JAMSTECが7月24日に公表した分析結果によると、南鳥島沖の泥から引き上げたレアアースのうち、約54%が中重レアアースでした。この数字を見て私が思い浮かべたのは、オーストラリアでも米国でもなく中国南部の鉱床です。中重が5割に達する鉱床は、そこにしかないとされてきました。南鳥島の泥は、何に似ているのでしょうか。
内閣府のSIP「海洋安全保障プラットフォームの構築」と海洋研究開発機構(JAMSTEC)は7月24日、南鳥島EEZ海域でのレアアース泥採鉱システム接続試験の結果を発表した。試験は地球深部探査船「ちきゅう」により1月12日から2月14日にかけて実施した。
1月30日にパイプ長5,569メートルの海底に解泥機が着底し、2月1日午前0時30分過ぎに連続揚泥を確認した。3日間の揚泥試験で3箇所のレアアース層から回収し、揚泥量は約50トンと算定された。成分分析ではレアアース総量の約54%がイットリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどの中重レアアースだった。
有害物質および放射性物質は有意な数値が検出されなかった。2027年2月に本格的な採鉱試験を実施し、2028年3月までに経済性評価を含む総合評価を行う予定である。
中重54%をどう読むか
2月に「引き上げた」というニュースをお伝えしたとき、最も重要な問いは宙に浮いたままでした。その泥には、何が入っていたのか。
今回JAMSTECが公表した数字は、そこにひとつの答えを出しています。回収したレアアース泥に含まれるレアアース全体のうち、約54%が中重レアアースでした。イットリウム29.9%、ガドリニウム4.9%、ジスプロシウム4.6%、その他の中重が14.5%という内訳です。
まず、この数字の読み方から整理させてください。54%というのは「泥の54%がレアアース」という意味ではありません。泥に含まれるレアアース元素だけを100としたときの、中重グループの取り分です。母数を取り違えると、埋蔵量の評価が桁違いに狂います。
そのうえで、この比率が持つ意味は決して小さくありません。JOGMECの比較資料では、オーストラリアのマウント・ウェルド鉱山の中重比率が5.3%、米国のマウンテンパス鉱山は軽希土類が98.7%を占めます。一方、中国南部の信豊鉱床では中重が45.6%に達します。
分析対象も母数の取り方も資料ごとに異なるため、これらを厳密な横並びとして扱うことはできません。それでも、南鳥島の泥が示す組成のプロファイルは、豪州産や米国産よりも中国南部の鉱床に近い側にあります。私はここに、この発表の戦略的な意味を見ています。
なぜ比率が効くのか。レアアース17元素は化学的性質が互いに近く、多段の溶媒抽出などを重ねて一つずつ分けていく必要があります。JOGMECは、目的の中重が少ないほど需要を上回る軽希土類が副産物として生じ、その販売や処理が採算の負担になると指摘しています。実際の採算は品位、回収率、試薬、廃棄物処理、輸送や脱水の費用にも左右されますが、54%という比率が、資源量の話であると同時に精製コスト構造の話でもあることは確かです。
背景にある切迫感にも触れておきます。中国は2025年4月4日の商務部・税関総署公告第18号により、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの中重希土類7元素に関連する金属、酸化物、化合物、磁石などを輸出許可制としました。今回の泥で確認されたイットリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムは、いずれもこの7元素に含まれます。
さらに2026年1月6日、中国商務部は公告2026年第1号を公布し、即日施行しました。全デュアルユース品目について、日本の軍事ユーザー、軍事用途、および日本の軍事力向上に資するエンドユーザーや用途への輸出を禁止する内容です。日本向けレアアースを一律に止める措置ではありませんが、2025年にデュアルユース管理の対象となったレアアース関連品目も、該当する用途・ユーザーであれば規制が及びます。「ちきゅう」が清水港を出たのは、その6日後の1月12日でした。
重希土類の分離工程は、著しく中国に集中しています。米国エネルギー省は、ジスプロシウムの分離について中国が約93%を占めると推定しています。この構造こそが、南鳥島の泥に中重が半分以上含まれていたという事実に、資源量を超えた意味を与えています。
技術面についても、前回の記事から更新しておきたい点があります。採鉱システムは圧縮空気で吸い上げるエアリフト方式ではなく、石油・天然ガス掘削のライザー掘削方式に独自技術を加えた「閉鎖型循環方式」です。閉鎖された系のなかで泥を循環させることで、懸濁物の漏洩・拡散を抑えることを目指した設計になっています。
深度の表記も慎重に扱う必要があります。JAMSTECが成果として掲げるのは「パイプ長5,569メートル」であり、これは揚泥管の長さから水深を割り出した値です。同じリリースに掲載されたROVの映像には5,670〜5,675メートルという計測値が記録されており、パイプ長、ROVの圧力深度、海底の起伏はそれぞれ別の指標です。「深海6,000メートル級」と押さえるのが、現時点で最も誠実な表現でしょう。
環境影響の評価については、発表の書きぶりを正確に受け取ることが大切です。「汚染リスクは低いと判断される」という結論には、「現在、観測データの解析と試料の分析を進めているが」という前置きがあります。現時点で公表されている具体的な根拠は、船上で実施したISO 23734準拠のバイオアッセイです。海底に設置した環境DNA自動採取装置やハイドロフォンのデータは解析の途上にあり、長期的・広域的な生態系への影響について結論が出たわけではありません。
その一方で、見落とされがちな成果もあります。今回のモニタリングに用いられたISO 23730、23731、23734は、SIP海洋が開発し国際標準化機構から発行された規格です。国際海底機構(ISA)では、鉱物資源の探査に関する規則はすでに整備されている一方、開発すなわち商業採掘に関する規則は、2026年7月時点でも採択に至っていません。ルールが定まらない領域で、日本は測り方の標準を先に手にしています。これは資源そのものとは別種の、地味だが息の長い資産だと考えます。
日程表からは、もうひとつ現実的な事実が読み取れます。34日間の航海のうち、揚泥そのものは3日間。採鉱機と揚泥管の降下に12日間、機材の揚収に8日間を要しました。降下作業は荒天のため予定の7日間から延びたもので、この比率がそのまま商業操業に当てはまるわけではありません。それでも、深海から資源を取り出す作業の相当部分が機材の上げ下げに費やされるという事実は、採算を考えるうえで避けて通れない論点になります。
そして2027年2月の本格採鉱試験は、性格がまったく異なります。SIPの計画資料では日量350トン規模が想定され、スラリーを南鳥島へ運んで脱水し、マッドケーキとして本土へ送り、分離・精製・製錬まで通す構想です。ヘリコプターによる人員交替、宿泊用船舶、島の脱水施設——これはもはや技術試験というより、離島に産業オペレーションを立ち上げる予行演習に近いものです。
残された最大の問題は、濃度です。今回、レアアースが泥に何ppm含まれていたかは公表されていません。埋蔵量の規模も同様です。記者会見では、サンプリングの期間と地理的範囲が限られ推定に足るデータが揃っていないことが理由として説明されたと報じられていますが、公式リリースの本文にその記載はありません。組成の質は確認できても、品位が採算に乗るかは別の問題です。日本の需要構成を見ると、新金属協会の集計で2024年のイットリウム需要は1,400トン、全体18,835トンに対して7.4%にとどまります。泥の内訳で29.9%を占めるイットリウムと、需要側の重心は必ずしも一致しません。磁石に不可欠なテルビウムは、内訳では「その他中重」に括られています。
採れることは証明されました。次に問われるのは、採算が合うかどうかです。その答えは、2028年3月までにまとめられる総合評価まで持ち越されました。
【参考動画】
揚泥に成功した際の船上の様子を記録した映像。SIP/JAMSTEC提供の素材が用いられている。
泥を採取する一連の作業を追った映像。容器に詰められたスラリー状のレアアース泥が確認できる。
試験の実施前に、その目的と技術的な狙いを解説した報道。採鉱システムの位置づけを把握しやすい。
【関連記事】
「ちきゅう」が深海5,700mからレアアース泥揚泥に成功―南鳥島で世界初の快挙
2026年2月2日公開。本記事の前編にあたる。世界初の連続揚泥に成功した速報で、今回はその泥の中身を扱う。
『ちきゅう』が深海6,000mに挑む――南鳥島レアアースは日本の“盾”になれるか
2026年1月13日公開。中国の対日輸出規制の6日後に「ちきゅう」が出航した経緯を、経済安全保障の文脈で解説している。
脱・中国依存の鍵「深海6,000mの泥」を収益化する。日本の極限技術と経営戦略
2026年1月13日公開。深海採鉱のコスト構造を正面から論じた記事。本記事が残した採算性の問いに接続する。
【編集部後記】
中国南部の鉱床に似ている、という書き方をしましたが、これは裏を返せば厄介な話でもあります。似ているということは、中国がすでに確立した分離・精製の技術体系が、南鳥島の泥にもある程度そのまま当てはまる可能性があるということです。
技術の系譜という点では、日本はその工程をほとんど持っていません。採る技術は世界初でも、そこから先は追いかける側です。2027年の試験で分離・精製・製錬まで通すという計画は、だからこそ本番なのだと思います。泥の中身より、そちらの結果のほうが先を決めるのではないでしょうか。
【用語解説】
レアアース泥
レアアース(希土類)元素の含有量が特に高い海底堆積物のこと。南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)の海底下に分布している。
中重レアアース
レアアース17元素のうち、原子量が比較的重いグループの総称。イットリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、テルビウムなどが含まれる。ただしイットリウムのように、原子量ではなく化学的性質から重希土類側に分類される元素もあり、境界の引き方は機関によって多少異なる。存在量が少なく分離も難しいため、供給源が地理的に偏っている。
軽希土類(軽レアアース)
原子量が比較的軽いグループ。ネオジムやプラセオジムなどが代表例で、世界各地の鉱床から採取できる。中重に比べて調達の代替余地が大きい。
イットリウム
原子番号39の元素。蛍光体、LED、二次電池の添加物などに用いられ、高温超電導体の材料にもなる。今回の分析では、レアアース総量の29.9%を占めた。
ガドリニウム
原子番号64の元素。磁石材料、光学ガラス、蛍光体のほか、医療用MRIの造影剤や、原子炉における中性子の吸収・遮蔽材として用いられる。
ジスプロシウム
原子番号66の元素。ネオジム磁石に添加することで高温環境下の耐熱性を高めるため、高い温度性能が求められる電気自動車の駆動モーター用磁石で重要な役割を担う。一方で、使用量を削減した磁石や、重希土類を使わないモーターの開発も進められている。
テルビウム
原子番号65の元素。ジスプロシウムと並び、高性能磁石の耐熱性向上に用いられる中重レアアース。今回の内訳では「その他中重」に含まれている。
マウント・ウェルド鉱山/マウンテンパス鉱山
前者は西オーストラリア州、後者は米国カリフォルニア州にあるレアアース鉱山。中国以外の主要な供給源だが、JOGMECの比較資料ではマウント・ウェルドの中重比率が5.3%、マウンテンパスは軽希土類が98.7%を占めるとされる。
閉鎖型循環方式
石油・天然ガス掘削で用いられるライザー掘削方式に独自技術を加えた採鉱方式。系を閉じた状態で泥を循環させることで、採鉱時に生じる懸濁物の漏洩・拡散を抑制することを目指している。完全な密閉や環境影響ゼロを意味するものではない。
ライザー掘削方式
海底の掘削孔と船上を太いパイプ(ライザー)でつなぎ、その内部で泥水を循環させながら掘り進める方式。掘りくずを閉じた経路で回収できる。
エアリフト方式
圧縮空気を送り込み、比重差を利用して海底の堆積物を海水ごと吸い上げる方式。今回の採鉱システムはこの方式ではない。
懸濁物(けんだくぶつ)
水中に漂う細かな固体粒子。深海採鉱では、これが広範囲に拡散して生態系に影響を与えることが懸念されてきた。
スラリー
海水のなかに固体の微粒子が均一に分散した流体混合物。引き上げたレアアース泥は、この状態で船内の貯留タンクに貯蔵された。
マッドケーキ
スラリーから水分を除去し、固形に近い状態にしたもの。2027年の試験では、南鳥島で脱水処理を行ってこの状態にしてから本土へ輸送する計画である。
パイプ長
水深を測る指標のひとつ。揚泥管(ライザーパイプ)の長さから水深を決定する。今回の成果として示された5,569メートルはこの値である。
揚泥(ようでい)/解泥(かいでい)
解泥は海底下の堆積物を解きほぐす作業、揚泥はそれを船上まで引き上げる作業を指す。
ROV(遠隔操作無人探査機)
ケーブルで船とつながれ、船上から操作する無人の水中ロボット。今回は海底での機器操作と映像記録に用いられた。
環境DNA
水中に漂う生物由来のDNA断片。採水して解析することで、その海域にどのような生物が生息している可能性があるかを推定できる。生物を直接観察する手法ではない。
ハイドロフォン
水中の音を捉えるマイク。採鉱機の稼働音や周辺環境の音響変化を連続的に記録する。
バイオアッセイ(生物検定)
試料が生物に及ぼす影響を、実際に生物を用いて評価する手法。今回は国際規格ISO 23734に基づき船上で実施された。
ISO 23730/23731/23734
海底資源開発にともなう環境影響評価の調査手法に関する国際規格。SIP海洋が開発し、国際標準化機構(ISO)から発行された。23731と23734は2021年、23730は2022年に発行されている。
国際標準化機構(ISO)
各国の標準化団体で構成される非政府組織。工業製品から評価手法まで、幅広い分野の国際規格を策定・発行している。
開発規則(マイニング・コード)
国際海底機構が定める深海底鉱物資源のルール群のうち、商業採掘の段階を規律するもの。探査に関する規則はすでに整備されているが、開発規則は2026年7月時点でも採択に至っていない。
デュアルユース(軍民両用)品目
民生用途と軍事用途の双方に使用しうる物品、技術、ソフトウェア、部材のこと。各国の輸出管理制度で規制対象となる。
公告2026年第1号
2026年1月6日に中国商務部が公布し、即日施行した輸出管理措置。日本の軍事ユーザー・軍事用途などに向けたデュアルユース品目の輸出を禁止する内容である。
日量350トン
2027年の本格採鉱試験で想定されている1日あたりの採鉱規模。SIPの計画資料に示されている。
ppm(パーツ・パー・ミリオン)
100万分の1を表す濃度の単位。鉱物資源の品位を示す際に用いられる。今回の発表では、レアアース濃度の具体的な数値は公表されていない。
【参考リンク】
南鳥島EEZ海域でのレアアース泥採鉱システム接続試験の結果について(外部)
本記事の一次情報。航海日程、レアアース総量の内訳、環境モニタリングの結果、今後の予定が図版とともに掲載されている。
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)(外部)
地球深部探査船「ちきゅう」を運用する国立研究開発法人。海洋科学技術の研究開発を通じて、海洋・地球・生命の統合的理解を目指す組織である。
地球深部探査船「ちきゅう」(外部)
ライザー掘削システムを搭載した科学掘削船の公式サイト。船体の仕様や掘削能力、これまでに実施した研究航海の実績が公開されている。
SIP「海洋安全保障プラットフォームの構築」(外部)
内閣府SIP第3期の課題のひとつを紹介するサイト。レアアース泥の探査から分離・精製・製錬までの研究開発の全体像がまとめられている。
内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)(外部)
SIP第3期の各課題を掲載する内閣府の公式ページ。海洋安全保障プラットフォームの構築を含むプログラム全体の位置づけを確認できる。
南鳥島EEZ海域でのレアアース泥採鉱システム接続試験の実施について(外部)
試験開始前の発表。閉鎖型循環方式の仕組みと、産総研・京大・高知大や民間企業との共同で進めてきた経緯が記されている。
海底資源開発での環境影響評価に関わる調査手法が国際標準規格として発行(外部)
本記事で触れたISO規格の発行を伝える2021年の発表。日本が主導して環境影響評価の手法を国際標準化した経緯が記されている。
レアアース泥採鉱装置による水深2,470m海域からの海底堆積物揚泥試験の成功について(外部)
2022年に実施された先行試験の発表。今回のパイプ長5,569メートルに至るまでの技術的な積み上げを確認できる。
独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)(外部)
鉱物資源の探査・開発と安定供給を担う独立行政法人。中重レアアースの鉱床特性や海外供給網の多角化に関する調査・出資を行っている。
Draft Exploitation Regulations(国際海底機構)(外部)
ISAが公開する開発規則草案のページ。採択に至っていない現況と、残る作業および今後の審議日程を確認できる。
【参考記事】
Japan identifies large share of rare earths in deep-sea mud off remote island(外部)
中重約54%に加え、濃度と埋蔵量がいずれも未公表である点と、その理由をサンプリングの制約から説明した英字報道。
レアアース資源をめぐる動向(JOGMEC Journal)(外部)
主要鉱床の組成を比較した調査報告。マウント・ウェルド5.3%、マウンテンパスの軽希土類98.7%、中国南部45.6%を示す。
2023 Critical Materials Assessment(米国エネルギー省)(外部)
重要鉱物のサプライチェーンを評価した報告書。ジスプロシウム分離における中国のシェアを約93%と推定している。
中国、中・重希土類7種のレアアース関連品目で4月4日から輸出管理を実施(外部)
2025年4月に中国が輸出許可制とした中重希土類7元素を特定。今回の泥に含まれる3元素がこれに該当する根拠となる。
2024年 レアアース国内需要実績(新金属協会)(外部)
国内需要を元素別に集計した業界団体の統計。イットリウム1,400トン、全体18,835トンという数値の出所である。
中国による日本向け両用品目の輸出管理強化措置(外部)
公告2026年第1号の内容と日本企業への影響を法務の観点から解説。規制の対象範囲を確認できる資料である。
Japan’s Deep-Sea Rare Earth Gamble: A Strategic Breakthrough—or Another Mining Mirage?(外部)
1,600万トンは地質学的推定値であり確認埋蔵量ではないと指摘。商業化に残る工程を整理した専門メディアの論評。












