ドローンが「国家の安全保障物資」に指定されて、まだ半年も経っていない。日本の産業界はこれほど早く、その答えを出してみせた。
株式会社Prodroneは2026年4月17日、主要構成部品すべてを国内メーカー製品で構築した純国産ドローン試作機「PD4B-MS」を開発したと発表した。構成パートナーはモーター/ESCがキヤノン電子株式会社、フライトコントローラーが株式会社ジェイテクト、バッテリーが古河電池株式会社、送受信機が株式会社TKKワークス、機体・プロペラ・GPSアンテナが株式会社Prodroneである。
スペックは機体重量7.8kg(バッテリー除く)、最高速度60km/h、飛行可能風速12m/s、最大飛行時間約25分(ペイロードなし)・約20分(ペイロード3kg)、使用環境温度-20℃〜+40℃である。Prodroneはあわせて新ブランド「SAMURAI TECH by Prodrone」(商標出願中)の展開を発表した。
なお一部の原材料や半導体等の電子部品には海外製が含まれる。本機体はコンセプトモデルであり、販売モデルは別途案内される。
From:
純国産ドローン試作機完成、SAMURAI Tech – PRODRONE
※アイキャッチは株式会社Prodrone公式ニュースより引用
【編集部解説】
「純国産ドローン」という言葉が、いまドローン業界で大きな意味を持ち始めています。そのきっかけとなったのが、2025年12月19日の閣議決定です。政府はこの日、経済安全保障推進法に基づき、ドローンを「特定重要物資」に追加指定しました。半導体や蓄電池、重要鉱物と同列に位置づけられたことで、ドローンは国家戦略上の優先物資となったのです。
この背景にあるのが、国内ドローン市場の中国依存という現実です。現在、日本で使用されるドローンの大半は中国製であり、代表格がDJI(大疆創新)です。セキュリティリスクや地政学的リスクが顕在化するなか、政府はその脱却を急いでいます。政府はドローンの国内量産化に向けて約139億円規模の支援予算を措置しており、経産省は年1万台規模の量産基準を設けて国内生産体制の構築を促しています。
今回Prodroneが発表した「PD4B-MS」は、まさにこの国家戦略に応える形で誕生した機体です。モーターとESCにキヤノン電子、フライトコントローラーにジェイテクト、バッテリーに古河電池と、いずれも国内大手・実績企業をパートナーに選定しているのが特徴です。単なる組み立て品ではなく、基幹部品レベルでの国産化を実現した点は、これまでの国産ドローンとは一線を画する取り組みと言えます。
ただし、注意すべき点もあります。Prodroneは発表内の「純国産」の定義について、「一部の原材料や電子部品(半導体等)には海外製が含まれる」と自ら明記しています。半導体のサプライチェーンは現時点でも高度にグローバル化しており、完全な国産化は事実上不可能に近い状況です。「純国産」という表現はあくまで主要構成部品レベルでの話であり、この点は誇張なく読み解く必要があります。
産業用途での実用性という観点では、最大飛行時間25分(ペイロードなし)・20分(ペイロード3kg)というスペックは、現時点では試作機として合格ラインではあるものの、実務現場での競争力を確立するには今後の改良が求められます。Prodroneも飛行時間延長に向けたエネルギー効率の研究を継続中であることを明かしており、量産モデルではさらなる性能向上が期待されます。
国際的な文脈で見ると、日本製ドローンへの需要は国内にとどまりません。日本政府はすでに、途上国や新興国の軍に対して非戦闘用ドローンを供与する準備を進めており、中国製代替品としての日本製ドローンを外交・安全保障ツールとして活用しようとしています。ACSLなど他の国産ドローンメーカーが米国のNDAA(国防権限法)準拠の観点で注目されているように、「Made in Japan」ドローンは国際市場でのブランド価値を持つ可能性があります。
新ブランド「SAMURAI TECH by Prodrone」というネーミングは、国内外への強いメッセージ性を帯びています。日本の精密技術と信頼性を象徴するブランドとして育てる意図は明確であり、今後の量産体制確立と市場展開が、このブランドの真価を問うことになるでしょう。
【用語解説】
ESC(Electronic Speed Controller)
電子制御によってモーターの回転数を調整する装置。ドローンでは各プロペラの速度を独立して制御することで、機体の安定飛行・姿勢制御を担う中核部品である。
フライトコントローラー
ドローンの「頭脳」に相当する制御基板。GPS・ジャイロセンサー・加速度センサーなどの情報を統合し、機体の姿勢・飛行経路・自律制御などを司る。産業用ドローンでは信頼性と安全性が特に重視される。
経済安全保障推進法
2022年5月に成立した日本の法律。半導体や蓄電池など国家・国民の安全に不可欠な物資を「特定重要物資」に指定し、国内供給網の強化・安定的な確保を目的とする。2025年12月19日にドローンが同法の特定重要物資に追加指定された。
サプライチェーン(Supply Chain)
原材料の調達から製造・物流・販売に至る一連の供給ネットワークのこと。地政学的リスクや自然災害などによって特定国・地域への依存が断たれると、生産が停止するリスクがある。産業用ドローンでは中国依存のサプライチェーンが安全保障上の懸念として指摘されている。
ペイロード
ドローンが搭載・運搬できる積載重量のこと。カメラ・センサー・物資などを含む。産業用途では、どれだけの重量を積んで安定飛行できるかが実用性の重要指標となる。
【参考リンク】
株式会社Prodrone 公式サイト(外部)
純国産ドローン「PD4B-MS」の開発・製造元。名古屋市に本社を置き、産業用ドローンの開発から生産までをワンストップで手がける。
キヤノン電子株式会社 公式サイト(外部)
PD4B-MSのモーター/ESCを担当するパートナー企業。精密モーターの製造に強みを持ち、ドローン用途を含む産業機器向け製品を幅広く提供している。
株式会社ジェイテクト 公式サイト(外部)
PD4B-MSのフライトコントローラーを担当。トヨタグループ主要13社のひとつで、ステアリングシステムや電子制御機器などを手がける大手機械メーカーである。
古河電池株式会社 公式サイト(外部)
PD4B-MSのバッテリーを担当。古河グループの蓄電池メーカーとして、自動車・航空・宇宙用途まで幅広い二次電池を製造している。
株式会社TKKワークス 公式サイト(外部)
PD4B-MSの送受信機を担当。機体・無線操縦装置・フライトコントローラーなどを自社開発する産業用UAVのエンジニア集団で、大阪府大阪市に本社を置く。
【参考記事】
「特定重要物資」にドローンや船体など5物資追加指定へ…経済安保巡り政府検討(読売新聞)(外部)
2025年11月時点で政府がドローンを経済安全保障推進法の「特定重要物資」に追加指定することを検討していると報じた記事。その後2025年12月19日に正式指定となった。
経済産業省に聞く国産ドローン支援「特定重要物資制度と139億円の使い道」(coeteco)(外部)
経産省へのインタビューをもとに、ドローン特定重要物資指定後の支援策を詳述。約139億円規模の支援予算と年1万台規模の量産基準について解説している。
ドローンの国内量産化へ助成、年8万台の体制整備目指す…政府方針(読売新聞)(外部)
政府が国内ドローン量産化に向けて助成策を講じる方針を示した記事。国内生産体制の構築に向けた政府方針を報じている。
Japan offers noncombat drones to developing countries as China alternative(Nikkei Asia)(外部)
日本政府が途上国・新興国の軍に非戦闘用ドローンを供与する準備を進めていると報じた英語記事。中国製代替としての日本製ドローンの外交活用が焦点。
DJI Alternative Drones: Why Other Brands Like Autel, ACLS, And Anzu Are Gaining Ground(C6 Drones)(外部)
DJIに代わる選択肢として台頭するメーカーを解説した英語記事。NDAA準拠・セキュリティリスクを背景に非中国系ドローンへの需要拡大を詳述している。
経済安全保障推進法 関連記事一覧(DroneTribune)(外部)
ドローン専門メディアDroneTribuneによる経済安保推進法関連の連続報道。特定重要物資指定の経緯や業界への影響を継続的にフォローしている。
【関連記事】
ACSL、「日本ウクライナドローンクラスター」に参画——戦場知見と国産技術が交差する
2025年12月のドローン「特定重要物資」指定を受け、国産ドローン需要の拡大と政策背景を詳述。今回の記事と政策文脈が完全に重なる。
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国内ドローン市場の中国依存9割超・2030年年8万台目標・最大50%助成など、純国産化推進の背景となる数値と政策を網羅。
イームズロボティクス×Skyports、ドローンエアライン事業で戦略提携
国産ドローンメーカーが国際連携で事業拡大する同時期の動向として、今回のProdrone純国産化戦略と対比・補完関係にある記事。
【編集部後記】
「純国産ドローン」という言葉を聞いて、あなたはどんな未来を想像しますか?空の安全保障、国産技術の復権、それとも日常生活への影響でしょうか。
この動きは、ドローンだけの話ではないかもしれません。半導体、バッテリー、通信——私たちの生活を支えるあらゆる技術で、同じ問いが立ち上がっています。「どこで作られたか」が、これほど重要な意味を持つ時代が来るとは、少し前まで想像もしなかったことです。
みなさんはどう思いますか?ぜひコメントで教えてください。











