Last Updated on 2025-04-22 16:50 by admin
アメリカ・アラスカ州で計画されている大規模な液化天然ガス(LNG)輸出プロジェクト「アラスカLNG」に対し、日本、韓国、台湾が出資やLNG購入を検討している。
プロジェクトの総事業費は420億〜440億ドル(約6.3〜6.6兆円)とされており、アラスカ北部ノーススロープから南部ニキスキ港まで約1,300km(約800マイル)のパイプラインを敷設し、年間最大2,000万トンのLNGをアジア向けに輸出する計画である。
台湾の国営企業CPCコーポレーションは2025年3月、アラスカ・ガスライン・ディベロップメント・コーポレーション(AGDC)とLNG年間600万トンの購入および出資の意向書を締結した(この数量はアラスカ州知事発言に基づく推計値であり、公式文書には明記されていない)。
アメリカ財務長官スコット・ベセントは4月8日、CNBCのインタビューで「日本や韓国、台湾がオフテイク(引き取り)や資金提供を行うことで、アメリカの雇用創出や対日・対韓・対台貿易赤字の縮小につながる」と述べた。
背景には、トランプ大統領が4月2日に発表した日本への24%、韓国への25%、台湾への32%の新たな関税措置がある。各国はこれらの関税回避やエネルギー安全保障強化、対米貿易赤字是正を目的に、アラスカLNGへの関与を模索している。
アラスカ州のダンリービー知事やプロジェクト運営企業グレンファーンは、早ければ2030年の操業開始を目指している。なお、インドやタイの企業も関心を示しているが、現時点で具体的な合意には至っていない。
from:Major Alaska energy deal involving Japan, South Korea, Taiwan could narrow US trade deficit
【編集部解説】
アラスカLNGプロジェクトは、米国のエネルギー輸出戦略とアジア諸国の関税回避策が交錯する、地政学的にも極めて重要な案件です。2025年4月に発効した対日24%・対韓25%・対台湾32%の関税措置は、これらの国々に米国産エネルギー購入を促す強いインセンティブとなっています。特に日本は対米貿易黒字が大きく、LNG購入拡大が黒字縮小の切り札と位置付けられています。
プロジェクトの最大の課題は、北極圏の過酷な環境下でのパイプライン建設と資金調達です。永久凍土地帯を1,300kmにわたり貫く技術的難易度は高く、建設コストが当初見込みの420億〜440億ドルを上回るリスクも指摘されています。一方、アラスカ北部の未開発ガス田には約35兆立方フィートの埋蔵量があり、これは日本のLNG輸入量の約50年分に相当します。
台湾CPCによる600万トン/年の購入意向は、台湾のエネルギー安全保障強化と米国との関係強化の両面を意識したものですが、中国との関係悪化リスクも孕んでいます。
日本側では商社や電力会社による出資や長期契約の動向が注目されますが、経済性や需給動向を慎重に見極めている段階です。韓国やインド、タイも関心を示していますが、現時点では具体的な契約には至っていません。
LNGは石炭より温室効果ガス排出が少ないとされるものの、パリ協定との整合性やメタン漏洩の問題もあり、長期的には需要減少リスクや「座礁資産」化の懸念もあります。
今後の鍵は、2025年8〜9月に予定される最終投資決定(FID)と、アジア各国の長期購入契約締結にかかっています。アラスカLNGは米国の貿易政策とアジアのエネルギー安全保障、そしてグローバルな脱炭素戦略が交差する象徴的なプロジェクトといえるでしょう。
【用語解説】
AGDC(アラスカ・ガスライン・ディベロップメント・コーポレーション)
アラスカ州が設立した公営企業。ノーススロープの天然ガス資源開発とLNG輸出プロジェクト推進を担う。
FID(最終投資決定)
大規模プロジェクトの正式実施を確定する最終判断。アラスカLNGでは2025年8〜9月を目途に決定予定。
オフテイク契約
生産開始前に資源の引き取り量と価格を確定する長期購入契約。LNGプロジェクトの資金調達に不可欠。
【参考リンク】
アラスカLNG公式サイト(外部)
プロジェクトの技術仕様や環境評価、進捗状況などを詳しく掲載している。
AGDC(アラスカ州ガスライン開発公社)(外部)
アラスカ州が設立した公営企業。ノーススロープの天然ガス資源開発とLNG輸出プロジェクト推進を担う。
CPCコーポレーション台湾(外部)
台湾の国営石油会社。LNG輸入や石油精製などを手がける。アラスカLNGプロジェクトへの参加意向書を2025年3月に締結。
グレンファーン・グループ(外部)
米国テキサス州のエネルギーインフラ開発企業。2025年3月、アラスカLNGのパイプライン部門開発権を取得。
米国財務省(スコット・ベセント長官)(外部)
米国の対外貿易政策や関税政策の公式情報が掲載されている。