Last Updated on 2025-06-03 09:03 by admin
ウクライナ保安庁(SBU)は2025年6月1日、ロシア国内の空軍基地4カ所に対してドローン攻撃を実施した。
この作戦は「スパイダーウェブ(蜘蛛の巣)」と名付けられ、18ヶ月間の準備期間を経て117機のFPVドローンを使用した。攻撃対象はムルマンスク州オレニャ基地、イルクーツク州ベラヤ基地、リャザン州ジャギレボ基地、イヴァノヴォ州イヴァノヴォ基地で、ウクライナ国境から最大4000キロ離れた地点も含まれる。
ウクライナ側はA-50早期警戒管制機、Tu-95戦略爆撃機、Tu-22M3戦略爆撃機、Tu-160可変翼超音速爆撃機など40機以上を攻撃し、ロシアの戦略爆撃機120機の34%に損害を与えたと主張している。
推定損害額は70億ドル(約1兆円)に達するとしている。作戦では爆発物搭載FPVドローンをプレハブ木造キャビンを運ぶトラック内部に隠し、ロシア人運転手によって各地域に運び込んだ後、軍事施設近くで遠隔操作により屋根を開いてドローンを発進させた。
ロシア国防省は5州の空軍基地への攻撃を認めたが、大部分を撃退し死傷者は出ていないと発表した。
From: Ukrainians smuggle drones hidden in cabins on trucks to strike Russian airfields
【編集部解説】
この作戦の技術的な核心は、AI搭載FPVドローンの分散型遠隔操縦システムにあります。ウクライナの工作員が3つの異なるタイムゾーンから117機のドローンを同時制御したという点は、分散型指揮統制システムの実用化を示しています。これまでドローン攻撃は比較的近距離での運用が主流でしたが、今回は最大4000キロ離れた地点への攻撃を実現しました。
トロイの木馬戦術とドローン技術の融合という点で、この作戦は軍事史上でも画期的な意味を持ちます。プレハブ木造キャビンという日常的な輸送物に偽装し、遠隔操作で屋根を開いてドローンを発進させる仕組みは、従来の軍事作戦の概念を根本的に変える可能性があります。
損害規模についてはウクライナ側の主張(70億ドル、40機以上)とロシア側の発表に大きな開きがありますが、独立系OSINT分析では複数の基地で実際に損害が発生していることが衛星画像で確認されています。特に注目すべきは、ロシアが保有する戦略爆撃機120機のうち34%にあたる40機が攻撃対象となったという点です。
この技術革新がもたらすポジティブな側面として、小国でも大国の軍事インフラに対して効果的な抑止力を持てる可能性が示されました。一方で、潜在的なリスクとして、テロ組織や非国家主体がこの手法を悪用する危険性も浮上しています。
国際法の観点では、軍事目標への攻撃は合法とされますが、民間のトラック運転手を無意識のうちに作戦に巻き込んだ点は、今後の戦争法規制に新たな課題を提起しています。
長期的な視点では、この作戦は非対称戦争の新たなパラダイムを示しており、従来の軍事バランスを根本的に変える可能性があります。特に、AI技術と組み合わせた自律型兵器システムの発展は、今後の軍事技術開発に大きな影響を与えるでしょう。
【用語解説】
FPVドローン(First Person View)
一人称視点でドローンを操縦する技術。操縦者がドローンに搭載されたカメラからの映像をリアルタイムで確認しながら操作する。通常のドローンと異なり、目視ではなくゴーグルやモニターを通じて操縦するため、より精密で高速な飛行が可能である。
A-50早期警戒管制機
ロシア空軍の空中早期警戒管制機。空中目標を300機まで探知・追尾でき、戦闘機12機をコマンド誘導、30機を機上誘導で管制できる能力を持つ。爆撃機に対する最大探知距離は650kmに達する。
Tu-95戦略爆撃機
1950年代に開発されたロシアの長距離戦略爆撃機。現在運用されているTu-95MSは巡航ミサイルKh-55を搭載可能で、核兵器運搬能力を持つ。
Tu-22M3爆撃機
ソ連時代に開発された中距離爆撃機。可変翼を持つ超音速機で、最大速度はマッハ2.05。Kh-22およびKh-32ミサイルの発射プラットフォームとして使用され、飛行速度はマッハ4以上に達する。
Tu-160可変翼超音速爆撃機
ロシアの戦略爆撃機で「ホワイトスワン」とも呼ばれる。可変翼を持つ超音速機で、核ミサイル搭載能力を有する。世界最大の戦略爆撃機として知られる。
ウクライナ保安庁(SBU)
ウクライナの法執行機関で、旧ソ連KGBの後継組織。正式名称はСлужба безпеки України。現在の長官はヴァシーリー・マリューク中将である。
OSINT(オープンソース・インテリジェンス)
公開情報を活用した情報収集・分析手法。衛星画像、SNS投稿、公開文書などから軍事情報を分析する手法で、今回の作戦でも損害評価に活用された。
【参考リンク】
ウクライナ保安庁公式サイト(外部)
ウクライナの国家保安機関の公式ウェブサイト。今回のスパイダーウェブ作戦についても公式発表を行った。
Vietnam.vn日本語版(外部)
ベトナム国営メディアの日本語版サイト。今回のスパイダーウェブ作戦について詳細な報道を行った。
【参考動画】
【参考記事】
ウクライナが18か月準備した史上初の大作戦(外部)
韓国メディアによる詳細な分析記事。作戦の準備期間、技術的詳細について詳しく報じている。
ウクライナの「スパイダーウェブ作戦」(外部)
作戦の概要と使用された技術について分かりやすく解説した記事。ドローンの運用方法を詳細に報じている。
【編集部後記】
今回のスパイダーウェブ作戦は、ドローン技術の軍事応用における革新的な事例でした。しかし、この分散型遠隔操作技術は軍事分野だけでなく、災害対応での複数地点同時監視、大規模インフラ点検、物流ネットワークの最適化など、私たちの日常生活にも大きな変化をもたらす可能性があります。
皆さんは、このような高度な遠隔操作技術が今後どのような分野で活用されると思いますか?また、技術の平和利用と軍事転用のバランスについて、どのようなお考えをお持ちでしょうか?