canonなどが標準委員会に参加した。

1990年にOS/2がOS/2 Image Supportアプリケーションを通じて最初にJPEG対応を実現した。

1993年にリリースされたNCSA Mosaicは当初JPEGに対応せず、1995年にNetscapeで初めてウェブブラウザがJPEG表示に対応した。

1994年からUnisysがGIF特許でライセンス料徴収を開始し、JPEGの普及を促進した。1997年にForgent NetworksがCompression Labsを買収し、デジタルカメラメーカーから1億ドル以上、PC業界との和解で800万ドルを獲得した。

JPEG 2000はISO/IEC 15444-1として標準化されたが、一般普及は限定的である。

From: 文献リンクWhy JPEGs Still Rule the Web

【編集部解説】

JPEGの技術的優位性とその背景

JPEGが30年間にわたってウェブの主要画像フォーマットとして君臨し続けている理由は、単なる偶然ではありません。最も重要な技術的要因は、離散コサイン変換(DCT)という圧縮アルゴリズムにあります。この技術は1970年代に開発されたもので、画像データを周波数成分に分解し、人間の視覚特性を活用して不要な情報を効率的に除去します。

DCTの巧妙な点は、画像の「心臓部」を保持しながら、視覚的に重要でない詳細を段階的に削除できることです。これにより、ファイルサイズを大幅に削減しても、元画像の本質的な特徴を維持できるのです。

標準化がもたらした競争優位性

GIFとJPEGの運命を分けた決定的な違いは、標準化プロセスにありました。GIFがCompuServeの単独開発による事実上の標準だったのに対し、JPEGは1986年に設立されたJoint Photographic Experts Groupによる国際標準として開発されました。

この委員会にはIBM、AT&T、Canonなど多様な企業が参加し、それぞれの技術的ニーズを反映させました。Canonは印刷・写真技術、AT&Tはデータ伝送技術といった具合に、各社の専門性が統合された結果、汎用性の高い標準が誕生したのです。

特許問題が示すデジタル標準の脆弱性

JPEGの歴史で最も興味深いエピソードは、Forgent Networksによる特許訴訟です。1997年にCompression Labsを買収したForgentは、1986年に出願された圧縮技術特許がJPEGに適用されると主張し、2002年から2007年まで1億ドル以上の特許料を徴収しました。

この事件は、デジタル標準の潜在的リスクを浮き彫りにしています。特許の有効期限は出願から20年間のため、Forgentは2006年まで限られた時間で収益化を図る必要がありました。結果的に、2007年の特許期限切れとともに同社の訴訟戦略は終了し、現在はAsure Softwareとして人事・給与ソリューション事業に転換しています。

JPEG 2000の挫折が語る技術革新の難しさ

技術的に優れたJPEG 2000が普及しなかった理由は、ウェブ技術における「ネットワーク効果」の強力さを物語っています。JPEG 2000は2000年にISO/IEC 15444として標準化され、ウェーブレット変換による高品質圧縮、プログレッシブ表示、ロスレス圧縮オプションなど、多くの技術的改良を提供しました。

しかし、2025年現在でもウェブブラウザでの対応は極めて限定的で、Safariでのみサポートされているのが実情です。議会図書館やInternet Archiveなどの専門機関では活用されているものの、一般ユーザー向けの普及は進んでいません。

新世代フォーマットとの競争激化

現在、JPEGの地位を脅かす新しい画像フォーマットが台頭しています。GoogleのWebPは開発者コミュニティで広く採用され、AVIFやHEICといった標準化団体開発のフォーマットも性能面でJPEGを上回っています。

2025年時点で、WebPは互換性と処理速度のバランスが優れており、多くのウェブサイトで採用が進んでいます。一方、AVIFはより高い圧縮効率を実現しており、特に画像品質を重視するサイトでの採用が増加しています。

長期的視点での技術的遺産

JPEGの30年間の成功は、優れた技術標準の条件を示しています。第一に、多様なステークホルダーによる包括的な標準化プロセス、第二に、実用的な性能と互換性のバランス、第三に、特許問題の適切な解決です。

現在でもJPEGがMP3やZIPファイルと同様に「殺すには人気すぎる」レガシーフォーマットとして存続している理由は、30年間で構築された巨大なエコシステムにあります。新しいフォーマットがより優れた技術的特性を持っていても、既存の膨大なコンテンツとインフラを置き換えるコストは計り知れません。

未来への示唆

JPEGの歴史は、技術革新における標準化の重要性と、一度確立された標準の強固さを示しています。今後の画像技術発展においても、単純な技術的優位性だけでなく、エコシステム全体での互換性と移行コストを考慮した戦略が必要となるでしょう。

【用語解説】

離散コサイン変換(DCT)
1970年代に開発された圧縮アルゴリズムで、画像データを周波数成分に分解し、人間の視覚特性を活用して不要な情報を効率的に除去する技術である。デジタルオーディオや信号処理でも広く使用されている。

プログレッシブDCT
JPEG画像を最低解像度で表示し、データが読み込まれるにつれて段階的に詳細を追加する表示方式。モデム時代のインターネットで画像を効率的に表示するために開発された。

シーケンシャルDCT
圧縮された画像を上から下へウィンドウシェードのように順番に表示する方式。現在の高速インターネット環境では最も一般的な表示方法である。

ロスレス圧縮
圧縮前後でデータが完全に一致する圧縮方式。ZIPファイルのように、解凍すると元のデータが完全に復元される。画像では主にPNG形式で使用される。

ロッシー圧縮
圧縮時にデータの一部を削除し、ファイルサイズを小さくする圧縮方式。JPEG形式で使用され、視覚的に重要でない情報を除去することで高い圧縮率を実現する。

NCSA Mosaic
1993年に国立スーパーコンピュータ応用センター(NCSA)が開発した初期のグラフィカルウェブブラウザ。インターネットの普及に大きく貢献したが、当初はJPEG形式に対応していなかった。

CompuServe
1969年に設立されたアメリカの商用オンラインサービス会社。GIF形式を開発したことで知られ、1980年代から1990年代にかけてインターネット普及の先駆けとなった。

【参考リンク】

Joint Photographic Experts Group(JPEG)公式サイト(外部)
JPEG標準を策定するISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 1委員会の公式サイト

Asure Software公式サイト(外部)
旧Forgent Networksが2007年に社名変更した人事・給与管理ソリューション企業

WebP公式サイト(Google for Developers)(外部)
Googleが開発した次世代画像フォーマットWebPの公式技術サイト

Canon公式サイト(外部)
JPEG標準委員会に参加し印刷・写真技術の観点から貢献した日本企業

【参考動画】

Computerphile公式チャンネルによるJPEG圧縮の核心技術である離散コサイン変換(DCT)の詳細解説動画。画像アナリストのマイク・パウンド氏が、JPEGの圧縮メカニズムを技術的かつ分かりやすく説明している。

JPEGアルゴリズムの信号処理的観点からの包括的解説動画。データ圧縮の大局的な視点からJPEGの位置づけと、量子化テーブル、ハフマン符号化などの技術的詳細を説明している。

【参考記事】

Forgent settles JPEG patent cases – CNET(外部)Forgent NetworksのJPEG特許訴訟が800万ドルで和解した経緯を報じた記事

JPEG 2000 – Wikipedia(外部)JPEG 2000標準の技術的詳細と1997年から2000年の開発過程についての解説

Setting Standards (JPEG 2000) – Digital Preservation(外部)
米国議会図書館によるJPEG 2000の実用事例と文化遺産機関での活用状況

【編集部後記】

JPEGが30年間も私たちのデジタルライフを支え続けてきた背景には、技術標準化の奥深い世界があります。皆さんは普段、スマートフォンで撮影した写真をSNSにアップロードする際、どのような画像フォーマットを意識されているでしょうか?

実は、私たちが何気なく使っている技術の多くは、JPEGのような長期間にわたる標準化プロセスを経て生まれています。WebPやAVIFといった新しいフォーマットが登場する中で、なぜJPEGは今なお主流なのか、そしてこれからどのような画像技術が私たちの生活を変えていくのか。

もしよろしければ、皆さんが日常で感じている画像品質やファイルサイズの悩み、新しい技術への期待などをお聞かせください。一緒に、テクノロジーが人間の進化にどう貢献していくかを考えてみませんか。

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TaTsu
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