Last Updated on 2025-07-04 12:22 by admin
米国の投資アプリ運営会社Robinhood Markets(NASDAQ: HOOD)は2025年6月30日、フランスのカンヌで開催したイベント「To Catch a Token」において、欧州連合・欧州経済地域の30カ国4億人を対象とした株式トークンサービスと独自のLayer 2ブロックチェーンの開発を発表した。
同社CEO Vlad Tenevが発表した新サービスでは、対象となる欧州顧客が200以上の米国株式・ETFトークンをRobinhoodからの手数料やスプレッドなしで取引できるが、外貨換算には0.1%の手数料が適用される。
取引は月曜日から金曜日まで24時間可能で、配当も直接受け取れる。株式トークンは当初Arbitrumブロックチェーン上で発行され、将来的には開発中のRobinhood独自のLayer 2ブロックチェーンに移行する予定である。同時に、欧州では最大3倍レバレッジの暗号通貨永続先物取引を夏の終わりまでに完全展開し、米国ではイーサリアムとソラナから始まる暗号通貨ステーキング機能を開始する。発表を受けてRobinhood株価は過去最高値を更新した。
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Robinhood Launches Stock Tokens and Layer 2 Blockchain to Enhance Investment Access for EU Customers
【編集部解説】
今回の発表で特に注目すべきは、Robinhoodが実現しようとしている革新の本質です。単なる株式取引アプリの欧州展開ではなく、従来の金融システムの根本的な構造変革を意図した戦略的な動きといえます。
株式トークン化の技術的意義を理解するには、まず現在の国際的な株式取引の制約を考える必要があります。従来、欧州の投資家が米国株に投資する場合、複雑な国際決済システムを経由し、時差による取引時間の制約、高額な手数料、複雑な税務処理などの問題がありました。Robinhoodの株式トークンは、これらの制約をブロックチェーン技術で解決しようとしています。
現在はArbitrumブロックチェーン上で発行される株式トークンですが、将来的にはRobinhood独自のLayer 2ブロックチェーンに移行予定です。これにより週5日24時間の取引が可能になり、従来の市場開閉時間の概念を部分的に打ち破ります。ただし、完全な24時間365日取引は将来のLayer 2ブロックチェーン完成後の目標となっています。
重要な点として、株式トークンは実際の株式とは根本的に異なる性質を持ちます。これらはデリバティブ(派生商品)として分類され、議決権は付与されません。また、Robinhoodプラットフォーム内でのみ取引可能で、他の証券会社への移管はできません。投資家にとって、これは従来の株式投資とは異なるリスクプロファイルを意味します。
規制面での課題は複雑です。欧州証券市場監督機構(ESMA)が2024年7月に発表したレポートによると、Neo-brokerと呼ばれるデジタル証券会社には潜在的なリスクが指摘されています。特に「フラクショナルシェア」と呼ばれる株式の小口化商品については、投資家保護の観点から懸念が示されています。
暗号通貨永続先物の導入も注目点です。最大3倍のレバレッジを提供するこの商品は、アクティブトレーダーには魅力的ですが、欧州のMiCA規制(Markets in Crypto-Assets Regulation)との整合性が焦点となります。MiCA規制は2024年12月30日に完全施行され、暗号通貨デリバティブに対する厳格な規制枠組みを定めています。
長期的な視点では、この動きは「現実世界資産(RWA)のトークン化」という大きなトレンドの一環として理解できます。株式、債券、不動産などの伝統的資産をブロックチェーン上でトークン化することで、流動性の向上、拡張された取引時間、プログラマブルな配当分配などが可能になります。
しかし、技術的リスクも存在します。ブロックチェーンの技術的障害、スマートコントラクトの脆弱性、規制変更による運営停止リスクなどです。また、Robinhoodが開発中の独自Layer 2ブロックチェーンの技術的実現可能性についても慎重な評価が必要でしょう。
この発表が金融業界に与える影響は広範囲に及びます。伝統的な証券取引所、カストディアン、決済機関などの既存インフラが直面する挑戦は大きく、業界全体のデジタル化が加速する可能性があります。同時に、投資家教育の重要性も高まっており、新しい金融商品の理解促進が急務となっています。
【用語解説】
株式トークン(Stock Tokens):従来の株式をブロックチェーン上でデジタル化したデリバティブ商品。実際の株式とは異なり議決権はなく、発行プラットフォーム内でのみ取引可能。週5日24時間取引対応で小口投資にも対応している。
Layer 2ブロックチェーン:メインのブロックチェーン(Layer 1)の上に構築されるセカンドレイヤー技術。取引処理の高速化とコスト削減を目的とし、メインチェーンのセキュリティを保ちながらスケーラビリティ問題を解決する。
永続先物(Perpetual Futures):満期日のないデリバティブ商品。連続的なエクスポージャーとレバレッジ取引を可能にし、従来の先物取引より柔軟性が高い。Robinhoodでは最大3倍のレバレッジまで対応している。
暗号通貨ステーキング:暗号通貨を預けてネットワークの運営に参加し、報酬を得る仕組み。PoS(Proof of Stake)ブロックチェーンにおいて、ネットワークのセキュリティと運営に貢献する。
MiFID II:欧州連合の金融商品市場指令。投資家保護と市場の透明性向上を目的とした包括的な金融規制で、デリバティブ商品の提供には厳格な要件を課している。
現実世界資産(RWA)のトークン化:株式、債券、不動産などの伝統的資産をブロックチェーン上でデジタル化すること。流動性向上と拡張された取引時間を可能にする革新的な金融技術である。
MiCA規制:欧州連合の暗号資産市場規制。2024年12月30日に完全施行され、暗号通貨とその関連商品に対する統一的な規制枠組みを提供する。
【参考リンク】
Robinhood Markets(公式サイト)(外部)
手数料ゼロのオンライン証券会社。株式、暗号通貨、オプションなど幅広い金融商品を提供
Arbitrum(公式サイト)(外部)
イーサリアムのLayer 2スケーリングソリューション。900以上のアプリケーションが稼働
欧州証券市場監督機構(ESMA)(外部)
欧州連合の独立機関として投資家保護と金融市場の安定性向上を担当
Bitstamp(公式サイト)(外部)
2011年設立の世界最古の暗号通貨取引所の一つ。Robinhoodに買収済み
欧州委員会 MiFID II情報ページ(外部)
欧州連合の金融商品市場指令に関する公式情報。委任法令の詳細を提供
Robinhood欧州版株式トークン説明ページ(外部)
株式トークンの仕組み、取引時間、手数料、リスクについて詳細に説明
【参考動画】
Robinhood Presents: To Catch A Token(公式発表イベント)
Robinhood公式チャンネル。CEO Vlad Tenevがカンヌで行った株式トークンとLayer 2ブロックチェーンの発表イベントの完全版ライブストリーミング映像。
Robinhood CEO talks stock tokens launch
Yahoo Financeチャンネル。Robinhood CEOが株式トークンの発表について詳しく説明するインタビュー動画で、戦略的意図と技術的詳細を解説している。
【参考記事】
Robinhood launches tokens allowing EU users to trade in US stocks(外部)
Reuters通信による客観的報道。欧州市場での株式トークン提供開始の背景と市場への影響を分析
Robinhood (HOOD) News: Launches Tokenized Stocks on Arbitrum, Develops Own Blockchain(外部)
CoinDeskによる暗号通貨業界視点の解説。ArbitrumベースのLayer 2技術を専門的に分析
Neo-brokers in the EU: Developments, benefits and risks(外部)
ESMA公式レポート。欧州におけるデジタル証券会社の動向分析と投資家保護の観点からのリスク評価
Robinhood grows its global crypto footprint with U.S. stock tokens(外部)
CNBC報道。カンヌでの発表イベントの現地レポートとCEOインタビューによる戦略的意図の解説
Robinhood launches layer-2 blockchain for stock trading in Europe(外部)
Cointelegraph分析。Layer 2ブロックチェーン技術の詳細とヨーロッパ市場での技術的実装について解説
Markets in Crypto-Assets Regulation (MiCA)(外部)
ESMA公式のMiCA規制解説。暗号資産市場規制の詳細と実装スケジュールを包括的に説明
【編集部後記】
今回のRobinhoodの発表は、従来の金融システムの境界線が曖昧になっていく転換点を示しているように感じます。株式取引が週5日24時間可能になり、国境を越えた投資がより身近になる一方で、新しいリスクも生まれています。
特に気になるのは、株式トークンが実際の株式とは異なり、議決権がなく他社への移管もできないという点です。便利さと引き換えに、私たちが失うものの意味をどう考えるべきでしょうか?また、日本でも同様のサービスが展開された場合、どのような影響があると思われますか?