innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

セラフィールド代替分析プロジェクト(RAP)が頓挫、英国原子力廃炉で172億円が無駄に – 2125年まで続く100年計画の課題が浮き彫り

セラフィールド代替分析プロジェクト(RAP)が頓挫、英国原子力廃炉で172億円が無駄に - 2125年まで続く100年計画の課題が浮き彫り - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-08 09:12 by admin

英国の原子力廃止措置機関(NDA)が管轄するセラフィールド・リミテッドは、代替分析プロジェクト(RAP)を2024年2月に戦略的に一時停止し、1億2700万ポンド(約172億円)を無駄にしたと2025年6月4日に下院公会計委員会(PAC)が報告した。

RAPは2016年に開始され、70年前の分析研究所を置き換える計画で、2019年に4億8600万ポンドから10億ポンドの予算で承認されたが、2034年12月まで完成が遅延し、コストが15億ポンド(約2030億円)まで膨らんだ。

セラフィールドは現在、別の建物を改造して貯蔵再処理プラント(SRP)を支援し、既存の70年前の建物を屋根交換を含めて改修して2040年まで使用する代替計画を採用している。

この新計画のコストは4億2000万ポンドから8億4000万ポンドとされる。セラフィールドサイト全体の浄化は2125年まで続き、総費用は1360億ポンド(約18兆4000億円)と推定され、2019年3月から19%増加している。

From: 文献リンク£127M wasted on failed UK nuclear cleanup plan

【編集部解説】

今回のセラフィールドでの1億2700万ポンドの損失は、単なる予算超過ではなく、英国の原子力政策における深刻な構造的問題を浮き彫りにしています。70年前の分析研究所が現代の安全基準を満たしていないという事実は、戦後から続く英国の原子力インフラが限界に達していることを示しています。

特に注目すべきは、代替分析プロジェクト(RAP)の失敗が技術的な困難さよりも、プロジェクト管理の根本的な欠陥に起因している点です。2016年の計画開始時に既存設備の物理的状態を正確に把握できていなかったことは、大規模インフラプロジェクトにおけるリスク評価の重要性を物語っています。

このプロジェクトの頓挫は、英国の原子力産業全体に波及効果をもたらします。RAPは単にセラフィールド内の分析機能だけでなく、英国全体の原子力産業への分析サービス提供も想定していたためです。代替案では2040年までの限定的なサービスしか提供できず、長期的な原子力政策に影響を与える可能性があります。

検索結果から明らかになったのは、セラフィールドが英国の核燃料サイクルの中核施設として機能してきた歴史的経緯です。THORP(酸化物燃料再処理工場)やMOX燃料製造施設など、複数の重要な核燃料処理施設が集約されており、その廃炉作業の複雑さは世界でも類を見ないものとなっています。

技術的な観点から見ると、セラフィールドの廃炉作業は人類史上最も複雑な原子力プロジェクトの一つです。2125年までの100年計画で総額1360億ポンドという規模は、現在進行中のどの巨大インフラプロジェクトをも上回ります。この長期性が、政治的な継続性や技術的な一貫性を保つ上での大きな課題となっています。

今回の事案は、日本の原子力政策にも重要な示唆を与えます。福島第一原発の廃炉作業も長期間を要する複雑なプロジェクトであり、英国の経験から学べる教訓は多いでしょう。特に、老朽化した施設の状態評価とプロジェクト管理の重要性は、両国共通の課題です。日本でも浜岡原発1・2号機の廃炉作業が進行中であり、2024年度から第3段階の「原子炉領域解体撤去」に移行する予定でしたが、規制委員会の認可が遅れている状況があります。

規制面では、英国の原子力規制庁(ONR)がセラフィールドの安全性向上を強く求めており、今後より厳格な監視体制が構築される可能性があります。これは他国の原子力規制にも影響を与え、国際的な安全基準の見直しにつながる可能性があります。

【用語解説】

代替分析プロジェクト(RAP: Replacement Analytical Project)
セラフィールドの70年前の老朽化した分析研究所を置き換えるために2016年に開始されたプロジェクト。プルトニウムなどの放射性物質の化学的・放射線学的特性を分析する施設の更新を目的としていたが、2024年2月に一時停止された。

セラフィールド製品・残留物貯蔵再処理プラント(SRP: Sellafield Product and Residue Store Retreatment Plant)
既存のプルトニウム材料を再処理・再包装し、100年間の長期保存に適した形にする施設。2029年に本格稼働予定で、2060年頃まで運用される計画。

THORP(酸化物燃料再処理工場)
1994年から2018年まで運転されたセラフィールドの大型再処理施設。英国内外の原子力発電所からの使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムとウランを分離・回収していた。現在は廃炉作業中。

MOX燃料製造施設
プルトニウムとウランを混合したMOX(Mixed Oxide)燃料を製造する施設。セラフィールドのMOX工場は技術的問題により2011年に閉鎖され、現在は廃炉作業が進行中。

地質処分施設(GDF: Geological Disposal Facility)
数千年間安全に核廃棄物を保管するための地下施設。英国政府が建設を計画しているが、完成予定は2050年代後半に延期されている。

【参考リンク】

セラフィールド・リミテッド公式サイト(外部)
セラフィールドサイトの運営会社。英国の原子力廃炉・核廃棄物処理を担当し、2120年完了を目標に廃炉作業を実施している。

英国原子力廃止措置機関(NDA)(外部)
2005年に設立された英国政府の非省庁公共機関。17の原子力サイトの廃炉・浄化作業を統括し、年間予算35億ポンドで約15,000人を雇用している。

英国原子力規制庁(ONR)(外部)
セラフィールドの安全規制を担当する独立機関。現在セラフィールドの安全注意レベルを「大幅強化」に設定し、厳格な監視を実施している。

日本原子力研究開発機構(JAEA)(外部)
日本の原子力研究開発を担う独立行政法人。セラフィールドとの技術情報交換も行っており、廃炉技術の研究開発に取り組んでいる。

【参考動画】

The Pile Fuel Storage Pond divers – Sellafield Ltdセラフィールドの公式チャンネルによる、パイル燃料貯蔵池での65年ぶりとなるダイバーによる廃炉作業の記録動画。

We are the NDA group英国原子力廃止措置機関の公式動画。世界最大規模の環境修復プログラムとしての英国原子力廃炉事業の概要を紹介している。

【参考記事】

Sellafield could leak radioactive water until 2050s, MPs warn – BBC(外部)
英国最大の原子力サイトであるセラフィールドから2050年代まで放射性水の漏洩が続く可能性があると議会が警告。

Sellafield’s race against time: nuclear waste clean-up not going quickly enough, PAC warns(外部)
英国議会公会計委員会による2025年6月の報告書。セラフィールドの廃炉作業が十分な速度で進んでおらず、費用がさらに増加する可能性を指摘。

Sellafield’s ‘locked vault’ gives up its nuclear secrets – GOV.UK(外部)
セラフィールドのパイル燃料被覆サイロから史上初めて廃棄物の定期的な回収が開始されたことを発表。1970年代から封印されていた施設の廃炉作業の進展について報告。

原子力発電所の廃止措置及び廃棄物処分の現状と課題 – 電力中央研究所(外部)
日本の原子力廃炉の現状と課題を分析した報告書。浜岡原発1・2号機の廃炉作業の進捗状況や、国際的な廃炉技術の動向について詳述。

【編集部後記】

セラフィールドの事例は、技術的な課題以上にプロジェクト管理の重要性を浮き彫りにしています。100年という超長期プロジェクトでは、政治的な継続性や技術者の世代交代も考慮する必要があります。

日本でも浜岡原発や福島第一原発の廃炉作業が進行中ですが、皆さんはこうした長期プロジェクトを成功に導くために、どのような仕組みや体制が必要だと思われますか?また、英国と日本の廃炉技術協力から、どのような相乗効果が期待できるでしょうか?

エネルギー技術ニュースをinnovaTopiaでもっと読む

投稿者アバター
TaTsu
デジタルの窓口 代表 デジタルなことをまるっとワンストップで解決 #ウェブ解析士 Web制作から運用など何でも来い https://digital-madoguchi.com
ホーム » エネルギー技術 » エネルギー技術ニュース » セラフィールド代替分析プロジェクト(RAP)が頓挫、英国原子力廃炉で172億円が無駄に – 2125年まで続く100年計画の課題が浮き彫り